【HGPI政策コラム】(No.15)-認知症政策チームより-自国の政策評価を私たちはどう受け止めるか
<POINT>
・2020年5月12日に、認知症政策に関する総務省による第三者評価の結果および結果に基づく勧告が公表され、認知症初期集中支援チームおよび認知症疾患医療センターに関して言及がなされた。
・日本の政策評価制度は、各省庁で行う内部評価と総務省が実施する第三者評価に大別され、今回はこの第三者評価としての政策評価結果に基づき勧告が行われた。
・政策結果の責任は、選挙を通じて政策決定の代表者を選出した市民社会も負わなくてはならず、政策の改善に向けて私たちもアクションを起こす必要がある。
はじめに
前回のコラム では、国際アルツハイマー病協会(ADI: Alzheimer’s Disease International)による、世界各国の認知症政策に対する評価を取りまとめた最新レポート「From Plan to Impact III – Maintaining dementia as a priority in unprecedented times-」を紹介しました。日本は先進的な認知症政策が推進されているとされ、その評価はSTAGE1~5のうち「5A」となっています。最上位の「5B」まであと一歩のところに位置していますが、財政措置や政策評価における改善が今後の成長ポイントとして示されました。今回は、日本の政策評価制度における認知症政策の評価について最近の事例を基にご紹介します。
日本の政策評価制度
日本の政策評価制度は、大きく内部評価と第三者評価に大別されます。内部評価は各省庁が評価対象とする政策を定め、政策の性質に応じて事前・事後評価を実施します。一方、第三者評価は、複数機関にまたがる政策を対象とし、政府全体の統一性や一体的な推進を必要とする政策や客観的かつ厳格な評価を必要とする政策について、総務省がその政策を評価するものです。それぞれ、内部評価は国家行政組織法および内閣府設置法、第三者評価は総務省設置法に規定され、またこれらの法律を機能させる行政作用法として「行政機関が行う政策の評価に関する法律(以下、政策評価法)」が規定されており、この政策評価法に基づき政策評価に関する基本方針およびガイドラインが策定されます。
総務省における認知症政策の第三者評価の実施
さて、2020年5月12日には下記の通り、認知症政策に関する総務省による第三者評価の結果および結果に基づく勧告が公表されました。
総務省では、早期の対応が重要とされている認知症について、その疑いのある高齢者やその家族などに対する各地の支援の実態を調査し、その結果に基づき、
(1) 各地の実例を把握・分析し、地域の実情に応じ柔軟に選択可能な支援のスキームや評価の指標を市町村に示すこと、
(2) 認知症医療の中核となる認知症疾患医療センターの事業評価の適正化を図ること
について、厚生労働省に対応を求めました(総務大臣から厚生労働大臣に勧告)。
出典:総務省webサイト「報道資料 認知症高齢者等への地域支援に関する実態調査-早期対応を中心として-<結果に基づく勧告> 」
これは総務省が2018年8月から行った「行政評価局調査」の結果に基づき、総務大臣から厚生労働大臣へ勧告したものです。実際に2018年7月31日付で 総務省のwebサイト にも調査を開始する旨が記載されています。
第三者評価を担当する総務省行政評価局では、評価業務の基本方針を「行政評価等プログラム」として定め、具体的に特定のテーマに絞って集中的に調査を行いその結果を公表、改善を促す「行政評価局調査」のほか、各府省の内部評価の点検を行う「政策評価の推進」、そのほか担当行政機関とは異なる立場として、総務省が国民から行政などへの苦情や意見、要望を受け、その解決や実現を促進するとともに、行政の制度や運営の改善に生かす仕組みである「行政相談」を行っています。2018年に行われた行政評価局調査では上記の調査のほか「学校における専門スタッフ等の活用に関する調査」が同様に行われました。この一連の調査結果を受けて、厚生労働大臣宛ての勧告に至ったものです。
続いて調査結果およびその結果に基づく勧告について概要をご紹介します。2018年8月からの行政評価局調査では「認知症初期集中支援チームの運用実態」「認知症疾患医療センターの評価」の2項目について調査が行われ、総務省の調査結果及び勧告は以下の通りです。
「認知症初期集中支援チームの運用実態」
【調査結果】
1. 認知症初期集中支援チームの配置場所・配置数・支援実績
- 配置場所は、地域包括支援センター、医療機関、市町村組織など
- 配置数は、市町村の人口規模や高齢者数にかかわらず様々
- 支援実績は、1支援チーム当たり高齢者数が同規模の市町村で最大33倍の差あり
2. 認知症初期集中支援チームの支援対象者への関わり方
- 支援チームによる支援は「初期」ではなく、対応困難事案に偏る傾向
3. 認知症初期集中支援の実施状況及び効果に関する評価
- 国及び市町村において、認知症高齢者への初期集中支援によって上げるべき効果が不明確
【勧告】
1. 市町村の規模や高齢者数、支援チームの配置場所などを踏まえ、支援チームと地域包括支援センターの役割分担を含めた認知症高齢者に対する支援の実例を把握・分析し、その結果を踏まえ、地域の実情に応じて選択可能な支援スキームを市町村に示すこと2. 認知症高齢者への初期集中支援によって上げるべき効果を明確にするとともに、その効果を評価できる指標を市町村に示すこと
「認知症疾患医療センターの評価」
【調査結果】
1. 各医療センターの事業の評価
- 調査した29都道府県等(6政令市を含む)中少なくとも14都道府県等(48.3%)は、事業評価を未実施
2. 圏域ごとや都道府県全体での医療センターの医療提供に関する機能及び体制の評価
- 事業目的を踏まえた、圏域ごとや都道府県全体での事業評価が明確に位置付けられず
- 調査した23都道府県中少なくとも10都道府県(43.5%)は 、事業評価の基礎となる 事業実績報告書での鑑別診断件数などの計上方法が各医療センターで区々(まちまち)
【勧告】
1. 都道府県等による各医療センターの事業内容の評価の要否を検討すること2. 圏域ごとや都道府県全体で医療センターの医療提供に関する機能及び体制を評価することについて、医療センター実施要綱に明確に位置付けること。医療センターにより実績報告書の鑑別診断件数などの計上方法が区々とならないよう改善方策を講ずること
出典:総務省webサイト「報道資料 認知症高齢者等への地域支援に関する実態調査-早期対応を中心として-<結果に基づく勧告> 概要資料」
ネクストステップは市民社会の働きかけ
さてこれらの勧告に対し、今後どのような政策改善が行われるのかを、追いかける必要があります。第三者評価とは言え、これは総務省という行政内部の評価にすぎません。こうした評価やそれを受けての改善に向けた対応などにより強制力を持たせようと思えば、立法、行政、司法に並ぶ4つ目の統治機構としての政策評価機関を創設することも選択肢としてはあり得るでしょう。しかし、実際に政策を執行するのは行政であり、もっと言えばその決定の責任は立法(国会)にもあるといえます。そのため政策評価の責任は、行政のみが抱えるものではなく、立法にも責任があるのです。
つまりそれは選挙を通じて代表者を選出した私たち国民にも、その責任は帰するところになりますから、こうした政策評価を踏まえ、改善に向けてアクションが起きているかを私たちはチェックしなくてはなりません。
著名な政治学者である丸山眞男の著作に次のような一節があります。
「本来政治を職業としない、また政治を目的としない人間の政治活動によってこそデモクラシーはつねに生き生きとした生命を与えられるということであります。」
丸山眞男(1960)「現代における態度決定」『現代政治の思想と行動 新装版』p459
丸山眞男は市民社会の「不作為の責任」を指摘します。私たちが1人1人の力では大したことないと思って、政治・政策の改善に向けた請願や提案をしなくなれば、結局はそれが積み重なって大きな違いを生み、当初思い描いていたものとは大きくかけ離れてしまいます。「何もしない」ということの責任は実は大きいのだと説いています。
こうした勧告に対する今後の行政・立法のアクションを注視する、そして現場の実情や想いを伝えていく、という姿勢を大切にしたいと改めて感じます。
【参考資料】
総務省webサイト「報道資料 認知症高齢者等への地域支援に関する実態調査-早期対応を中心として-<結果に基づく勧告> 」
西出順郎(2020)『政策はなぜ検証できないのか』勁草書房
丸山眞男(2006)『現代政治の思想と行動 新装版』未来社
【執筆者のご紹介】
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 マネージャー/認知症未来共創ハブ 運営委員)
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