【お知らせ】「ベレン保健行動計画」に賛同(2025年11月14日)
日付:2025年11月17日
タグ: プラネタリーヘルス
日本医療政策機構(HGPI)は「ベレン保健行動計画(BHAP: Belém Health Action Plan)」に賛同いたしました。BHAPは、気候変動に強靭で、環境的に持続可能な保健医療システムを構築するため、国際社会を動員するための設計図です。BHAPは、ブラジル・ベレンにて開催された国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)で2025年11月13日に設けられた健康の日(Health Day)に正式に採択されました。当機構は、BHAPの策定過程に市民社会の積極的な参画が推奨されたことを受け、その策定のプロセスにも能動的に関与しており、2025年7月にブラジル・ブラジリアで開催された「気候と健康に関する国際会議2025(2025 Global Conference on Climate and Health)」において、BHAP草案に対する補足文書の発表を行いました。
当機構プラネタリーヘルスプロジェクトの立ち上げ以来、環境危機を健康アウトカムに深くかかわる重要課題として位置づけてきました。2024年には、BHAPの実施を支援することが期待されている「気候変動と健康に関する変革的行動のためのアライアンス(ATACH: Alliance for Transformative Action on Climate and Health)」に参画し、気候変動と健康政策を結びつける国際的な取り組みへ積極的に関与してまいます。
「ベレン保健行動計画 (BHAP)」について
気候変動は、21世紀における最も緊急の国際保健上の課題のひとつとして位置づけられています。極端な気象現象の増加、海面上昇、資源のひっ迫は、世界中の健康格差をさらに深めています。BHAPは、これまでの健康と気候に関する国際的な議論やコミットメントを、実践可能な具体的行動へと転換することを目的としています。
BHAPは、世界保健機関(WHO: World Health Organization)による「気候変動と健康に関するグローバル行動計画」と整合する実践的な枠組みに基づき、保健医療セクターの適応力および強靭性を高めることを目指しています。さらに、COP30アクションアジェンダの「主要目標16―強靭な保健システムの推進(Promoting Resilient Health System)」を支援するとともに、パリ協定の下で実施される2028年の「グローバル・ストックテイク(GST: Global Stocktake)」におけるエビデンス基盤の強化にも寄与するものです。
BHAPは、次の三つの行動の柱(Lines of Action)と、二つの横断的原則(Cross-Cutting Principles)から成り立っています。
横断的原則
- 健康の公平性と気候正義(Health Equity and Climate Justice):気候変動への適応策は不平等に配慮し、世代・国家・地域間で負担と恩恵が公正に分配されるようにしなければなりません。
- 市民参加によるリーダーシップとガバナンス(Leadership and Governance through Social Participation):実実施にあたっては、特に深刻な影響を受ける地域社会の声を反映しながら、透明性・説明責任・包摂的な意思決定を重視する必要があります。
三つの行動の柱
- 柱1:監視とモニタリング(Surveillance and Monitoring)
気候関連の健康影響を検知し、早期警報および迅速な対応を可能にするため、気候情報に基づいた保健監視体制の強化を図ります。
- 柱2:エビデンスに基づく政策戦略と能力構築(Evidence-Based Policy Strategies and Capacity Building)
メンタルヘルス支援や保健人材の強化、持続可能な食料・都市政策の推進を含む、部門横断的かつ参加型の政策づくりを促進します。
- 柱3:イノベーション、生産、デジタルヘルス(Innovation, Production, and Digital Health)
イノベーションや持続可能な技術への公平なアクセスを確保するとともに、必須医薬品の生産体制の強靭化やとデジタルヘルスソリューションの統合を進めます。
日本政府の支持と声明
日本政府も、BHAPを支持した国の一つです。COP30における交渉の場で、日本政府代表は以下のように発言しました。
「気候変動が健康に与える影響、その緊急性、そして社会の持続可能性との深い関係を認識しています。日本は、ベレン保健行動計画(BHAP)を支持し、賛同します。本計画は、健康影響への対応に向けた包括的かつ公平な枠組みです。とりわけ、日本が重視する『健康の安全保障』の概念と通底する『健康の公平性』の原則を強調します。」
あわせて、日本はアジア太平洋地域におけるレジリエントなシステム構築への支援、そしてユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)を健康保護の基盤として位置づける姿勢を明確にしました。
国際会議での議論を踏まえたBHAPの策定と関連報告書の発表
BHAPは、2025年7月29日から31日にかけてブラジル・ブラジリアで開催された「気候と健康に関するグローバル会議」において、各国政府代表や研究者、国際機関、市民社会団体などが集まり、活発な議論と提言をもとに作成されました。この会議は、ATACHの年次会合も兼ねており、COPに先立って開催される公式なイベントとしては初めて「健康」に焦点を当てたイベントとなりました。
当機構は、本会議の「イノベーションと生産」に関するワークショップにおいて、2024年12月に発表したコラム「第11回:日本の製薬業界におけるカーボンニュートラルの実現に向けた取組み」で示した政策的知見を補足文書として発表しました。
BHAPをさらに補完するため、以下の2つの文書が発表されました。
- 「COP30保健と気候変動に関する特別報告書」
BHAPの実施を支援するためのエビデンスと行動をまとめたもので、政策提言も含まれています。
- 「保健と気候における社会的参加に関する特別報告書」
黒人、先住民、伝統的および地域コミュニティに焦点を当て、社会的参加を強化するための主要な経験、教訓、戦略を示しています。
これら2つの文書は、BHAPの横断的原則と整合しており、特に影響を受ける人々やコミュニティの代表を含む市民社会の参加による、包摂的な政策立案とガバナンスの重要性を強調しています。
COP30以降に向けて
今後、BHAPの実施は、WHOの設置する「BHAP監督委員会(BHAP Oversight Commission)」の指導のもとで進められ、報告・調整・モニタリングに関して協働し、制度的整合性を確保する役割を担い、ATACHは主要な支援イニシアチブとして位置づけられます。
BHAPの実施に関する進捗状況は、2028年に開催されるCOP33でのグローバル・ストックテイクを通じて評価されます。UNFCCCの締約国である各国は、適応に関する世界全体の目標(GGA: Global Goal on Adaptation)および国内指標に基づき進捗状況を報告し、透明性と比較可能性を高めるとともに、地球規模の気候枠組みとの整合を図ります。
日本とHGPIの今後の取り組み
当機構はBHAPに賛同することで、気候と健康の交差点を強化するエビデンスに基づく政策の推進に引き続き尽力し、今後もステークホルダーと協働し、BHAPフレームワークの下で、持続可能で公平かつ強靭な保健医療システム構築を支援してまいります。
この取り組みは、COP30で日本政府が表明した以下のコミットメントとも一致しています。
「すべての人が健康で幸せに暮らせる持続可能な社会の実現に向けて、科学的根拠に基づき貢献していきます。」
また、「健康の安全保障」や「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の実現といった日本政府の重点分野とも連動し、当機構はアジア太平洋地域をはじめとした国際社会におけるBHAPの目標達成に貢献していきます。
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