活動報告 調査・提言

【調査報告】日本の保健医療分野の団体における気候変動と健康に関する認識・知識・行動・見解:横断調査(2025年11月13日)

【調査報告】日本の保健医療分野の団体における気候変動と健康に関する認識・知識・行動・見解:横断調査(2025年11月13日)

日本医療政策機構は、2025年11月に開催予定の気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)を前に、日本の保健医療分野の学術団体、職能団体、産業団体を対象として、気候変動と健康に関する認識、知識、取組、政策提言に関する見解を把握するためのオンライン調査を実施しました。

調査期間は2025年10月3日から28日となっており、169団体から反応があり、有効回答は152団体(学術団体118、職能団体4、産業団体30)でした。回答者の多くは団体の理事長であり(58.6%)、組織の見解を代表する立場から回答が得られました。


主な調査結果

1. 認識

1.1. 気候変動および健康影響に関する認識(5段階評価)
気候変動が起きていること、および気候変動が人々の健康に影響を与えることについて、ほぼ全ての学術団体、職能団体、産業団体が「強くそう思う」「ややそう思う」と肯定的な回答をしており、一定のコンセンサスが得られていると考える。

1.2. 保健医療分野に由来する温室効果ガス(GHG)排出量に関する認識(5段階評価)
保健医療分野に起因するGHG排出量が気候変動に寄与する程度について、「大いに寄与」、「ある程度寄与」していると回答したのは、学術団体では半数以下であった一方、産業団体は2/3であった。学術団体では、保健医療分野に起因するGHG排出が気候変動に与える影響を低く認識していることが示唆された。

1.3. 保健医療分野の団体が担う役割(5段階評価)
保健医療分野の団体が気候変動の文脈において患者や地域住民を支援する役割を担っているという認識について、産業団体は7割(73.3%)、学術団体は約半数(57.7%)が肯定的評価を示した。学術団体においては、「どちらでもない」が1/4(25.0%)、否定的回答が1/6(16.9%)存在した。職能団体は3団体(75.0%)が肯定的評価を示した一方で、「あまりそう思わない」と回答した団体が1つ(25.0%)あり、団体カテゴリー間で認識の差が見られた。

2. 知識

2.1. 気候変動の健康分野における影響に関する国内外の動向(4段階評価)
世界の医学系学術誌における文献、国連気候変動会議(COP)での議論、および環境省による気候変動評価報告書等で記述された、気候変動の健康分野における影響について、産業団体の大半(56.7%)が「熟知している」、「いくらか知っている」と回答した。学術団体うち同様な回答をした団体は4割程度にとどまった。「あまり知らない」と「知らない」が半数超であり、国内外の動向把握状況にはいくらか差がみられた。のことが明らかになった。職能団体では「あまり知らない」が2団体、「いくらか知っている」が1団体、「熟知している」が1団体であった。

2.2. 緩和策・適応策の具体策(4段階評価)
適応策の具体策に関して、学術団体も産業団体もそれぞれ「ほとんど知らない」、「あまり知らない」を合わせ、約6割が十分な知識を有しないことがわかった。「いくらか知っている」以上の回答者はどちらの団体も3割(学術団体32.2%、産業団体36.7%)程度で、よく知っていると回答した団体はごく少数であった。一方、職能団体では3団体(75.0%)が「いくらか知っている」と回答した。緩和策については、全てのカテゴリーにおいて適応策の具体策よりも知識レベルが低水準であったという結果が得られた。

3. 取り組み

3.1. 会員への生涯教育の提供・一般市民への啓発(3段階評価)
会員への生涯学習の機会の提供について、全カテゴリーで「提供なく、準備(検討)が未」が最多であった(学術団体90.7%、産業団体69.0%、職能団体75.0%)。「提供している」と回答した学術団体と産業団体はわずか3%程度に留まり、職能団体はゼロであった。「準備(検討)中」は、産業団体が27.6%と最も高く、学術団体が5.9%であり、準備・検討状況に差がみられた。

3.2. 環境問題・気候変動に対する対応策(3段階評価)
環境問題・環境汚染および気候変動への対応策について、学術団体では9割以上が対応策の策定・準備をしておらず、取組は極めて限定的であった。一方、産業団体で環境問題、気候変動の対応策に関する取組がない団体は約6割であった。一方、「策定・公表済み」の産業団体は環境問題で13.8%、気候変動対応策で13.3%、であり、学術団体と比較し取組が進んでいる様子が伺えた。

3.3. 生物多様性の喪失に対する対応性(3段階評価)
生物多様性の喪失への対応策について、学術団体、職能団体、産業団体の全カテゴリーにおいて「検討・公表・準備は未」が最も多く、対応策の策定が進んでいない状況が明らかとなった。ただし、職能団体と産業団体の約1/4が準備・検討中で、産業団体の1団体が策定・公表済であり、一部では取組の前進が認められた。

3.4. オンラインミーティングの実施(4段階評価)
学術団体においては、カーボンフットプリント(CF: Carbon Footprint)削減目的以外のオンラインミーティング(OM: Online Meeting)実施が6割(60.2%)と最も高く、CF削減目的のOM実施は1割程度(13.6%)にとどまった。OM未実施は20.3%、「わからない」は5.9%であった。産業団体では、CF削減目的以外のOM実施が37.9%、CF削減目的のOM実施が17.2%であり、学術団体と同様な傾向がみられた。OM未実施が37.9%、「わからない」は6.9%であった。職能団体では、CF削減目的、CF削減目的以外のOM実施がそれぞれ1団体ずつ、未実施が25.0%であった。

4. 政策提言に関する見解

4.1. 気候変動と健康への投資拡大(3段階評価)

気候変動と健康に関して保健医療分野への投資拡大を提言することについて、「適切である」と回答した学術団体は過半数(58.5%)を占めた。一方で、「わからない」といった回答も3割(36.4%)存在し、判断を保留する団体が存在した。「適切ではない」との回答はごく少数( 5.1% )であった。産業団体では6割が「適切である」、4割が「わからない」であり、「適切ではない」という回答はなかった。職能団体は全て「適切である」と回答した。気候変動対策強化に関する提言においても類似の傾向がみられた。

4.2. 気候変動対策の強化に向けた政策提言(3段階評価)

気候変動対策の強化に向けた政府や関係者への働きかけの必要性について、全ての団体カテゴリーで過半数が「そう思う」と回答した(学術団体61.9%、職能団体75.0%、産業団体70.0%)。一方、約1/3の学術団体(34.7%)と産業団体(30.0%)が「どちらともいえない」と回答しており、気候変動対策の重要性は理解しつつも、団体としての立場表明や具体的な関与については慎重な姿勢を示していると解釈できる。

5. その他の課題と取組の工夫

5.1. そのほかの課題と取り組みの工夫(自由記載)

課題として、1)認識向上・啓発不足、2)知識・エビデンスの把握と整理の必要性、3)不十分な体制・リソース、4)実践・政策面のサポート不足の4つが挙げられた。行っている工夫として、CO2排出量削減に関する研究への助成、会員間や学術集会における知識共有、ガイドライン策定や災害時マニュアル作成等の実践・応用、そして学会としての議論の深化や会員からのアイデア募集等が挙げられた。重要だと認識しているが具体的取り組みはまだまだであるという声が多数挙げられ、問題意識と行動の間にギャップの存在が明らかになった。

5.2. 行政と産業界に求めたい支援策(自由記載)

行政に求める施策として、CO2排出量削減や設備投資支援等に対する経済的支援、市民への情報提供と専門人材育成、ベストプラクティスの共有、気候変動と健康に関する研究に対する助成推進が挙げられた。一方、産業界には、コーポレートアイデンティティに組み込む啓発・教育の拡大、ディスポーザブル製品の代替技術や低カーボン資材の開発・安価な提供などのイノベーション支援、医療材料・パッケージの工夫や資源循環等の医療システムのグリーン化、エビデンス創出と国際協調、予防策推進が挙げられた。


【調査概要】

  • 実施期間:2025年10月3日〜28日
  • 対象:医療系学術団体、職能団体、産業団体(医薬・医療機器・卸など)
  • 回答数:152団体(有効回答)

本調査は、日本において初めて、保健医療分野全体を対象にした気候変動と健康に関する網羅的な実態調査です。保健医療分野が持つ潜在的な役割と責任を再認識し、今後の政策形成や現場での実践に活かしていくことが求められます。

※詳細は、当ページ下部のPDF資料をご覧ください。

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