活動報告 記事・講演・報道

【HGPI政策コラム】(No.35)-プラネタリーヘルス政策チームより-第5回:地方自治体におけるプラネタリーヘルスに関連した取り組み

【HGPI政策コラム】(No.35)-プラネタリーヘルス政策チームより-第5回:地方自治体におけるプラネタリーヘルスに関連した取り組み

<POINTS>

    • 地方自治体は、公衆衛生上の具体的な政策の実行において重要な役割を担ってきた
    • 高度経済成長期の公害対策は、日本の地方自治体による環境対策の起点となった
    • 日本の地方自治体の多くが2050年カーボンニュートラル実現に向けて実行計画の策定に取り組んでおり、今後適切に実行と評価が行われること、またそのために必要な支援がなされることが期待される


 

はじめに

日本政府は2023年にドイツからG7(先進国首脳会議)のホスト国としての役割を引き継ぎ、5月19~21日にはG7広島サミットを開催し、4月15~16日にはG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合、そして5月13~14日にはG7長崎保健大臣会合を開催します。地球規模課題の一つである気候変動が人々の健康へ与える影響が明らかになり、英国、ドイツがこれまでのG7の中でもその議論を牽引しており、引き続き国際的な連携に期待が集まります。また、地方自治体の役割にも年々注目が集まっています。2023年3月15日には、東京都も2019年に参画している「ヘルシー・シティ・パートナーシップ」による第1回健康都市パートナーシップサミットがロンドンで開催されました。1 その中では、食品・栄養基準の取り組みをしたモンテビデオ(ウルグアイ)、交通安全対策を実施したメキシコシティ(メキシコ)、公衆衛生情報の公開を促進したバンクーバー(カナダ)、薬物の過剰摂取予防対策を強化したアテネ(ギリシャ)、そしてたばこ規制対策を推進したベンガルール(インド)がその功績を称えられました。地方自治体は公衆衛生対策の実行に深くかかわっており、高度経済成長期などを通じた公害対策や環境対策など、好事例の発信が期待されています。そのため、第5回目となる本コラムでは、地方自治体の役割や公害対策などについて紹介します。

  1. プラネタリーヘルスにおいて地方自治体が果たす役割

地方自治体は、歴史的に公衆衛生に関する重要な役割を持っています。水質管理からたばこの規制に至るまで、地方自治体は地域住民の健康や生活の向上についてリーダーシップと実行の役割を担ってきました。

地球規模で人間の健康を守るためにプラネタリーヘルスの課題に取り組むにあたって、国を超えたグローバルレベルや、各国内レベルでの法による規制や資金提供はもちろん重要です。気候変動、オゾン層破壊、残留有機物による汚染などの問題は国境を越えての対策が不可欠でしょう。しかし、グローバルや国レベルでの取り組みには通常時間がかかり、実現に困難が伴うことも多くあります。一方で、地方自治体レベルでは様々な公衆衛生上の課題に対して比較的迅速に行動してきた歴史があります。

現在、地球の人口の約55%が都市に住んでおり、この割合は2050年までに66%、つまり人口の3分の2まで増加すると予想されています。世界の国内総生産の約80%、天然資源消費量の75%以上、エネルギー消費の60-80%、炭素排出量の75%が世界中の都市から生み出されています。つまり、プラネタリーヘルスが実現できるかどうかは、世界中の都市、地方自治体レベルでの取り組みにかかっていると言っても過言ではありません。2

 

  1. 日本の環境対策の起点となった公害対策

地球環境と人間の健康の両者に大きな影響を与えてきた、日本の地方自治体による公害への取り組みは、プラネタリーヘルスの取り組みの先駆けと言えます。

戦後の日本は経済成長に向け、生産性が最も重視される時代を過ごしました。1960年代から1970年代にかけて、大都市を中心に工場や交通などが原因となる大気汚染や水質汚濁、騒音や振動などの公害が社会問題化します。この頃、道路、港湾などの産業基盤の整備に多額の公共投資が行われましたが、公園、下水道、廃棄物処理といった生活環境の整備は十分とはいえませんでした。

当時はまだ公害という概念もあいまいな時期でした。また公害規制に関する事務は当該産業に関する多数の省庁に分かれており、国による対策がすばやく行える体制ではありませんでした。そのため、公害への取り組みは各自治体が行うしか方法がなかったと言います。3

その後、1962年に大気汚染に対する「ばい煙の排出の規制等に関する法律(ばい煙規制法)」が公害に対する国の法律として初めて成立しました。さらに1967年、様々な公害問題に対応するために「公害対策基本法」が成立し、国による対策が徐々に整備されていきました。4 ここでは、先駆的に公害対策を行った地方自治体における環境問題への取り組みを見てみます。

熊本県水俣市

水俣市は、高度経済成長の過程で発生した四大公害病の一つである水俣病を経験しました。その教訓をもとに1992年に日本で初めて「環境モデル都市づくり宣言」を行い、さらに1993年には「水俣市環境基本条例」を制定しました。5 その後、早くからごみの高度分別やリサイクルに取り組んだり、オリジナルの家庭版・学校版などの環境ISO制度(環境パフォーマンスを向上させるためのマネジメントシステムの国際規格)6や環境マイスター制度(安心安全で環境や健康に配慮したものづくりを進める職人を認定)7を立ち上げる等、積極的に環境保全活動に取り組んできました。

水俣市環境基本条例に基づき、1996年に第1次水俣市環境基本計画を策定し、2008年に第2次、そして2020年には第3次の計画が策定されました。第3次水俣市環境基本計画の策定にあたっては、ワークショップの場で市民が「10年後の水俣の将来像」について意見交換を行ったことが報告されています。「水俣病問題への取組と『もやい直し』の推進」「低炭素社会の実現」など、6つの施策が2027年まで展開される計画となっています。8

福岡県北九州市

高度経済成長期、北九州市には四大工業地帯の一つが形成され、重化学工業を中心に工業地帯が発展したことで、スモッグや水質汚染等の公害問題に悩まされてきました。しかし1960年代に大気汚染に反対する市民たち(特に婦人会)が立ち上がり反対運動を行ったことが発端となり、公害対策が推進された経緯があります。9

1950-1970年代の公害克服の時代を経た後、北九州市は公害克服の経験を活かして環境問題への取組みを軸に地域の個性を伸ばす方針を打ち出します。1980年に「北九州国際研修協会(現在の北九州国際技術協力協会)」を設置し、アジアの各都市と環境問題解決について連携を開始しました。1997年に全国に先駆けてエコタウン事業を開始、2010年には「アジアの低炭素革命」の拠点を目指して「アジア低炭素センター(現在はアジアカーボンニュートラルセンター)」を開設しました。環境未来都市やSDGs未来都市、脱炭素先行地域にも選定されるなど、現在まで環境と経済の統合的発展を率先しています。10

北九州市の具体的な取り組みとしては、低炭素先進モデル街区(市街地のゼロ・カーボン街区を目指す「200年街区」の設置)や、カーボンオフセット・エコポイントシステム(環境活動で獲得したエコポイントを流通させ、運営資金をカーボンオフセットで手当するシステム)、また高効率交通システムの構築(低炭素化に貢献する交通手段の推進)などが挙げられます。

 

  1. 環境問題に取り組むまちづくり事業の変遷

表1:環境問題に取り組む自治体の一例

エコタウン

環境モデル都市

環境未来都市

SDGs未来都市

都市版SDGsレポート

2050年ゼロカーボンシティ

気候非常事態宣言

ワンプラネット・シティチャレンジ

 

1990年代後半、世界各国で環境問題に取り組む都市が注目され、国内でも各種リサイクル法が整備されるなどの動きがありました。1997年には環境問題に取り組む都市を国が支援する初めての事業として、「エコタウン」を承認する取り組みが開始されました。これは「ゼロ・エミッション構想(ある産業から出るすべての廃棄物を新たに他の分野の原料として活用し、あらゆる廃棄物をゼロにすることを目指す構想)」を基本としてまちづくりを推進する都市に対して国が支援をする制度であり、1997年から2005年にかけて26の地方公共団体が承認されました。

エコタウンを前身として、2008年より「環境モデル都市」が国によって選定されました。環境モデル都市とは、低炭素社会の実現に向けて目標を掲げ、先進的な取り組みをしている都市を政府が選定したものです。低炭素社会を目指すまちづくりについての知見が少ない時期、「環境モデル都市」は地域資源を十分に活用し、他の自治体を先導するようなモデルケースであることが求められました。2008年に福田内閣総理大臣の施政方針演説にて「低炭素社会の実現」が言及された事をきっかけに募集が開始され、同年には13の自治体が選定されました。その後、2011年の東日本大震災をきっかけに低炭素のまちづくりをさらに全国的に普及させるため、2012年に7都市、2013年に3都市が追加で選定されました。

また、「環境モデル都市」と似た取り組みに「環境未来都市」があります。環境未来都市は、環境モデル都市の脱炭素に向けた活動に追加して、「超高齢化社会への対応」を含む地域独自の課題にも取り組む地域を選定するものです。2011年に環境未来都市として11地域が選定されました。

これらの流れを受けて、2018年からは国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)に基づいた「SDGs未来都市」の選定が始まりました。これは2014年に第二次安倍内閣が発表した「地方創生」、つまり人口減少などにより急激に衰退する地方の活性化を目指した政策の達成に向けて優れた取り組みを提案する自治体を国が選定したものです。SDGs未来都市は2022年までに計154都市、また、特に優れている取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として計50都市が選定されています。SDGs未来都市は、環境モデル都市に比べると、脱炭素に限らず様々な地方創生の施策を含んでいます。11

SDGs未来都市のうち、北九州市、富山市、北海道下川町の先進事例は、世界初となった都市版SDGsレポート「持続可能な開発目標(SDGs)レポート 2018」として、「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム2018(HLPF2018)」にて発表されました。公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)と協働して作成された本レポートは、国連が定める国家主導の自発的報告(VNR: Voluntary National Review)のガイドラインに沿って構成されています。各都市の歴史や地域特性を踏まえながら、SDGsを政策のビジョンや計画に取り込み実施している例を紹介しており、国内外の自治体の参考例となることが期待されています。12

富山県富山市

富山市は、環境モデル都市、SDGs未来都市に選定されています。2019年から2023年までが対象となる富山市環境モデル都市第3次行動計画では、公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりによって脱炭素社会の実現を目指し、「気候変動の影響への適応による都市レジリエンス推進」と「持続可能な付加価値を創造し続ける環境づくり」が新しい方針として追加されました。また、第3次行動計画では、長期的な温室効果ガス排出量の削減目標を見直し、脱炭素社会に向けた新たな目標値を設定しました。2050年までに、2005年と比較して、温室効果ガス排出量を80%削減する目標を掲げています。

SDGsレポートでは、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりにより持続可能な都市を実現したことが報告されています。また「技術ノウハウの国際展開」「プロジェクトのパッケージ輸出」「政策輸出」により海外都市との連携を深化させ、国際的なSDGsの実施推進に貢献したことが強調されています。

北海道(上川郡)下川町

下川町は北海道北部に位置し、面積の9割が森林であり林業や木質バイオマスエネルギーの取り組みで知られる町です。2021年は人口約3200人ですが、2030年には2400人へ減少し、高齢化率43%になることが予測されています。2000年代から持続可能な地域社会の実現に向けて取り組みが始まり、「経済、社会、環境の調和による持続可能な地域社会づくり」というコンセプトが掲げられていました。

下川町では、「SDGsって何?」という段階からスタートし、住民10人と行政職員約10人が13回にわたって議論し、下川町の現状に照らし合わせた目標を設定したそうです。13  SDGsレポートでは、循環型森林経営を基盤としつつ、経済・社会・環境の三側面の価値創造、統合的解決による持続可能な地域社会の実現に向けた取り組みを推進していることが報告されています。

    1. 多くの都市が環境問題への対策に取り組んでおり、国も事業としてこれらの政策を支援してきました。これらの環境対策の多くは、単に環境問題による悪影響を回避するだけではなく、潜在的に人間の健康にも良い影響を与えています。環境と人間の健康の両方にとって利益をもたらす行動は、コベネフィット・アクション(Co-benefit action)として、近年プラネタリーヘルスを考える上でも重要な要素です。例えば表2のような取り組みがコベネフィット・アクションであると2021年の論文でも紹介されていますが、既にいくつかの日本国内の自治体はこれらに取り組んでいると言えるかもしれません。14

表2:人間の健康と地球環境の両方に利益をもたらすコベネフィット・アクションの例 14

食事の選び方

果物、野菜、ナッツ、豆を多く含んだ、植物を基本とした食事はより持続可能性が高く、農業分野におけるカーボンフットプリントを減らすことができる。

身体を動かす移動手段

サイクリングやウォーキングなど身体ともなう移動手段は、カーボンフットプリントを削減するだけでなく、様々な病気を予防できる。

リプロダクティブ・ヘルス

子どもを産む・産まないという選択ができる機会を広げることで、母子保健を改善すると同時に、望まない妊娠による人口増加を抑えることができる。

自然の中でつながること

都市の緑地を含め、自然の中で多くの時間を過ごす方法を見つけることは心身の健康に役立つだけでなく、自然環境に対するスチュワードシップ(責任感)を育むことができる。

コミュニティへの参加

コミュニティへの参加を通じて社会的なつながりを育むことは、精神的健康に役立つだけではなく、(地球環境問題に取り組むための)集団行動に必要な社会資本を構築することにつながる。例えば緑地や自転車専用道路、コンポストサービスやファーマーズマーケットを地域に増やすという共通の目標に向かって行動することは、プラネタリーヘルスにとって効果的である。

持続可能な医薬品の処方

環境に配慮した持続可能な医薬品(EDSP: Eco-directed Sustainable Drug Prescribing)が、一部の医薬品有効成分が環境に与える悪影響を防ぐために提案されている。

予防医療

高齢者だけでなく世界全体の人口が増加する中で医療におけるカーボンフットプリントは改善されず診断や治療の複雑さも増している。予防医療は患者にとって利益があるだけでなく、二酸化炭素需要の高い医療を減らすためにも重要である。

 

 

  1. 2050年カーボンニュートラルに向けた地方自治体の取り組み

第4回のコラムで、2020年10月に日本が「2050年カーボンニュートラル」を宣言したことをお伝えしました。2023年1月時点、全国831の自治体(日本の総人口の98.7%)が、2050年に二酸化炭素実質排出量ゼロを実現すべく取り組むことを「2050年ゼロカーボンシティ」として表明しています。15

また、2022年より環境省は「脱炭素先行地域」の募集を開始しました。「脱炭素先行地域」とは、2050年までの二酸化炭素排出量(家庭などの民生部門の排出量)を実質ゼロに、また2030年までの排出量46%削減(2013年度を基準とした国の目標)を目指す地域を指します。選定された自治体には国から資金面での支援が行われ、2030年までに100地域が選定される予定となっています。第一回目では26地域、第二回目では20地域が選定されています。各地方自治体による2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みの現状については、環境省の「地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト」から確認することが出来ます。16, 17

 

  1. 国内外の自治体による取り組み

海外では既に様々な自治体による環境問題への取り組みがあります。近年、2016年頃から世界中の国や自治体によって同時多発的に行われている取り組みの一つが、気候非常事態宣言(Climate Emergency Declaration)です。気候非常事態宣言は、気候変動による影響を深刻な問題として認識し、緊急かつ効果的な対策を講じる必要性を訴える声明です。2016年に世界で最初に宣言を出したのはオーストラリア・メルボルンにあるデアビン市です。日本では長崎県壱岐市が2019年9月に初めて宣言を出し、日本の国会でも2020年11月20日に「気候非常事態宣言」を決議しました。日本では2022年11月現在、130の自治体が宣言に参加しています。18

2023年2月現在、世界中で40カ国にある2318の地方自治体が気候非常事態を宣言しており、対象地区に住んでいる人口は10億人を超えます。19 宣言自体は拘束力や制度の枠組みではないものの、気候変動に対する認識を高め、気候変動対策の優先度を上げ、政策や市民の行動の方向性を示すなどの効果が期待されています。

長崎県壱岐市

壱岐市は福岡の博多港から北西に高速船で1時間ほどの位置にある島で、人口約2.6万人の自治体です。壱岐市はもともと離島ならではの課題を抱えており、人口減少や後継者不足による社会・経済面での不安がありました。また、環境面では電力を島内の火力発電に頼っているにも関わらず、省エネ意識が薄いことや再生可能エネルギーへの移行が進まないことにも課題があったそうです。ここに、経済・社会・環境の三側面から考えるSDGsの考え方が合致し、SDGs未来都市としての選定に繋がったとのこと。

また、壱岐市では、海水温の上昇により藻場が減少したために50年前と比べて漁獲量が半減したことや、50年に1度の台風や大雨などによる自然災害が立て続いた事から、市をあげて温暖化に取り組む計画を立てていました。2018年に策定した「2030年に向けた低炭素・水素社会の実現ビジョン」において、2030年には再生可能エネルギーと水素エネルギー導入率24%、2050年には100%を目標に掲げた方向性が「気候非常事態宣言」と合致したことから、全国に先駆けて宣言を行う運びとなりました。この宣言を発したことにより、壱岐市では気候非常事態宣言を出したいという島内の団体から相談を受けたり、民間企業による新たな事業計画が提案されるなど、行政運営においてもメリットがあると述べられています。20

 

ワンプラネット・シティチャレンジ(OPCC: One Planet City Challenge

海外の地方自治体における気候変動への取り組みを知るきっかけとして、ワンプラネット・シティチャレンジが挙げられます。ワンプラネット・シティチャレンジは、世界自然保護基金(WWF: World Wide Fund for Nature)が主催する、自治体の気候変動対策に関する国際的なコンテストです。21 WWFは「イクレイ(ICLEI: Local governments for Sustainability、持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会)」との協力の下、2011年からOPCCを開催しています。

OPCCでは、透明性が高く、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出量削減の道筋が示されていることや、目標に合致した野心的で戦略的な行動計画があること(再生可能エネルギー導入目標など)などが審査の際に重視されます。日本ではこれまで東京都、横浜市、京都府、富山県が参加しています。過去にはバンクーバー(2013)、ケープタウン(2014)、ソウル(2015)、パリ(2016)、ウプサラ(2018)が世界優秀自治体として選ばれており、各都市における取り組みは他の都市における環境への取り組みのモデルとなることが期待されています。

神奈川県横浜市

横浜市は、人口約377万人を有する国内最大の基礎自治体です。同市は環境未来都市、環境モデル都市、SDGs未来都市に選定されており、2017-2018期のOPCCにて国内最優秀自治体(東京都は特別賞)に選ばれました。また2050年までに脱炭素化を目指す「Zero Carbon Yokohama」を宣言、2021年には全国約160の自治体が脱炭素社会の実現に向けた具体的な議論を行う「ゼロカーボン市区町村協議会」を会長都市として設立しました。

横浜市は2050年までに市内のエネルギー消費量を約50%削減すること、市内の消費電力の100%を再生可能エネルギー由来の電力へ転換することを目指し、市民や事業者への参加を呼びかけています。横浜市自らも積極的に変化を起こしており、2020年4月から供用を開始した新庁舎の使用電力の100%再生可能エネルギー化を2021年3月に果たしたそうです。他にも安価に家庭用の太陽光発電設備や蓄電池を購入できるキャンペーンや、市内の小中学校65校の屋上に太陽光パネルと蓄電池を設置して電力をまかなう等の取り組みも実行されています。

 

まとめ

本コラムでは、主に国内の地方自治体による環境問題への取り組みについて紹介しました。Lancetでも指摘されているように、公衆衛生の課題に取り組む際、グローバルレベルや国レベルでの連携は重要ですが、理想とする未来を目の前の現実に沿った計画に落とし込み、実行する段階では自治体レベルでの取り組みが不可欠です。日本では公害対策を起点に、環境問題への取り組みを自治体の個性として伸ばし、経済発展につなげてきた好事例がいくつもあることが分かりました。表1では過去の事例を、表2ではプラネタリーヘルスの文脈でコベネフィット・アクションとされる事例を紹介しました。これらの取り組みの一部はすでに国内実施されている可能性もあり、今後も日本各地から好事例が発信されることを期待しています。

2050年カーボンニュートラルに向けて全国の自治体が計画を策定し、実行のステップに向けて動き始める準備が整いつつあります。今後は、これらの計画が適切に実行、評価されることが期待されます。

 

【参考文献】

  1. 「ヘルシー・シティ・パートナーシップ」への参画について. (2019, December 13). 東京都. https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/12/13/01.html
  2. Hancock, T., Capon, A., Dooris, M., & Patrick, R. (2017). One Planet Regions: Planetary Health at the Local Level. The Lancet Planetary Health, 1(3), E92–E93. https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(17)30044-X/fulltext
  3. 三重県と四日市市の初期の対策. 四日市公害と環境未来館. https://www.city.yokkaichi.mie.jp/yokkaichikougai-kankyoumiraikan/about-yokkaichi-pollution/countermeasures/
  4. 公害関連法の整備. 四日市公害と環境未来館. https://www.city.yokkaichi.mie.jp/yokkaichikougai-kankyoumiraikan/about-yokkaichi-pollution/countermeasures/countermeasures09/
  5. 環境モデル都市. (2019, May 31). 熊本県水俣市館環境サイト. https://www.city.minamata.lg.jp/kankyo/kiji00372/index.html
  6. 【水俣市環境ISOマネジメントシステム】. (2019, Jun 6). 熊本県水俣市館環境サイト. https://www.city.minamata.lg.jp/kankyo/kiji00378/index.html
  7. 環境マイスター制度. (2021, May 13). 熊本県水俣市環境サイト. https://www.city.minamata.lg.jp/kankyo/kiji003132/index.html
  8. 第3次水俣市環境基本計画. (2020, Apr 15). 熊本県水俣市環境サイト. https://www.city.minamata.lg.jp/kankyo/kiji0031784/index.html
  9. 公害克服への取り組み. (2022, Jun 30). 北九州市. https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kankyou/file_0269.html
  10. アジアカーボンニュートラルセンター. (2023, Feb 8). 北九州市. https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kankyou/file_0477.html
  11. 環境モデル都市とは 環境未来都市・SDGs未来都市との違い、取り組み事例、一覧も. (2022, Nov 16). Spaceship Earth. https://spaceshipearth.jp/eco-friendly-model-city/
  12. 都市版SDGsレポート. (2018, Jul). 公益財団法人地球環境戦略研究期間. https://www.iges.or.jp/jp/projects/city-reports
  13. SDGs未来都市、北海道・下川町が決めた7つのゴール。(1). (2021, Jul 19). 未来をつくるSDGsマガジン ソトコト. https://sotokoto-online.jp/local/230
  14. Redvers, N. (2021). Patient-Planetary Health Co-Benefit Prescribing: Emerging Considerations for Health Policy and Health Professional Practice. Front Public Health, 9: 678545. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8119779/
  15. 地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況. (2023, Feb). 環境省. https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html
  16. 脱炭素先行地域. 脱炭素地域づくり支援サイト(環境省). https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/
  17. 地方公共団体実行計画とは. 地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト(環境省). https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/
  18. 気候非常事態を宣言した日本の自治体. イーズ未来共創フォーラム. https://www.es-inc.jp/ced/index.html
  19. Climate emergency declarations in 2,320 jurisdictions and local governments cover 1 billion citizens. (2023, Mar 22) Climate Emergency Declaration. https://climateemergencydeclaration.org/climate-emergency-declarations-cover-15-million-citizens/
  20. 自治体初の「気候非常事態」を宣言した長崎県壱岐市に学ぶ、環境問題に取り組むための“対話力”. (2020, Jan 20). SMOUT移住研究所. https://lab.smout.jp/area_japan/nagasaki/iki-shi/interview-ikishi-2524
  21. ワンプラネット・シティチャレンジ〜地球1個分で暮らせる都市づくり〜参加自治体への手引書 2021-2022. https://www.wwf.or.jp/activities/data/20210603climate01.pdf

 

 【執筆者のご紹介】

本多 さやか(日本医療政策機構 プログラムスペシャリスト)
ケイヒル エリ(日本医療政策機構 インターン)
鈴木 秀(日本医療政策機構 アソシエイト)
菅原 丈二(日本医療政策機構 シニアマネージャー)

調査・提言ランキング

記事・講演・報道一覧に戻る
PageTop