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【HGPI政策コラム】(No.68)-難病・希少疾患プロジェクトより―「難病・希少疾患を国際社会の優先課題へ:WHA決議が提示するグローバル・アクション・プランと日本の役割」(後編)

【HGPI政策コラム】(No.68)-難病・希少疾患プロジェクトより―「難病・希少疾患を国際社会の優先課題へ:WHA決議が提示するグローバル・アクション・プランと日本の役割」(後編)

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  • 2025年5月に第78回世界保健総会(WHA: World Health Assembly)で採択された難病・希少疾患に関する決議は、診断、生活・福祉支援、治療、研究へのアクセスに見られる世界的な格差を解消し、公平性や包摂性を高めることを目指しており、その実現のために多部門かつ多国間の協働に基づく包括的な取り組みを加盟国に呼びかけている。
  • 今回の決議は、国際社会の動きを各国や地域の具体的な変化へと繋げていくための出発点である。今後はこの枠組みを基盤として、それぞれの立場から難病・希少疾患対策を着実に前進させていくことが求められる。
  • 日本でも、「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」や、同法に基づき改正が重ねられてきた「難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本的な方針」などの基本的な枠組みを生かしながら、難病・希少疾患に対する社会の理解をさらに深めることが期待される。また、産官学民の多様な主体が連携する形で政策を発展させていくことも重要である。


前編では、難病・希少疾患に関するWHA決議が採択された背景と意義、そして2021年の国連決議との関係について整理しました。後編では、このWHA決議が各国政府やWHO事務局長に期待している役割と、日本に開かれている新たな役割や可能性を見ていきます。

WHA決議が目指す方向性

WHA決議は、難病・希少疾患と共に生きる人々のニーズと権利が社会の中で適切に認識され、公平に扱われ、その意思や選択が尊重される状況を実現することを目標に掲げています。そのために、診断、生活・福祉支援、治療、研究へのアクセスに見られる世界的な格差を縮め、様々な分野や主体が連携して取り組むことを各国に求めています。

同時に、この決議は、各国政府が明確な目標と進捗管理のもとで行動できるよう、保健分野に特化した国際的な行動枠組みを示しています。これにより、誰一人取り残さないユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)の実現や、中長期的に描かれる将来像に近づくことが期待されています。こうした枠組みを通じて、難病・希少疾患への社会の理解が深まり、診断までの時間が短縮され、新たな治療法の研究開発と投資が進むとともに、世界全体で資源や専門知を分かち合うための基盤が強化されていくことが見込まれます。

WHA決議が求める行動:加盟国への要請

今回の決議では、加盟国に対して自国の状況と優先事項を踏まえつつ、次のような取り組みを進めるよう強く求めています。ここでは主なポイントを抜粋して紹介します。

  • グローバル・アクション・プランへの支援:WHOが「難病・希少疾患に関するグローバル・アクション・プラン(GAPRD: Global Action Plan on Rare Diseases)」を策定できるように、必要な知見や資源を提供し、計画づくりの段階から積極的に関与すること。
  • 国の保健計画への統合:難病・希少疾患を国の保健計画に統合し、エビデンスに基づく一次・二次予防、診断、治療、社会支援を含む政策を策定し、具体的な取り組みを実施すること。特に、新生児スクリーニングなどのユニバーサル・スクリーニングを通じて、時宜を得た、正確かつ費用対効果の高い診断を行い、治療や社会支援への公平なアクセスを確保すること。
  • メンタルヘルス対策と家族・介護者支援の充実:難病・希少疾患と共に生きる人々のメンタルヘルス対策と心理社会的支援を促進するプログラムを整備するとともに、家族や介護者のウェルビーイングを高める政策や取り組みを実施すること。
  • UHC2030 達成と経済的負担の軽減:2030年までのUHC達成に向けた取り組みを加速させ、難病・希少疾患と共に生きる人々を含め、誰もが生涯を通じて必要な医療、医薬品、診断、医療技術などにアクセスできるようにすること。その際、高額な自己負担による経済的な困難を抑制あるいは軽減すること。
  • 保健システム、特にプライマリ・ヘルスケアの強化:保健システム、とりわけプライマリ・ヘルスケアを強化し、難病・希少疾患と共に生きる人々、特に子どもが、質の高い幅広い医療サービスに普遍的にアクセスできるようにすること。
  • 人材育成と啓発活動の促進:医療従事者の卒前教育や生涯学習の中に、難病・希少疾患の予防、診断、治療、マネジメントに関する内容を組み込むこと。
  • 水と衛生(WASH)へのアクセスの改善:難病・希少疾患と共に生きる人々とその家族・介護者が、安全な飲料水や衛生的な環境(WASH: Water, Sanitation and Hygiene)へアクセスする際に直面する物理的、制度的、社会的、態度面の障壁を取り除き、都市・農村を問わず公平なアクセスを実現すること。
  • デジタル技術の活用:遠隔医療やデータ共有プラットフォームなどのデジタル技術を活用し、特に遠隔地や医療資源が限られた地域における専門家や治療へのアクセスを改善すること。
  • 患者・当事者参画の推進:患者・当事者団体や、難病・希少疾患と共に生きる人々が主導する団体を含む障害者団体の政策形成過程への参画を促進すること。
  • ガバナンス構造の確立:難病・希少疾患に関する政策の実施状況を把握し、責任ある効果的な運営を図るため、必要に応じて専任の国内タスクフォースや調整機関を設置すること。
  • 中核的な専門拠点(センター・オブ・エクセレンス)の設立:難病・希少疾患のケア、研究や研修の専門拠点として機能する中核的な専門拠点(センター・オブ・エクセレンス(CoE: Center of Excellence))の設立を奨励すること。
  • レジストリの確立:難病・希少疾患の国家レジストリの確立や既存の国際レジストリとの連携を推進し、データ収集能力を強化すること。その際、個人情報保護やプライバシー保護に十分に留意すること。
  • 国際疾病分類などの導入検討:難病・希少疾患の記録や報告、モニタリングを可能にするため、可能な限り早期にICD-11(国際疾病分類第11版)や、国際的な希少疾患情報コンソーシアムであるOrphanetなどが提供する相互運用可能なコード化システムの導入を検討すること。

また、研究開発やイノベーションなどの難病・希少疾患に関する統合的な取り組みを推進するために、産官学民横断的な連携の強化、国内外の公的・民間資金の動員、医薬品への公平かつタイムリーなアクセスの促進、難病・希少疾患への高い政治的関心の維持、各国の行動計画や取り組み実施状況の定期的な評価も求められています。

WHA決議が求める行動:WHO事務局長への要請

国際社会として難病・希少疾患対策を推進するうえで、WHO事務局長にも重要な役割が求められています。難病・希少疾患に関連する既存の基準やガイドライン、プロトコルを整理分析した技術報告書を作成することや、人工知能(AI)を含むデジタル技術を活用した基盤整備を進めることなどがその一例です。

WHO事務局長は「難病・希少疾患に関するグローバル・アクション・プラン(GAPRD: Global Action Plan on Rare Diseases)」の策定と提出も求められています。グローバル・アクション・プランは、WHOの「戦略的優先事項および第14次一般業務計画2025-2028(Global Health Strategy and Fourteenth General Programme of Work 2025–2028(GPW14))」に沿って草案が策定され、2028年1月の第162回WHO執行理事会で検討された後、同年5月に開催予定の第81回世界保健総会での採択が目指されています。あわせて、グローバル・アクション・プランの策定を含む今回の決議の取り組み状況については、2026年の第79回WHA、2028年の第81回WHA、2030年の第83回WHAと、5年間にわたり定期的に報告することも求められています。

日本におけるWHA決議の位置づけ

今回の決議は、国際社会の動きを各国や地域の具体的な変化へと繋げていくための重要な機会です。日本でも、「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」や、同法に基づき改正が重ねられてきた「難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本的な方針」などの基本的な枠組みを生かしながら、難病・希少疾患に対する社会の理解をさらに深めることが期待されます。また、産官学民の多様な主体が連携する形で政策を発展させていくことも重要です。

全ての難病・希少疾患と共に生きる人々とその家族・介護者が、どこに住んでいても早期診断と適切なケアを受け、より充実した健康的な生活を送ることができるようにすることは、国や地域を超えて共有される目標です。その実現に向けて、一人ひとりがそれぞれの立場から役割を果たしていくことが、これまで以上に強く求められています。

なお、WHA決議の原文はWHOのウェブサイトからご覧いただけます(英語のみ)。

 

【執筆者のご紹介】

フェイバー・オミレケ(日本医療政策機構 プログラムスペシャリスト)
山下 織江(日本医療政策機構 アソシエイト)
河野 結(日本医療政策機構 マネージャー)

 

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