【開催報告】第47回特別朝食会「日本のあるべき医療・社会保障」~課題と展望~(2022年2月25日)
日付:2022年5月12日
タグ: 医療従事者・霞が関 働き方改革, 特別朝食会
この度、橋本岳氏(衆議院議員/衆議院 厚生労働委員長/元厚生労働副大臣)をお招きし、第47回特別朝食会を開催いたしました。橋本氏には、厚生労働副大臣や厚生労働委員会委員長としてのご経験をもとに、日本のあるべき医療・社会保障制度の展望などについてお話をいただきました。
なお本特別朝食会は新型コロナウイルス感染症対策を鑑み、食事については提供せず、消毒の徹底や人の移動動線の管理、会場の人数制限等を行ったうえで開催いたしました。
<講演のポイント>
- 社会保障を取り巻く日本の高齢化と人口減少という社会形態の変化への取り組み
- 医療提供体制のアンバランスの解消につながる3本柱とデジタル化による効率性の向上
■社会保障の意味
社会保障は、国・社会が平和・安全に過ごせるために皆が支え合うことをもとに設立し機能することを目指してきた。日本の安全を守ることを国会議員は目指しているが、安全保障的に国を守るにあたり、ロシアとウクライナの許しがたい戦争なども起こり、常にナショナルセキュリティーを考えておかなければならない。一方、外敵に備えておけばよいというだけの事ではなく、人間社会の敵、貧困、疾病、加齢といった問題に人間は常に直面している。社会が安心・安全に過ごすためには、直面するそうした課題に備えなければならない。その備えとして皆で支え合うための医療、年金や雇用保険などの制度が保険制度で成り立っている。例えば、障害などで仕事をすることが出来なくなってしまった場合、日本は憲法25条で「最低限の文化的生活を保障」を行っており、そういう方法で安全を守っているという意味では「セキュリティー」という言葉にも該当する。この「ナショナルセキュリティー」と「ソーシャルセキュリティー」という両輪の存在によって私達は安心・安全に生活が出来るのである。
日本の人口は減少傾向にあり、それに対して65歳以上の高齢者の人数は増えてきたというのが現状である。今後、生産年齢人口が減っていくことで人口も減少する。およそ40年前から「これから社会は高齢化時代を迎える」ということを言ってきてそれに備える制度を整えてきた。まさに今そのような時代となり介護保険サービスなどの普及を通してその必要を賄うことができてきた。しかし今後、子どもを産む世代の人口が減少するに伴って生産年齢人口が一層減少する社会を迎えることになる。
財政的な点では、社会保障費の支出の面では増加傾向が続いており、今後、年金・医療・介護・子育て等の支援で社会保障給付の支出はますます拡大することが予測されているが、それに伴って経済成長を目指せば賄っていけるはず。年金についても対GDPの割合として増える傾向にあるが、マクロ経済スライドという仕組みを取り入れることで経済の成長に合わせて年金額をコントロールすることにより、年金が財政を逼迫するということは起きない。
そういう仕組みが入っていないのが医療や介護の分野。これも、支出の拡大に伴って社会の経済成長が続けば問題はないが、経済の急拡大は難しく、増加する支出を現役世代が負担し続けることで生活を圧迫するという大きな課題が存在している。
日本の医療の良い点は、先進7ヵ国に比べて平均寿命、健康寿命も延びている点。こうした良い点は残しながら、費用負担の課題をどのように克服できるかを考える必要がある。
一方で、昔の高齢者と今の高齢者を比較すると、体力測定の結果でも昔よりも若く、20年前の世代と比較しても一世代分ほど若いという結果が出ていて、女性に関しては10歳ほど若返っている。よって、高齢者という評価が65歳というよりも、75歳、80歳で高齢者という感覚になっている。
以上の事を鑑みて、今後、財政的に社会保障の負担が増えていくという傾向にある。また、働き手の人口の減少により、医療、介護、その他の現場を支える人材の減少も起きており、その人材の確保も問題になっている。以上の課題の対処の方法としては、今後、65歳でも若い人が増えているので、その人たちにも労働力を提供していただき、現場の財政的な意味でない効率化、テクノロジーなどの活用によって少ない人出で作業を荷う効率化を目指すことも考えなければならない。
■災害時に求められる救援の課題
高齢化に伴って、災害が発生したときに避難所に集まる人も高齢者が多い。その場合に、求められているのがケガ人の救助などの急性期のものというより、持病などを抱える人の慢性期の人のケアや福祉・介護の必要などである。過去の阪神大震災の頃などと比べると援助の質にも変化が起きていることを認め対応することが求められている。
■主な医療制度改革
医療提供体制として3つの指針が考えられていて、総合的な医療提供体制改革を目指している。
- 医療施設の最適配置の実現と連携
今後の人口減少、高齢化に伴って医療のニーズの質、量の変化も見据え、地域医療の在り方についても検討すべき課題に変化が起きている。現状、日本では公立、市立病院よりも私的な病院が多く行政がコントロールする仕組みになっていない。医療の必要項目が変わる中で非効率な医療体制が続くことは望ましくないので、リフォームが必要と考えている。まずは、医療病床機能報告を求め、この病院・病床の機能を把握し、2025年の医療事情を推計してそれにかなった医療体制を考える。このことを「地域医療構想調整会議」の場で調査し、それぞれの地域ごとにバランスの取れた医療体制を整える検討を行っている。実際に2020年度医療病床機能報告を見てみると、2025年度の推計に対してアンマッチな状態が観察されるなど、数字上で改善課題の把握を行えるようになった。
- 医師・医療従事者の働き方改革
働き方改革に伴って、時間規制をかけ上限規制のうちに残業抑制といった働きかけを行ってきたが、すべての労働者がその対象になる訳ではなく、医師の中には例外的な立場の人もいて、中には残業時間が長くなる傾向の人も存在する。地域によっては個人病院の医師に過重が掛かりすぎることで、医師の勤務が継続できなくなるという事も観察されている。
2024年にはドクターの方々にも上限規制の中に入っていただくことで持続可能な働き方をしていただきたい。
「Student Doctorの法的位置づけ」ということで、法改正により実習時点でも医療行為ができるという内容に変更が行われ、できるだけ早いうちに現場を経験し、早く実務を担える医師を育てていくという医師養成課程にも取り組んでいる。
- 実効性のある医師偏在対策
医師にも職業選択の自由があるので、行政が医師の働く場を強制的に指定することはできない。それでも、「地域枠を作る」「専攻医の採用枠の上限を設定」するなどにより、地域ごとの偏りが起きないように取り組んでいる。
医療保険制度(ファイナンス)の点で、今後の医療費拡大を見据えて、後期高齢者の医療負担を現行1割のところ、一定の所得のある人からは3割に増やすという状態があり、いきなりの増額ではということで2割の階段を据えるなどの討論が行われ、段々の形で負担していただける方にはお願いするという流れである。
2年ごとに、診療報酬の改定、薬価制度の見直しを行っている。しかし、薬の値段を下げてほかの医療費に回すという事を行うと、日本から薬品メーカーがいなくなってしまうという危惧もあり、現状維持が持続可能かどうかに懸念を抱いている。現在のコロナ対策が求められる中、日本の医薬品メーカーのワクチン開発も急がれているが、世界的には遅れている状態なので今後もキャッチアップしていきたい。
感染症対策については現在の状況への対策と共に、例えば10年後に新たな感染症が流行りだす事への対策も考えておく必要があり、今回の事の教訓を生かしてデジタル化・ゲノム医療への対策を考えておくべきと考える。
講演後の会場との質疑応答では、活発な意見交換が行われました。
(写真:井澤 一憲)
■プロフィール
橋本 岳(衆議院 厚生労働委員会 委員長/元厚生労働副大臣)
衆議院議員(当選5回、岡山県第四選挙区【倉敷市・早島町】選出)、衆議院厚生労働委員会委員長、自由民主党「こども・若者」輝く未来創造本部事務局長、自由民主党社会保障制度調査会事務局長、前衆議院予算委員会理事、前衆議院厚生労働委員会筆頭理事、前自由民主党総務会総務、前自由民主党岡山県支部連合会会長、元厚生労働副大臣、元自由民主党政務調査会厚生労働部会長、元自由民主党政務調査会外交部会長、元厚生労働大臣政務官、1974年2月5日生まれ。血液型A型。みずがめ座。岡山県総社市出身。1996年慶應義塾大学環境情報学部卒、1998年同大学院・メディア研究科修了。
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