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【開催報告】第48回特別朝食会「コロナ対応と2040年から考える医療政策」(2022年9月12日)

【開催報告】第48回特別朝食会「コロナ対応と2040年から考える医療政策」(2022年9月12日)

この度、伊原和人氏(厚生労働省 保険局長)をお招きし、第48回特別朝食会を開催いたしました。2021年6月まで医政局長として新型コロナウイルス感染症の対応にも当たられた伊原氏に、2040年の人口構造変化を見据えた医療政策についてご講演いただきました。


<講演のポイント>

  • 新型コロナウイルス感染症の対応で明らかになった保健医療提供体制の課題を踏まえ、次の感染症危機に備えるための対応として、秋の臨時国会に感染症法の改正案が提出される見込みとなっている
  • 2040年に向けて、日本の高齢者人口の伸びは落ち着き、現役世代は急減することが予想されている中で、担い手不足・人口減少の克服に向けた取り組みが重要となる。医療提供体制に関しては、2040年に向けた医療需要の変化を見極めつつ、それぞれの地域の実情に応じて、産官学民で改革に取り組んでいくことが必要となる


■新型コロナウイルス感染症対応が提起した医療提供体制の課題

主要先進国(G7)における新型コロナウイルスの新規感染者数(7日間移動平均・人口100万対)の推移を見ると、2022年8月27日現在、新規感染者数が最も多い国は日本である。ただし、これは日常生活の行動制限がなくなり、イベントの開催制限も緩和されている中での状況であり、2021年12月から2022年1月にかけてピークを迎えた各国の水準に比べれば、大幅に低く抑えられている。2022年8月の時点で、国内の1日あたり新規感染者は25万人を超えたが、インフルエンザが大流行すると1日あたり約30万人が感染することを考慮すると、この夏の感染状況はインフルエンザとほぼ同水準といえよう。

各国の新規死亡者数(7日間移動平均・人口100万対)は、パンデミック初期の2020年2月、さらに2021年冬に突出して増加した。そこでゲームチェンジャーになったのが、ワクチンである。当初、開発に3~4年を要するといわれていたワクチンは1年程度で実用化に至り、世界の死亡者数は劇的に減少した。

こうした中、日本の状況は、人口100万人当たり超過死亡数(2020年1月1日以降の累積)を見ると、パンデミック初期から今年に入るまでマイナスで推移したが、感染拡大に伴い高齢者や基礎疾患のある方を中心に死亡者数は増え、プラスに転じた。しかし他のG7諸国と比較すると、一貫して低い水準に抑えられている。

また、新型コロナウイルス感染者数に対する入院者数の国際比較(人口100万人対)では、アルファ株、デルタ株が流行した期間、新型コロナウイルス感染者数に対する入院者数の比を各国の感染者数のピーク時点で機械的に算出した数値と比較すると、日本はいずれの期間も最も高かった(G7加盟国のうち入院患者数のデータが掲載されていないドイツを除いた6カ国で比較)。日本ではコロナ禍において病床ひっ迫により入院できないことが問題となったが、こうしたデータを見る限り、他のG7諸国と比べて、相対的により多くの新型コロナウイルス感染者の入院を受け入れていたことがわかる。

翻ってみると、今回の新型コロナウイルス感染症対応においては、保健医療提供体制に関し、以下の3点の課題が指摘された。

  • 感染の急拡大時に、検査や発熱外来にかかれない
    ・ PCR検査や検査キット等の(準備)不足、保健所段階の目詰まり、かかりつけ医が十分に機能しない。
  • 世界的にも病院数・病床数が多いのに、入院できない
    ・ 流行初期において、立ち上がりに時間がかかった、重症者対応を含め受入れ病院に限りがある、医療機関の役割分担・連携(後方支援病院等)が十分でない。
  • デジタル化、見える化が不十分
    ・ 発熱外来で陽性が判明した患者さんの情報がファックスで送信されるなど、全体像を把握するのに時間を要した。

2021年夏の「第5波」における感染ピーク時には、中等症・重症患者のみが入院対象となった。中等症・重症患者には、急性呼吸不全の対応等のため一般的には4対1以上の看護師配置を要することから、既存の集中治療室(ICU: Intensive Care Unit)等では足りなくなり、7対1病床の一部を休床し、そのスタッフを回してコロナ対応病床を確保した結果、コロナ確保病床1床に対し1.25床の休床が発生することとなった。

昨夏、1都3県の確保病床は約12,000床、休床分(約15,000床)を加味すると合計約27,000床がコロナ対応として転用されたことになる。これは1都3県の7対1以上の一般病床(110,000床)の25%に相当し、通常医療が相当程度制限された。こうした経験を踏まえ、昨年末には、岸田内閣では、更なる病床増と病床稼働率アップにより、入院受入数を3割増とする「全体像」を策定した。

2022年6月17日新型コロナウイルス感染症対策本部決定における次の感染症危機に備えるための対応の方向性では、感染初期から速やかに立ち上がり機能する保健医療体制の構築等に向けて、平時において都道府県と医療機関との間で新興感染症等に対応する病床等を提供する協定を結ぶ仕組みの法定化を記載している。さらに感染症まん延時等において、協定に沿った履行を確保するための措置(協定の履行状況の公表、一定の医療機関にかかる感染症流行初期における医療確保のための減収補償の仕組みの創設、都道府県知事の勧告・指示、特定機能病院等の承認取消等)を具体的に検討することとしている。



■2040年に向けた人口構造変化の社会保障への影響

・ 2040年にかけての社会の変容
外来(医療保険および公費医療)患者数は2040年に753万人/日(1989年は769万人/日)に減少することが予想され、入院(医療保険+公費医療)患者数は同140万人/日(同128万人/日)と高齢者を中心にピークを迎えることが予想されている。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(出生中位・死亡中位)」による2040年までの年齢階層別の人口の増加率の推移によると、65歳以上人口の増加率は2040年にかけて0.1~0.9%の低水準で推移している。団塊世代が後期高齢者入りする2022年以降の数年間は一時的に75歳以上人口の増加率が高まるものの、2030年代にはマイナスに転じる見込みである。

15歳~64歳人口の増加率は、1998年頃からマイナスを続けている。若い人が減少することは、日本の経済社会を大きく規定する要因となる。人口が減少する中で、持続可能な社会に向けて社会保障改革をいかに推進するかが大きなテーマとなっている。

社会保障における給付と負担の不均衡
2040年に向けた社会保障給付費対GDP比等の推移(実績と将来見通し)を見ると、日本の社会保障給付費は、2000~2015年の間にGDP比6.8%ポイントも上昇した。団塊の世代が年金受給者となり、高齢者数は15年間で53.7%(1,183万人)増加している。一方、2025~2040年度の15年間では、社会保障給付対GDP比は2.1~2.2ポイント程度の上昇に留まる見通しである。

また、2021年11月8日財政制度等審議会財政制度分科会参考資料における社会保障における受益(給付)と負担の構造によると、わが国の社会保障の現状は経済協力開発機構(OECD: Organisation for Economic Co-operation and Development)諸国と比較して、受益(給付)と負担のバランスが均衡しておらず「中福祉、低負担」というべき状況にある。今後、高齢化に伴い1人当たり医療費や要支援・要介護認定率が大幅に上昇すると、この不均衡はさらに拡大することが見込まれる。制度の持続可能性を確保するための改革が急務となっている。

担い手不足・人口減少の克服に向けて
1989年から2019年までの平成の30年間、女性と高齢者の就業率は大幅に上昇し、人口減少下にあっても、労働力人口や就業者数は1990年代後半の水準を維持している。2018年には、国内の就業者数6,665万人に対し医療福祉分野は826万人(12%)で8人に1人の割合となった。このまま推移した場合、2040年には、就業者の約5人に1人が医療福祉分野で必要になる。今後、総就業者数の増加とともに、より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現することが求められている。引き続き、多様な就労・社会参加の環境整備、健康寿命の延伸、医療・福祉サービス改革による生産性の向上、給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性の確保、といった取り組みを進めていくことが重要である。

テクノロジー活用による介護サービスの生産性向上の事例
例えば、社会福祉法人善光会(東京都大田区)では、特別養護老人ホーム・通所介護施設などの複合施設において、見守りセンサーや電子記録アプリを活用し、介護の質を確保しつつ、オペレーションの効率化を実現している。一般の特別養護老人ホームでは、入所者2人に対し1人程度の介護職員等の配置となっているが、善光会「フロース東糀谷」では、見守りセンサーやICT等の活用により、2015年段階で1.9人に1人であった配置が、現在では2.8人に1人の配置で運営を行っている。このような取り組みにより、職員平均年収が約480万円と、東京都の特養職員平均年収(約420万円)を上回る水準となっている。

データヘルス改革にはまだ多くの課題があるものの、今回の世界的な感染拡大(パンデミック)によってオンライン診療が劇的に進んだことは評価できる。今後は、個々の医療機関が様々な健康医療情報を他の医療機関等と共有できる仕組みの構築が重要と考えている。

 


■2040年に向けた医療需要の変化と医療提供体制の課題

・ 各地の医療圏で高齢者の減少と現役世代の急減が同時に起こる
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」によると、2040年に向けて、高齢者の減少と現役世代の急減が同時に起こる医療圏が数多く発生する。2次医療圏単位でみると、2015年から2025年にかけて、多くの地域で65歳以上人口の増加と生産年齢人口の減少が起きた。一方、2025年から2040年にかけては、65歳以上人口が増加する地域(132の医療圏)と減少する地域(197の医療圏)に分かれる。また、多くの地域で生産年齢人口が急減することが分かっている。

・ 外来患者は既に減少局面にある医療圏が多い
医療需要の変化として、外来患者は既に減少局面にある医療圏が多い。全国での外来患者数は、2025年にピークを迎えることが見込まれる。65歳以上が占める割合は継続的に上昇し、2040年には約6割となることが見込まれる。また217の医療圏では、既に2015年までに外来患者数のピークを迎えている。

・ 入院患者は増加傾向も2035年までがピーク
入院患者はなお増加傾向にあるが、2035年までにピークを迎える。全国での入院患者数は2040年にピークを迎えることが見込まれる。なお、65歳以上が占める割合は継続的に上昇し、2040年には約8割となることが見込まれる。

・ 在宅患者は多くの地域で増加、医療と介護の複合ニーズが高まる
在宅患者も、多くの地域で今後増加していく。全国での在宅患者数は、2040年以降にピークを迎えることが見込まれる。また、医療と介護の複合ニーズが一層高まっていく。

・ 医療提供体制をめぐる課題
新型コロナウイルス感染症対応上の課題として、高度急性期の対応(とくに人材面)、医療機関の役割分担・連携(情報共有を含む)、自宅療養者への対応(急性期の在宅医療)、デジタル化・見える化の対応などが浮き彫りとなった。

2040年を見据えた人口構造(超高齢化・人口減少)への対応では、生産年齢人口の減少によるマンパワー制約、人口減少地域における医療機能の維持・確保、医師の働き方改革への対応、超高齢化・人口減少の進展による医療ニーズの変化、医療介護複合ニーズ・看取りニーズの増加(とくに都市部)などが求められる。

こうした課題を共有した上で、感染症への対応も視野に入れた急性期医療の強化、地域包括ケアを支える医療(入院・外来・在宅)の強化、人口減少地域における医療機能の維持・確保、医療機関間の連携促進、地域医療連携推進法人の活用促進、タスクシェア・タスクシフトの推進、チーム医療の推進、DX・AI・ICTの実装化、データヘルス改革などの政策を推進していくことが大事である。


■政策スケジュールと求められる産官学民の連携

今年から来年にかけての政策スケジュールは、次の通りとなっている。

  • 医療提供体制関係
    ・ 感染症法改正(医療提供体制の強化)
    ・ 第8次医療計画(23年策定、24年スタート)
    ・ かかりつけ医機能の制度整備
    ・ 医師の働き方改革施行(24年)
    ・ 医療DX(医療情報の共有、診療報酬DX)
  • 医療保険関係
    ・ 薬価毎年改定(23年)
    ・ 同時改定(24年)
    ・ 出産育児一時金引き上げ(23年)
    ・ 制度改革(保険料賦課限度額の引上げを含む保険料負担の在り方、医療費適正化計画)

2021年9月にとりまとめた医薬品産業ビジョン2021では、革新的創薬による健康寿命延伸と産業・経済の発展、医薬品の品質確保・安定供給を通じた安心かつ良質な医療を受けられる社会の次世代への継承を掲げている。薬剤費が2019年に約10.1兆円(2015年は約9.2兆円)と増加を続ける中で、革新的創薬(アカデミア・ベンチャーのシーズの積極的導入、アンメット・メディカル・ニーズの充足)、後発医薬品(品質および安定供給の確保)、医薬品流通(安定供給と健全な市場形成の実現)の取り組みが課題となっている。このように、様々な課題が山積する中で、政策のスケジュールを意識しながら、マルチステークホルダーでの意見交換を社会全体で実施していくことが求められる。

 

講演後の会場との質疑応答では、今後の社会保障給付費の財源、医療提供体制の効率化などについて、活発な意見交換が行われました。

 

(写真:井澤 一憲)


プロフィール

伊原 和人(厚生労働省 保険局長)
1987年、東京大学法学部卒、同年、旧厚生省に入省。旧厚生省の全部局をひと通り経験。介護保険制度の創設や医療保険改革、少子化対策、障害福祉新制度、年金記録問題、難病新法などを担当。厚生労働省以外では、伊丹市役所、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO: Japan External Trade Organization)ニューヨークセンター、総理官邸、日本年金機構に勤務。政策統括官(総合政策担当)、医政局長を経て、2022年6月に現職。


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