活動報告 調査・提言

【活動報告】メンタルヘルス政策プロジェクト-厚生労働省令和3年度障害者総合福祉推進事業「自治体の災害時の精神保健医療福祉対策にかかる実態把握及び取り組みのあり方の検討」事業報告書及び実例集公表のお知らせ(2022年5月18日)

【活動報告】メンタルヘルス政策プロジェクト-厚生労働省令和3年度障害者総合福祉推進事業「自治体の災害時の精神保健医療福祉対策にかかる実態把握及び取り組みのあり方の検討」事業報告書及び実例集公表のお知らせ(2022年5月18日)

日本医療政策機構は、厚生労働省における令和3年度障害者総合福祉推進事業として実施した「自治体の災害時の精神保健医療福祉対策にかかる実態把握及び取り組みのあり方の検討」について事業報告書を公表いたしました。

メンタルヘルス課題は様々な社会課題との関連性が強く、その重要性は年々増しており、2013年の第6次医療計画からは既存の4疾患に加え、精神疾患が指定され医療政策上の重要課題とされています。とりわけ、新型コロナウィルス感染症に代表されるパンデミックや、大地震・豪雨等による自然災害などの人的危機発生時の精神保健福祉対策は、人々の生活再建を促進するという観点からも、喫緊の課題といえます。メンタルヘルス対策を含む地域づくり、支援者支援、メンタルヘルスに変化が生じた市民を専門家につなぐ重要性はすでに指摘されており、災害直後から中長期にかけてシームレスな支援体制の構築が望まれます。発災直後のメンタルヘルス対応についてはその専門チームとして、2013年に災害派遣精神医療チーム(DPAT: Disaster Psychiatric Assistance Team)の活動要領が作成され、今日までその活動が展開されてきました。しかし、中長期(急性期)以降の支援となると、災害のハザード(事象)や地域特有の課題等を考慮する必要があり、統一されたガイドラインに基づく災害時精神保健医療福祉対策が確立されていないのが現状です。

本事業では、自治体の災害時における精神保健医療福祉対策をより実効性のあるものとすることを目的に、都道府県及び市町村並びに災害支援団体へ、災害直後から中長期の精神保健医療福祉体制に関するアンケート・ヒアリング調査を実施しました。さらに調査結果の分析に加えて、メンタルヘルス当事者や当該分野における国内外の有識者へのヒアリング、専門家会合での議論を通じ、災害中長期対応の計画作成の方向性や課題を整理し、今後の災害時メンタルヘルス支援への備えに向けた提言を「自治体の災害後中長期に渡る精神保健医療福祉体制の構築に関する実例集~提言」という形で、取りまとめました。

実例集の作成にあたり、有識者からは災害時精神保健医療福祉に関するマニュアル・ガイドラインの乱立を避け、各資料との言葉の統一や必要に応じた枠組みを拡充すべきであるといった意見が挙がりました。そこで本事業においては、災害時精神保健医療福祉における先行研究である、平成28年度厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))「災害時の精神保健医療に関する研究」(代表者:金吉晴 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 災害時こころの情報支援センター センター長・成人精神保健研究部 部長)において作成された、災害時精神保健活動ガイドライン:国内外の文献の検証と新たな包括的ガイドライン作成に向けての構想、および令和2年度厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)「災害派遣精神医療チーム(DPAT)と地域精神保健システムの連携手法に関する研究」(研究代表者:太刀川弘和 筑波大学 医学医療系 教授)において作成された、自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル(ロングバージョン・ショートバージョン)を踏まえて、調査項目の策定・分析を行いました。分析整理の枠組みは、以下に記載する「総論」「システム・原理」「心理反応+ハイリスク者対応」「アセスメント」「リスクコミュニケーション」「準備+訓練」「機関連携」「特殊事例」の8項目です。

 

また、これらの分析結果を鑑み、自治体が災害中長期の精神保健医療福祉支援に取り組むためには、

  1. 各自治体における被災の経験や対応の結果を、自治体間、自治体内部署間で共有・連携し、平時から「顔の見える関係の構築」を意識する
  2. 精神科専門職をマンパワーの面からも支えられる多領域間での協力体制の構築が必要であることが示されました。そして何より、これらの取り組みを災害時被災者にハンズオンでケアを行う市町村保健師を中心に進める

の重要性が示唆されました。

そこで、本事業の特徴としてメンタルヘルス当時者が有識者の中に加わり、当事者の目線で様々な議論を行いました。以下に、本事業を通じて調査・収集した結果の概要を示します。

 

【災害中長期に求められる支援に関する調査結果の概要】

1. 総論

  • 17自治体が「災害中長期を想定したメンタルヘルス対策の計画・マニュアルを準備している」と回答した(活用しているマニュアルは「保健衛生活動」または「こころのケア」に関連するもの)。
  • 6自治体が「災害メンタルヘルスに関する支援計画(都道府県)と受援計画(各基礎自治体)との整合性を確認する」と回答した(地域防災計画の見直し時や災害時コーディネーター調整会議などを活用)。
  • 災害時の外部からの支援を事前に計画にいれることが効率的なメンタルヘルス支援に繋がる(市町村:ニーズ調査、個別支援、集団支援等、こころのケアセンター:市町村のサポート、都道府県の精神保健センター:全体のバックアップ)。

2. システム・原理

  • 18自治体が「災害発生時にメンタルヘルスに関する新たな相談窓口設置および住民への周知を計画している」と回答した。相談窓口の設置主体は精神保健福祉センターが12自治体と最多であった。
  • 近年の災害対応では、これまでの各地での災害対応の知見が活かされ、支援対象により担当組織を分担する取り組みなど、地域課題へも対応している。
  • 被災者の健康支援の中心は市町村保健師であった。
  • 自治体は「受援体制」と「撤退時の基準」を決めておく必要がある。
  • 災害中長期には、うつ、アルコール依存、自殺対策は、生活支援の一部となる。そのため、被災者支援としてこころのケアを行うのではなく、メンタルヘルス支援を地域で事業化する。
  • 新たなこころのケアセンターの立上げよりも、既存のセンターの機能の充実が望まれ、設置する場合には閉鎖までの計画も必要である。


3. 心理反応+ハイリスク者対応

  • 4自治体が「特定の属性に係るメンタルヘルス支援の実施・計画がある」と回答した(属性には避難行動要支援者(高齢者や障害者など)などが含まれる)。
  • 介護保険法の適用でない高齢者、アルコール依存などは「孤立化」しやすく、支援に繋がりにくいため、支援者の対応力が求められる。
  • 女性やLGBTQの人々等が災害からどのような影響を受けるかへの留意がメンタルヘルス支援上必要である。


4. アセスメント

  • 18自治体が「災害中長期に住民のメンタルヘルス支援に関する啓発活動を計画している」と回答した(活動内容は、被災住民へのこころのケアや相談窓口に関する配布物や掲示物、ホームページによる周知、健康相談)。
  • 22自治体が「災害中長期の住民のメンタルヘルス支援を目的としたアウトリーチ活動を計画している」と回答した。
  • 避難所の聞き取り調査は、被災地の保健師と応援に来た保健師で手分けして実施した。
  • 中長期の時間経過のなかで被災者の課題は変化する。住宅の形態もメンタルヘルスへ影響する。例えば、仮設住宅入居後の再建の遅れに伴う「取り残され感、閉じこもり、抑うつ傾向」、被災者が分散するみなし仮設における、「被災者の思いの共有の困難さ」などがある。


5. リスクコミュニケーション

  • 既存の会議体から、大学の精神科教授、精神科病院協会会長、職能団体、精神保健福祉士、臨床心理士、県の主な医療機関代表などが参加する「こころのケア対策会議」が立ち上がった。
  • 保健所が主宰する地域保健・精神保健にかかる平時の会議が、災害時は災害支援に特化した内容を議論した。
  • 精神科救急システム調整会議等の多団体・多職種が集まる機会を活用し、災害発生後急性期から中長期に至るメンタルヘルス支援の運営体制などを平時に検討し、計画しておくことが望ましい。


6. 準備+訓練

  • 32自治体が「住民のメンタルヘルス支援を行う支援者に対する教育・研修の実施・計画をしている」と回答した。
  • 18自治体が「支援者のメンタルヘルスに対する支援の実施・計画をしている」と回答した。
  • 災害時メンタルヘルス支援の最前線は市町村保健師であるため、市町村保健師の活動を前提とした計画が必要である。
  • 災害後中長期に関する知見を蓄積するためには、被災経験者による体験・経験を共有することが有用である。
  • 研修内容として、ゲートキーパー研修、管理職のメンタルヘルス、心理的応急処置(PFA)が挙げられる。例えば、国立精神・神経医療研究センターストレス・災害時こころの情報支援センターがPFA研修を実施している。
  • 災害時は、市民同士の助け合いを自治体が促していくことも重要である。そのためには、地域の人々が普段利用する場所で働く人、自治会役員、民生委員などを中心に、住民同士の繋がり(有事の際に地域住民同士が助け合える環境作り)を平時に促す取組みが重要である。


7. 機関連携

  • 26自治体が「災害メンタルヘルス対応のために連携を計画・想定している組織がある」と回答した。23自治体が、当該組織として、「医療機関(精神科デイケア等を含む)」と回答した。
  • 17自治体が「様々な精神科職能団体、行政機関、教育機関、保健医療福祉系団体などとの連携を想定し、平時から役割分担、人材育成、組織間協定などにより連携を図っている」と回答した。
  • 保健師の活動や感触に基づく情報共有が重要した。
  • 平時から、組織内(部署間)や自治体間で顔の見える関係を作ることが重要である。県や保健所が3ヶ月に1回程の頻度で会合をもてると有事の連携が可能である。
  • DPAT研修等に医療機関、保健所、市の保健センター関係者が参加することが重要である。受援の認識にも繋がる。
  • メンタルヘルスに関する課題は、1つの部署では解決できないことが多いことがわかった。福祉や保健の関係職が参加する定期的な会合が必要である。
  • メンタルヘルスの問題は地元地域では「隠したい」「周囲に知られたくない」という思いを抱く人も多く、結果として地域外の医療機関や支援機関に通う人も存在する。したがって、特に災害後は地元地域から都道府県あるいは都道府県を越えるより広い範囲の自治体が連携する会議を定期的に開催し、当該市民への対応方法に関する情報共有、広域支援を行うことが望ましい。


8. 特殊事例

  • 仮設住宅の最後の住民、復興公営住宅の失職・アルコール依存の住民などが「孤立化」するケースで、災害後の長期的な支援が必要となった。

 

【災害中長期に求められる支援についての当事者の意見】

  • 「こころのケア」「メンタル」「精神科」という言葉を前面に出すと、被災者にケアが受け入れられづらい黒子としてメンタルヘルスの専門職が協働で活動することが受け入れにつながる。住民のメンタルヘルスへの抵抗感を払拭する工夫が必要である。
  • 社会の中に楽しみを感じられる自分の居場所の存在、寄り添ってくれる人の存在が必要となる。
  • 大規模災害を経験したメンタルヘルス当事者にとって有用であった自治体の取組みやサービスを集積し、自治体間で共有することや、当事者同士がサポートし専門職とつなぐ役割も果たすピアサポート等を積極的に活用して情報発信することは重要である。

 

詳細は本ページ末尾のPDFをご参照ください。
※本事業報告書は、現時点では日本語のみの公表となります。

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