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HGPI 政策コラム(No.8)―認知症政策チームより―「認知症基本法がつくる『公共性』」

HGPI 政策コラム(No.8)―認知症政策チームより―「認知症基本法がつくる『公共性』」

 

<POINT>

・2020年2月6日に「認知症基本法について考える院内集会」が開催

・今後再提出も視野に、より広く当事者の声を踏まえ、超党派で法案を再度議論

・認知症になっても暮らしやすい社会の構築には、これまで認知症と関わりの少ない人々こそ重要

 

 

はじめに

前回のコラムでは、いわゆる「空白期間」への解決策の1つとして、スコットランドにおける診断後支援制度について紹介しました。空白期間は、まさにこれからの生活設計をする大切な時期であり「自己決定できるための支援」が必要とお伝えしました。そしてこの制度のポイントは「地域づくり」の推進にあり、本人や家族への支援と共に、地域資源の開発に力を入れていることもご紹介しました。

さて、今回のコラムでは少しタイムリーな話題をお伝えします。2019年6月に国会に与党有志議員による議員立法として提出された認知症基本法案については、すでに本コラムでも何度もご紹介しています。(「No.4 まもなく成立!認知症基本法案」「No.5 地方自治論的視点から考える認知症基本法案」)今回は、2020年2月6日に開催された「認知症基本法について考える院内集会」を取り上げます。


 

「認知症基本法について考える院内集会」概要

この集会は、認知症関係当事者・支援連絡会議(公益社団法人認知症の人と家族の会・全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会・男性介護者と支援者の全国ネットワーク・レビー小体型認知症サポートネットワークの4団体から構成される)と一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループの共催により開催されました。集会では、主催者や出席議員からの発言に加え、主催者から参加した国会議員へ要望書が手交されたほか、アカデミアを中心とした来賓の方々からも、本法案に対する期待や課題などの発言がご挨拶のなかでありました。

集会を開いた主催者側からは、認知症基本法策定に当たっては、認知症と共に生きる本人やその家族、さらにはこれから認知症になる可能性のある国民1人1人が、安心して暮らせるように、本人や家族の声を丁寧に汲み取ってほしいとの声が多く寄せられました。

具体的には、法律に「人権」を明記することや、認知症の「予防」という言葉を使わず、認知症への「備え」に変えること、また都道府県や市区町村の推進計画策定を努力義務から義務に変更することなどの提案も挙がりました。また、「もう1人の当事者」とも言える、家族にかかる負担を軽減することの重要性も指摘がありました。

国会議員も党派を超えて30名近くが出席し、その関心の高さを伺わせました。多くの議員から、まずは超党派で議論を進めていくことに賛同の声が上がりましたが、早期に法案を作ることへの賛否など意見が分かれる部分も多く見受けられました。まずは早期にベースとなる法律を作り、そこに様々な議論を尽くし、追加や修正を加えていけばよいという意見が出た一方で、多様なステークホルダーを巻き込む本法律案は熟議を重ねたうえで、進めなくてはいけないという慎重派の意見もありました。

また上述の主催者側の提言に対しても、「人権」を法律に記すことについて法制局との調整の難しさや、都道府県や市区町村に計画策定を義務付けることへの抵抗感(このことについては、以前のコラム「No.5 地方自治論的視点から考える認知症基本法案」で取り上げており、私自身は政策効果の観点から努力義務に留めるべきと考えています。)なども示されました。

すでに提出されている認知症基本法案の取りまとめ役でもある、自由民主党の田村憲久衆議院議員(元厚生労働大臣)は、現在の法案には多々見直すべき点があることを認め、超党派での議論を踏まえて再度提出しなおすことも視野に入れているとの発言がありました。


まとめ

認知症基本法は、今回の院内集会や与野党での協議を踏まえ、今後超党派での議論が進むことが予想されます。当日の発言にもありましたが、この法案は決して今認知症と共に生きる本人や家族だけのものではありません。これから認知症になる人もならない人も、年齢・性別・国籍など関係なく日本で暮らす全ての人に関わる法律です。さらに私は、むしろこれまで認知症と関わりの薄かった人にこそ重要な法律ではないかとも考えています。

2019年12月に行われた内閣府の世論調査では「今までに認知症の人と接したことがあるか」との問いに、61.6%の人が「はい」と答えています。「はい」と答えた人のうち、47.7%は「家族の中に認知症の人がいる(いた)」と回答しています。認知症を身近に感じている人は徐々に増えているとしても、約40%の人々は認知症の人と接したことがないのです。また私を含め家族としての立場がある人にとっても、認知症に対するイメージは自身の家族である個別の事例が印象として強く残り、家族以外の認知症の人と関わって初めて、認知症の人の状況やニーズなど、その多様性に気づかされる人も多いのではないでしょうか。

本当に認知症になっても暮らしやすい社会にするためには、認知症に接点のない人々にどれだけ理解を深めてもらうかが非常に重要です。「公共性」とは、共同的な信念にもとづく自然的な一体性・同質性ではなく、複数の異なる共同性のあいだに人工的な関係をうちたてるはたらき」(那須,2005)であり、これを実現するものが「公共政策」です。認知症に特化した法律は、当然のことながら日本で初めてです。認知症領域における「公共性」の実現のため、認知症基本法は大きな期待と責任を背負っています。



【『認知症基本法』に関する要望書】


<参考文献>
内閣府(2019)『認知症に関する世論調査』
那須耕介「政治的思考という祖型-政策学的思考はどこから出てくるのか」,足立幸男(2005)『政策学的思考とは何か-公共政策学原論の試み』勁草書房,第8章

【執筆者のご紹介】
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 シニアアソシエイト/認知症未来共創ハブ 運営委員)

 


<HGPI 政策コラム(No.9)ー認知症政策チームよりー

HGPI 政策コラム(No.7)ー認知症政策チームよりー>

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