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【開催報告】薬剤耐性対策における検査・診断支援体制の抜本的な改革に向けたラウンドテーブル(2023年10月31日)

【開催報告】薬剤耐性対策における検査・診断支援体制の抜本的な改革に向けたラウンドテーブル(2023年10月31日)

※報告書を掲載しました。(2024年11月14日)

毎年、世界では約120万人が薬剤耐性(AMR : Antimicrobial Resistance)菌による感染症により死亡していると推定されています。このままなにも対策が取られなければ、2050年には年間死亡者数は1,000万人にまで上昇するとの予測もあり、世界規模でのAMR対策が急務となっています。
こうした中、我が国ではこれまで、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)」に基づき、幅広いレベルでの対策が着実に進められてきており、2023年4月には「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)」として改定がなされました。

AMR対策は教育・啓発やサーベイランス、抗菌微生物薬の適正使用、研究開発、国際連携など多岐にわたり、各分野において様々な取り組みが進んでいます。この中で、微生物検査・感染症診断においては上述のアクションプランにおいても「戦略2.4 医療機関、検査機関、行政機関等における薬剤耐性に対する検査手法の標準化と検査機能の強化」が挙げられ、今後対策の強化が期待されています。検査については、塗抹検査から薬剤感受性検査のみならず、近年急速に発展している遺伝子検査などを活用した迅速な診断が、上述の様々な対策の素地を形成しているといえます。しかしながら、迅速な微生物検査・感染症診断の推進に向けては、臨床現場から医療保険制度に及ぶ構造的な課題が指摘されています。実際に、薬剤耐性微生物と同じく感染性微生物である新型コロナウイルス感染症の流行時に、核酸増幅法検査をはじめとした多くの微生物検査に関する課題が顕在化しました。微生物検査・感染症診断の問題については、例えば、細菌検査室の人員不足や日常臨床の検査機器の検査精度管理が病院から衛生検査所まで統一されていないこと、感染症の迅速検査・診断支援体制整備に関するインセンティブが設定されていないこと、先進・自動検査機器の導入の遅れ、感染症流行時の検査キャパシティ拡充が困難であること、病院経営上の課題など多岐にわたります。その背後には診療報酬制度や臨床現場における問題だけでなく、臨床検査技師等に関わる法律(臨検法)や医療法、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)など法規制上の問題点や医療経営上の問題も大きく関与していることも示唆されています。また、微生物検査を含む検査の推進に関して、増え続ける社会保障費の中で検査費用の適正化と感染対策の両立も求められるところであり、こうした制度や社会背景により国内検査・診断支援体制強化は膠着状態にあるといえるでしょう。

しかしながら、国際的にもAMR対策を含む検査体制の強化については議論が活発化しており、第76回世界保健総会では「Strengthening diagnostics capacity」として検査・診断体制の強化に向けて決議がなされ、AMR対策における検査の重要性も言及され、これをうけ国内においても検査・診断支援体制の構築が急がれています。
一方、現在G7各国で新規抗菌薬創出に向けて新たな市場インセンティブであるプル型インセンティブ制度についての議論が進んでいます。我が国においても2023年4月より抗菌薬確保支援事業の事業設計が始まっています。同事業は、抗菌薬適正使用を保ちつつ抗菌薬開発を支援することを目的としています。臨床において新たな抗菌薬の適正使用を保って処方の要否を判断するためには、感染源である微生物の特定が必要です。そのためには、従来の塗沫検査、培養分離検査、薬剤感受性検査による表現型の特定のみならず、遺伝子型の同定が必要であり、これまでの遺伝子検査を含む新たな技術も活用しつつ正確な検査・診断環境を整備することも重要です。以上の理由から、インセンティブの事業設計と並行して抗菌薬適正使用に向けて検査・診断支援体制も整える必要があることがわかります。
こうした背景を鑑み、当機構では2023年3月に国内の感染症関連学会の協力のもと、核酸増幅法検査および迅速検査を中心として現状の検査・診断環境に関する意識調査を公表しました。2023年5月には、同調査結果も考慮しつつ、核酸増幅法検査にとどまらない包括的な視点から「薬剤耐性(AMR)対策の促進に向けて検査体制の再構築と求められるイノベーション」と題した政策提言を公表しました。提言では、マルチステークホルダーによる議論のもと自動検査機器の導入等のイノベーションも活用しつつ環境を整備し、検査・診断体制を再構築することの必要性を訴えています。
そこで今回、同提言が示す薬剤耐性対策における迅速検査・診断体制の構築に向けて、国内外のオピニオンリーダーが参集し、それぞれの立場から薬剤耐性対策に資する検査体制の確立に向け診療報酬改定などに留まらない中長期的な視点に立った打ち手について議論いたしました。

【開催概要】

  • 日時:2023年10月31日(火)17:30-19:30
  • 形式:ハイブリッド形式(会場・オンライン(Zoomウェビナー))
  • 会場:Global Business Hub Tokyo(〒100-0004 東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ3階)
  • 言語:日本語・英語(同時通訳あり)
  • 主催:日本医療政策機構/AMR アライアンス・ジャパン
  • 協賛:国立大学法人 政策研究大学院大学 グローバルヘルス・イノベーション政策プログラム
  • 参加費:無料
  • 会場定員:若干名(30名程度)

プログラム】(敬称略・順不同、肩書は開催当時)

17:30-17:35 開会挨拶・開催趣旨説明
乗竹 亮治(日本医療政策機構 理事・事務局長/CEO)
17:35-17:55 基調講演「新たなアクションプランと検査体制の強化」
松永 展明(国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター 臨床疫学室長)
18:00-18:10 調査報告 1「薬剤耐性(AMR)検査に資する臨床検査技師の今後の在り方」
長沢 光章(日本臨床衛生検査技師会 代表理事・副会長/国際医療福祉大学大学院 教授)
18:10-18:20 調査報告 2「AMRアライアンス・ジャパンによる意識調査から見える臨床現場の課題意識」
塚本 正太郎(日本医療政策機構 シニアアソシエイト)
 
18:25-19:25 ラウンドテーブルディスカッション
「AMR対策推進に向けた微生物検査・診断支援の課題と展望」

登壇者案(五十音順):

赤井 和幸(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社 IDS事業部 事業開発部長)
桑原 博道
(仁邦法律事務所 所長/東邦大学医学部 客員教授)
菅井 基行
(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター(WHOコラボレーティングセンター)センター長)
鷲見 学
(内閣感染症危機管理統括庁 内閣審議官)
松永 展明
(国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター 臨床疫学室長)
栁原 克紀
(日本臨床検査医学会 理事/長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 病態解析・診断学分野 教授/長崎大学病院 臨床検査科・検査部 部長)

 
19:25-19:30 閉会挨拶
本田 顕子(参議院議員)

 

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