【開催報告】第106回HGPIセミナー「新型コロナウイルスワクチン接種管理システムの構築と今後の情報連携について」(2022年8月5日)
今回のHGPIセミナーでは、コロナ禍においていち早く先進的なワクチンの接種情報システムを構築した戸田市の企画財政部次長 兼 デジタル戦略室長(CDO)/総務省 地域情報化アドバイザーの大山水帆氏をお招きし、戸田市における先進的な取り組みに加え、コロナ禍の有事に生まれた好事例の平時への応用や、ワクチン接種や医療、健康情報を含む複数の情報システムの連携、データ基盤の構築における自治体と国の役割や連携のあり方などについて、自治体の視点からお話しいただきました。
<講演のポイント>
- 新型コロナワクチン接種事業を推進するため、デジタル庁は全国規模のワクチン接種記録システム(VRS: Vaccination Record System)を構築し、各自治体はほぼリアルタイムで接種情報の登録が可能となった。ただし、まだVRSに副反応の登録機能は付与されていない
- VRS開発の知らせを受け、2021年2月に戸田市では戸田市新型コロナウイルスワクチン接種記録連携システム(T-SYS)を開発した。T-SYSはVRSや戸田市の自治体ワクチン接種予約システムと連携が可能であり、転入者の接種情報登録、未接種者への勧奨通知、基礎疾患先行接種申込(電子申請)の受付等に活用できるほか、ワクチンメーターとして接種状況の集計と可視化にも貢献している。さらに、戸田市はワクチン検定合格情報のオープンデータ化にも取り組み、T-SYSを通じてVRSの機能を補完している
- マイナンバー制度を利用した情報提供ネットワークシステム上で、予防接種台帳のデータベース化が促進され、新型コロナワクチン以外でもワクチン接種情報の連携が進んでいる。接種から情報連携までには4カ月ほどのタイムラグが存在するが、今後は健康増進法に基づく自治体検診等の履歴も連携予定である
- 情報連携基盤が整備されつつあるが、新型コロナワクチンの場合は、VRS、ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS: Health Center Real-time Information- sharing System on COVID-19)等、複数のシステムが混在し、連携IDもマイナンバー、電子証明書シリアル番号、機関別符号等が併用されている。デジタル庁によって新しく公開された政府相互運用性フレームワーク(GIF: Government Interoperability Framework)等を活用し、情報を適切に連携させる仕組みが重要である
■全国規模の新型コロナワクチン接種記録システム(VRS)の構築と活用
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ワクチン接種を推進するために、デジタル庁は新型コロナワクチン接種記録システム(VRS)を構築した。
従来、ワクチン接種情報は自治体がそれぞれ保有する予防接種台帳で管理されてきたが、国民健康保険連合会等による請求受付・予診票等の確認、自治体への予診票送付等を経て、ワクチン接種時から自治体がその接種情報を取得し、入力するまで2~3カ月を要していた。一方、VRSでは、自治体に配布されているタブレット端末を用いて予診票の数字を読み取ると接種情報が登録され、自治体はほぼリアルタイムで接種情報の取得が可能となった。転入者や巡回接種を受ける住所地以外の施設入所者、職域接種を受ける市民についても、接種情報が即時的に記録されている。
VRSの開発によって接種情報の活用が可能になり、時宜を得た接種券の発送が実現した。さらに、2021年12月にはVRSの接種記録が接種証明書としても活用できるようになり、スマートフォンアプリに加え、2022年8月からはコンビニエンスストアでの交付も進んでいる。
ワクチン接種を円滑に遂行するためには国民の理解が不可欠であるため、国民に対する迅速かつ的確な情報の提供と還元が重要である。政府CIOポータル内でもVRSをさらに活用する形で、ワクチン接種状況ダッシュボードとして接種記録の統計情報が公開されてきた。しかしながら、2022年8月時点ではVRSに副反応を登録する機能が付与されておらず、副反応調査の迅速化に資するシステム構築は現在も課題である。
■戸田市新型コロナウイルスワクチン接種記録連携システム(T-SYS)の構築と活用
2021年1月の政府によるVRS開発の知らせを受けて、同年2月に戸田市でも戸田市新型コロナウイルスワクチン接種記録連携システム(T-SYS)を構築した。T-SYSによって、VRS、戸田市が保有する予防接種台帳、ワクチン接種予約システムの連携を実現し、転入者の接種情報登録、医療従事者の登録、未接種者への勧奨通知、基礎疾患を持つ方の先行接種申込(電子申請)の受付等を実施している。さらにT-SYSには、ワクチン接種情報を基にして市民の接種率を可視化した、ワクチンメーターの機能を付与している。年代別の接種率も日々集計し、接種率の低い年代に対して重点的に施策を講じている。
また、T-SYSを活用したワクチン検定合格情報のオープンデータ化にも取り組んでいる。検定情報に含まれるワクチンロット番号情報は、自治体による接種情報入力とその正確性の担保に有効であるが、VRSにはロット番号の誤入力を確認する機能が存在していない。そこで、まずVRSに格納されたデータをダウンロードし、T-SYS上でVRS上のロット番号を確認可能な環境を構築した。この検定合格情報は国立感染症研究所(NIID: National Institute of Infectious Diseases)により公開されているが、コピー・ペーストが禁止されたPDFで公開されている。そのため、戸田市と同様にロット番号の確認作業を行うためには、全国のそれぞれの自治体で検定合格情報のロット番号を手入力しなければならないが、戸田市ではワクチン検定合格情報が更新されるたびにデータを更新し、利用しやすいCSVファイルで公開している。そのため、各自治体はこの戸田市が公開したCSVファイルをダウンロードすることで、それぞれ手入力することなくデータで正しいロット番号を取得し、効率的かつ正確なVRSへの入力することができる。
■マイナンバー法に基づく情報提供ネットワークシステムと予防接種・ワクチンに関する平時からの情報連携
予防接種情報は予防接種台帳として自治体ごとに管理(紙・電子データ)され、自治体をまたいだ情報が引き継がれることはなく、転入前に受けた予防接種の履歴等、個人に紐づいた接種情報を把握することはできなかった。
しかし、マイナンバー制度が導入されたことで、予防接種台帳が情報提供ネットワーク上にデータベース化して保存される傾向が強まり、マイナンバーを持つ市民は、場所(住民登録地)を問わずマイナポータルを経由することで自身の予防接種情報を閲覧することが可能となった。予防接種情報が情報提供ネットワークシステムで連携され、予防接種台帳のシステム化が促進されたといえる。ただし、VRSを通じた新型コロナワクチンの接種情報と異なり、情報連携ネットワークシステム上でデータを作成するには、予防接種台帳への入力からさらに1カ月、接種からは4カ月程度を要する点が課題である。
なお、情報提供ネットワークシステムでは、四種混合(ジフテリア、百日せき、破傷風、ポリオ(DPT-IPV))、三種混合(ジフテリア、百日せき、破傷風(DPT))、二種混合(ジフテリア、破傷風(DT))、BCG、Hib、小児肺炎球菌、ヒトパピローマウイルス(2価・4価)、B型肝炎、高齢者肺炎球菌、ロタウイルス(1価・5価)、MR(麻疹風疹混合)、麻疹、風疹、水痘、日本脳炎等の予防接種情報が連携の対象にされている。令和4年6月からは、新型コロナウイルスが追加された。
■新型コロナワクチン関連の経験を踏まえた平時からの情報連携に向ける期待
今後、情報提供ネットワークシステムでは、健康増進法に基づく自治体検診、例えば肺がん検診、乳がん検診、胃がん検診、子宮頸がん検診、大腸がん検診等の受診履歴も連携が予定されている。2022年8月時点で、特定検診については既に情報提供ネットワークシステム上でのデータベース化が進んでおり、マイナンバーカードを健康保険証として利用する場合は、マイナポータルを通じて特定健診の結果が閲覧可能である。2022年6月には経済産業省が「PHRサービス事業協会(仮称)」設立を宣言している。今後は、健診・検診情報にとどまらない歩数、血圧等の健康医療(PHR: Personal Health Record)データの利活用が加速度的に進むと予想される。
情報連携基盤が整備されつつある一方で、特に新型コロナワクチンの場合はVRS、ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)等、複数のシステムがサイロ型で混在している。さらに連携IDに注目しても、マイナンバー、電子証明書シリアル番号、機関別符号等が併存する。
2022年3月には、デジタル庁によって政府相互運用性フレームワーク(GIF)が新しく公開された。国や自治体は、ワクチン接種等、単一の業務効率化のみを念頭におくのではなく、情報が相互に利活用される将来像を見据えて、情報のデジタル化と情報連携システムの仕組みを構築、整備することが期待される。
【開催概要】
- 登壇者:大山 水帆 氏(戸田市 企画財政部次長 兼 デジタル戦略室長(CDO)/総務省 地域情報化アドバイザー)
- 日時:2022年8月5日(金)18:30-19:45
- 形式:オンライン(Zoomウェビナー)
- 言語:日本語
- 参加費:無料
■登壇者プロフィール:
大山 水帆 氏(戸田市企画財政部次長兼デジタル戦略室長(CDO)/総務省地域情報化アドバイザー)
埼玉大学教育学部卒。1987年川口市役所に入庁。2014年より総務省地域情報化アドバイザー。2017年に川口市役所を退職し、戸田市総務部次長兼情報政策統計課長。2021年よりデジタル戦略室長(現職)。マイナンバー検討会をはじめ、文字情報基盤WG、自治体システムデータ連携標準検討会委員などを務める。
主な著書:「どうなるどうする自治体マイナンバー対応(2015)」、「自治体職員のためのマイナンバー実務1・2・3(2018)」、「これで万全!自治体情報セキュリティ(2017)」
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