【開催報告】第60回特別朝食会「人口急減社会における持続可能な社会保障の再設計」(2025年11月28日)
日付:2026年1月28日
タグ: 特別朝食会
この度、増田寛也氏(令和国民会議(令和臨調)共同代表/株式会社野村総合研究所 顧問)をお招きし、第60回特別朝食会を開催いたしました。
本会合では、日本の将来に向けた様々な提言活動を展開している増田氏に、人口急減社会における持続可能な社会保障の再設計についてご講演いただきました。
<講演のポイント>
- 2040年に向けた人口減少と高齢化の進行、特に過疎地域と都市部での医療・介護ニーズの地域差拡大を見据え、地域の実情に応じた医療提供体制の再編・連携(地域医療構想の実現)を急ぐ必要がある。
- 人口構造の変化に伴い、2040年には社会保障給付費が約190兆円に達すると予測される(約50兆円の増加見込み)ため、現役世代の負担増を抑制し、現役世帯並みの資産を保有する高齢者には窓口負担割合の引き上げ(3割化など)を求めるなど、負担能力に応じた公平な制度設計が不可欠である。
- 限られた財源と医療・介護資源を有効活用するため、現役世代と高齢世代の負担と給付の公正性・持続可能性・効率性を重視した全世代型社会保障への総合改革を進める必要がある。これは、医療費・介護費のコスト抑制(地域医療連携推進法人の活用やリフィル処方箋の導入など)を通じて、現役世代の所得や生活水準の維持を図ることを目的とする。
■2040年に向けた人口動態の変化
人口構造の変化は、人口ピラミッドの形状からも明確である。1965年には正三角形型で、若年層が厚く高齢者人口は小規模であったが、2050年には75歳以上人口が大幅に増加し、いわゆる「つぼ型」と呼ばれる構造が顕著となると予測できる。出生率低下の進行により、この高齢化構造はさらに強まる見通しである。その結果、従来の現役世代中心の負担構造は維持が困難となるため、資産を有する高齢者を含め、広範な層による応能負担の重要性が増している。
社会保障制度に関しては、2040年が将来見通しの重要な節目と位置づけられている。生産年齢人口の減少、団塊の世代の全員が後期高齢者に到達すること、単身高齢者の増加、そして2035年前後には単身高齢者の中心が就職氷河期世代へ移行することで、資産状況の厳しい高齢単身世帯が増えることなどが想定されている。くわえて、出生数の減少も深刻である。日本人の出生数は2023年に68.6万人まで低下している。また、全体の合計特殊出生率は現在約1.15であり、今後さらに低下する可能性がある。1960年代の丙午のような一時的な要因ではなく、恒常的な低出生率のもとで出生数が減り続けている点が特徴的である。
■社会保障制度の現状と取り巻く課題
日本の社会保障給付費は長期的に増加しており、予算規模においても過去数十年で大きな変化が見られる。1990年代以前は公共事業費の4分の1から5分の1程度にとどまっていたが、現在では年金を中心に医療・介護などを含めて総額約140兆円に達しており、社会保障給付費の規模を国内総生産(GDP: Gross Domestic Product)との比率で評価すると、2025年時点で22.4%に相当する。
今後の見通しとして、2040年には社会保障給付費が約190兆円に達すると予測され、GDP比の比率も現状よりやや上昇する見込みである。ただし、長期的な経済成長が限定的である場合、社会保障給付費の増加に対する負担感が高まる可能性があり、低成長やデフレの長期化が、過去に社会保障費負担の増大に影響したことが指摘されている。
また、社会保障の需要構造にも重要な変化がある。特に高齢者、なかでも85歳以上の人口は増加が見込まれ、医療と介護の複合的なニーズが顕著になる。この年齢層は医療機関への受診回数が増えるとともに、介護サービスの利用も増加するため、医療と介護を統合的に考える必要がある。
くわえて、救急搬送や在宅医療の需要も増加する見込みである。85歳以上人口の救急搬送件数は2040年にかけて約75%増加すると予測され、在宅医療の需要も地方を中心に約6割増加する見込みである。そのため、地域医療や介護サービスの供給体制の確保が課題となる。
■人口減少の地域差と医療体制の課題
日本全国の市区町村の多くで人口減少が進行しており、東京など一部の都市部を除き、ほぼ全域で人口が減少すると見込まれている。国土交通省の国土審議会資料によれば、2050年までに約3割の市区町村で人口が現在の半数以下になると推計されている。特に中山間地域や過疎地域では人口の減少が顕著であり、これらの地域における医療提供体制の維持は困難になると予想される。
一方で、住民の生活意向としては、長年慣れ親しんだ地域に居住し続けたいという希望が強く、医療提供効率の観点から山間部から平地への移住が望ましい場合でも、現実的には困難なケースが多い。このため、中山間地域の医療体制については、居住者の意向を考慮した上での適切な計画が必要である。
また、都市部と過疎地域での医療提供体制には大きな差がある。都市部では85歳以上の高齢者を中心に、医療と介護の複合的なニーズが今後も増加する。一方、過疎地域では生産年齢人口の減少により、医療需要自体が大幅に減少することが予測される。この地域差により、医療資源の配分や提供体制には不均衡が生じることが懸念される。
外来患者数に関しても、既に多くの医療圏でピークに達しており、新規開業や医師の配置は都市部に集中する傾向が強まる見込みである。また、人口減少は全国一律ではなく、東京への人口集中など社会的要因による増減も影響する。このため、地域の人口構造や医療資源の状況に応じた柔軟な医療体制の構築が必要である。
これを受けて、地域医療構想の実効性を高めるためには、都道府県知事に明確な権限と責任を付与し、地域の実態に即した医療提供体制を計画・実行することが重要である。特に、ベッド数の適正化や医療資源の効率的配分を進めることで、2040年に向けた地域医療改革の実現が求められている。
■社会保険料負担と全世代型社会保障改革の課題
日本の社会保障制度において、現役世代の負担感は重要な課題となっている。2025年時点における協会けんぽの医療保険料率は報酬の約30%に迫っており、本人負担はこの半分である15%程度となっている。社会保険料全体では年金、医療、介護が主な構成要素であり、特に年金については2017年にマクロ経済スライドを導入し、保険料負担を18.3%で固定しているため、急激な負担増の問題は抑制されている。しかし、介護分野では人材処遇の改善が依然として課題であり、所得水準の向上が必要とされる。
社会保障改革の実現には、医療費や介護費のコスト抑制と、現役世代の可処分所得の確保との両立が求められる。医療費の効率化策として、地域医療連携推進法人の活用や外来の包括払い・リフィル処方箋の導入などが検討されている。さらに、診療報酬や人件費は物価高や人材処遇改善と連動させる必要があるため、特定の職種や個人に偏った所得増加とならないよう、透明性のあるデータ管理が重要である。
全世代型社会保障制度は、2040年を見据えた医療・介護提供体制の総合改革を目指すものである。この制度は税と社会保障の一体改革を基盤としており、現役世代と高齢世代の負担と給付の、公正性、持続可能性、効率性が重視されている。それらを実現するため、現役世代の保険料料率の上昇を抑制し、持続可能性を確保することを目的とした施策が必要とされている。また、社会保障制度改革における各施策の優先順位を明確化し、期限を設定して実行することが、国民の信頼確保のために重要である。特に介護分野では利用者負担の適正化が急務である。
全世代型社会保障改革は、医療・介護サービスの質を維持しながら、年齢にかかわらず所得や資産に応じた公平な負担の仕組みを構築することを目的としており、 透明性のあるデータと計画的な制度設計に基づいて実行されることが求められている。
■地域医療体制の持続可能性と全体最適化の必要性
日本の医療制度は、歴史的に中小規模病院の独立採算型経営に支えられてきた。しかし、今後の人口減少や地域差の拡大を考慮すると、個々の病院の独立採算では地域医療を維持することは困難となる可能性が高い。将来的には、複数の病院をまとめて区切った地域を単位(エリア単位)として病院を管理・運営し、経営のバランスを考慮する「エリアマネジメント」の導入が必要とされる。これは、中山間地域の医療維持や、都市部と地方の医療提供格差の解消に資するものである。
また、診療報酬についても全国一律ではなく、人口密度や地域特性に応じた地域別診療報酬の検討が求められる。人口減少が進む地域では医療水準を維持しつつ効率的な運営を実現するための柔軟な制度設計が必要である。
さらに、社会保険料の負担構造についても、企業と個人の折半ルールや内部留保の状況を踏まえ、必要に応じて企業負担を見直すことが、制度の持続可能性を確保する上で重要である。医療・介護制度の改革は、時間軸と地域軸の双方を考慮した全体最適化の視点で進めることが求められ、立法府や関連会議体が冷静かつ計画的に議論し、実行可能な制度設計を行うことが重要である。
講演後の会場との質疑応答では、人口減少と高齢化が進む日本における、地域医療の存続と社会保障制度全体の持続可能性を確保するための制度改革について、活発な議論が行われました。
(写真:井澤 一憲)
■プロフィール
増田 寛也(令和国民会議(令和臨調)共同代表/株式会社野村総合研究所 顧問)
東京大学法学部を卒業後、建設省へ入省。1995年から岩手県知事(3期12年)、総務大臣を歴任。東京大学公共政策大学院客員教授や日本郵政株式会社社長としても活動し、2025年6月から現職。「日本創成会議」座長、「令和国民会議(令和臨調)」共同代表、「未来を選択する会議」共同代表を務めるなど、人口減少問題をはじめ日本の将来に向けた様々な提言活動を展開している。主な著書に『地方消滅【東京一極集中が招く人口急減】』、『東京消滅-介護破綻と地方移住』、『地方消滅【創生戦略篇】』(共著)、『地方消滅 2』(人口戦略会議編著)。
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