【HGPI政策コラム】(No.47)-プラネタリーヘルスプロジェクトより-「第10回:低炭素で持続可能な保健医療システム実現に向けたATACHによる支援」
<POINTS>
- ATACH実践コミュニティ(CoP: Community of Practice)は、低炭素で持続可能な保健医療システムの構築に向けた各国のコミットメント実現を支援する役割を担っている
- 特にATACHパートナーは、各地域での課題を明確にし、ワーキングプランを策定するワーキンググループを通じて貢献している
- ATACHパートナーは、それぞれが精通している地域において活動し、 ATACHコミットメントを表明した国々の目標達成に向けて、直接連携して支援を行う
- 日本政府がATACHへ参加した現在、日本からの機関や団体のATACHパートナー加入が期待され、日本のコミットメント実現に向けた支援が重要になってくる
はじめに
前回のコラムでは、ATACHが成立するまでの過程と、各国が表明しているコミットメント(公約)について紹介しました。特に、ATACHのコミットメントを表明した国に対する役割に焦点を当てましたが、ATACHは、気候変動に強靭で持続可能な保健医療制度の構築を目指すため、さまざまなステークホルダーが役割を担っています。HGPIは、2024年4月に日本の団体としては初めてパートナーとしてATACHに正式に参加したことを発表しました。
今回のコラムでは、これらのコミットメントを実現するために役割を担っているATACHの組織としての機能と、ATACH実践コミュニティを構成する非営利団体などのパートナーとワーキンググループにフォーカスを当てます。
ATACHミッション
ATACHの目標は以下の4つです。
- 加盟国が気候変動の影響に強く、低炭素で持続可能な保健医療システムを構築し、国のネットゼロ(温室効果ガス排出が正味ゼロ)目標に貢献することを支援する
- 加盟国に対し、気候変動に強靭で持続可能な保健医療システムへのコミットメントを促進し、意欲を向上させる
- 気候変動と保健医療の両分野で革新的な解決策を特定し提唱することで、グローバルな制約を克服し、強靭で持続可能なシステムを実現するため、気候変動と健康の議題を高める
- 新たな課題に関連した好事例、および気候変動に対する健康の議論に関連するに関する科学的知見(エビデンス)や知識を特定し、普及し、強化し、提唱することで、コミットメントの実施を支援し、気候変動と健康の結びつきに取り組むグローバルな進展を促進する
これらの目標を達成するためにATACHの機能として5つの項目が挙げられています、1)加盟国およびその他の利害関係者の協力によって、優先課題に関する国際的な転換を実現すること、2)コミットメントに対する国レベルの進捗状況を監視すること、3)評価・計画・実施が公約達成に必要だと示すための質保証メカニズムを構築すること、4)資金調達ニーズを特定し、加盟国が気候変動資金を含む資金にタイムリーかつ持続可能な形でアクセスできるよう支援すること、また、5)知識の共有を支援し、公約の評価・計画・実施、資金調達、モニタリングに関する専門知識、知見、経験の共有を含む技術支援へのアクセスを調整しています。
ワーキンググループ
以下の5つのワーキンググループはATACHの目標を実現するために構成されたものです。各ワーキンググループはそれぞれ目標を設定しており、目標達成に向けたワークプランを作成し、各国を支援しています。
- ファイナンシングワーキンググループ(FIN-WG: Financing Working Group)
FIN-WGは、気候変動と保健医療への投資を拡大するため、世界保健機関(WHO: World Health Organization)加盟国と主要なステークホルダーが一体となり、持続可能な資金と資金へのアクセスを促進する努力を強化することに重点を置いている。
- 気候変動に対して強靭な保健医療システムワーキンググループ(CRHS-WG: Climate Resilient Health Systems Working Group)
CRHS-WGは、気候変動による現在、将来、そして新たな健康への影響と脅威に対して、気候変動に対する強靭性を備え、適応力のある保健医療システムを構築することに特に重点を置いている。
- 持続可能な低炭素保健医療システムワーキンググループ(LCSHS-WG: Low Carbon Sustainable Health Systems Working Group)
LCSHS-WGは、気候変動による現在、将来、そして新たな健康への影響や脅威を緩和し、気候変動に対する強靭性を備え、適応力のある保健医療システムを構築することに特に重点を置いている。
- サプライチェーンワーキンググループ(SC-WG: Supply Chain Working Group)
SC-WGは、サプライチェーンにおける排出削減に特に焦点を当て、クリーンでグリーンかつ持続可能な保健医療システムを確保するための解決策と協力的行動を模索・促進することに重点を置いている。
- 気候行動と栄養ワーキンググループ(I-CAN-WG: Climate Action and Nutrition Working Group)
I-CAN-WGは、調整と協力を通じて、気候変動と栄養の重要な結びつきに取り組むための変革的行動を加速させるための協力を促進することに重点を置いている。
ATACH実践コミュニティ
ATACHコミュニティは、気候変動に強靭で持続可能な保健医療制度の構築を目指すため、プログラム参加国に技術支援、学習ネットワーク、プラットフォームを提供する実践コミュニティ(COP: Community of Practice)を通して構成されており、実践コミュニティにはATACHに関連する国々や地域、パートナー、リソース・リポジトリ、 ファースト・ウィンズ・ライブラリー(First Wins Library)が含まれます。
ATACHに関連する国々や地域は、コミットメントを表明した国々を指します。第77回世界保健総会(WHA: World Health Assembly)にて、日本とセネガルがATACHへの参加を表明し、2024年6月26日現在、合計で84カ国が含まれています。
ATACHパートナーは非政府組織 、国際ビジネス協会、慈善財団、学術機関などが含まれ、実践コミュニティはコミットメントを果たすことに専心する国々と、パートナーから提供される専門知識を結びつける触媒としての役割を果たしています。
リソース・リポジトリとはコミットメントを表明した国々に対して、コミットメント達成に向けて支援リソースとなる資金調達の機会の紹介、ディスカッション・ペーパー、ガイダンス文書、トレーニング、各国の経験、ツールを提供するものです。
ファースト・ウィンズ・ライブラリーはケーススタディーを集めたウェブページであり、保健医療システムで実施可能な介入策の具体例を提供することを目的としています。成功した国の経験にスポットを当て、実践的なガイダンスを提供しています。
以下の四つのステークホルダーやリソースを含めてCoPと呼ばれます。
パートナーによる支援
ATACHのウェブサイトにはCOP26ヘルスプログラムのコミットメントの実施を促進するために、コミュニティのメンバーや参加国とパートナーとのつながりを促進するために各パートナーの紹介、支援可能なコミットメント、また、活動国が掲示されています。
前回のコラムでも紹介したATACHベースラインではすでにコミットメント実現に向けた取り組みにおいて支援を行なった団体が記載されています。
支援可能なコミットメントは6つあります。
- 気候変動と保健衛生の脆弱性と適応に関する評価(V&A)を、人口レベルおよび/または医療施設レベルで実施する。
- 保健医療V&Aに基づき、保健医療国家適応計画(HNAP)を策定し、国家適応計画の一部とする。
- V&AとHNAPを活用し、保健のための気候変動資金へのアクセスを促進する。
- 保健医療システムのネット・ゼロ・エミッションを達成する目標期日を設定する(理想的には2050年まで)
- 保健医療システム(サプライチェーンを含む)の温室効果ガス排出量のベースライン評価を実施する。
- 持続可能な低炭素保健医療システム(サプライチェーンを含む)を開発するための行動計画またはロードマップを期日までに策定する。
パートナーになるには
ATACHパートナーには政府機関と非政府組織のパートナーがあり、これにより申請方法が少し異なります。このコラムでは、HGPIでの申請経験をもとに執筆しているため、政府機関の申請方法については、ATACHウェブサイトに記載している内容のみとなります。
政府機関の場合、 国レベルにおける、気候変動と保健に関する進捗状況やコミットメントに関する情報と、各保健大臣の署名が入った書簡を準備する必要があります。
非政府機関の場合は、ATACHに参加する理由が記載されている書簡、事業体の法的地位が記載されている文書、組織のガバナンス構造、主要な意思決定機関のメンバーの氏名と所属、資産、年間収入、資金源(寄付者やスポンサーのリストなど)、申請団体の主な関連団体のリスト、また、タバコと武器に関する情報開示への署名を求められます。
さらに、パートナーは申請時にワーキンググループを選択することが要求されます。また、パートナーとしての責任として、ATACHの活動、ビジョン、目標、目的を推進し、活動や討議に積極的に参加し、必要に応じてATACH総会やワーキンググループに出席するとともに、他のATACH参加者と協力し、適宜、知識や情報(教訓、事例研究、プログラム結果など)を共有することが求められます。
日本からのATACHパートナー
2024年6月時点で、日本からのATACHパートナーはHGPIのみです。日本政府が2024年5月の第77回世界保健総会においてATACHへの正式な参加を表明したことで、日本の政府機関や日本に所在する非政府団体がATACHパートナーとして加入することは、日本のコミットメント実現にとって重要な役割を果たします。これにより、気候変動に強い持続可能な保健医療システムの構築が大きく後押しされることが期待されます。
【執筆者のご紹介】
ケイヒル エリ(日本医療政策機構 プログラムスペシャリスト)
島袋 彰(日本医療政策機構 アドジャンクトフェロー)
鈴木 秀(日本医療政策機構 シニアアソシエイト)
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