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【開催報告】第105回HGPIセミナー「『日本医療政策機構 現代日本における子どもを持つことに対する世論調査』をジェンダーの視点から読み解く」(2022年6月3日)

【開催報告】第105回HGPIセミナー「『日本医療政策機構 現代日本における子どもを持つことに対する世論調査』をジェンダーの視点から読み解く」(2022年6月3日)

日本医療政策機構では、2016年度より女性の健康プロジェクトをスタートさせ、女性一人ひとりのwell-beingの実現に向けて女性の健康に関する調査を実施すると共に、リプロダクティブヘルス・プラットフォーム「Youth Terrace(ユーステラス)」の活動等を通して、女性の健康に関する政策提言活動を進めてまいりました。

2021年度、女性の健康プロジェクトでは、妊娠を望む人が妊娠できる社会の実現に向けて、必要かつ効果的な対策を具体的に示し提言することを目的として、全国25歳から49歳までの男⼥10,000名を対象に「現代日本における子どもをもつことに関する世論調査」を実施しました。

本調査結果から、男女における妊孕性や不妊症、さらには女性特有の健康リスク等に関して、社会全体のヘルスリテラシーに向上の余地があることが明らかになりました。また、子どもを望む人が子どもをもつことに関連する要因として、子宮内膜症や子宮筋腫、多嚢胞性卵巣症候群の診断や治療の有無、婦人科の初診時期、年収や就業形態、幼少期における近所づきあいやその後の周囲の子どもとの関わりとの関連性が示唆されました。これらの結果をうけ、女性の健康プロジェクトでは次の4つの視点で女性の健康に関する提言を行いました。

■ 本調査結果を受けた4つの視点

視点1: ヘルスリテラシー向上のための支援の強化
視点2: 婦人科へのアクセス向上のための体制整備
視点3: 子どもをもちたい人のための経済的支援、働き方改革の推進
視点4: 子どもと触れ合う機会の提供や地域で支えあう仕組みの促進

調査報告書の詳細はこちらをご覧ください。


この調査報告書を踏まえ、今回のHGPIセミナーでは、本調査のアドバイザリーボードメンバーでもある、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院 准教授 治部れんげ氏をお招きし、「『日本医療政策機構 現代日本における子どもを持つことに対する世論調査』をジェンダーの視点から読み解く」と題して、リプロダクティブヘルス/ライツに関する日本の初等中等教育の課題やヘルスリテラシーの重要性のみならず、これまで多数のジェンダー平等政策に関わってこられたご経験をもとに、政策における意思決定プロセスにも着目し本調査報告をご解説いただきました。

なお本セミナーは新型コロナウイルス感染対策のため、オンラインにて開催いたしました。

 

<講演のポイント>

  • 『現代日本における子どもを持つことに対する世論調査』(以下、本調査)は、その目的がSRHR(Sexual Reproductive Health and Rights: 性と生殖に関する健康と権利)に合致しており、基本的権利や多様性の観点を進歩的に取り入れた調査といえる
  • 本調査報告書は、ヘルスリテラシーを「単なる知識の有無だけではなく、活用できていること」と定義し、主体的に生きられる個人尊重の視点が貫かれており重要な視点である
  • ヘルスリテラシーを高めるためには、妊娠のしくみや適齢期などを単に情報として教えるだけではなく、学校教育において、「個人の尊厳」や「自己決定」の重要性を前提とした包括的な性教育の実施が求められる
  • 日本では、政策に関する意思決定層の性別・年齢に偏りがあり、ジェンダー施策の政策形成過程において、女性や若者の声を反映していくことが必要である
  • 国際的な政策事例も踏まえながら、日本における少子化の議論を、単に人口の数と捉えるのではなく、望む人が子どもを持てるような制度設計を検討する方向へと見直す必要がある

 

■ジェンダー平等は私たちの日常生活に深く根づいており、多くの人が無意識に持っている「ジェンダーバイアス」を取り除くことが重要である

持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)の目標5に「ジェンダー平等を実現しよう」が位置付けられたこともあり、昨今、ジェンダーという言葉を耳にする機会は増えている。

ジェンダーとは、社会的・文化的に構築された性差、意味を付加された性差のことである。一方、生物学的性差(出生時に割り当てられた性別)には、セックスという言葉が用いられる。例えば、私は生まれた時に「女児」と割り当てられ、母子手帳や出生届に記載された。他にも、伝統的な行事では、性別によって衣装が決まっていることが多い。例えば七五三の場合、女児は着物、男児は袴やスーツといった具合である。

ジェンダー平等の視点では、「男の子は外で元気に遊びなさい」「女の子なのに気が強い」など、生物学的性差に基づく偏見や決めつけという「ジェンダーバイアス」が課題となる。ジェンダーバイアスは私たちの生活に深く根づいており、多くの人が無意識に持っている。


■ジェンダーの視点で、本調査の設計は現行の日本の法律・政策よりも基本的権利や多様性の観点を進歩的に取り入れた調査といえる

本調査は、調査設計のうえで評価すべき点が二つある。一つ目は、「本調査は、人口は数の問題ではなく、一人ひとりの尊厳と生活の質に関する問題であると捉え、リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)が、全ての個人とカップルの基本的権利である(国際人口開発会議「行動計画」1994年)という理念のもと実施する」とあるように、調査目的がSRHR(Sexual Reproductive Health and Rights: 性と生殖に関する健康と権利)に合致している点である。日本の年金制度は賦課方式で運営されているため、将来の税制度や社会保障制度を支えてほしいという経済的な要請から子どもの数が論じられることが多い。実際に政府の少子化対策でも、経済的な要請に応えるための議論がなされる傾向がある。しかし、子どもを持つかどうか、いつ、何人持つか等は、女性の基本的人権である。どうしたら子どもが増えるのか、という視点から議論する少子化対策には、SRHRの視点が欠けており課題がある。一方で、本調査はSRHRを前提として、調査冒頭にも人口の問題が個人の尊厳に関する問題であることを明記している。ジェンダーの視点から大いに評価できる点と考えている。

二つ目は、本調査において対象者の属性(性別)を問う選択肢(設問として「生物学的な性」と「社会学的な性」をそれぞれ設置)が、SOGI(性的指向や性自認)の視点に基づいている点である。また、婚姻状況の選択肢には婚姻の多様性も包摂されている。異性法律婚夫婦のみならず同性カップルも想定し、現行の日本の法律・政策と比較すると、多様性の観点を進歩的に取り入れた調査である。


■本調査において、ヘルスリテラシーの定義を「単なる知識の有無ではなく、活用できていること」としていることは重要な点である

本調査報告書は、ヘルスリテラシーの定義を「単なる知識の有無ではなく、活用できていること」としている。自分の身体について「知り」、 自らが置かれた状況を「変えうる」知識が必要としていることも重要な点であり、誰もが主体的に生きられる社会に必要な個人尊重の視点が貫かれていることがうかがえる。


■「個人の尊厳」や「自己決定」の重要性を前提とした「性教育」が求められるため、学校における包括的な性教育は、まだ十分とは言えないのが現状である

本調査報告書では、健康に関する知識を学校教育の過程で得る人が一定数存在することが示されている。一方で、妊娠やSRHRに関する知識が不十分であることも明らかになっている。つまり、学校教育における性教育の在り方は変化してきているものの、その包括性は未だ十分ではない。

ヘルスリテラシーを高めるためには、妊娠のしくみや適齢期などを単に情報として教えるだけでは不十分である。学校教育においても、「個人の尊厳」や「自己決定」の重要性を前提とした包括的な「性教育」が求められる。


■国際的な政策事例も踏まえ、我が国の少子化に関する議論は「望む人が子どもを持てるような制度設計」を考える時期にある

我が国における少子化に関する議論は、見直しを検討すべき時期を迎えたのではないだろうか。世界を見ると、手厚い育児支援を提供しつつ、社会として少子化を受容している国もある。男女平等の施策を推進が出生数の増加に直結繋すると語られることもあるが、果たして本当に子どもの数が増えるだろうか。また、政策の意思決定層の性別・年齢に著しい偏りがあるなか、政策形成過程において女性や若者の声をどのように反映するかは、まさにジェンダーの施策における課題の一つである。

我が国は、諸外国の出生率の推移とそれに対応した政策対応を参考にし、望む人が子どもを持てるような制度設計を考える時期に到達していると考える。

 

【開催概要】

■登壇者:治部 れんげ 氏(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授)
■日時:2022年6月3日(金)18:00-19:15
■場所:Zoomウェビナー形式
■参加費:無料
■定員:500名


■登壇者プロフィール:
治部 れんげ 氏(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授)
日経BP社にて経済記者を16年間務める。ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。ジェンダー関連の公職に内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進協議会会長など(いずれも現職)。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫:夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信:ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)等。


<【開催報告】第106回HGPIセミナー 「新型コロナウイルスワクチン接種管理システムの構築と今後の情報連携について」(2022年8月5日)

【開催報告】第104回HGPIセミナー「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムとアウトリーチ支援の展望」(2022年3月4日)>

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