【調査報告】医療機関の省エネ・温室効果ガス排出削減事例集― 施設更新(新築・建て替え)に伴う実践事例 ―(2026年3月16日)
日付:2026年3月16日
タグ: プラネタリーヘルス
日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)プラネタリーヘルスプロジェクトでは、このたび、日本のヘルスセクターからの環境負荷軽減の促進に向けて、医療機関が施設更新の局面で、温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)排出量の削減と経営改善、災害対応能力を同時に進めるための実践知を3病院の事例から整理した、「医療機関の省エネ・温室効果ガス削減事例集 ―施設更新(新築・建て替え)に伴う実践事例ー」を作成しました。詳細について下部PDFをご覧ください。
当プロジェクトでは、設立以来、地球環境と人間の健康の関係性を探求し行動につなげるプラネタリーヘルスという概念を軸に、「環境と健康」という地球規模の課題に対し、政策提言やアドバイザリーボード会合を通じて日本がとるべき指針を議論してきました。これまで、医療システムが気候変動の影響に備える「適応策」と、自らが排出源として環境負荷の低減を進める「緩和策」の両面から活動してきました。2024年にはプラネタリーヘルス専門家会合を実施し、国際的な知見を共有するとともに、日本の保健医療システムの環境負荷削減や国際社会と連携し得る領域について、最前線で活躍する国内外の専門家とともに議論を通じて持続可能で強靭なヘルスシステムのビジョンを提示しました。
こうした活動を踏まえ、本事例集ではより具体的な「実装のための知見」へと焦点を移しています。収益低迷、建設費高騰、投資資金不足という「三重の制約」に直面しながらも、創意工夫によってハード面からのGHG排出削減を実現した3つの先駆的な病院の歩みを当プロジェクトがヒアリングおよび分析を行い、「共通の実践知」として体系化しました。戦略的な判断と現場の工夫によって突破口が見出せることを、具体的な過程とともに示しています。
「医療機関の事業GHG削減事例集」のポイント
本事例集では、異なる運営形態でありながら、地域医療の中核(約400床規模)を担うという共通点を持つ3つの病院を分析しました。施設更新時に直面する「三重の制約」をいかに克服し、「環境・経営・防災」を三位一体で実現したのか、その過程を「6つの示唆」として整理しています。
■ 戦略:経営課題解決のための資源動員
示唆1:戦略的投資としての位置づけ
「環境のため」ではなく、コスト高騰や事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)上の脆弱性といった経営課題を解決する手段として取り組みを再定義します。示唆2:外部パートナーとの連携
設計事務所や専門事業者等の知見を積極的に取り入れ、議論できる体制を整えることが実現の鍵となります。示唆3:補助金活用の戦略的枠組み
補助金を単なる補填ではなく、事業の枠組みや設計の質を高めるための「レバー」として活用します。■ 設計:建築的アプローチと現場知の統合
示唆4:パッシブ設計による負荷削減の最優先
建物のコンパクト化や断熱強化により、初期投資と将来の運用コストを同時に抑制します。示唆5:全部署への詳細ヒアリングの徹底
現場の業務実態を精緻に把握することで、過剰設備を排除した「現場が運用できる設計」を導き出します。■ 運用:継続的改善の仕組み化
示唆6:運用PDCAの仕組み化
エネルギー管理システム(BEMS: Building Energy Management System)等のデータを活用し、完成後も現場と管理者が連携して最適化を続ける体制が成果を最大化させます。
本事例集は、医療機関が直面する厳しい経営環境の下においても、施設更新という転換点を戦略的に捉えることで、「環境(GHG削減)」「経営改善」「防災・事業継続強化」を三位一体で実現し得ることを示しています。3病院の実践に共通していたのは、環境対策を付随的な取り組みとしてではなく、経営課題を解決するための投資戦略として再定義し、設計段階から運用段階まで一貫した構想のもとで推進していた点でした。本事例集で整理した「6つの示唆」は、個別事例の紹介にとどまらず、他の医療機関が自らの状況に応じて応用可能な実装指針として位置づけられます。
当機構は今後も、プラネタリーヘルスの視点から、ヘルスセクターにおける環境負荷の低減とレジリエンス強化の両立に向けた政策提言および実装支援を継続し、持続可能で強靭なヘルスシステムの構築に貢献してまいります。
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