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HGPI 政策コラム(No.5)―認知症政策チームより―

はじめに

前回のコラムでは、政府が2019年6月に新たに発表した認知症施策推進大綱と、同じく2019年6月に国会に与党有志議員による議員立法として提出された認知症基本法案について紹介しました。今回は引き続き、認知症基本法案成立後の社会の行方と私たちが取り組むべきことについて考えます。

なお5回目のコラムとなる今回、現時点ではまだ認知症基本法案は成立しておらず、内容については現時点のものであり、またコラム中の見解についても私見であることをご理解ください。

 

カギを握る「地方自治体認知症施策推進計画」
地方自治体による認知症施策推進計画策定は義務ではない


さて先述した認知症基本法案には、政府によって「認知症施策推進基本計画」が、また都道府県や市町村(特別区を含む、以降「市区町村」と記す)によって「認知症施策推進計画」が策定されることとなっています。政府による計画策定は「策定しなければならない」(第11条)と法律で規定され、先日公表された認知症施策推進大綱が実質的にはこの基本計画となると想定されています。一方の都道府県や市区町村による「認知症施策推進計画」については「策定するよう努めなければならない」(第12条・第13条)と記されており、いわゆる「努力義務」とされています。

認知症政策について当事者組織や医療・介護・福祉関係の方々と多く意見交換を重ねる中で、「なぜ地方認知症施策推進計画は義務でないのか」という声を何度か聞くことがありました。認知症基本法案作成の際に参考にもなったとされるがん対策基本法(2007年施行)、障害者基本法(1970年施行)では都道府県や市町村への基本計画策定を義務付けています。(がん対策基本法は都道府県のみ)その背景としては、昨今進んでいる地方分権の流れと関係があると考えられます。

 

自治体による計画策定と地方分権


1993年、国会において「地方分権の推進に関する決議」がなされて以降、総務省(2001年までは自治省)を中心とした地方分権改革が進められてきました。遡れば明治維新以降、日本は中央政府が行政運営の中心を担う「中央集権」と呼ばれる体制を敷いてきました。時は流れて、近年では地方自治体が自らの地域の行政運営について主体的に取り組むべく、地方分権が進められています。

地方分権の流れには大きなかたまりがあり、機関委任事務制度の廃止などを決めた「第一次分権改革」後には、いわゆる「三位一体改革」と呼ばれる国庫補助負担金改革・税源の地方移譲・地方交付税改革が行われたのは有名です。こうした地方分権改革の一連の流れの中で、2009年に地方分権推進委員会(2007年発足)が公表した「第3次勧告」において、「国の法令による自治体の義務付け・枠付けの見直し」が明記され、総務省が所管する関係法令を中心に義務付け・枠付けの廃止が目指されたのでした。

それ以降も、義務付けによる問題はたびたび起きています。2014年11月に制定された「まち・ひと・しごと創生法」における、都道府県や市町村による「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は記憶に新しいところです。法令では努力義務とされましたが、その後の政府による通知で交付金を受け取る前提条件となったことから、実質的にほとんどの自治体で策定されました。地域の活性化といったテーマはすでに多くの自治体が総合計画にも盛り込むなど、取り組みがスタートしていたために、関連する計画・条例との整合性を保つために、多くの自治体が苦労しました。こうした課題から、政府は策定の手順や計画の内容の指針など詳細なマニュアルを作成、それにより、外部業者に策定を委託したり、マニュアル通りの計画を策定したりと、画一的な計画が全国であふれる状況が生まれたのです。

これでは、地方自治体が「計画を策定すること」がゴールとなってしまい、決して地域住民に資するものではありませんし、本来地域のために創意工夫を凝らそうと日々尽力している自治体職員の方々にとっても不幸な結果となってしまいます。

 

「義務」か「努力義務」か


今回の認知症基本法案においても、地方自治体(都道府県および市区町村)の計画策定は努力義務とされています。政治学の考え方からすれば、現代社会において、地方自治体に対し計画策定の義務付けを過剰に行うことは、地方分権の流れに逆行するといえるので努力義務は妥当だと言えます。そして、政策効果という観点から考えても、義務付けによって、上述のように認知症施策推進計画の策定がゴールとなり、どの地域も同じように計画が作られるようでは効果期待できません。

法案の条文にもある通り、都道府県であれば都道府県地域福祉支援計画、医療計画、都道府県老人福祉計画、都道府県介護事業計画など、市区町村であれば市町村地域福祉計画、市町村老人福祉計画、市町村介護保険事業計画などとの調和が保たれるようにとされています。これだけの各種計画とのバランスを見ながら作成することは決して簡単ではなく、ここに当然のことながら地域ごとのニーズや課題を反映させていくことは時間を要する作業です。

そして各都道府県・市区町村の置かれた状況は知っての通り、大きく異なります。認知症共生社会の実現に必要な要素、そして活用できる資源は様々です。ある地域は、医療・介護の担い手不足が喫緊の課題かもしれませんし、ある地域ではそもそも認知症への理解が未だ不十分かもしれません。高齢化は進んでいるものの元気な高齢者に地域活動に参画してもらいたいと考えているところもあれば、そもそもの人口減少が喫緊の課題の地域もあります。


「認知症共生社会の実現」というゴールに向けて、各地域で必要な要素、そしてそれらの優先順位付けについて、認知症の人や家族の声をベースに進めることで、政策効果が期待できるでしょう。

繰り返しますが、認知症施策推進計画の策定がゴールではありません。「努力義務」であっても、認知症の人や家族の想いが尊重され、地域の課題と可能性を踏まえた計画が策定されれば、全国画一的な計画が急いで策定されるよりも、はるかに大きな政策効果が期待できます。

 

まとめ―これから私たちがすべきこと―


私たちはこれからそれぞれの地域から認知症共生社会を実現するために、都道府県や市区町村の認知症施策推進計画が策定されたか否かだけでなく、その策定過程を含めてウォッチする必要があります。計画がより良いものになるよう、時には都道府県や市区町村に対して働きかけを行い、共に作り上げていかなくてはなりません。

認知症の人や家族の視点や想いが、適切に計画に反映されているかということは特に重要な視点です。法律では「都道府県は、都道府県の案を作成しようとするときには、あらかじめ、認知症の人及び家族等の意見を聴くように努めなければならない」(第12条3項、第13条3項で市区町村に対しても準用)と定められていますが、「聴く」だけでなく、その意見はどのように検討され、その結果どうなったのかという点は見逃すことはできません。

こうして作られた計画こそ、当事者主体・市民主体の医療政策であり、前回のコラムでも書いた通り、私たちはその計画がうまく機能するように協力し、行動することが求められているのです。

日本医療政策機構そして認知症未来共創ハブにおいても、来年度以降、都道府県や市区町村の認知症施策推進計画の効果的な策定に向けて、その動向をウォッチし、提言をする取り組みを進めたいと考えています。

 

【執筆者のご紹介】

栗田 駿一郎(日本医療政策機構 シニアアソシエイト/認知症未来共創ハブ 運営委員)

 


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