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【開催報告】第43回特別朝食会「『センスメイキング』で世界の未来を考える~人文科学・哲学で読み解くヘルスケアの未来~」(2019年5月28日)

【開催報告】第43回特別朝食会「『センスメイキング』で世界の未来を考える~人文科学・哲学で読み解くヘルスケアの未来~」(2019年5月28日)


この度、当機構では、社会科学者を豊富に抱えるコンサルティングファームであり、世界的に注目されているレッドアソシエイツの創業者、2017年に出版されたSensemaking The Power of the Humanities in the Age of the Algorithm”(和訳『センスメイキング 本当に重要なものを見極める力 テクノロジー至上主義時代を生き抜く審美眼を磨け』)の著者でもある、クリスチャン・マスビアウ氏をお招きいたしました。

人文科学の有用性
近年、米国や欧州の多くの国において、人文科学(文学、歴史、哲学、美術等)よりも、コンピューターサイエンスや経済学、経営学、エンジニアリングを学ぶべきだという風潮がある。しかし、歴史や人類学からは、文脈を把握することができる。文脈なくして市場や消費者行動を理解するのは困難であり、文脈を理解することが、戦略や政策の策定に役立つといえる。
市場の理解には、多くの場合「私たちは個人である」「私たちは、自分の好みや欲しいものが分かっている」「私たちは、自分の行動を正確に報告できる」といった前提がある。しかし、これらは概ね間違っている。実際のところ、私たちの好みや判断は、周囲の人々や環境に大きく影響されているためである。したがって、文脈から切り離したアンケート調査等のみで人を見るだけでは、正しい理解につながらないことになる。文脈を理解するために鍵となるのが、人文科学である。

■薄いデータと厚いデータ
ビッグデータから得られる情報のみから判断できることは、実は限られている。人文科学に基づく厚いデータ(Thick Data)を使うことによって、人の生活を知ることができる。
例えば、自動車と男性が映った1枚の写真や状況を見ると、ビッグデータからは、現在地や走行距離、速度、停止回数等が分かる。将来的には、体温を知ることもできるであろう。だが、さらに彼と一緒にいることで、ビッグデータだけでは得ることのできなかった、人文学的な厚いデータを得ることができる。例えば、彼は自然に触れるためにLizard Head Passへ行こうとしている途中で、邪魔になっていた大木を除けているところであり、それによって地域社会に貢献していると感じるとともに、周辺の環境を楽しんでいることが分かるかもしれない。
医療の世界においても、当事者の生活を理解するためには、彼らの文脈あるいは世界に没入していかなければならない。

■当事者の視点
ある高価なスウェーデン製の人工透析機器には、32種類ものアラーム機能が搭載されていた。しかし実際、透析室を見に行くと、現場のスタッフは、この機器をよく理解できていないことが分かった。32種類のアラームを聞き分けることもできず、シンプルな機能しか利用していない。1台20万ドルもする透析機器を操作するために彼らが使っていたのは、たった2ドルのキッチンタイマーであった。このように、使う人のことを考えていない過剰に技術が搭載された機器の事例は、国や所得にかかわらず散見される。
他にも、例えば、糖尿病患者が日々のインスリン自己注射を忘れないために、多くの製薬会社の営業担当者は、医学的データを用いてインスリンの作用機序を説明することが多いだろう。しかし、服薬する当事者にとっては「朝シャワーを浴びた後にインスリン注射を打つ」という具合に、一日の生活リズムに組み込んだ説明をしたほうが有効である。このように当事者の視点に立てば、本当は必要のない機能があるという事例や、求められている事柄の優先順位が変化するという事例は、社会の中に数多くあるのではないか。

■統計データの誤った前提
デンマークの玩具会社 LEGO(レゴ)は、かつて経営苦境に陥っていた。当時、社内の統計学者や経済学者が「子どもは集中力が続かず、ADHDであることが多い」「複雑でない、すぐ手に取って遊べるものを好む」と分析し、それを基に商品開発を行っていた。そこで私たちは、実際に子どもたちの元を訪れ、一緒に過ごすことにした。ある男の子が「一番大事なもの」と言って見せてくれたのは、スケートボードをする時に履く靴であった。毎日何時間も没頭しなければ、こんなに靴底がすり減るはずがない。それを見て、子どもには集中力がないといった前提は、間違いだと分かった。こうした子ども達との出会いのおかげで、当時の製品ラインナップのうち70%は適切でないことが明らかになり、新製品の開発に取り組んだ結果、LEGOは、今では世界最大手の玩具メーカーとなっている。
これは、統計データからは見えなかった事実が、当事者に寄り添い、人文科学的な考察を加えることによって、企業経営に貢献した事例である。

■人文科学による深い洞察を
歴史、人類学、民俗学を活用することで、深い洞察を得ることができる。どのような管理職であっても、消費者と共に過ごす時間を定期的に持つべきである。医療機関であれば、患者をじっくり理解するために、人文科学のバックグラウンドを持った人々を雇用することも1つの方法であろう。

講演後の会場との質疑応答では、活発な意見交換が行われました。

(写真:井澤一憲)


■プロフィール
■クリスチャン・マスビアウ氏
コペンハーゲンとロンドンで哲学と政治学を学び、ロンドン大学で修士号を取得。20年間に渡り経営コンサルタントとして従事し、人文科学の実用的な応用について執筆活動や講和などをも行っている。彼の活動はこれまでにウォールストリートジャーナル、フィナンシャルタイムズ、ワシントンポスト、デアシュピーゲル、ブルームバーグビジネスウィークなど様々なメディアで取り上げられている。2017年春、Hachette Book Groupによって彼の最新の著書である『センスメイキング 本当に重要なものを見極める力 テクノロジー至上主義時代を生き抜く審美眼を磨け(和訳)』が発表された。また2014年秋にMikkel Rasmussenと共同執筆し出版された著書『The Moment of Clarity』は、これまでに15か国語以上の言語で翻訳されている。

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