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【開催報告】第58回特別朝食会「AMED第3期に向けての挑戦と展望」(2025年7月15日)

【開催報告】第58回特別朝食会「AMED第3期に向けての挑戦と展望」(2025年7月15日)

この度、中釜斉氏(国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED: Japan Agency for Medical Research and Development)理事長)をお招きし、第58回特別朝食会を開催いたしました。

2025年4月より、AMED理事長に就任した中釜氏に、AMEDの今までの成果と第3期の方針と取組についてご講演いただきました。


<講演のポイント>

  • AMEDは設立から10年で医療研究の基礎から実用化まで一貫した支援体制を構築した。AMEDは年間約1,600億円を投じ、主に実用化フェーズに近い研究を重点支援しつつ、基礎から応用まで幅広い研究を推進してきた。先進的研究開発戦略センター(SCARDA)の設置や国際連携強化を通じて、感染症への備えやグローバル展開も視野に入れた体制整備を進めており、研究成果の実用化を重視した支援を実施している。
  • 2025年4月から始動しているAMED第3期では、第2期の6つの統合プロジェクト体制を継続・発展させ、医薬品、医療機器、再生医療、感染症などを中心に、データ活用や臨床加速を通じた実用化を推進していく。運営面では、事業間連携、産学協創、基礎研究の充実、国際展開、医療DXを柱に、優れたシーズを効率的に実用化へと繋げる体制を強化していく。
  • 国内外のベンチャーキャピタル(VC)との連携や国際的な頭脳循環の促進を通じて、日本の創薬エコシステムを国際的な創薬エコシステムに接続していくことを目指す。公的資金と民間資金の橋渡しを担う仕組みを構築し、国内外での日本の創薬エコシステムの強化を図っていく。

■AMEDの概要とこれまで(第1期、第2期)の成果について

AMEDは、医療分野における研究開発を基礎から実用化まで一貫して支援することで、研究開発の推進を後押しすること、医療分野の研究開発に活用できる環境を整備することを目的として活動している。現在、AMEDは設立10年を経て、2025年4月より第3期が始動している。

研究開発の推進における成果
AMEDは年間約1,600億円を投じて約2,600件の研究課題を支援しており、そのうち新規採択は約25〜30%を占めている。研究費の配分では、年間1,000万円から2,500万円の課題が最も多く、次いで2,500万円から5,000万円の課題が続いている。これは、実用化を目指す研究が開発後期に進むにつれて多額の資金を要するためであり、AMEDは他の公的機関による研究助成と比較しても金額が大きいことが特徴である。実際に、AMEDの研究費を獲得するには、平均して約2年11ヶ月の準備期間や他の研究資金での研究の蓄積が必要とされている。研究実績が蓄積され、実用化研究の段階でAMEDに申請・採択されている状況が構築されている。

一方で、育成しながら成果を創出していく仕組みも重要であると認識されており、開発フェーズ毎の課題採択数の割合は、基礎的・応用フェーズにある課題が大きくなっている。研究費の約6割は大学等の研究機関に支給され、次いで独立行政法人・国立試験研究機関、民間企業の順に配分されている。疾患領域別では、がん、次いで新興・再興感染症を含む感染症対策に重点が置かれている。その他、循環器系疾患や神経系疾患などにも多くの研究費が支給されている。

主な成果として、具体的には、基礎研究として6,000件以上の論文が発表され、応用研究では357件の非臨床概念実証(PoC: Proof of Concept)の獲得、434件の臨床試験が実施された。このうち40件が薬事承認を受け、実用化に至っている。研究の「出口」を明確にし、各モダリティ(創薬手法)を横断する形で研究支援することがAMEDに期待されている。

先進的研究開発戦略センター(SCARDA)の設置
先進的研究開発戦略センター(SCARDA: Strategic Center of Biomedical Advanced Vaccine Research and Development for Preparedness and Response)は、2021年6月1日に閣議決定された「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を踏まえ、感染症の有事への備えが重要であるという認識の下、AMED内に設置された。

その主な3つの機能として、1. 広範な情報収集・分析、2. 戦略的な意思決定、そして3. 機動的なファンディングが挙げられる。ワクチン開発の推進に向けたワクチン戦略として、世界トップレベル研究開発拠点整備に515億円、新規モダリティ研究開発事業に1,500億円、そして創薬ベンチャーエコシステム強化事業関連予算に500億円が充てられ、有事の際に速やかに治療薬開発に繋げられるような体制準備を実施している。

日本の研究国際連携の取り組み
現在、日本の科学技術における国際的な位置付けの低下が懸念されている。これに対して、AMEDには、財政的支援にとどまらず、国際的な頭脳循環や国際連携、国際的な共同研究の実用化への展開に関する支援も期待されている。

例えば、米国国立衛生研究所(NIH: National Institutes of Health)との連携は、1965年の日米医学協力計画から始まり、60年以上継続している。欧州とは、感染症に関して欧州保健緊急事態準備・対応総局(HERA: Health Emergency Preparedness and Response)との協力を取り決めた。その他、共同研究や協力覚書(MOC: Memorandum of Cooperation)、e-ASIA共同研究プログラムに基づいて、様々な国と連携していく体制を構築している。

 

■AMED第3期における取組の方向性について

研究開発のさらなる推進に向けた統合プロジェクト体制景
AMED第2期において採用されたモダリティ等を軸とした統合プロジェクト体制については、これまでの成果や課題を踏まえつつ、基本的には第3期においても継続される。これにより、研究の一貫性を保ちつつ、さらなる発展と実用化を目指す体制を維持することができる。具体的には、「医薬品」、「医療機器・ヘルスケア」、「再生・細胞医療・遺伝子治療」、「ゲノム・データ基盤」、「疾患基礎研究」、「シーズ開発・研究基盤」の6つの統合プロジェクトに沿って、各疾患領域における研究開発が推進されてきた。そして、開発の目的がさらに明確化され、研究者の間に「出口」を意識した研究姿勢が醸成されることに寄与してきた。また、統合プロジェクトの枠組みは、事業間の連携強化にも寄与した。

AMED第3期でも、上記の統合プロジェクト体制の一部が踏襲され、主要プロジェクトとして「医薬品」、「医療機器・ヘルスケア」、「再生・細胞医療・遺伝子治療」、「感染症」が設定された(図)。さらに、これらを支えるデータ利活用およびライフコースプロジェクトが展開される。シーズ開発や基礎研究との連携を通じて、実用化への橋渡しおよび臨床開発の加速化を図る。最終的に、研究開発の「出口」として、イノベーションの創出や創薬エコシステムの強化に繋がることが期待されている。疾患領域としては、「がん」、「難病・希少疾患」、「ライフコース」(生活習慣病など、人生の各段階で蓄積されるリスクに関連する疾患を包括)の3分類に大別される。

2025年度の予算規模は、当初予算で1,232億円に加え、基金事業からの資金および理事長裁量経費(調整費)として措置される175億円を含め、総額で約2,000億円規模での運用が見込まれている。予算配分においては、医薬品プロジェクトへの配分が最大となっている。

 

 

AMEDの今後の運営方針
AMED第3期の運営方針として、以下の取り組みが掲げられている。

  1. 事業連携の取り組みの強化
    各事業を個別に育成するのではなく、事業間の連携を強化することにより、研究開発の各フェーズ間に存在する課題の解消を図り、最終的な実用化への円滑な移行を目指す。そのために、AMED内でペアリング、マッチングの仕組みを構築・導入する取り組みが進められている。
  2. 研究開発の初期段階からの産学協創・企業導出
    研究開発の初期段階より企業が関与することで、事業化の成功確率を高めることを目指す。
  3. 社会実装・貢献へつながる成果創出のための基礎研究の充実
    社会実装を見据えた基礎研究の重要性を踏まえ、継続的かつ安定的な支援を通じて、成果創出に資する基礎研究の充実を目指す。
  4. 国際展開の推進
    国際的な研究ネットワークを効果的に活用することで、シーズ開発と各事業との連携を深化させ、優れた研究成果を創出する基盤を整備する。また、世界のニーズを積極的に取り入れつつ国内での研究開発を進めることで、日本の医薬品市場が国際的にも注目されるような環境の構築に、AMEDが積極的に関与していくことが重要である。
  5. 医療分野の研究開発のDX
    人工知能(AI: Artificial Intelligence)、量子技術等を活用し、パーソナル・ヘルス・レコードの利活用やビッグデータに基づく新たなエビデンス創出および実証を通じて、健康長寿社会実現に寄与することを目指す。

これらの方針のもと、国際的な知見も対象とした情報収集、事業間連携における課題の解消、ならびに企業への橋渡し支援を通じて、優れたシーズの実用化をより効率的に促進する体制の構築を目指す。

 

■最近の取組

既存の研究課題の強化と事業化を加速させる「調整費」による取り組み
AMEDの理事長裁量経費である「調整費」は、既存の研究課題の推進強化および事業化の加速を目的として活用される予算である。当該予算は、AMED内部での議論に加え、関係省庁との協議を経て、その有効な活用が図られている。2025年度における具体的な活用事例として、以下の3点が挙げられた。

  1. 小児先天性心疾患患者における手術設計を支援するシステムプログラムの開発に係る取り組み
    小児の心臓血管構造には個人差が大きく、個別化された手術設計が求められる。開発されたプログラムの海外展開を見据え、調整費を活用し、海外の薬事規制に対応した臨床試験プロトコルの作成が支援された。これにより、日本における先進的な医療支援システムの国際展開が促進されることが期待される。
  2. 統合失調症の病態解明に係る研究開発
    統合失調症の病態解明を目的として、記憶形成時におけるシナプスの挙動および関連分子の研究が進められている。調整費の活用により、新たな分子設計法を開発した別の研究グループとの連携が促進され、これを通じて、統合失調症に対する新たな治療標的の同定および治療薬の開発が進展することが見込まれる。
  3. 重症新生児に対する迅速なゲノム診断のための基盤構築および拡充
    重症新生児を対象としたゲノム診断においては、既存の診断体制が東日本に1拠点のみであったため、データの保全性や対応体制に課題があった。調整費を活用し、西日本に新たな拠点を増設するとともに、データの安全性確保と遺伝カウンセリング体制の強化が図られている。この結果、ゲノム診断の迅速化・効率化が進み、診断率の向上が期待される。

創薬エコシステムの強化
研究の実用化・市場投入の際には、多額の資金が必要となる。しかし、その資金を賄うことは、AMEDの公的資金だけでは困難であり、ベンチャーキャピタル(VC: Venture Capital)や投資家、製薬企業の協力が必要である。研究段階早期における民間資金の獲得を支援するため、日本の創薬エコシステムを強化することが必要である。こうした状況を踏まえ、AMEDは以下の取り組みを新たに進めている。

人材育成と国際頭脳循環の促進
研究者とVCや投資家、製薬企業を繋ぐコーディネート機能および、それを担う人材プールの不足を課題と捉え、国際的な人材の積極的な受け入れを通じて、日本の創薬エコシステムの発展を推進している。

認定VCとの連携
AMEDでは、創薬分野への出資実績等を有する30のVCを「認定VC」として選定しており、創薬ベンチャーへの補助金交付と並行して、認定VCによる支援を組み合わせることで、医薬品開発の加速化を図っている。なお、認定VCの約半数は海外のVCであり、日本のシーズを国際的に発信する場の創出と、海外投資家からの支援獲得に資する取り組みとなっている。

国内外のエコシステムの連携
国内におけるシーズの育成を基盤としつつも、海外の創薬エコシステムとの連携を通じたグローバルな創薬の推進も重要である。海外の関係機関や投資家等に対し、日本のシーズを継続的かつ丁寧に紹介する活動を展開しており、これが日本の創薬エコシステムの発展に資するものと期待されている。あわせて、国内製薬企業の一層の参画も促進されることが望まれる。

 

講演後の会場との質疑応答では、事業化促進に向けた評価体制の強化の必要性、海外展開促進に向けた具体的な体制強化の内容、人材育成の方法、DXの活用促進を目指す医療研究分野等について、活発な議論が行われました。

(写真:井澤 一憲)


■プロフィール

中釜 斉(国立研究開発法人日本医療研究開発機構 理事長)

1982年東京大学医学部卒業。1990年同大学医学部第三内科助手。1991年から米国マサチューセッツ工科大学がん研究センター・リサーチフェロー。1992年医学博士号取得。1995年以降国立がんセンター研究所発がん研究部室長、生化学部長、副所長、所長を歴任。2016年4月より国立がん研究センター理事長・総長。2025年4月より国立研究開発法人日本医療研究開発機構理事長。ヒト発がんの環境要因、及び遺伝的要因の解析とその分子機構に関する研究に従事。分子腫瘍学、がんゲノム、環境発がんが専門。

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