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HGPI政策コラム(No.17)-こどもの健康チームより-「こどもの健康コラム2 – チャイルド・デス・レビューの有用性」

<POINT>

・チャイルド・デス・レビュー(CDR: Child Death Review)は不幸にも亡くなってしまった子どもの事例に関して、必要な情報を収集・登録し、詳細な検討を行うことで防ぎうる死の予防へつなげる検証制度である

・CDRはわが国ではまだ体制化されていないが、いくつかの先行研究から諸外国の報告と同様に、防ぎうる子どもの死亡が存在することが示唆されている

・CDR体制化には医療機関、教育機関、行政機関、警察などが協働し、情報収集および検証体制をそれぞれの地域で構築していくことが求められる

 

はじめに

2018年12月に公布された成育基本法(正式名称:成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律)※1は、「成育過程にある個人の尊厳が重んぜられ、心身の健やかな成育が確保されること」を理念に掲げています。この法律の中では、成長過程に関する定義、基本理念、国・地方公共団体・保護者・医療関係者等の責務などに加えて、記録の収集等に関する体制の整備が内容に含まれています。今回はそのなかで、記録の収集や分析において課題を抱え、国レベルで制度化が進められているチャイルド・デス・レビューについて取り上げます。

 

チャイルド・デス・レビュー(CDR)とは

チャイルド・デス・レビュー(CDR: Child Death Review)は予防のための子どもの死亡登録・検証制度のことです※2。まだ正式な訳語が決まっておらず、「子どもの死因究明」や「予防のための子どもの死亡検証」など複数の呼称が存在します。CDRは子どもが死亡した時に、複数の専門機関や専門家(医療機関、警察、消防、その他の行政関係者等) が、既往歴や家族背景、死に至る直接の経緯等に関する様々な情報を基に検証を実施し、効果的な予防策を導き出し予防可能な子どもの死亡を減らす介入を行うことを目的としています。CDRは多くの国々で制度化され施行されています。CDRの対象となる死亡調査制度は多岐にわたっており、日本で議論されているCDRは継続的かつ網羅的な制度となることを目指しています。

 

米国におけるCDRの開始

CDRの歴史は米国に始まります。1978年にロサンゼルスで最初に子どもの死亡登録・検証制度が始まりました。 CDRが認知された契機は1993年のミズーリ州からの報告です※3。5歳未満の死亡例384人について検証したところ、その約3割(121人)が虐待によるものでした。しかし、121人のうち死亡診断書に虐待と記載されていたのは48%、州の児童相談所が認知していたのは79%、犯罪統計として特定できたのは39%、事件として起訴されたのはわずか1例のみでした。その後、CDRが立法化され、18歳未満の全ての死亡の検討が義務付けられました。これらは虐待による死亡調査のみならず、乳児突然死症候群や死因不明、虐待死や予防可能と考えられる特定の死亡を対象とするようになっています。死亡調査チームは、医師の他に警察、児童保護サービス、検察官、弁護士、監察医などの多職種から構成されます。

 

日本におけるCDRの遅れと多くの防ぎうる死の存在

一方、諸外国に比較して日本におけるCDRの法整備は遅れており、情報収集や検証を行う体制は確立されていません。わが国でこどもの死亡の全体把握は、死亡診断書をもとに提出する死亡届のみです。子どもの死亡に関する詳細な報告が出始めたのは2010年代に入ってからになります。日本小児科学会の子どもの死亡登録検証委員会では、群馬県、東京都、京都府、北九州市の4地域を対象として2011年の死亡事例を取り上げて後ろ向きパイロット研究を実施しました※4。この研究では、死亡予防可能性が中等度以上と判断された事例は全死亡事例の27.4%にのぼっていました。また、虐待可能性が中等度以上と判断された事例が全死亡事例の7.3%、虐待の可能性が高いと判断された事例が3.0%存在していました。別の研究では、全国の小児科専門医研修施設において、2014〜2016年の18歳以下の小児死亡例に対して診療録(医療機関におけるカルテ)の後ろ向き調査※注と検証が行われました※5。163施設で2,348例が対象となり、638例(27.2%)は外因または不詳死、118例(5.0%)は養育不全の関与が疑われ、932例(39.7%)は死亡予防可能性が中等度以上あるいは判定不可のため、計1,333例(56.8%)がさらなる詳細検証の望ましい例と判定されました。これらの結果から、諸外国の研究報告と同程度の防ぎうる死が存在することが示唆されました。

※注 後ろ向き調査:調査の対象者に関する情報を過去にさかのぼって、原因への曝露の有無・程度などを調査し、比較する研究のこと。この場合、死亡患者の診療録の記載を詳細に検討し、何らかの死亡につながる要因や原因がなかったかを調査。

 

CDR制度化に向けた昨今動き

CDR制度化へ向けたここ数年間の動向としては、2017年の国会で成立した改正児童福祉法の衆議院の附帯決議で、虐待死の防止のため、あらゆる子どもの死亡事例について死因を究明するCDRの導入を検討することを採択しています。2018年から19年にかけて成立した成育基本法、死因究明等推進法を踏まえて一部の都道府県でモデル事業を開始し、2022年に国レベルでのCDR制度化を目指しています。
有効なCDRには、十分な調査に基づいた綿密な検証によって臨床の知を結集し、具体的な提言に結びつけることが期待されます。死亡診断書・死亡届に記載される事項は非常に限られることから、これらのデータ分析では不十分であるとされます。CDRの制度構築の上で、教育機関、医療機関、行政機関、警察などの専門機関に分散された情報を適切に収集する上で障壁をどのように乗り越えていくかは重要な視点となります。又、検証のための体制構築をそれぞれの地域で検討して構築していくことが求められます。わが国で防ぎうる子どもの死を減らすために、いちはやくCDRの体制が構築されることが望まれます。

 

 

【参考文献】

※1:厚生労働省「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」
※2:溝口 史剛(2018)「Child Death Review – 日本小児科学会と厚労科研研究班の取り組み -」小児保健研究、巻77 第 2、pp. 131-133
※3:E. B. e. al(1993)「The Missouri child fatality study: underreporting of maltreatment fatalities among children younger than five years of age」Pediatrics、 vol. 91、pp. 330-337
※4:溝口 史剛(2016)「日本小児科学会子どもの死亡登録・検証委員会 委員会報告. パイロット4地域における、2011年の小児死亡登録検証報告」日本小児科学会雑誌、vol. 120、no. 3、pp. 662-672
※5:沼口 敦(2019)「わが国における小児死亡の疫学とチャイルド・デス・レビュー制度での検証における課題」日本小児科学会雑誌、vol. 124、no. 11、pp. 1736-1750

 

【執筆者のご紹介】
島袋 彰(しまぶくろ あきら)(日本医療政策機構 インターン/ハーバード公衆衛生大学院 公衆衛生修士課程(社会行動科学)在学中)


HGPI 政策コラム(No.16)-こどもの健康チームより->


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