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【開催報告】「災害メンタルヘルスを念頭においた地域づくりを考える」専門家会合(2021年3月26日)

【開催報告】「災害メンタルヘルスを念頭においた地域づくりを考える」専門家会合(2021年3月26日)

*****最終報告書を作成し、発表しました。(2021年6月9日)
詳しくは、当ページ下部のPDFファイルをご覧ください。

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日本医療政策機構は、「災害メンタルヘルスを念頭においた地域づくりを考える」専門家会合を開催いたしました。

当機構はこれまで「市民主体の医療政策の実現」を掲げ、市民や患者・当事者の声を医療政策に反映すべく活動を進めてまいりました。2019年度から始動したメンタルヘルス政策プロジェクトにおいても、精神疾患を持つ本人や家族・支援者等の生活の質の向上を目指しています。精神疾患を持つ本人を含めたマルチステークホルダーによる議論により、メンタルヘルス政策の包括的な課題を整理すべく、2019年12月にはグローバル専門家会合を開催しました。そして専門家会合での議論や各ステークホルダーへのヒアリングを踏まえ、2020年7月には政策提言「メンタルヘルス2020 明日への提言」を公表しました。

2020年は新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、感染症そのものへの不安はもちろん、雇用不安等の経済的な課題を含む社会不安および生活様式の変化に伴う精神的苦痛が急速に広がり、メンタルヘルスが私たちにとって喫緊かつ身近な課題として顕在化しました。メンタルヘルスの不調・精神疾患の原因は多岐にわたり、これまでも注目されてきた自然災害に加え、今回のような社会的に大きな影響を与えるパンデミック、凶悪犯罪、事件・事故等もその原因となります。災害が引き金となるメンタルヘルス不調に関わる様々な課題については、2011年に起きた東日本大震災も一つの重要な契機となりその教訓が議論されてきました。例えば、メンタルヘルスを念頭に置いた地域づくり(一般市民におけるメンタルヘルスリテラシーの向上等)、支援者への支援、メンタルヘルスに変化が生じた方を専門家へつなぐ役割の重要性等が指摘されています。

以上の背景、2021年が東日本大震災から10年となる節目の年でもあること等を踏まえ、日本医療政策機構メンタルヘルス政策プロジェクトチームでは、今改めて災害大国日本における災害メンタルヘルス政策を様々な視点から見直すべきと考え、今後の活動のキックオフ企画として本シンポジウムを開催いたしました。災害と向き合う市民の視点はもちろんのこと、支援を行う医療提供者、国や地方自治体などの行政、そして企業など、災害に関わる様々なステークホルダーの視点を踏まえ、長期に持続可能な体制・政策の在り方を議論いたしました。

 

基調講演1 ICTを活用した遠隔被災地メンタルヘルス支援と支援団体間連携

鈴木満氏

  • 災害メンタルヘルスは長期的な支援を必要とする。実際に、東日本大震災の被災者の中には今なお「喪失体験」に苦しむ方々が存在する。
  • 「心の架け橋いわて」では、東日本大震災後の長期的な支援および次の災害に備えた地域づくりを、多職種・多組織連携の中で進めている。具体的には、対面でのメンタルヘルス支援だけでなくICT(Information and Communication Technology)を活用したオンライン支援、地元の人材育成等を行っている。
  • 非対面でのメンタルヘルス支援においては、利用者のデジタルツール活用能力等によってその支援効果が左右されるといった課題はあるが、昨今のCOVID-19流行により外出自粛が続くことによる孤独問題の深刻化を阻止する観点からもICTを活用したメンタルヘルス支援は重要である。

 

基調講演2 パンデミックも含めた大規模災害とジェンダー

萩原なつ子氏

  • 自然災害やパンデミックは皆に平等に起こり得る。ジェンダー(社会的・文化的性)理解の不足は、災害時に支援が必要な方々が持つ個々の支援ニーズの把握を困難にする。
  • 災害弱者のニーズを的確に把握し支援するためには、ジェンダーの理解およびその基盤となる社会的な仕組み自体を変えることが必要となる。ジェンダーの理解はあらゆるマイノリティへの理解を促す観点からも重要である。
  • 大規模災害が引き起こす「孤立」という病は、地域のつながりという「社会的な処方」で治すことが可能であり、その地域のつながりが災害やパンデミックに強い地域づくりの基礎となる。

 

基調講演3 災害等緊急時における精神保健・心理社会的支援の現状と課題

原田奈穂子氏

  • こころの健康は明確な境のない濃淡のスペクトラムであり、個人の健やかさは長い年月をかけそのスペクトラムを行き来するものである。したがって、災害メンタルヘルスの支援においても、その長期的なこころの動きに合わせながら対応する必要がある。
  • 災害等緊急時における精神保健・心理社会的支援を維持・強化するためには、地域のレジリエンス(吸収能力・緩衝能力・対応力)を高めることが重要である。具体的には、BCM(Business Continuity Management)の整備、メンタルヘルスリテラシーの向上・メンタルヘルスに対するスティグマの解消等のアプローチが求められる。
  • 日本の災害対応は国際的に高く評価されているが、活動の効果検証が困難であること、民間ボランティア組織における支援者支援体制が確立していないこと等が課題として挙げられる。

 

パネルディスカッション「災害メンタルヘルスを念頭に置いた地域づくり」

  • 災害メンタルヘルスを念頭に置いた地域づくりには、当事者のニーズの把握と地域を主体とする恒久的な仕組みづくりが必要である

 日本の精神医療保健福祉体制は長年、病院を中心とした体制が続いてきたが、近年では頻発する災害も一つの契機となり、地域を拠点とした活動が展開されるようになってきた。東日本大震災から10年の今、災害メンタルヘルスを含む精神医療保健福祉全体を視野に入れた地域づくりを模索していく必要がある。

 発災後に長期にわたりメンタルヘルス支援の実践から調査・啓発活動までを行う「心のケアセンター」のような恒久的な拠点/体制を地域に整備することにより、日本の災害メンタルヘルス支援の向上が期待できる。

※心のケアセンター:地域において、精神医療保健福祉に関する専門的な相談・診療、研究、人材育成、普及啓発等の様々な機能をもつ機関。大規模災害等を契機に、兵庫県こころのケアセンター、新潟県精神保健福祉協会こころのケアセンター、岩手県こころのケアセンター、みやぎ心のケアセンター、ふくしま心のケアセンター、熊本こころのケアセンター等が設立されている。

  • 平時より、地域の各組織・関係者の特性を把握すること、各組織・関係者間をつなぐ人材を育成すること、災害時に支援組織・支援者を受け入れる地域の環境を整えておくことが重要である

 平時より、地域に密着した支援組織や専門家同士の関係を築いておくことが災害時のレジリエンスの向上につながる。
 災害時には個人間・組織間のつながりが重要になる。そのための人材育成・地域の環境整備(許容力の向上)が求められる。地域の許容力を向上させることが、災害時にマイノリティへの支援を改善するとともに、マイノリティを含む市民全員が生きやすい社会の構築に寄与する。

  • 大規模災害やパンデミックが生む喪失・孤独という個人的・社会心理的な課題に、当事者・支援者・専門家を含む地域全体が取り組む必要がある

 マイノリティや支援者に対するスティグマ、災害後の自殺等には、様々な社会的文化的な背景が関係する。災害時の求援力・受援力・支援力を高めるためには、地域住民一人一人が多文化を受け入れ、エビデンスに基づき行動することが重要になる。

 


■開催概要

日時:2021年3月26日(金)10:00-12:00
形式:Zoomウェビナーを使用したオンライン形式

■プログラム:(順不同・敬称略)

開会挨拶・趣旨説明
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 マネージャー)

基調講演1 ICTを活用した遠隔被災地メンタルヘルス支援と支援団体間連携
鈴木 満(認定NPO法人 心の架け橋いわて 理事長 / 在タイ日本国大使館 参事官・広域メンタルヘルス担当医務官)

基調講演2 パンデミックも含めた大規模災害とジェンダー
萩原 なつ子
(立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科 教授 / 特定非営利活動法人 日本NPOセンター 代表理事)

基調講演3 災害等緊急時における精神保健・心理社会的支援の現状と課題
原田 奈穂子(宮崎大学 医学部看護学科 精神看護学領域 教授)

パネルディスカッション「災害メンタルヘルスを念頭においた地域づくり」
パネリスト:
鈴木 満

萩原 なつ子
原田 奈穂子
福地 成(公益社団法人 宮城県精神保健福祉協会 みやぎ心のケアセンター 副センタ―長)
久我 弘典(厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課課長 補佐
モデレーター:
柴田 倫人
(日本医療政策機構 シニアアソシエイト)

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