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【パブリックコメント提出】国連特別報告者による「清浄な空気の保護」に関する意見募集(2025年10月16日)

【パブリックコメント提出】国連特別報告者による「清浄な空気の保護」に関する意見募集(2025年10月16日)

日本医療政策機構(HGPI)は、国連「人権および環境に関する特別報告者(Special Rapporteur on the human right to a healthy environment)」に対し、「清浄な空気の保護」に関する意見募集に応じ、意見書を提出いたしました。本意見書は、日本が長年にわたって大気汚染による健康リスクへ対処してきた経験と、環境政策や社会的取り組みの発展を踏まえた内容となっています。


特別報告者による今回の意見募集は、以下の目的を掲げています。

  • すべての人が「安全で清潔、健康的かつ持続可能な環境を享受する人権」を有することを確認すること
  • 大気質管理における好事例(ベストプラクティス)を促進すること
  • 国際的に注目すべき課題や新たな問題点、課題を特定すること

HGPIの意見書では、日本が急速な経済発展に伴う環境汚染による健康および社会的影響に対処してきた経験を整理し、その知見を国際的な政策立案や実践に活かすための示唆を提示しています。

日本の経験

  • 1950年代から1970年代初頭の高度経済成長期には、大規模な産業排出により深刻な大気汚染が全国的に発生しました。
  • 四日市ぜんそくなど「四大公害病」などの健康被害を通じて、公衆衛生を守る重要性が社会的に認識され、政策形成や世論に大きな影響を与えました。
  • 当時の政策は「人権」として明示的に位置づけられてはいなかったものの、健康の保護、被害者支援、加害企業への法的責任追及など、社会正義の観点を重視した対応が進められました。

政策と制度の発展

  • 1967年に制定された「公害対策基本法」により、初めて環境基準が導入されました。
  • 1970年の「公害国会」では14本の関連法が成立し、環境庁(現・環境省)が設立され、環境行政の独立性が強化されました。
  • 1973年の「公害健康被害補償法」により、被害補償制度が確立され、「汚染者負担の原則」が法的に明確化されました。
  • 1992年制定・2001年改正の「自動車NOx・PM法」により、交通由来の大気汚染対策が進み、幹線道路沿いでのぜんそくなどの健康被害が軽減されました。

政策主導の取り組みと今後の課題

  • 全国規模のリアルタイム監視システム「そらまめ君(AEROS: Atmospheric Environmental Regional Observation System)」により、大気質データの可視化と情報公開が進められています。
  • 「SORAプロジェクト」や「子どもの健康と環境に関する全国調査(JECS: Japan Environment and Children’s Study)」などの大規模疫学研究を通じて、政策の科学的根拠が強化されています。
  • 環境影響評価(EIA: Environmental Impact Assessment)に健康影響評価(HIA: Health Impact Assessment)を統合することは、公平な健康結果を実現するうえで重要です。
  • 四日市市の「公害と環境みらい館」や、大阪府・東京都の「大気情報アプリ(例:TOKYO空気情報)」など、地域レベルでの住民参加型の取組も進められています。
  • 「グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム」などを通じ、国内外のサプライチェーン全体で排出削減を推進することは、越境的な環境正義の実現に向けた重要な取り組みです。

2026年2月23日から4月2日までジュネーブで開催される第61回国連人権理事会において、「清浄な空気の保護」に関する特別報告者のテーマ報告が正式に提出・発表される予定です。同会期では、加盟国、NGO、特別報告者による対話セッションが行われ、各国の立場や懸念点を共有し、「清浄な空気を享受する人権」に対する理解を深める機会となります。会期の終盤には、報告書の内容に基づき、必要な措置や決議案が採択される見込みです。

HGPIは、今後もこのような国際的な取り組みを支援し、知見の提供や対話の促進を通じて、「清浄な空気を享受する人権」の実現に向けた国内外での議論の深化と行動の推進に貢献してまいります。

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