【開催報告】超党派国会議員向け医療政策勉強会「30分で伝える医療政策最前線:治療で改善できる認知症~特発性正常圧水頭症(iNPH)とは~」(2023年4月11日)

日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)は、超党派国会議員向け医療政策勉強会「30 分で伝える医療政策最前線:治療で改善できる認知症~特発性正常圧水頭症(iNPH)とは~」を開催いたしました。
數井裕光氏(高知大学医学部 神経精神科学教室 教授/日本正常圧水頭症学会 理事長)が講演を行い、治療可能な認知症とされている特発性正常圧水頭症(iNPH: Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus)について現状と課題をご説明いただきました。
講演後の質疑応答では、出席者による活発な意見交換が繰り広げられました。
<講演のポイント>
- 認知症は早期に診断し、原因疾患に基づいて治療を行うことが重要である。診断作業は「疾患の頻度」と「治療可能性」の2つの視点から行うことが求められている。特に、治療可能な認知症である特発性正常圧水頭症(iNPH)を見逃してはいけない
- 正常圧水頭症(NPH)は、認知障害、歩行障害、排尿障害の3徴を有し、脳脊髄液圧が正常範囲である一方頭蓋内に脳脊髄液が過剰に貯留し脳室拡大を認める疾患である。シャント術を行うことでNPHの3徴が改善するため、治療可能な認知症として重視されている。iNPHは先行疾患が明らかでなく緩徐に出現し進行するNPHである。アルツハイマー型認知症や加齢性変化と勘違いされやすく、診断や治療が遅れる場合がある
- iNPH診療ガイドライン第3版では、iNPHの診断を4つの段階に分類している。特にシャント術を可能とするProbable iNPHの段階の診断が重要である。Probable iNPHは、脳脊髄液排除試験で症状の改善を認めるか、あるいは歩行障害を認め、かつ脳室拡大に加えて、高位円蓋部/正中部の脳溝、くも膜下腔の狭小化(以下、DESH)を認める症例をさす。DESHを有するiNPHはシャント術で改善する率が高いとされている
- 先行研究から、シャント術前の3徴の障害程度が軽いほど術後に他覚的な症状が消失する患者が多いことが明らかとなっている。そのため、術後、自立的に過ごすためには、早期にiNPHに対してシャント術を実施した方がよいといわれており、家族の介護負担軽減のためにも重要だと思われる。一方、アルツハイマー型認知症等その他認知症疾患が併存しているiNPHの場合、シャント術の効果が十分に発揮されない可能性がある。よって、その他疾患との併存診断は鑑別診断と同様に重要である
- 今後の課題としては、早期診断の推進とシャント術実施可能な拠点を増やし、患者数や治療の実態調査を進めると共に、十分な医療提供体制を整備することである。iNPH診療を行う医療機関自体は増えているものの、認知症を専門的に診ている医療機関ではiNPH診療を行っていない所もまだまだ多い。これまでのように脳神経外科疾患としてのアプローチに加え、「認知症」という観点からの医療提供体制の充実やそのために必要な施策の実施が求められる。さらには、iNPHを鑑別/併存診断する内科系医師とシャント術を行う脳神経外科医師との更なる連携を構築するとともに、iNPH診療ガイドラインとDESHといった診断や治療に有用な情報もより広く啓発する必要がある
【プログラム】(敬称略)
16:30-16:35 趣旨説明
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 シニアマネージャー)
16:35-16:40 ご挨拶
鈴木 隼人(衆議院議員/共生社会の実現に向けた認知症施策推進議員連盟 事務局長/日本医療政策機構 iNPH対策 PJT スペシャルアドバイザー)
16:40-17:10 講演「iNPHとは-『治療で改善できる認知症』の概要と課題-」
數井 裕光(高知大学医学部 神経精神科学教室 教授/日本正常圧水頭症学会 理事長)
17:10-17:30 質疑応答
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