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【政策提言】保健医療分野における気候変動国家戦略(2024年6月26日)

【政策提言】保健医療分野における気候変動国家戦略(2024年6月26日)

日本医療政策機構プラネタリーヘルスプロジェクトは、「保健医療分野における気候変動国家戦略~気候変動に強く、脱炭素へ転換する保健医療システムの構築に向けた提言書~」を公表しました。この提言書は、日本の保健医療システムが気候変動に対して強靭さを高め、脱炭素に転換し、持続可能性を高めるための具体的な施策を示しています。


プラネタリーヘルス課題の一つである気候変動は、21世紀最大の公衆衛生上の課題です。気候変動は気温及び気象パターンの長期的な変化をさしていますが、その原因が人間の活動に伴う温室効果ガス(GHG)排出であることに疑いはありません。過日行われた、G7プーリアサミット2024の首脳宣言においても、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)での「COP28UAE 気候健康宣言(COP28 UAE Declaration on Climate and Health」についてハイライトされました。また、2024年5月の第77回世界保健総会(WHA: World Health Assembly)において、持続可能で強靭な保健医療システムの構築を目指す国際的な取り組みを目指す「気候変動と健康に関する変革的行動のためのアライアンス(ATACH: Alliance for Transformative Action on Heath)」参加について日本政府を代表し厚生労働省は発表いたしました。


保健医療分野からも環境負荷が生じていることを勘案すると、地球の健康と人の健康を守るためにも、ロードマップを提示することが不可欠です。

本提言書を作成するにあたり、エキスパート・パネルにご就任いただいた有識者の方々との議論を行いながら盛り込むべき項目を決めました。また、世界各国で先駆的な取り組みをしている事例についても複数の国についてレビューを実施しました。特に、英国とフランスにおける国家の気候行動戦略に尽力される有識者には、オンラインセミナーとしてもご協力いただき、その先駆的な取組みである公衆衛生における気候変動への緩和および適応に関する国家戦略についてそれぞれご紹介いただきました。

そして、プラネタリーヘルスプロジェクトにご参加いただいている学術機関、医療従事者、政策立案者、そして市民社会の方々からもドラフトに対するフィードバックをいただく形で連携し、日本の保健医療システムが、気候変動に対する強靭性を高め、脱炭素に転換し、持続可能性を高めることを目的として、議論を深め取りまとめました。

本国家戦略適応では、適応策と緩和策を提示するにあたり、以下4つの目的と5つの原則を掲げました。


【目的】

  1. 気候変動に強い保健医療システムを構築し、気候変動による負の影響から日本に居住する人々の健康やウェルビーイングを守るための対応能力を高める
    • 地域や文化に合わせた、質が高く公平な保健医療サービスを提供し、気候が変動するなかでも保健医療サービスや地域コミュニティが正常に機能することを支援する。

  2. サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量が正味ゼロとなる保健医療システムを構築し、2050年のカーボンニュートラル達成に貢献する
    • 保健医療システムから生じる環境への負荷を最小限にし、政府の排出削減目標である2050年カーボンニュートラルを達成する。

  3. 気候変動に強く持続可能な保健医療システムと社会を構築すべく国際協力を進める
    • 国立環境研究所が有する気候変動適応情報プラットフォーム等を活用し、気候変動リスクに関する科学的知見の充実、支援ツールの適用、適応に関する能力強化の取組を、各国や関係機関との協働により推進する。
    • 我が国における科学的な知見の共有や国際的基準の開発に貢献する機会を模索し、日本が近隣諸国と協力し、気候変動への対処を進め健康促進を図る。

  4. 健康と気候変動の相互依存的な関係を認識し、政府全体で行動することにより、健康で気候変動に強く、持続可能な地域社会づくりを支援する
    • 全ての政策に健康を位置付けるというアプローチを掲げ、GHG排出削減がもたらす健康上のコベネフィットを社会全体で促進する。

 

【原則】

  1. プラネタリーヘルスの概念を基礎に位置づける
    • 地球生態系の健康と、人の健康と人間社会の健全性という2つの健康を考え、両者の相互依存的な関係を明らかにし、人間が賢く自然を管理することで持続可能となるような方策を研究・実践を通じて模索する。

  2. 集団の健康増進と疾病予防(パブリックヘルス)を重視する
    • 集団の健康増進・疾病予防はこの戦略全体を通じて緩和、適応の根幹を貫く原則であり、一次予防から三次予防まで、全ての段階において強力に推進する。
    • 気候変動により発生する自然環境や人間社会系における変化は、健康の環境的決定要因や社会的決定要因の観点から捉える。
    • 適切な予防策を通じて新規疾病発症や慢性疾患増悪の予防を図ることは、医療提供の必要量減少によるGHG排出減少及び健康上のコベネフィットに繋がる。

  3. エビデンスに基づく政策立案を行う
    • 気候変動に対処する政策は、入手可能なデータ、エビデンスを最大限活用し、最新の科学的知見を踏まえて行い、エビデンスが明らかではない不確実な領域に対しては慎重に政策立案を行う。
    • 気候変動が健康に与える影響、保健医療システムにおける活動が人々の健康や人間社会に与える影響の両方向に関わる研究を促進させ、得られた知見を政策立案に反映させる。

  4. 健康を享受する機会を保障し、健康に関する公平を確保する
    • 健康を享受する機会は誰もが等しく保障されるべきであり、いかなる人も最大限達成可能な身体的、精神的健康を享受する機会を有する。
    • 気候変動に対する脆弱性を有する層(高齢者、小児、非感染性慢性疾患を有する者、精神疾患罹患者など)に配慮し、これらの人々が健康な人々と同様に健康を享受できるような配慮がなされねばならない。

  5. 日本古来の自然観との調和を図る
    • 日本古来の自然観は、人間と自然の区別の曖昧さ、自然の移り変わりや季節の循環を重視する円環的な特色、また時間や出来事を直線的ではなく循環として捉える循環的な見方といったもので特徴付けられ、自然は畏れ敬い共存するものであるという見方を基本とする。
    • 政策立案に際し、 プラネタリーヘルスの考え方を理解・解釈しつつも、人間と自然の関係性に関して日本人独自の自然観が反映されるような政策づくりを意識する。

 

本提言が政策立案者や関係者の一助となり、プラネタリーヘルス領域の対策に向けて、政策の進展が図られることを期待しています。

詳細は末尾のPDFファイルをご覧ください。

 

エキスパート・パネル(敬称略・五十音順・ご所属・肩書はご参画当時)

工藤 泰子(一般財団法人日本気象協会 環境・エネルギー事業部 主任技師)
南齋 規介(国立環境研究所 資源循環領域 国際資源持続性研究室長)
橋爪 真弘(東京大学大学院 医学系研究科 国際保健政策学 教授)
渡辺 知保(長崎大学 プラネタリーヘルス学環長/熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授)

プラネタリーヘルスプロジェクト アドバイザリーボード(敬称略・五十音順・ご所属・肩書はご参画当時)

有馬 覚(第一三共株式会社 サステナビリティ推進部 環境経営・グローバルヘルスグループ)
鹿嶋 小緒里(広島大学 IDEC 国際連携機構 プラネタリーヘルスイノベーションサイエンス(PHIS)センター長/広島大学大学院 先進理工系科学研究科 環境保健科学研究室 准教授)
神ノ田 昌博(環境省 大臣官房 環境保健部長)
工藤 泰子(一般財団法人日本気象協会 環境・エネルギー事業部 主任技師)
近藤 尚己(京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 社会疫学分野 主任教授)
菅原 聡(一般社団法人Green innovation 代表理事)
鈴木 定彦(北海道大学 ディスティングイッシュトプロフェッサー/北海道大学 人獣共通感染症国際共 同研究所 バイオリソース部門 教授/北海道大学 ワクチン研究開発拠点 研究支援部門長・教授)
中野 夕香里(公益社団法人 日本看護協会 常任理事)
中村 桂子(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 国際保健医療事業開発学分野 教授)
南齋 規介(国立環境研究所 資源循環領域 国際資源持続性研究室長)
西場 洋介(ノボ ノルディスク ファーマ株式会社 医療政策・渉外本部 パブリックアフェアーズ&サステナビリティ部)
橋爪 真弘(東京大学大学院 医学系研究科 国際保健政策学 教授)
原口 真(MS&ADインターリスク総研 フェロー/MS&ADインシュアランスグループホールディングス TNFD専任SVP)
日下 英司(厚生労働省 大臣官房 国際保健福祉交渉官)
夫馬 賢治(信州大学 グリーン社会協創機構 特任教授 /株式会社ニューラル CEO)
細川 秀一(公益社団法人 日本医師会 常任理事)
松尾 雄介(公益財団法人 地球環境戦略研究機関 ビジネスタスクフォースディレクター)
光武 裕(アストラゼネカ株式会社 ジャパンサステナビリティディレクター)
山野 博哉(国立環境研究所 生物多様性領域 領域長)
山本 尚子(国際医療福祉大学 大学院 教授/国際医療協力センター長)
渡辺 知保(長崎大学 プラネタリーヘルス学環長/熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授)
日本国際保健医療学会学生部会(jagh-s: Japan Association for Global Health, Students Section)
アジア医学生連絡協議会日本支部(AMSA Japan: Asian Medical Students’ Association Japan)

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