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【開催報告】「気候変動と健康 “未来へのアクション”」(2025年9月16日)

【開催報告】「気候変動と健康 “未来へのアクション”」(2025年9月16日)

2025年9月16日(火)、EXPO2025 大阪・関西万博会場内 英国パビリオンにて、「気候変動と健康 “未来へのアクション”」が開催されました。本イベントは、英国パビリオン、アストラゼネカ株式会社、日本医療政策機構(HGPI)の共催により実施され、第一部ではヘルスケア産業全体での脱炭素化に向けた具体的なアクション、第二部では高校生による探究型授業の成果発表を通じて、気候変動と健康をめぐる実践と提言が共有されました。


【開催概要】

  • タイトル:気候変動と健康 “未来へのアクション”
  • 日時:2025年9月16日(火)10:00-13:15
  • 会場:EXPO2025 大阪・関西万博会場内 英国パビリオン
  • 第一部:「日本の現状とヘルスケアでの排出削減をどうするか」
  • 第二部:「若者からの提言」 高校生 探究型授業発表会
  • 共催:英国パビリオン、日本医療政策機構(HGPI)、アストラゼネカ株式会社
  • 協力:日本製薬工業協会、一般社団法人みどりのドクターズ、特定非営利活動法人 気象キャスターネットワーク、学校法人雲雀丘学園、学校法人灘育英会 灘中学校・高等学校
  • 後援:駐日英国大使館、英国総領事館

 


第1部「日本の現状とヘルスケアでの排出削減をどうするか」

第一部では、行政、業界団体、医薬品卸、研究機関および企業関係者が登壇し、「ヘルスケア産業全体での脱炭素化」に向けた認識と具体的な取り組みが紹介されました。

堀井 貴史 氏(アストラゼネカ株式会社 代表取締役社長)
堀井氏は、アストラゼネカの使命は優れた医薬品の提供を通じて人々の健康に貢献することであり、事業戦略の一つとしてサステナビリティを位置づけ、温室効果ガス排出削減に積極的に取り組んでいると述べました。一方で、「アストラゼネカだけでこの危機を乗り越えることは不可能」であり、製薬企業のみならず卸企業等との連携、バリューチェーン全体での共創が不可欠であると強調しました。

橋爪 真弘 氏(東京大学大学院 医学系研究科 国際保健政策学 教授)
橋爪氏は、「ヘルス分野における気候変動の影響」について、近年の平均気温上昇により「もはや暑さは自然災害である」と述べ、熱中症死亡者数が自然災害による死亡を大きく上回る現状に触れました。猛暑や異常気象は循環器疾患、呼吸器疾患、感染症、メンタルヘルスなど幅広い健康リスクを高めており、気候変動への適応策とともに環境負荷低減(緩和策)の両立が不可欠であると指摘しました。

南齋 規介 氏(国立環境研究所 資源循環領域 領域長)
南齋氏は、「ヘルスケアセクターにおけるGHG(温室効果ガス)排出の現状と課題」について、ヘルスケア業界全体の排出量が国内CO₂排出量の約6%を占め、医療現場から製造・流通に至る幅広いサプライチェーンで排出が生じていることを説明しました。日本の気候変動と健康に関する変革的行動のためのアライアンス(ATACH: Alliance for Transformative Action on Climate and Health)正式加盟を踏まえ、「人の健康と地球の健康は不可分」であり、気候変動に強靱で低炭素かつ持続可能な保健医療システム構築に向けた経路策定と実施が急務であると述べました。

パネルディスカッション「バリューチェーンの脱炭素化に向けての共創」

モデレーター:菅原 丈二(日本医療政策機構 副事務局長)

以下の登壇者より、それぞれの立場から具体的な取り組みと課題が共有されました。

井筒 将斗 氏(厚生労働省 大臣官房 国際課 国際保健管理官)
気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)以降、国際的に気候変動と健康が重要議題として位置づけられてきた流れ、COP28での「健康の日(Health Day)」設置、日本のATACH参加と「低炭素で持続可能な保健医療システム」構築へのコミットについて紹介しました。熱中症や感染症などの適応策のみならず、緩和策への対応が不可欠であり、その観点からも製薬業界が関わることの重要性を強調しました。環境省の「バリューチェーン全体での脱炭素化推進モデル事業」が、日本発のベストプラクティスとして国際的に発信していく考えと述べました。

有馬 覚 氏(日本製薬工業協会 環境問題検討会 委員長/第一三共株式会社 サステナビリティ部 企画グループ)
日本製薬工業協会が「産業ビジョン2035」のもと環境課題に取り組んでいる背景を説明し、サプライチェーン由来のScope3削減を最大の課題に位置づけていることを紹介しました。サプライヤーからの「何から始めればよいか分からない」「各社要請がバラバラで負担が大きい」といった声を受け、業界全体で共通の物差し・道標が必要と判断し、環境省モデル事業に12社で参画し、業界共通の公平で透明なルール構築を進めていると述べました。

小野 裕永 氏(環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 脱炭素ビジネス推進室 室長)
「バリューチェーン全体の排出削減計画策定支援モデル事業」について説明し、グリーン製品・サービスの普及や消費者の行動変容には、バリューチェーン全体の連携が必要と述べました。製薬業界の取り組みがScope3カテゴリー1にとどまらず、4(上流の輸送、配送)・9(下流の輸送、配送)・10(販売した製品の加工)など物流を含めた広い範囲で検討されている点を評価し、今後の良いモデルになると期待を示しました。

河野 修蔵 氏(一般社団法人 日本医薬品卸売業連合会 理事/株式会社セイエル 代表取締役社長)
日本の医薬品卸の特徴として配送先の多さ、自社配送率の高さを挙げ、共同配送やAIを用いた配車最適化によりCO₂排出量削減と安定供給を両立している事例を紹介しました。病院・薬局・診療所の理解を得ながら配送回数を見直す取り組みは「共創」の好例であり、災害時も含む持続可能な供給体制にもつながると述べました。

吉越 悦史 氏(アストラゼネカ株式会社 取締役 執行役員 CFO)
自社のScope1〜3の取り組みを紹介し、営業車両の電気自動車(EV)化、再エネ導入、太陽光発電の活用などを説明しました。その上で、サプライヤーに企業が科学に基づいた温室効果ガス削減目標を設定することを支援するイニシアティブであるSBTi(Science Based Targets initiative)や企業や自治体に対して環境情報の開示を促進する国際的な取り組みであるCDP対応を依頼する際、「何をどのように求めるべきか」が課題となるケースもあり、だからこそ業界として共通ルールを構築することが重要であると述べました。最後に、「アストラゼネカだけが取り組んでもインパクトは生まれない。共創の力こそが大切」と強調しました。

第一部を通じて、製薬企業、業界団体、行政、医薬品卸がそれぞれの具体的取り組みを共有し、ヘルスケア産業全体での脱炭素化に向けた共創の方向性が示されました。

 


第2部「若者からの提言」高校生 探究型授業発表会

第二部では、アストラゼネカ株式会社と一般社団法人みどりのドクターズの共催による探究型授業プログラム「未来探究」に参加した、灘中学校・高等学校および雲雀丘学園の高校生計24名が、約4カ月間の学びの成果を発表しました。

高校生たちは、気候変動が健康や社会に与える影響について自ら調査・分析し、次のような提案を行いました。

  • 消費行動とCO₂排出、熱中症・気候関連死との関連を可視化し、「環境貢献を価値として評価する仕組み」を通じた行動変容の提案
  • 海洋酸性化と健康影響に着目し、藻場再生活動やブルーカーボンの活用、地域レベルでの制度設計を含む「海洋レジリエントシティ」構想
  • アパレル産業における衣類廃棄問題を切り口とした、エコスコア導入や衣類シェアスペース設置など循環型社会への転換提案
  • 水質悪化と健康被害に対する対策として、アマモ等を用いたブルーカーボン施策や「ブルーカーボン特区」の構想 など

本プログラムを通じて、「自分たちと地球の健康を守るためにできること」を自らの言葉で世界に向けて発信したことが紹介され、若い世代の学びと提言が、社会全体の理解と行動の輪を広げる契機となることが期待されています。

 


総括

本イベントでは、製薬企業、医薬品卸、行政、業界団体、教育機関など、多様な主体が「ヘルスケア産業全体での脱炭素化」と「気候変動と健康」をめぐる課題を共有しました。

ヘルスケアセクター自身が排出削減に取り組むとともに、医療従事者、患者、市民一人ひとりの理解と行動変容を促すことが不可欠であることが確認されました。

当機構では、引き続き、プラネタリーヘルスの視点から、科学的知見と多様なステークホルダーの声を踏まえた政策提言と対話の場づくりを進めてまいります。

 

(写真:ken – stock.adobe.com)

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