【政策提言】腎疾患対策推進プロジェクト「慢性腎臓病(CKD)対策の強化に向けて~CKDにおける患者・当事者視点の健診から受療に関する課題と対策~」(2025年7月9日)
※2025年7月9日付で公表した調査提言を更新し、概要版を公表しました。(2025年10月6日)
日本医療政策機構(HGPI)では2022年度より腎疾患対策推進プロジェクトを始動し、慢性腎臓病(CKD)の予防や早期介入の必要性、多職種や多機関連携の重要性、自治体の好事例の横展開の必要性、患者・当事者視点に基づいた腎疾患対策の推進の必要性などを提言してきました。
全国土木建築国民健康保険組合のデータを使用した研究によると、2014年度に特定健康診査(以下、特定健診)を受診した約7万人のうち、初めてCKDと判断された人のうち、医療機関を受診した人は約5%で、医療機関を受診していない人は約95%にも及ぶことが明らかになっています。しかし、健診の結果からCKDを疑う所見のある人の中で、その後医療機関を受診していない人と受診した人の違いについて、健診データや健診時の質問紙、レセプトデータを用いて定量的な分析を行った調査は多くありません。
以上を踏まえ、当機構では、健診でCKDを疑う所見のある人が治療を受けるまでの間に、どのような選択や判断、困難があったのかを明らかにすることを目的に、定量調査(本稿Ⅲ)と定性調査(本稿Ⅳ)を実施しました。そして、これらの調査結果を基に、腎臓専門医や産業保健、公衆衛生、医療経済の専門家を一同に会したアドバイザリーボード会合を2025年3月18日に開催し、健診後の受療勧奨を強化すべき対象者の検討等、今後のより良いCKD対策の在り方について議論を深め、政策提言(本稿Ⅴ)としてとりまとめました。
提言
- 現在の健診制度における、CKDを疑う所見のある人に対する受診勧奨基準は、腎機能低下や蛋白尿の程度および併存疾患等多様な医学的背景を十分に反映するまでに至っておらず画一的な運用となっている。そのため、必ずしも腎機能低下の進行リスクに合致した適切な受診を促す効果的な基準になっていない。よって、健診時に併存疾患やリスク因子を考慮した受診勧奨が必要であり、科学的根拠に基づいた受診勧奨基準の策定とその統一について、多領域の専門家との分野横断的な議論を通じて検討していくべきである。
- CKDは早期段階では自覚症状に乏しく、健診にてCKDを疑う所見のある集団も属性(年齢、性別、社会経済的状況等)が多様である。優先的に介入の対象となる集団の特定と、対象者の属性に合わせた受診勧奨のあり方を検討すべきである。
- CKDを含む非感染性疾患(NCDs: Non-Communicable Diseases)の治療においては、疾患横断的な視点に立ち、診療科や職種を超えた連携体制の整備と役割の明確化を推進するとともに、腎機能を踏まえた診療・処方が全ての医療現場で確実に行われるよう、ICTの活用や医療従事者への教育を通じた仕組みづくりを推進すべきである。
- 医療データに加えて経年的に健診データを蓄積し、腎機能に関する長期的なフォローアップを行えるようなデータ整備を行うとともに、個人の健康状態の変化に合わせて最適な受診勧奨を推進すべきである。
- 分野を越えた専門家の連携を通じて、受診行動や健康格差に着目した研究成果を創出するとともに、健診で早期発見・早期介入することによる費用対効果の可視化や評価指標への反映を通じて、社会全体で科学的根拠に基づいた腎疾患対策の機運を高めるべきである。
- 健診で蛋白尿や腎機能低下を指摘された人が適切に受療できるよう、保険者や産業保健職が連携し、受診先の明示や科学的根拠に基づいた情報提供を通じて、当事者視点に立った分かりやすい啓発を推進すべきである。
詳細は末尾のPDFファイルをご覧ください。
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