【開催報告】緊急シンポジウム 「高市新政権の中医協改革の行方を考えるー『患者・当事者の声』は届くのかー」(2026年1月22日)
日付:2026年3月5日
タグ: 患者当事者支援
日本医療政策機構(HGPI)は、中央社会保険医療協議会(中医協)改革に関する議論が今後本格化することを見据え、審議会等の各種会議体に患者・当事者が参画することの意義、具体的な方法や位置づけについて検討することを目的に、緊急シンポジウムを開催しました。
2025年10月20日には、自由民主党と日本維新の会による新たな連立政権が発足し、社会保障改革が政府の重要課題として掲げられました。その連立合意書に「病院機能の強化、創薬機能の強化、患者・当事者の声の反映及びデータに基づく制度設計を実現するための中央社会保険医療協議会の改革」が明記されたことは、今後の医療政策の決定過程にとって非常に意義深いことです。一方で、中医協は、診療報酬や薬価改定に大きな影響力を持つ厚生労働省の審議会でありながら、現行制度では「患者・当事者委員」の明確な枠組みが存在せず、今後の改革も期待されるところです。
こうした背景を踏まえ、本シンポジウムでは、新政権が目指す中医協改革の方向性を見据えつつ、
- 中医協改革を通じて患者・当事者参画をどのように実現するか
- どのような形で声を届け、政策に反映していくべきか
- 必要となる仕組みや委員選出のあり方
といった論点を中心に、幅広い視点から議論を行いました。シンポジウムでは、有識者によるショートレクチャーを皮切りに、日本医療政策機構では初めて実施した「みんなの患者・当事者参画プラットフォーム(J-PEP: Japan’s Patient Expert Platform)」の登録者を対象とした公募を経て選定された患者・当事者2名をパネリストに迎え、パネルディスカッションへと展開されました。公募・選考プロセスの運用には一定の難しさがあることを認識しつつも、今後は幅広い審議会等の各種会議体において、患者・当事者参画の制度的位置づけが広がっていくことが期待されます。
<シンポジウムを通じて提起された具体的な中医協改革の方向性・打ち手>
中医協そのものの意義や役割
- 診療報酬の改定率が国家予算の枠組みで定められる中、中医協は限られた財源の配分を調整する役割を担っている。この点を踏まえ、患者・当事者委員による生活実態の提示だけでなく、保険者による患者・当事者の利益の代弁機能を強化する。
- 配分調整を担う審議会としての正当性を高めるため、交渉や慣行に依存した判断から脱却し、蓄積された医療データに基づき、費用構造や医療内容の実態を分析した上で意思決定を行う。
中医協における患者・当事者参画の方向性
- 法定の患者・当事者委員枠を設けるとともに、参画を形骸化させない観点から、その役割および代表性を明確化する 。
- 委員の選出にあたっては、公募や任期制を導入し透明性を確保する。加えて、患者・当事者団体代表、団体に属さない当事者、現状特段の疾患を有しない市民といった異なる主体を区別して位置づけ、「患者・市民」の代表性を構造的に担保する。
多様な患者・当事者の声を拾う手段・機能
- 数名の委員のみでは多様な生活実態を反映できないことから、患者・当事者の声を定性的データやナラティブとして収集・整理し、審議資料として活用する。
- 患者・市民・行政が共に参加する対話の場を設け、そこで得られたペイシェントジャーニー や経験を整理した資料を、審議の公式資料として提出できる仕組みを構築する。
- ソーシャルメディアやAIの活用により多様な声の収集・体系化を図るとともに、母集団や意見の偏りを防ぐため、調査・ヒアリング等と組み合わせた体系的な情報収集を行う。
- 民間企業の、顧客ニーズを把握し、商品開発へ反映する仕組みを参考に、患者が会議に直接参加しなくても意見を体系的に収集し政策に反映できる仕組みを検討する。
実質的参画を機能させる運用プロセス
- 患者・当事者・市民が議論に参加するための事前学習や継続的な対話の機会を設け、行政との相互理解を深める機会を創出するとともに、患者・当事者代表の参画・学びのプロセスにおいて、伴走支援体制を整える。
- 収集した意見がどのように政策へ反映されたかを明示することで、継続的な参画を可能とする運用を整備する。
<シンポジウムの議論のまとめ>
医療政策の合意形成を支える患者・市民参画
政策課題は、単純な技術的最適解を導けば解決するものではなく、そもそも何を「問題」として設定するのかというアジェンダの形成自体が政治的過程を経て決定されるものである。とりわけ医療費をめぐる課題は、特定の主体の行動のみを是正すれば解決するものではなく、福祉制度との関係や人口構造の変化など、制度全体の複合的要因に加え、多様な利害対立を内包している。そのため、単一の「正解」が存在しない医療政策決定において、異なる立場や価値観の間で合意を形成していく過程そのものが、政策決定の重要な構成要素となり、また制度への信頼性・持続可能性を高める。
近年、人口減少や少子高齢化、財源制約、現役世代の社会保険料負担の増加により、医療政策には一層「痛み分け」を伴う判断が求められており、不利益や負担をいかに分かち合うかを調整する局面が増えている。こうした背景から、政策内容の合理性に加え、意思決定過程に対する社会的受容性、すなわち患者・当事者を含む市民の納得を確保することがより一層求められるとの見解が示された。
しかし現状では、医療政策に関わる多くの各種会議体において、患者・当事者の参画は限定的である上、構成員の年齢層や性別に偏りがある点が課題として指摘された。実際に、審議会等の各種会議体で丁寧に調整された政策であっても、社会に提示された段階で強い反発を受ける事例が生じている。多様な関係者が対等に議論できる場を構築するためには、患者・当事者の参画機会を確保することに加え、回を重ねる中で患者・当事者側と行政側が、患者・市民の政策参画に必要な制度理解や対話の姿勢を学習し、相互理解を深めていくプロセスが重要であると指摘された。また、相互理解は一度の対話で成立するものではなく、試行錯誤を繰り返しながら信頼関係を築いていく過程が重要であるとの認識が示された。
さらに、自治体レベルにおいても、患者・当事者を含む市民が参加しやすい医療政策への参画の場を整備することが必要である点が指摘された。行政が庁内会議にとどまらず、立場を超えた対話の場へ出向く取り組みや、若い世代を巻き込む発信方法の工夫が、患者・当事者を含む市民の参画を広げる基盤となるとの見解が示された。
中医協を通じた患者・当事者参画の意義・その課題と実践
中医協で決定される診療報酬は医療の価格水準を規定し、自己負担額を通じて患者・当事者の生活に直接影響を及ぼす。実際に、高額な治療を受けられないことにより生活に深刻な影響が及ぶ場合があるにもかかわらず、現状ではこうした困難が社会や政策決定者に十分共有されていないことが課題として指摘された。そのうえで、医療費負担の影響を直接受ける患者・当事者の視点を中医協に制度的に取り込む仕組みの重要性が改めて強調された。
現在の中医協では、支払側委員の枠内で患者代表とされる委員が暫定的に配置されているものの、議論に具体的に誰の声が反映されているのかが不明瞭である点が指摘された。また、「公益」として位置づけられる意見や発言が、多様な患者・当事者や市民の実態をどの程度反映しているのかについても、必ずしも明確ではないとの課題が示された。
課題の指摘にとどまらず、患者・当事者が、いかに審議会等の各種会議体へ実質的に参画する工夫を行っているか、また今後どのように患者・当事者を含む市民が中医協に参画する仕組みを構築し得るかについて、実践的な視点が共有された。ある患者団体では、公式の場で発言するにあたり、地域や性別、立場の異なるメンバー間で事前に意見交換を行い、組織としての見解を整理・集約した上で臨んでいることが紹介された。また、審議会等の各種会議体では、即時の判断や発言のタイミングが求められる場面も多いため、経験や適性に応じて役割を分担するなどの工夫も示された。
さらに、代表性を担保する観点から、患者・当事者委員の枠組みを設ける場合には、「患者・市民」を単一の主体として扱うのではなく、団体として意見を集約できる患者団体代表、一人の生活者として経験を語る患者・当事者、現状特段の疾患を有しない市民といった異なる主体を区別して位置づける必要性が示された。参画の設計にあたっては、それぞれの主体が担う役割や発言の性質を踏まえ、目的に応じて「当事者」の位置づけを明確にし、適切に議論へ組み込むことが重要であるとの認識が共有された。
中医協の役割の変容と、患者利益の制度的反映の在り方
中医協の制度的役割は、制度改革を経て変化してきた。かつては、中医協が診療報酬の全体的な引き上げ・引き下げの水準も含めて実質的に議論していたが、現在は診療報酬の改定率(全体の増減幅)は政府の予算編成過程で決定され、その枠の中で中医協が具体的な点数配分を審議する仕組みとなっている。このため、中医協の主たる役割は、診療報酬の水準そのものを左右する場から、あらかじめ定められた財源の範囲内でどのように配分するかを調整する場へと移行した。
このように中医協が配分調整を担う場へと性格を強める中で、患者・当事者の声をどのように反映するかという論点は、単に患者代表を配置するか否かという問題にとどまらないとの指摘がなされた。中医協は本来、医療サービスの提供側と支払い側が公定価格を協議する構造を取っており、支払い側に位置づけられる保険者は被保険者の利益を代表する主体として機能することが想定されている。そのため、患者の利益を持続的に反映させるために、保険者が被保険者の立場に立って議論できるよう、その機能を強化することが重要な視点として挙げられた。
また、配分調整を担う審議会としての正当性を高めるためには、交渉や慣行に過度に依拠した判断から脱却し、蓄積された医療データに基づく意思決定を重視することが不可欠であるとの意見が示された。レセプトや電子カルテ等の情報を活用し、費用構造や医療内容の実態を分析した上で配分を検討することで、合理性と納得性の高い制度運用につながるとの見解が示された。
患者の声を集める多様なチャネル:委員制度を補完する仕組みの可能性と限界
中医協改革において、数名の患者・当事者委員を設置するだけでは、多様な疾患や背景を持つ患者・当事者の声を十分に反映することには限界がある。特に患者数の少ない疾患や、すべての世代の声を拾うことは難しく、委員制度を補完する形で多様な声を収集・整理する仕組みが必要である。
多様な声を収集・整理する具体的手法として、患者個人の経験やペイシェントジャーニーや患者の語り等の定性的データを体系化し、政策決定過程の参考資料として活用することが挙げられた。また、個々人の体験談をそのまま提示するだけでは政策への反映が難しいため、議論の論点に沿ってそれらを整理・翻訳するサポートの必要性が指摘された。
多様な声の収集の観点からは、厚生労働省が、民間企業の持つ大規模な顧客データ基盤を活用しアンケートを実施することで、短期間で、委員制度だけで拾うことのできない多様なニーズを広く把握した事例が紹介された。加えて、ビジネスの意思決定プロセスにおいて、「顧客代表」が会議に直接参加しなくとも、商品開発段階で顧客の意見を体系的に吸い上げ、意思決定に反映する仕組みが構築されている例が共有された。こうした民間の構造設計や、民間が有するデータ活用の手法を参考にする可能性が示された。
さらに、患者・当事者を含む市民の意見を匿名化した上でAIを用いて分類・整理し、提言資料等の政策アウトプットにつなげることも1つの手法として提案された。YouTube等の体験談動画やソーシャルメディア投稿など、日常的な発信を分析することで生活上の課題を広範に把握できる可能性も示された。他方で、ソーシャルメディア上の声が必ずしも社会全体を代表しないことや、AIでは少数意見が埋もれる可能性がある点には留意が必要であり、定量データ、調査、ヒアリング等を組み合わせた体系的な情報収集が不可欠であるとの指摘がなされた。加えて、収集した意見がどのように政策に反映されたのかを患者・当事者へ還元する仕組みを設けることが、継続的な参画を支える上で重要となるとの見解が示された。
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【開催概要】
- 日時:2026年1月22日(木)14:00-16:00
- 形式:対面
- 会場:TKP東京駅大手町カンファレンスセンター カンファレンスルーム22A
(東京都 千代田区 大手町1-8-1 KDDI大手町ビル 22階) - 言語:日本語
【プログラム】(敬称略、順不同)
| 14:00-14:10 | 開会・趣旨説明 |
| 栗田 駿一郎(日本医療政策機構 シニアマネージャー) | |
| 14:10-14:45 | ショートレクチャー「中医協改革の論点」 |
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桜井 なおみ(一般社団法人CSRプロジェクト 代表理事) |
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| 14:45-15:40 | パネルディスカッション「中医協から『患者の声』を届けるには」 |
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パネリスト:上記5名に加え、 |
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| 15:40-16:00 | 会場との質疑応答 |
(会員登録無料・日本語のみ)
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