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【開催報告】イブニング・セミナー~国際保健(グローバルヘルス)と多様なキャリアの在り方~(2018年3月6日)

【開催報告】イブニング・セミナー~国際保健(グローバルヘルス)と多様なキャリアの在り方~(2018年3月6日)

今回のイブニング・セミナーでは、世界保健機関(WHO: World Health Organization)をはじめとした多数の国際機関、NGO、政府等でグローバルヘルスに関する事業に従事したロバート・マーテン氏をお招きし、多様なステークホルダーとの協働のご経験をお話しいただきました。また、セミナーに参加いただいた若手の研究者や社会人、大学・大学院生約60名と、国際保健人材に必要な要素、期待される活躍の場やキャリア形成等、グローバルな視点から議論しました。

 

 

 

■グローバルヘルスの道を志したきっかけ
大学進学時にはカナダのモントリオールにあるマギル大学で政治科学と歴史学を専攻していた。そのうち、特に史学史(Historiography)と呼ばれる、時代の変遷とともに歴史観が発展していく過程に興味を持ち、歴史学の博士課程に進学しようと考えていた。しかし、1980年代のHIV/エイズ蔓延の際にロナルド・レーガンアメリカ大統領の行った対策に関するセミナーに参加したことが、HIV/エイズひいてはグローバルヘルス問題に関心を持つきっかけとなった。

■現場での経験、大学院への進学と新たな気づき
その後、現場を経験するため2004年にベトナム渡った。当時、HIV/エイズ問題はアフリカ大陸を始めとした世界的な危機となっており、ジョージ・W・ブッシュアメリカ大統領はその対策のために「米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR: President's Emergency Program for AIDS Relief)」を発足させ、巨額の資金を投じていた。ベトナムはその援助対象国の対象の一つでもあり、HIV/エイズ対策に国際機関、国連機関、そして民間の援助機関が集まっていた。PEPFERによる資金は、HIV/エイズ対策に取り組む複数の組織にとって重要な資金源となっていた一方、資金獲得に競い合うために、援助機関同士の関係が悪くなっていた。この課題を解決するため、国内外のステークホルダーを集め、HIV/エイズ患者支援のグループのコーディネーターとなるプログラムを作り、様々な組織とのネットワークを構築した。
ベトナムでの2年間の経験から、援助機関の働きをサポートするうえで、マネジメントや政策の重要性を感じ、ドイツのハーティー・スクール・オブ・ガバナンスにて公共政策学の修士号を取得した。その後、ニューヨークのロックフェラー財団に転職し、2,000万ドル規模の国際保健政策分野の助成金を国際的に展開するうえでのポートフォリオの運営に6年近く携わり、疾患別アプローチだけでなく保健システムの強化(Health System Strengthening)に焦点を当てた運営管理を行った。
現在は、米国外交問題評議会(CFR: Council on Foreign Relations)日立フェロー兼客員フェローとして日本国際交流センター(JCIE: Japan Center for International Exchange)に所属し、日本のグローバルヘルス外交、特に保健システム強化を重視した事業についての調査研究を実施している。

■グローバルヘルスとは
「グローバルヘルスで重視すべきテーマとは?」という問いに対し、人々の経験、環境、住んでいる国、文化、そして立場によって、答えは十人十色である。WHOであれば医療政策や制度、国際連合児童基金(UNICEF: United Nations Children's Fund)であれば子どもの健康、国連合同エイズ計画(UNAIDS: Joint United Nations Programme on HIV and AIDS)ではHIV/エイズ対策に重きを置くというように、多様なアプローチがあるところが、「グローバルヘルス」の面白いところである。
国レベルでも、ノルウェー、スウェーデンを始めとした北欧諸国は、女性や子ども健康、ジェンダーに関するテーマを重視する一方で、ラテンアメリカ・カリブ海地域ではNCDs(Non-Communicable Diseases:非感染性疾患)を重視している。日本では現在、保健システム強化に重きを置き、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)(※)の実現において国際社会をリードしている一方、たばこ対策では世界から大きく後れを取っている。
「グローバルヘルス」において何がアジェンダとなるかは、極めて政治的な課題である。例えば、米国政府のPEPFARによる多額の資金援助は、当時のベトナムにおける保健システムと政策に影響を与えた。しかし外部からの介入が終了した後、これらの政策と投資を維持するのは支援を受けた側である。それぞれの国にはそれぞれの事情があるため、何を課題とし、どう介入するかという点は、事前の合意形成が必要である。

※すべての人々が、必要とする質の高い保健・医療サービスを、支払の際に経済的な困難に苦しめられることなく確保している状態

  

 

会場との質疑応答では、ロバート・マーテン氏のこれまでの活動に対する質問や、官民連携を含め、今後、参加者が公衆衛生においてどのような役割を担っていくべきかなど、活発な意見交換が行われました。

■グローバルヘルスのキャリアは、現場から始めるべきか、学問から始めるべきか
現場の経験によって課題がより鮮明になるため、どこかの段階で現場は経験すべき。受け入れ先が少ないと思う方もいるかもしれないが、友人等の伝手を辿る、直接問い合わせる等によって門戸が開かれることも多いため、是非実践して欲しい。

■グローバルヘルスで活躍する上で医療の専門性は必要か
これまでは医師が中心であったが、健康課題の複雑性が増すなか、文化人類学者、政治科学者そして社会学者といった多様なアクターが手を取り合い、多角的な視点による取り組みの重要性が増していると考えている。

■グローバルヘルスに対し、民間セクターはどのように貢献可能か
民間の貢献は無視することのできない存在であり、大きな影響を持っていることを忘れてはいけない。医薬品、保険、食品、そして医療機器業界等の理解がなければ取り組めない課題は多くある。しかし、産官民の連携(PPP: Public Private Partnership)は必ずしも万能ではなく、民間企業と目的が一致しないことがあるということも、頭の隅に置いておく必要がある。

■グローバルヘルスの分野における課題の重要性を高めるためにはどうすべきか
まず、科学的な根拠に基づく数値を準備することである。そして、課題解決に必要なアクターを明確にし、数値の持つ意味を伝えていく。メディア向けのブリーフィングや政治家への説明、学術的な論文の発表が必要になることもあるだろう。ある課題に注目を集めることは決して簡単ではないが、適切なコミュニケーションによって、社会の関心を高めることができる。

■持続可能な支援をグローバルヘルスで行っていくにはどうすべきか
政府開発援助(ODA: Official Development Goals)等を持続可能にするためには3つの「I」が重要だと考えている。1)Individual(人材育成)への投資、2)Institution(大学や研究所)への投資、3)Idea(アイディア)への支援が、医療制度、政策を継続的に向上させるうえで大きなカギになると考えている。

■日本の取り組みを効果的に世界に発信するにはどうすべきか
日本では、喫煙、高齢化に伴う疾患、そして非感染性疾患への対策など、一定の成果をあげている取り組みも多くあるが、外部への発信が上手くできていないことによる国際社会からの誤解や見過ごしもあると感じる。今後、より一層の情報発信が必要だろう。

最後に、閉会の辞として当機構代表理事の黒川清が挨拶をいたしました。黒川からは、「マーテン氏のように情熱をもって公衆衛生の課題に取り組めば世界は変わる。特に若い人は既成概念にとらわれず、自身がやるべきと思うことに積極的に取り組んでほしい。」とコメントをしました。

 


■ロバート・マーテン氏
カナダのマギル大学で学位を取得後、ドイツのハーティー・スクール・オブ・ガバナンスにて公共政策学の修士号を取得。また、ハーバード大学公衆衛生学大学院にてGlobal Health Effectiveness修了、ジョンズ・ホプキンス大学より公衆衛生学の修士号を取得。現在、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院にて博士課程在学中。

ドイツのGlobal Public Policy Institute、国連ボランティア(UNV: United Nations Volunteers)、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID: United States Agency for International Development)、国際的なNGOであるケア(CARE)、ベトナム政府やMedisch Comité Nederland-Vietnam、世界銀行、WHO、ドイツ技術協力公社(GTZ: Deutsche Gesellschaft für Technische Zusammenarbeit)で、コンサルティング等を経験。その後ロックフェラー財団の下で、2,000万ドル規模の国際保健政策分野の助成金のポートフォリオの運営に約6年間携わる。また、エボラ出血熱後のシエラレオネにおいてWHOとともに保健システムの強化事業にも従事した。現在は、米国 外交問題評議会(CFR: Council on Foreign Relations)日立フェロー兼客員フェローとして日本国際交流センター(JCIE: Japan Center for International Exchange)に所属し、日本の国際保健外交についての調査研究を実施。

The Lancet、Health Policy and Planning、WHO Bulletin等、論文掲載実績多数。Global Health GovernanceおよびGlobalization and Health編集委員。

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