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【HGPI政策コラム】(No.16)-こどもの健康チームより-こどもの健康コラム1-成育基本法の成立とその背景

【HGPI政策コラム】(No.16)-こどもの健康チームより-こどもの健康コラム1-成育基本法の成立とその背景

日本医療政策機構では2020年度より「こどもの健康」を医療政策アジェンダの1つと位置づけ、活動をはじめました。

2019年12月に「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(通称:成育基本法)が施行されました。これにより、こどもの出生後から成人期までの成育過程において、またすべての妊娠期から子育て期まで切れ目のない医療・福祉等の提供、支援を目指す動きが高まっており、2020年2月から厚生労働省 成育医療等協議会での具体的な議論も始まっています。

こどもの心身の健康、妊産婦・保護者を社会全体が支援する体制を整えることは我が国の未来にとって急務です。生殖、周産期・新生児期の母子のケア、思春期の心の健康、医療的ケア児のサポート、虐待やこどもの貧困・栄養問題など、他にも検討すべき課題が山積しています。当機構では、こうした社会情勢を踏まえ、こどもの健やかな成長に貢献すべく、調査研究や情報発信、国内外の産官学民のステークホルダーの議論を喚起していきます。本プロジェクトへのご賛助、ご協力につきましては、常時募集を行っておりますのでご連絡を頂戴できますと幸いです。

まずは、活動の一環として、本分野に関する政策コラムの発信を開始します。

 

日本医療政策機構
こどもの健康チーム一同
担当:吉村
お問い合わせ先:info@hgpi.org

 

 

コラム1 – 成育基本法の成立とその背景

<POINT>

・成育とは出生から新生児、乳幼児期、学童期及び思春期を経て大人になるまでの一連の過程のことである

・成育基本法は成育過程にある者やその保護者等が必要な医療を切れ目なく受けられるようにするための基本法である

・成育基本法が成立された背景には、少子高齢化の急速な進行、既存の母子保健行政の縦割り構造による非効率性やケアの分断が存在する

 

はじめに

2018年12月、「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(通称:成育基本法)が参議院本会議で可決し成立しました※1。初回である本稿では、法律が制定された背景、およびわが国の小児保健についてこれまでの取組みを含めてご紹介したいと思います。

 

「成育」と「成育医療」の定義

成育とは、出生に始まり、新生児期、乳幼児期、学童期及び思春期の各段階を経て、大人になるまでの一連の成長過程を意味します(図1)。成育「医療」は妊娠、出産および育児に関する問題、成育過程の各段階において生じる心身の健康に関する問題等を包括的に捉えて適切に対応する医療及び保健、並びにこれらに密接に関連する教育、福祉等に関するサービスを指しています※2※3

 

図1 成育の概念

出典:厚生労働省「最近の母子保健行政の動向」2019年3月19日

 

成育基本法成立の背景

1991年以降、日本小児科医会の検討委員会にて、子どもの権利を認め、子ども自身が健全に成長していくためのより良い環境づくりと、社会全体でそれを支えていくシステムを制度化する法律の必要性が議論され、1994年の日本小児科医学会のシンポジウムにおいて「小児保健法」の成立が提唱されました。そこでは、少子高齢化が急速に進行したわが国においては、医療・保健・福祉行政が縦割りとなっており、子どもの健全な育成を保証するための社会的施策が不十分で、家庭、職場、社会環境の整備が立ち遅れていると指摘されました※4。子どもが健全に成長していく環境づくりと、子育てを社会全体で支えていくシステムの早急な構築が必要であり、21世紀を担う小児保健・医療の根底となる医療、保健、福祉を包括した法制度の必要性が訴え、小児保健法の成立が提唱されています。また、医療提供体制や保健福祉サービスの地域間格差が指摘され、また母子保健や学校保健など支援の連続性に関して問題を抱えていることにも言及されました。

そして、2001年から、「第1次健やか親子21」が実施されました※5。これは21世紀の母子保健の主要な取組を提示するビジョンとして、関係者、関係機関・団体が一体となって、その達成に向けて取り組む国民運動計画であり、健康日本21の一翼を担うものとされます。第1次健やか親子は14年間の計画であり、4つの課題設定が行われました。即ち、思春期の保健対策の強化と健康教育の推進、妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援、小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備、子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減です。最終報告では設定された約70の指標のうち、80%は改善したものの、十代の自殺率上昇と低出生体重児の増加が悪化した指標として報告されました※6。2015年からは第1次の結果報告に基づいて、第2次健やか親子21が開始となっています。第2次健やか親子21に掲げられた課題には、切れ目のない経産婦・乳幼児への保健対策、学童期・思春期から成人期に向けた保健対策、子どもの健やかな成長を見守り育む地域づくり、育てにくさを感じる親への支援、妊娠期からの児童虐待防止対策があります(図2)。2024年度までで第2次健やか親子21は終了の計画です。

このように小児保健の充実に取り組む過程で、母子保健行政の縦割りを解消し、子育てを孤立させず、子どもが心身共に健やかに育つことが保障される社会づくりのために、法整備の必要性が議論されました。安心して女性が妊娠・ 出産し、安心して養育者が子育てを行い、子どもが地域・社会の中で健やかに成長し、次の世代を生み出す健康な成人に育っていくことが保証される社会を形成することは重要な国家的課題です。そのため、支援対象は単にこどもに限らず、生殖・妊娠期から老年期までのライフサイクルを意識した支援が必要だと考えられ、法の名称も子ども保健法から成育基本法へと改名されました。妊婦への支援から出産後の子ども成長加療における切れ目のない支援が保障される社会を形成することが極めて重要な国家的課題であると捉え、2018年12月に成育基本法の成立へとつながったのです。

 

図2 健やか親子21(第2次)の重点課題と基盤課題

出典:健やか親子21ホームページ

 

 

【参考文献】

※1:厚生労働省(2018)「官報 号外第276号」
※2:厚生労働省「国立成育医療センター(仮称)整備基本計画検討会報告書」
※3:伊藤 拓(1999)「成育医療の概念と成育医療センター構想」、医療vol. 53、no. 1、pp. 33-34
※4:松平 隆光(2019)「第30回日本小児科医会総会フォーラム 成育基本法の成立とこれから」 日本小児科医会
※5:厚生労働省「健やか親子21(第2次)」ホームページ
※6:厚生労働省(2013年11月)「健やか親子21」最終評価報告書


【執筆者のご紹介】
島袋 彰(しまぶくろ あきら)(日本医療政策機構 インターン/ハーバード公衆衛生大学院 公衆衛生修士課程(社会行動科学)在学中)


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