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【HGPI政策コラム】(No.67)―難病・希少疾患プロジェクトより―「難病・希少疾患を国際社会の優先課題へ:WHA決議が提示するグローバル・アクション・プランと日本の役割」(前編)

【HGPI政策コラム】(No.67)―難病・希少疾患プロジェクトより―「難病・希少疾患を国際社会の優先課題へ:WHA決議が提示するグローバル・アクション・プランと日本の役割」(前編)

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  • 世界中では少なくとも3億人の難病・希少疾患と共に生きる人々がおり、難病・希少疾患は「地球規模での公衆衛生上の優先課題」である。
  • 2025年5月に開催された第78回世界保健総会(WHA: World Health Assembly)で、難病・希少疾患に関する決議が採択された。この決議の主な目的は、世界保健機関(WHO: World Health Organization)に「難病・希少疾患に関するグローバル・アクション・プラン(GAPRD: Global Action Plan on Rare Diseases)」の策定を求めるとともに、各加盟国が自国の状況に応じて具体的かつ実行可能な難病・希少疾患対策を構築するための枠組みを提示することである。
  • 難病・希少疾患は、病気の仕組みが十分に解明されていないことも背景となり、専門人材や知識、財源などが不足しており、世界的な負担となっている。こうした地球規模の課題には地球規模の解決策が必要であり、今回の決議は、難病・希少疾患と共に生きる人々が直面する状況を政策的に解決していくための重要な一歩である。


2月28日(毎年2月最終日)は世界希少・難治性疾患の日(RDD: Rare Disease Day)です。日本医療政策機構では、難病・希少疾患対策に関するグローバルな動向について2つのコラムを通じてご紹介いたします。

歴史的な決議の採択

2025年5月24日、第78回世界保健総会(WHA: World Health Assembly)で、難病・希少疾患に関する決議「難病・希少疾患:公平性と包摂に向けた地球規模の保健上の優先課題(Rare Diseases: A Global Health Priority for Equity and Inclusion)」が正式に採択されました。これは、世界中で3億人にも及ぶ難病・希少疾患と共に生きる人々にとって、長く待ち望まれていた歴史的な一歩であり、その存在と課題が国際的に広く認められたことを意味します。

難病・希少疾患は、その発生機序が明らかでないことが多く、明確な治療法が確立されていません。こうした難病・希少疾患に関わる患者や家族、研究者、医療従事者らが長年にわたり粘り強く国際社会に声を届け続けた結果が今回の決議の採択であり、275以上の市民団体が賛同し、41カ国が共同提案国として名と連ねました。そのなかでも、エジプトとスペインが活動を牽引し、加盟国の支持を広げるうえで中心的な役割を果たしました。

今回の決議の主な目的は、WHOが難病・希少疾患について、包括的で実行可能なグローバル・アクション・プラン(GAPRD: Global Action Plan on Rare Diseases)を策定し、加盟国に具体的な行動計画と明確な道筋を示すことにあります。特に、各加盟国が自国の状況に応じて計画を立て、達成すべき目標や期限、優先的な取り組みを明らかにすることで、実効性の高い国際的な対応を促すことを目指しています。

難病・希少疾患がもたらす負担

世界的に見ても、難病・希少疾患については、どのような支援や治療が必要なのかは十分に理解されているとはいえません。それゆえ、難病・希少疾患と共に生きる人々は大きな心理的負担を抱えやすいにも関わらず、病気の仕組みが十分に解明されていないことから、診断が遅れる場合も少なくありません。信頼性の高い検査方法やバイオマーカー、有効な治療法も限られているのが現状です。そのため、適切なケアは難しくなり、治療や診断に伴う費用は高額となりやすく、住んでいる地域や環境によって受けられる医療に不平等が生じがちです。社会保障や福祉等の支援制度も地域や制度間で格差が残されています。

このように専門人材や知識、医療資源、財源が限られているため、世界中の難病・希少疾患を抱える人々は適切なケアや治療を受ける上で独自の課題に直面しており、その結果として、治療の機会が限られる場合や、身体だけでなく生活全体を支える全人的な医療が十分に行き届かない現実があります。

そこで、Rare Diseases Internationalは230以上の市民団体、病院、学術機関と連携し、難病・希少疾患に関するWHA決議を支持する国際的なネットワークを結成しました。地球規模の課題には地球規模の解決策が必要です。今回の決議は難病・希少疾患と共に生きる人々が直面する状況を国際社会における重要な公衆衛生上の課題として認識し、政策的に解決していくための重要な一歩となりました。

WHA決議の背景

この決議を通じて、WHOは加盟国に対し、難病・希少疾患を公衆衛生上の優先課題として位置づけ、難病・希少疾患に関する国家戦略を策定するとともに、診断、生活・福祉支援、治療へのアクセスを改善し、さらにユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)の枠組みに難病・希少疾患への対応を組み込むように求めています。これにより、診断の精度向上や診断までの時間短縮に加え、難病・希少疾患に対する社会の理解と認知を高めていくことが期待されています。

今回のWHA決議は、2021年12月に国連総会で全会一致で採択された「希少疾患とその家族の課題に関する国連決議(Addressing the Challenges of Persons Living with a Rare Disease and Their Families)」を土台とし、その理念を保健分野でさらに具体化したものです。2021年の国連決議が、難病・希少疾患と共に生きる人々とその家族が直面する多様な課題を包括的に示した枠組みであったのに対して、WHA決議は保健分野に特化し、明確な目標とタイムラインを掲げることで、加盟国が実行に移しやすい行動の枠組みを提示している点に特徴があります。また、国連決議が保健、福祉、教育等の複数の分野にまたがる取り組みを前提としている一方で、WHA決議は主として各国の保健当局が中心となって実施を進めることが想定されており、より人々の生活に近い保健医療の現場から具体的な変化を生み出していくことが期待されています。

 

【執筆者のご紹介】

フェイバー・オミレケ(日本医療政策機構 プログラムスペシャリスト)
山下 織江(日本医療政策機構 アソシエイト)
河野 結(日本医療政策機構 マネージャー)

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