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【開催報告】第138回HGPIセミナー「こどもの未来を守るストレスマネジメント教育 ― 予防的メンタルヘルス支援の重要性」(2025年8月28日)

【開催報告】第138回HGPIセミナー「こどもの未来を守るストレスマネジメント教育 ― 予防的メンタルヘルス支援の重要性」(2025年8月28日)

近年、日本における小中高生の自殺数が統計開始以来の最多水準が続くなど、こどものメンタルヘルスを取り巻く状況は極めて深刻です。こうした中、ストレスや困難に直面した際に適切に対処する能力を育む予防的なストレスマネジメント教育の重要性が注目されています。予防的アプローチは、問題が深刻化してからの対症療法的な支援よりも、こどもの生涯にわたるウェルビーイングや長期的な環境適応に対して、より効果的であることが研究からも明らかになっています。

日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)のこどもの健康プロジェクトでは、日本財団からの助成を受け、3年間にわたり、未就学期から高校生までの幅広い層を対象に、認知行動アプローチ(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)を基盤としたストレスマネジメントプログラムを構築してきました。本セミナーでは、このプロジェクトにプログラム設計から効果測定の実施まで幅広くご協力いただき、日本におけるこどものストレスマネジメント研究を牽引する小関俊祐氏(桜美林大学リベラルアーツ学群 准教授、以下、小関氏とする)を迎え、予防的メンタルヘルス支援の重要性と具体的なアプローチについてお話しいただきました。


<POINTS>

  • こどもの自殺や不登校が過去最多水準となる一方で、9年間の義務教育期間で、ストレスマネジメント教育機会は合計2時間相当と極めて少なく、予防的な支援機会の不足が大きな課題となっている。
  • ストレスマネジメント教育の目的はストレスをゼロにすることではなく、心身の警報機能であるストレスを理解し、適切に付き合うためのセルフコントロール力を段階的に育むことにある。
  • ストレスマネジメントの基盤は認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)にあり、ストレッサーとなる出来事とストレス反応の間に介在する、認知(考え方)と対処(コーピング)という2つの要素を調整することで、ストレスの悪循環を断ち切り、自己調整力を高めるアプローチである。
  • ストレスマネジメント教育では、「心の仕組みを知ること」、「日常にあるポジティブな出来事に気づくこと」、そして「SOSの出し方を身につけること」が大切な柱である。
  • ストレスマネジメントの知識獲得は単発授業でも可能だが、日常生活における実行と成功体験の積み重ねが不可欠である。効果を定着させるには、教員や保護者との連携を通じた多層的かつ継続的な支援の機会を確保する必要がある。

 

深刻化するこどものメンタルヘルスと、教育現場における予防的な支援機会の不足

日本において小中高生の自殺者数は最多水準が続き、いじめや不登校も増加傾向にあり、こどものメンタルヘルスを取り巻く状況は極めて深刻である。これまで、SOSの出し方についての教育や、COCOLOプランをはじめとする不登校対策、いじめ対策など様々な施策が講じられてきたが、顕著な改善には至っていないのが現状だ。こうした問題行動の背景にはストレスがあると考えられ、近年、問題が深刻化する前の予防的な支援の重要性が高まっている。その有効な手法としてストレスマネジメントがあげられるが、現在、小学校の保健体育では心の健康に関する3時間のうち、ストレスマネジメントは6年間で1時間のみ、中学校でも1時間のみと、9年間の義務教育期間で合計2時間相当しか学習機会がない。この背景には、授業枠や学習指導要領上の位置づけが不足していることがあげられる。

ストレスと適切に付き合う力を育むための、CBTを基盤としたストレスマネジメント教育の意義

ストレスマネジメント教育は、ストレスを「ゼロにする」ことを目標にするのではなく、警報機能としてのストレスと「適切に付き合っていく」ことを目指している。つまり、ストレスが生じるプロセスに目を向けたアプローチが重要である。

ストレスマネジメントの基盤となる手法はCBTであり、この手法はソーシャルスキルトレーニング、アサーション、アンガーマネジメントなど、これまで学校現場で実施されてきた多様な心理的アプローチを包含するものである。CBTでは、ストレッサー(出来事)とストレス反応(心身の反応)の間に、認知(考え方)と対処行動(コーピング)が介在し、これがストレスの大きさを左右することを理解することが出発点となる。

この認知や行動の悪循環を断ち切り、望ましい代替行動を強化することで、ストレスと適切に付き合っていく力を育むものがストレスマネジメントである。また、行動の良し悪しは、期間を置いたずっと後の結果ではなく、行動の直後に生じた結果に着目することによって評価され、小さな成功体験の積み重ねを重視することも特徴の一つだ。

心の仕組みを学び感情の自己調整力を育むための、ストレスマネジメント教育の実践

CBTに基づくストレスマネジメント教育では、まず心の仕組みを知ることで、ストレッサーとストレス反応、そして認知、対処行動の介在を理解させることが大切だ。次に、小さなポジティブ事象、つまり日常の小さな嬉しい・楽しい出来事を意図的に拾い、良い気分の循環をつくるワークを展開していく。また、SOS(ヘルプ)の出し方の教育も重要な要素である。ここでは、困りごとを自分で解決できそうなタイプと、自分だけでは難しいタイプに分類する力を養い、後者の場合には、相談相手選び(相手の状況や、解決が可能な相手かどうか)や、依頼の具体化(何をしてほしいのか)のスキルを習得させる。

また教育の成果を測る評価軸については、問題の減少だけでなく、良い出来事や達成感の増加を主要指標に据えることが重要である。そして、最終的な目標は、こども自身が自分の感情、思考、行動を自己調整するセルフコントロール力を段階的に育成することにある。

スキルを定着させるための多層的かつ継続的な支援の必要性

ストレスマネジメントのスキルは、単発の授業で知識を得ることはできても、日常生活で実行し、成功体験を積まなければ定着はしない。そのため、効果をより高めるためには、日頃からこどもに関わる教員や保護者と連携し、継続的な実践機会とフィードバックの確保が不可欠となる。

理想的な支援の方法は、まずは学級単位での授業の実施などの集団支援で共通の土台を築いた後、ストレスチェックなどを用いて高リスク層を把握し、個別支援や医療連携に繋げていく多層的な支援である。また、こどもの時に身につけたストレス対処法は普遍性があり、大人になっても活用できるため、できるだけ早期にストレスマネジメントのスキルを身につけさせることは、生涯を通して有益である。

一方で、授業枠の不足や教員養成課程でのノウハウが未整理であること、実施者のスキル不足などが、現場でのストレスマネジメント実装を妨げる主な障壁となっている。この課題を解決するために、教師とスクールカウンセラーが協働する授業形式や、指導案付き教材の活用が、現場実装を後押しする手段として有効である。

デジタル時代に求められる、学校を超えた場でのストレスマネジメント実践と、こどもの特性に応じた早期支援の重要性

現代のこどもたちにとって、スマートフォンやゲームなどのデジタル機器はストレス要因となる一方で、生涯にわたって使用をゼロにすることは非常に困難だ。重要なのは、デジタル機器とどううまく付き合うかであり、運動や対人経験をはじめとする、オフライン状態での活動とのバランスを取りながら、生活全体で良い循環を設計することだ。また、デジタル技術は、アプリや動画を通じたセルフチェックや学習機会の提供にも活用をできるが、その効果を考えた際には、単独使用よりも対面支援と併用することが推奨される。
さらに、ストレスマネジメントは学校現場だけでなく、家庭、企業、教育センター、民間療育など幅広い場での導入に意義がある。特に、発達障害等のあるこどもはストレスレベルが高くなりやすく、ストレスを自分で気づくのが難しい場合がある。そのため日ごろから、教員、保護者、支援者などの周囲の大人がサインの有無をよく観察し、うつや不安症などの二次障害の予防を念頭に早期に対応することがより重要である。

 

【開催概要】

  • 登壇者:小関 俊祐氏(桜美林大学リベラルアーツ学群 准教授)
  • 日時:2025年8月28日(木)17:00-18:15
  • 形式:オンライン(Zoomウェビナー)
  • 言語:日本語
  • 参加費:無料
  • 定員:1,000名

 


■登壇者プロフィール

小関 俊祐(桜美林大学リベラルアーツ学群 准教授)

山形県生まれ。2009年兵庫教育大学連合大学院博士課程修了、博士(学校教育学)。日本学術振興会特別研究員、愛知教育大学助教、同講師を経て、2014年より桜美林大学講師、2019年より現職。公認心理師、日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士、認知行動療法スーパーバイザー®の資格を有する。現在、公認心理師の会教育・特別支援部会長、日本ストレスマネジメント学会常任理事、日本認知・行動療法学会理事などの要職を務める。著書に「小中高をシームレスにつなぐ ストレスマネジメント教育プログラム」(金子書房、共著)、「自立活動の視点に基づく高校通級指導プログラム」(金子書房、共編著)、「こどもと一緒に取り組む園生活でのこどものストレス対処法」(中央法規、編著)などがある。

 


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