【メディア掲載】ナフサ危機から考える健康医療安全保障と保健医療の構造的強靱化(日経メディカル「私の視点」、2026年5月7日)
日付:2026年5月7日
タグ: プラネタリーヘルス
2026年5月7日付の日経メディカル「私の視点」において、日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)副事務局長の菅原丈二による寄稿記事「ナフサ危機から考える健康医療安全保障と保健医療の構造的強靱化」が掲載されました。
本稿では、2026年の中東情勢悪化に端を発する「ナフサ危機」を契機として、現代医療が石油化学製品と化石燃料に対して持つ複雑かつ多層的な依存関係の脆弱性を分析し、プラネタリーヘルスの視点から保健医療システムの構造的強靱化に向けた実践的な処方箋を提示しています。
■寄稿の主な内容
現代医療の石油依存による構造的脆弱性
医薬品の有効成分から輸液チューブ・注射器などの消耗品、MRI冷却用ヘリウム、病院の電力・空調まで、現代医療は石油化学製品と化石燃料に多層的に依存しています。この脆弱性は東日本大震災や熊本地震でも露呈しており、2026年3月31日に設置された厚生労働省・経済産業省合同の「中東情勢の影響を受ける医薬品、医療機器、医療物資等の確保対策本部(確保対策本部)」は、医療物資確保を健康・産業・エネルギー政策にまたがる統合的安全保障課題として初めて正面から認識した転換点です。表1に示されるように、実際を担保した構成員からなっています。
プラネタリーヘルスと医療従事者の新たな役割
「人間の健康は健全な地球環境によって初めて実現される」というプラネタリーヘルスの概念に基づき、保健医療システムの根本的再設計が求められています。日本の保健医療分野は温暖化ガス排出の約6.4%を占め、絶対量では世界第4位の水準にあります。医療従事者には、(1)適正医療を徹底する臨床実践者、(2)気候・資源問題を伝えるコミュニケーター、(3)脱炭素政策を推進するアドボケイトという3つの役割が期待されています。
政策と現場が連動する国内外の先進的取り組み
英国の国民保健サービス(NHS: National Health Service)による世界初の保健医療システム全体でのネット・ゼロ方針、日本プライマリ・ケア連合学会の「気候非常事態宣言(浜松宣言)」、みどりのドクターズの実践活動など、政策と現場が連動した変革が進んでいます。政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」においても、気候変動に強靱な保健医療システム構築として“国内においても、気候変動に強靱な保健医療システム、低炭素で持続可能な保健医療システム、そして保健医療部門におけるネット・ゼロコミットメント(温室効果ガスの排出量をネット・ゼロにすること)に関する取組を実施する”ことが、また、サーキュラーエコノミーへの組み込みとして“保健・医療・介護分野における廃棄物をサーキュラーエコノミーに組み込むための検討を進める”が国家戦略として明記されました。
「備える・減らす・変える」の段階的強靱化ロードマップ
医療従事者と医療機関が実践できる3段階アプローチとして、第1段階「備える」(医療物資・エネルギー依存度の可視化と優先配分ルールの地域共有)、第2段階「減らす」(適正医療の徹底と省エネ機器への計画的更新)、第3段階「変える」(再生可能エネルギー導入と循環型調達方針の実装)を提案しています。短期の危機対応と長期の構造改革を同時並行で進めることが重要です。
表1.中東情勢の影響を受ける医薬品、医療機器、医療物資等の確保対策本部の構成員
| 役割 | 省庁 | 担当 |
| 本部長 | 厚生労働大臣 | |
| 経済産業大臣 | ||
| 本部長代理 | 厚生労働省 | 医務技監 |
| 経済産業省 | 政策立案総括審議官 | |
| 副本部長 | 厚生労働省 | 危機管理・医務技術総括審議官 |
| 医薬産業振興・医療情報審議官 | ||
| 経済産業省 | 製造産業局長 | |
| 商務・サービス審議官 | ||
| 資源エネルギー庁 資源・燃料部長 | ||
| 本部員 | 厚生労働省 | 大臣官房厚生科学課長 |
| 医政局地域医療計画課長 | ||
| 医政局医薬産業振興・医療情報企画課長 | ||
| 参事官(総合政策担当) | ||
| 経済産業省 | 大臣官房会計課長 | |
| 製造産業局素材課長 | ||
| 商務情報政策局商務・サービスグループヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室長 | ||
| 資源エネルギー庁 資源・燃料部 政策課長 | ||
本稿ではエネルギー危機を契機とした医療現場の「石油依存」への対応を中心に論じていますが、真にレジリエンスを高め、「プラネタリーヘルスの視点から保健医療システムの構造的強靱化」を包括的な「健康医療安全保障」として実現するためには、厚生労働省・経済産業省(表1参照)に加えて、環境省の積極的な関与が不可欠であると考えています。気候変動適応策・生物多様性保全・循環型社会政策を所管する環境省が参画することで初めて、医療の石油依存からの脱却と持続可能な保健医療システムへの転換が、縦割りを超えた真の政策統合として機能すると期待されます。
本記事の全文は、日経メディカルにてご覧いただけます(会員登録無料)。
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