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【開催報告】第126回HGPIセミナー「国際麻薬乱用・不正取引防止デーに考える、日本の大麻由来医薬品の現在と未来」(2024年6月24日)

【開催報告】第126回HGPIセミナー「国際麻薬乱用・不正取引防止デーに考える、日本の大麻由来医薬品の現在と未来」(2024年6月24日)

今回のHGPIセミナーでは、大麻由来医薬品をテーマに日本臨床カンナビノイド学会理事長である太組一朗氏をお招きし、大麻・カンナビノイドを取り巻く歴史的経緯から国内外の現状、今後の論点などについて最新の動向を踏まえながらお話をいただきました。
<POINTS>

  • 2023年12月に大麻取締法改正が成立し、その施行が2024年10月以降順次行われる。大麻を麻薬として位置付けることにより、他の麻薬同様の医療目的使用が可能となった。しかし現状で治験が行われている大麻由来医薬品は一種類のみ、治験対象も難治てんかんのうち難病指定の疾患のみである
  • 現在まで国内で合法であるカンナビノイド製品(大麻由来成分を主成分とするもの)を使用している難治性疾患患者が国内に多く存在する。法改正以降は多くのカンナビノイド製品が使用不可能となる一方で、カンナビノイドを医療と整理して施用することが可能になった。
  • 難治てんかんに限らず、これからどのように患者の既存のアクセスを確保するか、新規の患者につなげていくかを念頭に置き、大麻由来医薬品開発を行なっていくことが求められている


■大麻由来成分であるカンナビノイドは100種類以上存在し、難治てんかんの治療薬として日本における使用に向けた法整備がはじまっている

大麻草には400種類以上の化学物質が含まれており、その中で大麻草に固有の成分をカンナビノイドと呼ぶ。カンナビノイドには、二大主要成分であるCBD(CBD: cannabidiol)と、中枢神経作用を有するTHC(THC: Δ9-tetrahydrocannabinol)以外にも140種類以上存在する。このうちCBDは主に抗けいれん作用や抗炎症作用を有し、難治てんかん(ドラベ症候群等)に対する抗発作薬として日本国内で治験が行われている。また、大麻由来医薬品の開発には、微量成分を含めたそれぞれの協奏効果(アントラージュ効果)にも注目する必要がある。

日本では2023年12月に大麻取締法が改正され、2024年10月1日以降順次施行予定である。改正法では、大麻由来医薬品としてCBDならびにCBD製品をはじめ、THCでさえも医療目的使用が可能となる一方で、THCを一定値以上含有するCBD製品は麻薬として扱われ、現在合法である製品の多くが規制されることとなる。

■国外において大麻由来医薬品は19世紀から使用され、近年急速に議論が進展し、日本国内でも現在治験が進行中

大麻の医療利用の議論を遡ると、19世紀後半にイギリスの医師J.R.レイノルズがてんかんに対する大麻の発作抑制効果を報告している。また1980年にはイスラエルの研究者ラファエル・メシュラムらによって、側頭葉てんかんに対する大麻の有効性が示されていた。その後、2014年頃から、ドラベ症候群患者に対してCBD製品が奏効したとして米国で取り上げられ、大麻由来医薬品への注目が再び高まった。これを発端に米国では急速に研究が進み、THC濃度が比較的低いCBD製品の難治てんかん発作抑制作用が示された。2018年6月には、米国食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)がCBDを主成分とするてんかん治療薬を医薬品として承認した。

日本では大麻取締法により、大麻から製造された医薬品の使用や処方が禁止されていたため、たとえ治験を経たとしても処方できない、いわば法のねじれの状態であった。そこで、沖縄県の患者団体と共同で秋野公造参議院議員に要望書を提出した。そうした状況を踏まえ、秋野議員は2019年3月に国会質問を行った。厚生労働省からは、現行法下でも大麻由来医薬品の治験が可能であること、海外で第2相試験(少人数の患者が対象の試験)を終了したもの、もしくは第3相試験(第2相より大規模な多数の患者が対象の試験)中のものについても国内での治験が可能であるとの答弁があった。また宮越光寛内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策)(当時)も、沖縄県のてんかん医療提供体制の充実を受けて、てんかん患者の選択肢拡充に向けて厚生労働省と連携を図るなど必要な対策に取り組むと表明した。こうした一連の議論を受けて、日本でも大麻由来医薬品の開発が進み始めた。

■法改正では、治療薬へのアクセスならびに新規開発を確保しつつ、自らの生活の質を向上する目的で使用している既存のCBD製品利用者を保護する適切な制度設計が必要

日本のてんかん患者数は全人口の0.8%~1.0%程度とされる。てんかん患者の約3割の患者は薬剤抵抗性であり、国内では約30万人程度が薬剤抵抗性てんかんであると推定できる。てんかん支援拠点病院により外科治療を含めた集学的治療が一層広く行われることとなったものの、CBD製品により既存治療に勝る臨床効果を享受できることが明らかになっている。こうした既存のCBD製品の利用者がそれらの製品を引き続き使用できる体制の確保が重要である。

今回の法改正により、現在使用されているCBD製品の多くは規制対象となり、既存のCBD製品を利用しているてんかん患者らが構成するカンナビノイド医療患者団体(PCAT: Patients of Cannabinoid Therapy)からも、薬価収載された医薬品のみが選択肢となることに懸念の声が上がっている。そこで私たちは、秋野議員同席のもと濱地雅一厚生労働副大臣(当時)に要請を行い、副大臣からは『患者が利用できないことがあってはならない』といったコメントをいただいた。一連の議論を受け厚生労働省は2023年12月、規制物質を含むカンナビノイド製品を患者が使用することを個別審査により認める旨の通知を発出した(令和5年12月1日 医薬発1201第1号)。一方、規制物質を含むカンナビノイドを一般販売することができなくなった輸入販売業者の採算があわなくなり、国内市場から消失した。

この状況に対し、臨床研究法における特定臨床研究の枠組みを活用してCBD製品の使用を継続できる方法についても検討が始まっている。臨床研究法に則った特定臨床研究が構築されれば、医薬品として医師が処方することとなり、医療的介入と患者保護の視点が生まれる。一方で、特定臨床研究は標準治療を経た難治患者を対象とする場合、重度疾患でない患者などに対する適用は難しいと考えられる。全ての既存製品の利用者ニーズをカバーすることの妥当性については、将来的により包括的かつ段階的な議論が必要とされる可能性がある。

主要国での大麻規制は緩和傾向にある。例えば、英国では、医療用大麻の使用実態を把握するためのレジストリ(研究を目的とした登録制度)の下で2018年11月に医療用大麻が解禁された。レジストリのデータを分析することで、将来的な創薬につなげることが期待されている。日本の実情に照らし合わせ、将来像も見据えた制度設計を議論する上で、英国事例は参考になるだろう。

大麻由来医薬品の臨床研究ならびに開発が可能となった日本だが、日本の医療保険制度の枠組みを守り、疾患ごとに存在する標準治療の隙間を埋めるような対象疾患・対象患者を選択する指針を定め、真に国民の役に立つ医薬品へと成長させることが期待される。これと同時に、開発コストをいかに抑制するか、患者の負担と国家の医療費逓減をいかに解決に導くか、これからの保健医療も見据えた新たな視点での議論が求められる。

 

【開催概要】

  • 登壇者:太組 一朗 氏(一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会 理事長/聖マリアンナ医科大学脳神経外科学教授)
  • 日時:2024年6月24日(月)18:30-19:45
  • 形式:オンライン(ZOOMウェビナー)
  • 言語:日本語
  • 参加費:無料

■登壇者プロフィール

太組 一朗 氏(一般社団法人 日本臨床カンナビノイド学会 理事長/聖マリアンナ医科大学 脳神経外科学 教授)

東京都出身。1992年日本医科大学卒業、2022年9月より聖マリアンナ医科大学教授。
脳神経外科医として、てんかん外科・定位機能神経外科・整容脳神経外科・プリオン病二次感染対策を臨床テーマとする一方、抗てんかん発作薬の一つであるカンナビノイド医薬品の本邦導入の重要性にいち早く着目した。令和2年度および令和6年度には、カンナビノイドに関連する厚生労働科学研究代表者(研究班長)として領域を牽引している。カンナビノイド医薬品開発を望む一方で、食品として分類されるカンナビノイド製品を使って自身の健康増進に役立てている難治てんかん患者等をカンナビノイド適性使用者と位置付け、ともに支援している。
第212回臨時国会において参議院厚生労働委員会より参考人として招致を受け、大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案について意見陳述した(2023年11月30日)。

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