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【開催報告】第129回HGPIセミナー「エコチル調査からみた地球環境と人の健康の関連と今後の期待」(2024年12月23日)

【開催報告】第129回HGPIセミナー「エコチル調査からみた地球環境と人の健康の関連と今後の期待」(2024年12月23日)

今回のHGPIセミナーでは、「エコチル調査からみた地球環境と人の健康の関連と今後の期待」をテーマに、国立環境研究所 エコチル調査コアセンター センター長の山崎新氏をお招きし、環境疫学の歴史的背景から最新の研究成果まで、幅広い視点でお話をいただきました。

<POINTS

  • 環境疫学の原点である水俣病は、環境要因が人の健康に及ぼす影響を科学的に解明することの重要性を示している。
  • エコチル調査は、当初13歳までの追跡を予定していたが、40歳程度までの継続を視野に18歳までの継続が決定されている。この長期的な追跡により、環境要因が人の健康に与える影響をライフコースを通して理解することが可能となる。
  • 既に480編を超える英文原著論文が発表され、血中金属濃度、PFASやネオニコチノイド系農薬などの化学物質が健康に与える影響など様々な知見が得られており、ガイドラインの策定や規制の検討に貢献している。
  • 環境問題の解決には規制だけでなく、新たな科学技術開発と次世代教育が重要である。子どもたちの教育や学習意欲の向上が、イノベーションを生み将来の環境問題解決に繋がる可能性がある。

 

■環境疫学の原点:水俣病から学ぶ科学的調査の重要性

水俣病は、メチル水銀を原因とした疾患である。1956年頃から奇妙な症例が集中発生し、漁業世帯での発症率が非漁業世帯の20倍以上であったこと等の疫学的知見が、原因究明において大きな役割を果たした。この事例は、環境要因と健康被害との関連を科学的に解明することの重要性を示す歴史的教訓となっている。また、この教訓に基づき、食品衛生法等も改正され、健康影響の疑いがある場合においても規制の対象となった。

■エコチル調査:環境要因が子どもの健康に与える影響についての包括的研究

1997年、先進8ヶ国環境大臣会合において「マイアミ宣言」(世界中の子供が環境中の有害物の脅威に直面していることが認識され、小児の環境保健をめぐる問題に対して優先的に取り組む必要があることが宣言された)が合意されたことを皮切りに、世界各国において小児の環境保健について科学的知見の収集が行われてきた。日本においても、2010年度から環境により開始された「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」は、環境(外部)要因(化学物質の摂取を中心に、社会要因、生活習慣要因など)および内部要因(遺伝要因)が、子どもの成長・発達に与える影響を明らかにすることを目的に、全国10万組の親子を対象に実施されている。当初、追跡調査の対象年齢は13歳までの予定であったが、これが18歳までに継続され、さらに今後、40歳程度まで追跡していく方針が示されている。この長期に渡る追跡調査の実現により、環境要因が人の健康に与える長期的な影響についてライフコースを通してより詳細に理解することが可能となる。調査項目や調査方法については、海外の事例も参考にしつつ、継続的に改善が行われている。

■具体的な研究成果:化学物質の健康影響に関する新たな知見

これまでの研究成果として、すでに英文原著論文が480編公表されている。具体例として、妊娠中の母親の血中金属濃度に関する研究では、血中カドミウム濃度と、出生時体格との関係、早期早産リスクとの関係、精神神経発達との関係についての調査や、鉛濃度と、出生時体格との関係についての調査等が論文として報告されている。また、PFASやネオニコチノイド系農薬などの新しい化学物質についても、既に論文として発表されている。

■エコチル調査の意義として考えること

エコチル調査は、科学的エビデンスを創出し、リスク管理当局や事業者への情報提供を通じて、適切なリスク管理体制の構築に貢献しており、例えば、食品安全委員会の資料や妊娠や子どもの健康に関するガイドライン等の策定に活用されている。また、研究結果の情報提供を通じて国民へのリスク・リテラシーの向上にも貢献している。加えて、エコチル調査は、生体試料の保管・活用の体制基盤となるとともに、環境保健領域の科学者育成においても重要な役割を担っており、国家における将来的な環境リスクへの備えになっていると考える。

■将来への展望:環境問題解決に向けた総合的アプローチ

環境問題を解決していくために、エビデンスに基づいてライフスタイルや経済産業活動の転換を促すといった規制的アプローチは重要である。しかし、それだけでは十分でなく、地球環境問題を解決していくために、新たな科学技術開発と次世代教育も重要である。子どもたちの豊かな発想力と学習意欲を伸ばす教育を通じて、学術研究活動や産業経済活動が活発となり、環境問題の根本的解決をもたらす新たな科学技術を生む好循環を作っていく必要性がある。

 

【開催概要】

  • 登壇者:
    山崎 新 氏
    (国立環境研究所 エコチル調査コアセンター センター長)
  • 日時:2024年12月23日(月) 18:30-19:45
  • 形式:オンライン(Zoomウェビナー)
  • 言語:日本語
  • 参加費:無料

 


■登壇者プロフィール

山崎 新 氏(国立環境研究所 エコチル調査コアセンター センター長)

2006年京都大学大学院医学研究科博士後期課程を修了。2007年より京都大学大学院医学研究科准教授に就任。2015年国立環境研究所環境疫学研究室長、2017年同研究所環境リスク健康研究センター副センター長、2019年同研究所エコチル調査コアセンター長を歴任し、現在に至る。

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