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【開催報告】TICAD9テーマ別イベント「ヘルスシステム強化とユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進:医療用酸素へのアクセス向上における日本のリーダーシップ」(2025年8月20日)

【開催報告】TICAD9テーマ別イベント「ヘルスシステム強化とユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進:医療用酸素へのアクセス向上における日本のリーダーシップ」(2025年8月20日)

2025年8月20日、日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)は8月20日から22日に神奈川県横浜市で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9: The 9th Tokyo International Conference on African Development)にて、ユニットエイド(Unitaid)と共催でテーマ別イベント「ヘルスシステム強化とユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進:医療用酸素へのアクセス向上における日本のリーダーシップ」を開催いたしました。

医療用酸素は命を守るために不可欠な存在でありながら、低中所得国では依然として深刻に不足しています。ユニットエイドは日本政府の支援により、ケニアとタンザニアにおいて、アフリカ初の医療用液化酸素地域製造施設建設に向けて取り組んでいます。また、人道支援が必要な地域において、特に乳幼児を対象とした医療用酸素のアクセス向上にも取り組んでおり、呼吸障害を抱える新生児の命を救う支援が進められています。これらの取り組みは、持続可能な形で命を守る保健システムの強化に寄与しています。

本イベントでは、ユニットエイドと日本の企業との官民連携による技術協力の事例共有や、現地の関係者、産業界、乳幼児向け医療用酸素機器の開発者、国際機関の代表らとの対話を通じて、UHC達成に向けた保健システム強化と、アフリカ全体での医療用酸素への持続可能なアクセス拡大の今後について議論しました。

主な論点は以下の通りです。

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を通じて、次なるパンデミックに備える上でも、医療用酸素の安定供給が公衆衛生の維持・向上に不可欠であることが明確になった
  • ユニットエイドをはじめとする国際機関、各国政府、市民団体の協力は、パンデミック予防・備え・対応(PPPR: Pandemic Prevention, Preparedness and Response)の強化やユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)の実現に不可欠である
  • ユニットエイドは、医薬・医療品や医療機器へのアクセスにおけるイノベーションを推進している。必要なヘルスケア製品を適正価格で提供できる仕組みづくりを支援し、需要の創出と市場の拡大を後押しするとともに、民間企業が参入・供給しやすい市場環境を整備することで、持続的な需要と供給体制の確立を支援している
  • 官民連携(PPP: Public-Private Partnership)は、持続可能な資金の確保や供給網の安定化を通じて、長期的な保健システムの強化につながる。さらに、民間企業にとってもビジネス機会の拡大につながり、結果として社会と経済の双方に持続的な価値をもたらす
  • 各国・各地域の環境や価格帯に合わせた医薬・医療品の開発は持続可能な保健医療体制の構築に向けて不可欠である。電力を使わず持ち運びしやすい乳幼児向け酸素呼吸器の開発事例は、現地のニーズに即した取り組みが公衆衛生の維持・向上に大きく貢献しながら持続可能であることを示す重要な実例である

【開催概要】

  • 日時:2025年8月20日(水)10:00-11:30
  • 形式:対面
  • 会場:パシフィコ横浜 展示ホールD S-08(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)
  • 言語:日本語・英語(同時通訳あり)
  • 定員:150名
  • 主催:ユニットエイド、特定非営利活動法人 日本医療政策機構(HGPI)

◾️ガイドブックはこちら

 

【プログラム】(敬称略)

10:05-10:15 開会の辞

喜多 洋輔(外務省 国際協力局 国際保健戦略官)
フィリップ・デュヌトン(ユニットエイド事務局長)

10:15-10:25 「希望の息吹」― ケニア・カクマ難民キャンプからの映像

   ベルナルド・オラヨ(ケニア・へワテレ社)によるビデオメッセージ

10:25-11:10 パネルディスカッション

パネリスト

フィリップ・デュヌトン(ユニットエイド事務局長)
齋藤 賢治(日機装株式会社 取締役 常務執行役員 工業部門長 インダストリアル事業本部長)
トーマス・バーク(ヴァーユ・グローバル・ヘルス・イノベーションズ創設者)
ジェラルド・マチャリア(クリントン・ヘルス・アクセス・イニシアティブ 東南アフリカ副代表)
モーリン・ムレンガ(ユニットエイド・コミュニティ代表、リーン・オン・ミー財団事務局長)

モデレーター

乗竹 亮治 (日本医療政策機構 代表理事・事務局長)

11:10-11:20 質疑応答

11:20-11:30 閉会の辞と行動宣言

 

* TICADとは、1993年以来、日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行及びアフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催しているアフリカの開発をテーマとする国際会議です。

 


【登壇者プロフィール】

喜多 洋輔(外務省 国際協力局 国際保健戦略官)
厚生労働省に入省後、HIV/AIDS対策、予防接種法改正、介護保険制度改正に従事。その後の世界保健機関(WHO)ジュネーブ本部への出向ではマラリア対策等を担当。地方自治体(山口県)への出向では、健康福祉部において健康増進課長、審議監として健康増進対策に貢献。2019年から、厚労省大臣官房国際課にて国際保健企画官をつとめ、2020年にはダイヤモンド・プリンセス号対応にあたる。2020年より国際連合日本政府代表部参事官として、国連総会UHCハイレベル会合及び同PPRハイレベル会合(2023年)を含むグローバルヘルス等や第57回国連人口開発委員会(副議長)を担当。2024年8月より現職。医師、公衆衛生学修士、行政学修士。


フィリップ・デュヌトン(ユニットエイド事務局長)
フランス国籍を有するフィリップ・デュヌトン氏は、HIV/AIDS、感染症、熱帯病、公衆衛生の分野において25年以上の経験を持つ。ユニットエイドには、2006年の設立当初から携わっている。事務局長代理としては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)へのユニットエイドの対応を主導し、「ACTアクセラレーター(Access to COVID Tools Accelerator)」の治療分野における共同責任者として重要な役割を果たした。それ以前には、パリの「ラ・ピティエ・サルペトリエール病院(La Pitié Salpétrière)」感染症科にて臨床医として勤務し、ベルナール・クシュネル保健大臣の下でフランス保健省の顧問を2度務めた。また、パリ公立病院連合(AP-HP)においてHIV/AIDSおよび薬物使用に関する対策ミッションの責任者を務めたほか、フランスの医薬品・医療製品規制機関の長も歴任した。さらに、欧州医薬品庁(European Medicines Agency)の理事会議長も務めた。デュヌトン氏は、公衆衛生の修士号を有する医師である。


齋藤 賢治(日機装株式会社 取締役 常務執行役員 工業部門長 インダストリアル事業本部長)
取締役常務執行役員の齋藤賢治氏は、金融機関で主に欧米ビジネスを30年以上にわたり手掛けた後、その豊富な知識と経験を生かして、日機装株式会社で工業部門のグローバル展開の強化に力を入れている。1988年に第一勧業銀行(現みずほFG)に入行し、みずほ銀行パリ支店長、欧州みずほ銀行社長を歴任した。2020年に日機装株式会社に入社後は、航空宇宙事業分野において事業戦略および販売戦略などを担当。2022年に当社取締役 航空宇宙事業本部長に就任し、航空機部品の製造で培った技術を生かして、eVTOLなどの新規ビジネスを開拓してきた。現在は、工業部門長としてインダストリアル事業分野および航空宇宙事業分野を管掌し、極低温流体の取り扱い技術を武器とした低・脱炭素分野の事業ポートフォリオの構築、医療用酸素を含む産業ガス事業の拡大、両分野の体質強化および収益構造の改善を推進している。


トーマス・バーク(ヴァーユ・グローバル・ヘルス・イノベーションズ創設者)
マサチューセッツ総合病院(MGH)におけるグローバルヘルス・イノベーション・ラボのディレクターであり、ハーバード医科大学およびハーバード公衆衛生大学院の上級教員を務めている。数々の受賞歴を持つ科学的成果を先駆的に生み出し、それらを政策や実践へと応用してきた。主に母子および新生児の生存に焦点を当てており、140本を超える科学論文と2冊の書籍を執筆している。2019年6月3日、英国とインド両政府による合同式典(英国上院にて開催)において、「Lord of the Planet in Medical Sciences」の称号が授与された。バーク氏の業績は、BBC、NPR、FOXテレビ、ABC、CBS、ロンドン・フィナンシャル・タイムズ、ニューヨーカー、シアトル・タイムズ、ボストン・グローブなど、さまざまなメディアで取り上げられている。Vayu Global Healthの代表を務めており、同団体はユニットエイド、グランド・チャレンジズ・カナダ、ゲイツ財団、日本政府などと緊密に連携しながら、世界38カ国以上で活動している。


ジェラルド・マチャリア(クリントン・ヘルス・アクセス・イニシアティブ 東南アフリカ副代表)
クリントン・ヘルス・アクセス・イニシアティブ(CHAI)において東部・南部アフリカ担当副代表を務めており、この地域の14か国を管轄している。各国政府の保健省と連携し、実効性のある公衆衛生事業の立案、資金確保、実施に取り組んでいる。また、CHAIのグローバルリーダーシップチームの一員として、数百万の命を救ってきた革新的なグローバルヘルスのソリューションを、各国に提供している。マーケティング・マネジメントからキャリアをスタートさせ、コルゲート・パルモリーブをはじめとする多国籍企業で勤務した後、ケニア最大級のマイクロファイナンス機関であるファウル・マイクロファイナンス銀行のCEOを務めた経歴を持つ。ケニヤッタ大学で学士号を取得し、英国の公認マーケティング協会(Chartered Institute of Marketing)よりマーケティングの大学院課程を修了。さらに、エディンバラ大学ビジネススクールとケニアのモイ大学ビジネススクールの双方からMBAを取得している。英連邦奨学生として企業戦略を学び、スタンフォード大学経営大学院の戦略および組織に関するプログラムの修了生でもある。また、ケニア国内のさまざまな公共部門のガバナンスにも関与しており、現在はSocial Health Authority(SHA)の理事を務めるとともに、同庁の財務委員会の委員長を務めている。


モーリン・ムレンガ(ユニットエイド・コミュニティ代表、リーン・オン・ミー財団事務局長)
女性および子どもの健康、発展、人権の擁護に情熱を注ぐ活動家である。プログラムマネジメントおよびコミュニティ開発の経験を有し、米国大使館より「アンサング・ヒーロー賞」を二度受賞し、東アフリカコミュニティサービス賞も受賞している。これらは女性と子どもたちのための活動に対して授与されたものである。擁護への情熱は自身の体験および彼女のコミュニティにおいて若い女性や思春期の少女たちが直面する不平等や脆弱性に基づいている。これらの課題に応えるため、彼女は「リーン・オン・ミー財団」を設立し、若い女性および子どもたちが健康サービスへアクセスできるよう支援している。現在、グローバルファンドの理事会に対する地域コミュニティ代表の連絡窓口を務め、TB Women Globalのコーディネーター、Friend of the Global Fight USおよびEGPAFケニアの理事を務めている。かつてはエイズ、結核、マラリア撲滅のためのグローバルファンドの理事も務めた。また、WHOの小児用製剤グローバルアクセラレーター諮問委員会および結核におけるジェンダー平等のための連合作業部会のメンバーでもある。ケニア国内では、グローバルファンドの国別調整機構(CCM)の副議長および母子感染防止専門家委員会の副議長を務めている。


乗竹 亮治(日本医療政策機構 代表理事・事務局長)
日本医療政策機構 代表理事・事務局長。日本医療政策機構設立初期の2005年に参画。患者アドボカシー団体の国際連携支援や、震災復興支援プロジェクトなどをリード。その後、大学院留学を経て、『Health Affairs』を発刊することでも知られる、米国の医療人道支援財団「Project HOPE」にて、勤務。ベトナム、フィリピンなどアジア太平洋地域で、官民連携による被災地支援や健康増進プロジェクトに従事。また、米海軍による病院船を活用した医療人道支援プログラムをはじめ、軍民連携プログラムにも多く従事。米海軍主催の医療人道支援プロジェクトにて、自衛艦「くにさき」に乗艦勤務。WHO(世界保健機関)’Expert Consultation on Impact Assessment as a tool for Multisectoral Action on Health’ワーキンググループメンバー(2012)。政策研究大学院大学客員研究員(2016-2020)。東京都「超高齢社会における東京のあり方懇談会」委員(2018)。経済産業省「認知症イノベーションアライアンスWG」メンバー、世界認知症審議会(WDC: World Dementia Council)委員、グローバル企業のアドバイザーなども務めている。慶應義塾大学総合政策学部卒業、オランダ・アムステルダム大学医療人類学修士。2022年度第32回武見奨励賞受賞。2016年から事務局長、2024年から代表理事に就任。


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