活動報告 記事・講演・報道

【登壇報告】気候と健康に関する国際会議2025(2025年7月31日、ブラジル・ブラジリア)

【登壇報告】気候と健康に関する国際会議2025(2025年7月31日、ブラジル・ブラジリア)

日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)のアドジャンクトフェローである島袋彰とアソシエイトのケイヒルエリは、2025年7月29日から31日にかけてブラジル・ブラジリアで開催された「気候と健康に関する国際会議2025(2025 Global Conference on Climate and Health)」に参加しました。また、最終日である31日には、国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)で採択予定の「ベレン保健行動計画(Belém Health Action Plan)」の草案に対する補足文書について発表を行いました。

本会合は、ブラジル政府、世界保健機関(WHO: World Health Organization)、汎米保健機関(PAHO: Pan American Health Organization)によって主催されました。気候変動と健康に関する変革的行動のためのアライアンス(ATACH: Alliance for Transformative Action on Climate and Health)の年次会合も兼ねており、締約国会議(COP)に先立って開催される公式なイベントとしては初めて「健康」に焦点を当てたイベントとなりました。

2025年11月にブラジル・ベレンで開催予定のCOP30において採択が見込まれる「ベレン保健行動計画」の草案に対し、具体的な提言を行うことが、本会合の目的の一つとして掲げられました。「ベレン保健行動計画」は、近年のCOPにおける健康への関心の高まりを、具体的な行動へとつなげることを目的としています。特に2021年に英国・グラスゴーで開催されたCOP26以降、気候変動と健康の結びつきが重視され、WHOの特別報告書や2023年のアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで開催されたCOP28での「健康の日(Health Day)」設定、2024年のアゼルバイジャン・バクーで開催されたCOP29での制度横断的な連携強化を通じて、「健康」が気候行動の主要な推進理由として位置づけられています。

大気汚染、熱波、感染症拡大、食料・水の安全供給、メンタルヘルス、弱者への影響といった多様な健康リスクが議論の対象となり、クリーンエネルギーや持続可能な食料システム、健康に配慮した都市政策・インフラ改革、医療システムの強靱化が国際的な課題として浮上しています。さらに、COP28以降、健康被害軽減のための基金設立や健康コスト・対策のファイナンスも進展しており、市民の健康を守りながら持続可能な社会を目指す世界的な潮流を反映しています。この計画は、議長国やWHOの連携を柱に、化石燃料依存の終焉やメンタルヘルスを含む新たな健康問題への対応を深化させ、気候政策に健康を統合する具体的な行動を推進します。

ベレン保健行動計画の草案は「健康の公平性と気候正義」と「社会的参加を伴う、気候と健康に関するリーダーシップとガバナンス」の2つの横断的な優先事項を掲げており、以下の3つの主要な行動方針に基づいて構成されています。

  • 健康の監視とモニタリング
  • エビデンスに基づく政策戦略と能力構築
  • イノベーションと生産

日本医療政策機構では、2024年12月に発表したコラム「第11回:日本の製薬業界におけるカーボンニュートラルの実現に向けた取組み」の内容をもとに、「イノベーションと生産」のワークショップに対する補足資料として採択され、同会合にて島袋彰が以下の内容で発表を行いました。

  • 製薬業界に代表される医療業界と政府のパートナーシップの構築は、リーダーシップとガバナンス強化を意図した取り組みにより、イノベーションと技術導入の加速に貢献する可能性がある
  • 持続可能で環境に配慮した保健医療システムへの移行において、医療従事者のリーダーシップは極めて重要であり、そのための能力強化が不可欠である
  • サプライチェーンの適応には、保健医療システム全体での協調的な取り組みを通じて、緩和と適応策を両輪で取り組んでいく必要がある

また、イベント期間中のワーキンググループセッションにおいて、「ベレン保健行動計画」の草案に対する具体的な提言についての議論に参加し、直接的なフィードバックが行われました。これらのセッションでは、各国の保健省、研究者、国際機関の代表、そして市民社会のメンバーが一堂に会し、草案の実効性を高めるための課題や解決策について多角的な視点から議論が交わされました。

日本からは厚生労働省が気候変動への適応策のケーススタディとして、日本における災害医療対応について発表を行いました。日本は2024年にATACHの枠組みに参加しており、HGPIも同年、非政府メンバーとして参加しています。

今後、「ベレン保健行動計画」がCOP30において正式に採択されるにあたり、9月に開催予定の国連総会の期間中に、バクー連合(Baku Coalition)の第2回対面会議が開かれます。この会議では、国連気候変動枠組条約(UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change)の加盟国や関係機関と連携しながら、同計画について議論を深め、国際的な合意形成を目指します。また、2023年のCOP28から続く「健康の日(Health Day)」は2025年11月13日(木)に実施されることも決まりました。日本医療政策機構としても引き続き政策提言や国際連携を通じて、地球規模での気候と健康の課題解決に貢献していく予定です。

記事・講演・報道一覧に戻る
PageTop