【HGPI政策コラム】(No.54)―腎疾患対策推進プロジェクトより―「マルチステークホルダーで創る腎疾患対策」

3月13日(毎年3月第2木曜日)は世界腎臓デーです。日本医療政策機構がこれまで約3年間活動してきた慢性腎臓病(CKD)対策について2つのコラムを通じて紹介いたします。
<POINTS>
- 日本医療政策機構 腎疾患対策推進プロジェクトは2022年に始動して以来、患者・当事者、医療従事者、アカデミア、行政、企業等、産官学民の幅広いステークホルダーと連携をしながら腎疾患対策の推進に取り組んでいる
- 2022年度はアドバイザリーボードを組成し会合を開催の上、課題抽出をおこない、2023年度には日本腎臓協会と包括連携協定の締結や腎疾患対策に関する包括的な提言書の発信、2024年度には、立法府や行政府、一般市民へのアドボカシー活動や、労働世代を対象とした提言書の公表に取り組んできた
- 2025年度も、さらなる腎疾患対策の推進に向けて、分野を超えたステークホルダーが集結しフラットかつ実践的な議論を可能とする場を提供し、多職種・多分野の専門家の有機的な連携を推進するとともに、科学的エビデンスに基づいた政策の選択肢を示していく
はじめに
日本医療政策機構は「市民主体の医療政策を実現すべく、独立したシンクタンクとして、幅広いステークホルダーを結集し、社会に政策の選択肢を提供すること」というミッションを掲げ、設立当初より活動して参りました。今回のコラムでは、2025年3月13日の世界腎臓デーを記念し、2022年に始動した腎疾患対策推進プロジェクトのあゆみをご紹介します。特に、国内広く産官学民のステークホルダーによるご理解、お力添えを得ながら当プロジェクトがこれまで発展してきた経緯をご紹介いたします。
◆2022年:アカデミア・医療者、患者・当事者と腎疾患対策の全国均てん化に向けた議論
我が国の高齢化の進展に伴い事態が深刻化している腎疾患について、社会全体の関心を引き上げ、効果的かつ有機的に対策を推進する機運をつくるべく、2022年より「腎疾患対策推進プロジェクト」を始動しました。
初年度の2022年は、「患者・市民・地域が参画し、共同する腎疾患対策に向けて」をテーマに掲げ、腎疾患対策の全国均てん化に向けた必要な施策を洗い出すべく、患者・当事者、日本腎臓学会、日本腎臓病協会、栄養学の専門家で構成されたアドバイザリーボードを組成し、課題と論点を抽出しました。
◆2023年:日本腎臓病協会と包括連携協定締結
その後、2023年6月には、腎臓専門医を中心に産官学民の協働、連携を推進する特定非営利活動法人日本腎臓病協会(JKA: Japan Kidney Association)と包括連携協定を締結しました。
◆2023年:地方自治体の腎疾患対策好事例収集・相互参照促進
2023年度は、2022年度に抽出した課題と論点をもとに、関連するステークホルダーとの連携強化と、腎疾患対策の全国均てん化を目指し、実装を担う地方自治体の好事例を収集するべく、8の地方自治体および4名の専門家へヒアリング調査を実施しました。その後、地方自治体から聞かれた課題に対する解決策や地域に根付いた慢性腎臓病(CKD: Chronic kidney Disease)対策の実装の在り方について、新たに日本医師会や糖尿病、看護の専門家を加えて組成されたアドバイザリーボード会合を開催し、これら一連の議論を「腎疾患対策推進プロジェクト 2023『患者・市民・地域が参画し、協働する腎疾患対策に向けて』政策提言・地方自治体における慢性腎臓病(CKD)対策好事例集」に取りまとめ、発信しました。
◆2023年:地方自治体の行政担当者とNCDs対策に関する意見交換
地方自治体における腎疾患対策の実装を、関連疾患対策と連携しながらより効果的かつ効率的なものにしていくべく、地方自治体の行政担当者とNCDs対策(腎疾患、循環器疾患、肥満症をテーマに選定)に関する意見交換会を、九州地方と北海道・東北地方で2回にわたり実施しました。(意見交換会の論点整理はこちら)
◆2024年:立法府・行政府へのアドボカシー、公開シンポジウムによる一般への発信
さらなる腎疾患政策推進を目指して、超党派国会議員向けの医療政策勉強会の開催や個別訪問を通じて、国会議員へのアドボカシーにも力を入れました。加えて、広く一般への啓発を目的に、包括的な腎疾患対策に関する課題や展望をテーマにした公開シンポジウムを開催しました。また、自由民主党CKD議連会合にもオブザーブ参加し、最新の政策議論の把握や厚生労働省担当課へのアドボカシーも行ってきました。
◆2024年:労働世代のCKD対策の重要性について提言
加齢に伴い腎機能は低下するためCKDは高齢者の健康課題と考えられがちですが、労働世代においても早期発見、早期介入が極めて重要です。特に、労働世代における健診によるスクリーニングの重要性、健診で異常値が出た場合早急に医療機関へ受診し、継続的にフォローアップすることの必要性等、過去の政策議論および現状課題を多分野の専門家のヒアリングに基づいて取りまとめた「労働世代における慢性腎臓病対策の強化に関する提言書」を公表しました。患者当事者、腎臓、栄養の専門家に加えて、今回は保険者、公衆衛生学や疫学、産業保健の専門家等、14名の専門家からご示唆をいただきました。
◆2024年:健診から医療機関受診接続の在り方に関する調査・提言(2025年度初旬公開予定)
現在、健診から医療機関への接続について焦点を当て、患者・当事者の声を集約した定性調査ならびにアカデミアと連携して定量調査を実施しています。さらに、両調査結果をふまえた解決策議論の場として産業保健、保険者、腎臓専門医、統計学、社会疫学、医療経済学の専門家からなるアドバイザリーボード会合の開催を予定しており、調査に基づく政策提言書を今後発信します(※来年度初旬に提言公表予定)。
まとめ
このような多岐に渡るステークホルダーの皆様の献身的なご支援とご協力により、腎疾患対策推進プロジェクトは2025年度で4年目を迎えます。腎臓は「沈黙の臓器」といわれ、状態が悪化しても自覚症状が現れにくく、また、糖尿病や高血圧など様々な原疾患を背景として発症するため、効果的な対策には、かかりつけ医や腎臓専門医のみならず様々な医療機関、行政、アカデミア、企業、そして患者・当事者を含む包括的な連携体制の構築が不可欠です。当プロジェクトは、今後もこれまでの成果を基盤に、多分野のステークホルダー間の有機的な連携を推進し、創造的かつ実践的な議論の場を醸成するとともに、科学的エビデンスに基づいた政策の選択肢を提供してまいります。
【執筆者のご紹介】
森口 奈菜(日本医療政策機構 アソシエイト)
吉村 英里(日本医療政策機構 シニアマネージャー)
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