【開催報告】第130回HGPIセミナー「難病法施行から10年『難病と社会を繋げる~メディアと当事者家族の視点から~』」(2025年1月28日)

今回のHGPIセミナーでは、読売新聞東京本社編集局医療部 記者の安藤奈々氏をお迎えし、難病を取り巻く現状やこれまでの取材を通して考えるメディアの役割、さらには今後の難病政策に求められることなど、医療記者と当事者家族の視点から幅広くお話しいただきました。
<POINTS>
- 難病と共に生きる人は医療面では診断や治療へのアクセスに課題を感じ、生活面では通院による経済的・精神的負担や就労支援の不足などの問題を抱えており、治療と生活の両面からの支援が重要である。
- 難病に関する情報発信では、患者とその家族の課題を明確にして解決策を提案し、専門的内容を工夫して伝えるとともに、社会の動きと関連付けながら意義ある情報を届けることが大切である。
■難病の取材を始めた原点
2017年に初めて、難病に関する連載を始め、国際共同治験に参加した脊髄性筋萎縮症(SMA)の2歳の女の子と両親を取材した。それまで根本的な治療がなかったSMAに画期的な新薬が登場し、手足がほとんど動かせなかった女の子が、物を握れるようになったり、自力で座ったりできるようになっていく過程を伝えた。また治療法の開発により、各地でSMAを新生児マススクリーニングの対象に加える動きがあり、各自治体の動向について独自調査を行い報道した。
■治療や生活の課題を含めた難病を取り巻く環境
取材を通して感じる課題として、医療面では、治療薬がないまたは選択が限られる、診断がつかず治療法が見つからないことである。生活面では、長く続く通院や治療による経済的精神的負担、就労・就学等のサポートや理解不足、そのほか移行期医療や家族を含めた包括的な支援が挙げられる。治療・生活の両輪を支えるという視点が大切である。
■難病に関する情報を届ける方法
難病に関する情報は、専門性が高く、用語も難解であることが多い。しかし、多くの人に難病について関心を持ってもらうための接点はある。これまで『医師が主導する医療的ケア児の避難訓練』、『ロボットを活用した新しい就労の形』など、多くの人が難病に関する情報に触れることができるよう、切り口を工夫して取材を続けている。
■情報発信のポイント
ポイントは主に3つある。1つ目は、患者・その家族らが抱える課題をクリアにし、その改善・解決策を提案することである。2つ目は、そうした情報に初めて触れる読者も理解し納得できるよう、ナラティブとファクトの両方を織り交ぜていくことである。3つ目には、難病に留まらない社会の広い動きとの接点や新たな視点を踏まえ、そのタイミングで発信する意義を明確にすることである。
■当事者家族としての思いや気づき
自身の妹が、9歳のときにレット症候群と診断され、いわゆる「きょうだい児」としての経験をしてきた。「きょうだい児」とは病気や障害のある兄弟姉妹がいる子どものことを言う。「きょうだい児」は孤独感や罪悪感などの悩みを抱えている場合があり、支援の対象となる。
こうした経験を踏まえて、『患者のきょうだい』をテーマに連載し、彼らが抱える困り事を丁寧に紐解き、見える化することの重要性、いわゆる「ヤングケアラー」を取り巻く課題や支援のためのヒントなどを発信してきた。
メッセージ
当事者の方とご家族へ
「あなたのこと、あなたが大事な人のこと、分かろうとしてくれる人は必ずいます」
側にいる方へ
「かける言葉がすぐには見つからなくても、隣に居続けてくれることが大きな支えになるはずです」
【開催概要】
- 登壇者:
安藤 奈々氏(読売新聞東京本社編集局医療部 記者) - 日時:2025年1月28日(火)15:00-16:30
- 形式:オンライン(ZOOMウェビナー)
- 言語:日本語
- 参加費:無料
- 定員:500名
■登壇者プロフィール
安藤 奈々氏(読売新聞東京本社編集局医療部 記者)
中央大学法学部卒。2010年、読売新聞東京本社に入社。長野支局、経済部などを経て、2017年から医療部で医療取材に携わる。現在は主に小児医療、生殖医療を担当。
妹が指定難病の「レット症候群」で、難病の患者さんや家族にとって確かな情報を広く発信したいと医療記者を志した。難病における新たな診断・治療法の研究や、当事者を取り巻く生活環境の課題などをテーマに取材を続けている。
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