活動報告 イベント

【開催報告】こどもの健康プロジェクト 第2回専門家会合 「こどもの権利を尊重したメンタルヘルス教育プログラムとサポートシステムの構築」~こどものメンタルヘルスに対する教育現場の課題と解決に向けた方策~(2022年3月17日)

【開催報告】こどもの健康プロジェクト 第2回専門家会合 「こどもの権利を尊重したメンタルヘルス教育プログラムとサポートシステムの構築」~こどものメンタルヘルスに対する教育現場の課題と解決に向けた方策~(2022年3月17日)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19: Coronavirus Disease 2019)の流行により、世界的にこどものメンタルヘルスへ注目が集まっています。2020年5月には国連がCOVID-19感染拡大下におけるこどものメンタルヘルスに関するレポートを公表し、多くの国々で、外出制限に伴いこどもの集中力低下や情緒不安定、神経質な状態などの変化が報告されていることが明らかになりました。日本でも、国立成育医療研究センターの「コロナ×こどもアンケート第4回調査報告書」において、回答した小学4~6年生の15%、中学生の24%、高校生の30%に、中等度以上のうつ症状があったことが示されており、COVID-19によるこどものメンタルヘルスへの影響は、喫緊の課題となっています。また昨今、メンタルヘルスに限らず、こどもを取り巻く医療の在り方は、医療政策課題の大きなテーマとなっています。すべての妊産婦の妊娠期から子育て期、そしてこどもの出生後から成人期までの成育過程において切れ目のない医療・福祉等の提供、支援が求められています。

日本医療政策機構においても、2020年度よりこの社会的モメンタムを促進し、我が国のこどもの健康に貢献すべく、国内外のステークホルダーとの連携による議論の喚起や、調査研究によるエビデンス創出に基づく政策提言を行うため、こどもの健康プロジェクトを立ち上げ、活動を進めてまいりました。2021年度からは、当機構のメンタルヘルスプロジェクトで得られた知見を基に、さらに発展させるべく「こどものメンタルヘルス」に関する取り組みをスタートしました。「こどもの権利を尊重したメンタルヘルス教育プログラムとサポートシステムの構築」と題し、主に小中学生に対し、自身のメンタルヘルスの変化や不調に気付く、対処し、また適切なタイミングで相談できるようになるためのプログラムの構築、効果検証を行います。
本専門家会合では、こうしたこどもの健康・こどものメンタルヘルスを取り巻く政策課題やその解決策についてマルチステークホルダーによる議論を行って参りました。今回の第2回専門家会合では、教育現場に焦点を絞り、こどもを取り巻くメンタルヘルス課題とその解決に向けた方策について議論を深めました。

 

・・・

 

日本医療政策機構(HGPI)子どもの健康プロジェクト
「子どもの権利を尊重したメンタルヘルス教育プログラムとサポートシステムの構築」
第2回専門家会合「子どものメンタルヘルスに対する教育現場の課題と解決に向けた方策」
報告書

 

【開催概要】

日時:2022317日(木)18:00-20:00
会場:オンライン形式(Zoomウェビナー)
言語:日本語
主催:特定非営利活動法人 日本医療政策機構
助成元:公益財団法人 日本財団


プログラム】(敬称略・順不同)

18:00-18:05 開会・趣旨説明 

18:05-18:30 基調講演「こどものメンタルヘルスを取り巻く環境と支援体制」

  • 永光 信一郎(福岡大学医学部小児科 主任教授/日本小児心身医学会 理事長)

18:30-18:45 報告「日本医療政策機構実施小中学生向けメンタルヘルス教育介入とその効果」

  • 吉村 英里(日本医療政策機構 シニアマネージャー)
  • 小関 俊祐(桜美林大学 リベラルアーツ学群 准教授)

18:45-19:30 パネルディスカッション
「教育現場におけるこどものメンタルへルス課題と支援の在り方〜教育現場を超えて現場と政策のギャップを埋める具体的な打ち手とは〜」

パネリスト

  • 永光 信一郎(福岡大学医学部小児科 主任教授/日本小児心身医学会 理事長)
  • 田中 恭子(国立成育医療研究センターこころの診療部 児童思春期リエゾン診療科 診療科長)
  • 久保 賢太郎(東京学芸大学附属世田谷小学校教員)
  • 松﨑 美枝(文部科学省 初等中等教育局 健康教育・食育課 健康教育調査官)
  • 外川 大希(株式会社ジョリーグッド DTx事業部 アソシエイトプロデューサー)
  • 大谷 哲弘(立命館大学 産業社会学部 教授)

モデレーター

  • 河田 友紀子(日本医療政策機構 シニアアソシエイト)

19:30-20:00 Q&Aセッション

20:00 閉会

 

18:00-18:05 開会・趣旨説明 

  • 吉村 英里(日本医療政策機構 シニアマネージャー)

日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)は、2004年に設立された非営利・独立・超党派の医療政策を専門とする民間シンクタンクである。市民主体の医療政策の実現をミッションに掲げ、中立的なシンクタンクとして多様な分野の専門家を結集して議論し、それに基づき政策提言活動を行っている。ペンシルバニア大学発表の「世界のシンクタンクランキング」に10年連続でランクインし、“Global Health Policy”部門で世界第3位、“Domestic Health Policy”部門では世界第2位、いずれもアジア1位の高い評価を得ている。HGPIでは、認知症や女性の健康をはじめ様々なテーマを扱っている。本日は、メンタルヘルスや子どもの健康にフォーカスし、議論を深めてまいりたい。


18:05-18:30 
基調講演「こどものメンタルヘルスを取り巻く環境と支援体制」

  • 永光 信一郎(福岡大学医学部小児科 主任教授/日本小児心身医学会 理事長)
  • 小児医療のパラダイムシフト:からだを診る医療から、こころを診る医療に変化している
    今、小児の医療提供体制が大きく変わってきている。からだを診る医療から、こころを診る医療へのパラダイムシフトが起きつつある。医療の高度化により、急性期治療の進歩、急性期疾患の軽症化と減少、予防接種の開発と普及、重症疾患の慢性化等が進む一方で、行動やメンタルヘルスの問題、発達や学習の偏り、児童虐待の増加、育てにくさの実感、慢性疾患の診療、そして健康増進・保健活動、生活習慣の支援に注意が注がれるようになった。

  • 新型コロナウイルス感染症の影響による子どものメンタルヘルス課題の増加、さらに家庭・地域・国・政策等の包括的かつ社会的な支援が求められている
    ご存知のように、新型コロナウイルス感染症(COVID-19: Coronavirus Disease 2019)によって医療機関の受診控えが起こった。とくに急性期疾患を扱っていた小児科・耳鼻科では患者さんが激減し、緊急事態宣言が解除された後、現在でも元の水準には回復していない。

    一方で、以前と変わらなかった、あるいは増えたものがある。それは不登校、過敏性腸症候群 (IBS: Irritable Bowel Syndrome)、摂食障害、アレルギーの子どもたちである。COVID-19によって、それまで潜在化していた心理社会学的な問題が顕在化してきたと考えられる。2021年10月には、COVID-19によって小中学生の不登校と自殺者が過去最多になったことが、文部科学省によって発表された。

    学校再開後に子どもの心の問題が増加したことは、日々人と人が接触するということが、子どもたちの心身の発達にとっていかに重要であったか、あるいは負担でもあったかを示している。長期休校という生活様式の変化の中、人と人の関係がリセットされ、リスタートするときに、大きなエネルギーを必要として負荷のかかった子どもたちが多くいたものと思われる。友達関係に悩んでいた子、勉強を負担に思っていた子にとっては、長期休暇後の学校再開は、相当の負担になったことが推察される。

    一方で、その逆もある。家庭に息苦しさを感じていた子が、唯一学校がこころの拠り所であったのに、その学校が閉鎖されたことにより、心身の不調をきたした子もいると考えられる。障害調整生命年(DALYs: Disability Adjusted Life Years)の疾病別第1位は精神疾患であり、その多くは思春期から発症している。これまで私たち小児科医は、からだの病気として子どもを診ていたが、今後は行動面・精神面、そして社会が病気に及ぼす影響を考えるバイオソーシャルモデルとして診ていく必要がある。

    子どもは、保護者や家族に守られている。その家庭は、コミュニティによって守られている。そしてコミュニティを守っているのが国、政策である。子どもの健康を阻害する社会的な決定因子は、どこにあるのか。そういったことを考えながら、子どもたちと接していくことが大切である。

  • 5%の中高生が自傷行為の経験があり、その理由の第1位は将来の進路・成績への悩みであった。さらに希死念慮に影響を及ぼす特に強いリスク因子は「ネットでのいじめ」であることが明らかに
    数年前、2万人の中高生を対象として、思春期に関する意識調査(アンケート)を実施した。すると、「過去に死にたいと思ったことはありますか」との問いに、「過去に自分自身を傷つけたことがある」と答えた割合は各学年とも5%程度、そして2~3割は、ときどきあるいは常に死にたいと思っていることが明らかになった。では、彼らは何に悩みを持っているのか。彼らが最も悩んでいるのは、将来の進路、成績であった。そして3番目にボディイメージが来る。続いて友だちとの関係、両親との関係となっている。

    また「死にたい」気持ちのリスク因子として、「ネットでのいじめ経験あり」と答えた1.8%(約400人)の子どもたちは「死にたい」気持ちが非常に強く、オッズ比3.6であった。その次は、「両親関係の悩みあり」と回答した子どもたちで、オッズ比2.1であった。その他、成績や将来の進路、友達の悩みがあったとしても、オッズ比は1.1に留まった。

  • 思春期の子どもたちが抱える健康課題への支援の必要性:思春期健診とアプリ介入の効果
    国民1人あたりの年間平均医療費(年代別)を見ると、0~4歳に20.1万円、また80~84歳は86.9万円であるのに対し、思春期の15~19歳は6.7万円に過ぎない。実はこの思春期の時期は、若年妊娠や喫煙・飲酒、性感染症、避妊・中絶、スマホ依存、いじめといった保健課題が重要であり、十分な手当がなければ、こうした問題を背負ったまま大人にならざるを得ない。2018年に成育基本法が成立し、今後改善していくことを期待している。

    私たちは、ICTと医療・健康・生活情報を活用した「次世代型子ども医療支援システム」の構築に関する研究(平成30年度日本医療研究開発機構 成育疾患克服等総合研究事業 – BIRTHDAY)を実施した。成人期の病気は、実は子どもの頃から始まっている。思春期の疾病負担はメンタルヘルス不調が多く、COVID-19によって子どもの自殺が増加した。そこで、子どものヘルスプロモーション向上を目的に、日本では実施されていない思春期健診とセルフモニタリングアプリを活用した介入研究を実施したところ、子どもたちの抑うつが軽減し、希死念慮も抑制された。

    「君を知ってる?」プロジェクト 〜ティーンズ健診とCBTアプリによるヘルスプロモーション~ には、全国から38校217名が参加した。福岡でホームページを通して応募した180名のうち来院者数は160名であった。それぞれ1時間かけて保護者同席で同意取得を行った後、隣室で実施した問診(アンケート)の結果は、驚くものであった。「この2週間、死んだほうがましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようと思ったことがある」という設問に対し、「半分以上」「ほとんど毎日」と回答した子が、8名もいたのである。その子どもたちは、希死念慮のため研究に参加することはできず、病院を受診することになる。つい先ほどまで元気に会話をしていた子どもが希死念慮を抱いているとは思いもよらず、見分けることは不可能であると感じた。

    介入研究では、エントリーした217名のうち希死念慮で脱落の6名を除き、思春期健診群(n=68)、健診/アプリ群(n=70)、コントロール群(n=71)に割り付けた。介入開始から1カ月後に1名、2カ月後に1名、4カ月後に4名が希死念慮を訴えたが、健診もしくはアプリによって介入した138名から1名(0.7%)、自宅でアンケート回答を行ったコントロール群71名から5名(7%)となり、10倍もの差を生じた。つまり健診やアプリによって介入することは、中高生のメンタルヘルスあるいは希死念慮の抑制に有用である可能性が示唆された。また、セルフモニタリングアプリを実施するほど抑うつ症状は軽くなり、セルフモニタリングの力は向上することが示された。

  • データ利活用とデジタル介入による子どものメンタルヘルス予防・改善と医療・教育連携促進が望まれる
    将来的には、「次世代型子ども医療支援システム」として、地域にいるハイリスクの子どもたちの出生情報、健診情報、アプリに入力した内容等を機械学習し、早期に医療支援を受けるべき子を抽出し、健康の層別化ができればいいと考えている。GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想[1]により、現在、児童生徒は1人1台端末を持っている。においてセルフモニタリングアプリ「むぎまる」をウェブ仕様で実施し、教育機関と医療機関を結ぶ架け橋になればいいと思っている。

    新型コロナウイルス感染症の影響で、医療提供体制は大きく変わってきた。メンタルヘルスやヘルスプロモーションのニーズが増加している。思春期を含む健康な子どもの健康増進が大切であり、私自身、小児科医として保健課題に取り組んでいきたいと考えている。そうした中で、ICTを活用していくことも大切かもしれない。


[1] 2019年に開始された全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み



18:30-18:45 
報告「日本医療政策機構実施小中学生向けメンタルヘルス教育介入とその効果」

  • 吉村 英里(日本医療政策機構 シニアマネージャー)
  • 小関 俊祐(桜美林大学 リベラルアーツ学群 准教授)


2021
年度HGPI実施「こどもを対象としたメンタルヘルス教育プログラムの構築と効果検証」プロジェクト実施の背景と概要

吉村 英里(日本医療政策機構 シニアマネージャー)

  • 子どもの時期からのメンタルヘルス課題の早期発見、早期介入が重要であり、予防のための教育機会の提供が望まれる
    精神疾患は、がん・脳卒中急性心筋梗塞・糖尿病に並ぶ5大疾病の1つである。統合失調症、認知症、うつ病、発達障害、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症などの精神疾患の多くは、その原因は不明と考えられている。一方で、日本を含む国際調査や研究において、約4-5人に1人が一生のうちに精神疾患にかかり、その半分が15歳までに発症していることが報告されている。世界では、5人に1人の子どもがメンタルヘルスの問題を抱えているといわれ(WHO, 2000)、子どもの時期からの早期発見、早期介入が重要である。

    2020年7月、日本医療政策機構は「メンタルヘルス2020明日への提言」を発表した。その中で提言の一つにも挙げたが、ライフコースに応じたメンタルヘルスに対処できるよう、初等中等教育におけるメンタルヘルス教育及び支援体制を充実させることが重要であり、5歳頃から精神および行動の障害が上位を占めることから、低年齢層にも心の健康教育を通じたメンタルヘルスリテラシー獲得の機会が求められる。

    新型コロナウイルス感染症の拡大により、子どもを取り巻くメンタルヘルスは世界的に状況が悪化し、既存課題が表面化してきている。海外の一部では児童・青年層に対するメンタルヘルス教育が日本より進展し、知識のみならず具体的な対処方法や支援体制の構築まで教授するプログラムが充実しつつある。

    日本では、2022年度から新しい高校の学習指導要領の保健体育の中で「心の病気」に関する学習が40年ぶりに復活する。一方で、発症時期を踏まえると、さらに早期の小中学校の年代から、学校教育を通じたメンタルヘヘルスリテラシーの向上や不安やストレスへの対処について知る必要があると考えられる。

  • 成人を対象にした世論調査の結果でも学校での心の健康教育ニーズは高く、新設の子ども家庭庁の役割としてもメンタルヘルスに関連する施策への期待が大きい
    HGPIが2021年度に実施した20歳以上の一般男女1,000人を対象とした世論調査の結果、学校でこころの健康について学んだことがあった人は全体のわずか25%に留まる一方で、学んだことがない人のうち、60%以上が「学びたかった」と回答している。

    また、2023年4月に新設予定の「こども家庭庁」でとくに取り組んでほしい課題について尋ねたところ、回答の中で最も多かったのは、いじめ対策(48.6%)、虐待予防(34.7%)、不登校・引きこもりの児童生徒への支援(24.9%)、心の健康支援(20.8%)と、いずれもこころの健康に影響を与える、あるいは関係するテーマであった。

    以上を踏まえ、2021年度HGPIは、子どものメンタルヘルスの教育的予防と政策推進に資するべく、プロジェクトを実施した。実施内容は主に「1.多職種によるメンタルヘルス教育プログラムの作成」「2.教育プログラムの介入による効果検証(各約1時間、問題解決訓練、認知再構成法、行動活性化療法、SSTの4技法別の授業をクラス別に実施)「3. 子どもに必要と考えられるメンタルヘルス予防・対策サポートシステム等を検討する産官学民専門家会合の開催(本会合)」「4. 政策提言書作成・アドボカシー活動」である。


教育現場で求められるメンタルヘルス教育 : 実施した教育内容のご紹介

小関 俊祐(桜美林大学リベラルアーツ学群 准教授)

イライラ、不安、落ち込みといった児童生徒が抱える心理的諸問題に対し、認知行動的介入の有効性が報告されている。その中でも、学級単位などの集団認知行動的アプローチが実施され、効果を上げている。

・ 認知的評価に焦点を当てた認知再構成法(小関ら, 2007)
・ ストレッサーの低減に焦点を当てたソーシャルスキルトレーニング(小関ら, 2009)
・ ストレス反応後の対処に焦点を当てた問題解決訓練(小関ら, 2014)
・ 対処方略の実行とその結果に着目した行動活性化療法(小関ら, 2016)

「認知再構成法」は、出来事(とくにストレス喚起場面)と感情(とくにストレス)の間には考え方(認知)という要素があることを知り、認知の多様性(認知にはいろいろな考え方がある)に気付くことで、ストレス場面に対処する方法を身に付けることをねらいとする。

「行動活性化療法」は、「行動するといいことが起こる!」という気付きを促し、「行動しないことで避けている状況(例えば不登校など)」を抑制することをねらいとする。

「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」は、適応行動の理解と自分の行動によって他者に及ぼす影響について理解するとともに、自分の行動によって他者からの評価が変わることに気づくことをねらいとする。

「問題解決訓練」は、自分の持っているストレス対処方法を整理し、①自分にとってのメリット、②他者にとってのメリット、③実行可能性、④ネガティブな要素の基準に基づいて評価する方法を身につけること、をねらいとする。


小中学生を対象にした教育介入効果の報告

  • 吉村 英里(日本医療政策機構 シニアマネージャー)
  • 小関 俊祐(桜美林大学 リベラルアーツ学群 准教授)

① 授業の効果について
90%以上の児童生徒に対して、有効であったとの回答が得られている。今回は、各1回(小学校45分、中学校50分)の限定的な時間であったにもかかわらず、一定の効果が得られたことは、対象となった児童生徒にとって内容的に適切なものであったと理解できる。

② 授業に対するニーズについて
通常学校に継続して登校することができている児童生徒が対象となっているにもかかわらず、4人に3人程度の児童生徒が、同様の授業に対するニーズを感じていることが明らかになった。
どの児童生徒にも、メンタルヘルスの不調や、それが重篤化した際の不登校等のリスクを抱えていることを考えると、予防的な観点からも、このような授業実践をすべての児童生徒に対して、定期的に提供する仕組みづくりが必要である。

③ 抱えている不安や悩みについて
授業前後で、不安や悩みを抱えている児童生徒の数が減少している結果が得られた。授業で扱った内容を活用することで、不安や悩みに対応できた可能性がある。
今回の介入のように、ワークシートを用いて1人1人の抱えている悩みに具体的に焦点をあてて取り組むことで、児童生徒が解決策を習得できることが期待できる。

④ 嫌な気持ちになったときの助けについて
依然として、友だちや家族をサポート源とする回答が多いことを踏まえると、今回の介入のように、日常生活をともにするクラスメイトと同じ内容の授業を受けることで、対処方法や解決策を共有することは、通常時の相互支援にも活用されることが期待できる。

18:45-19:30 パネルディスカッション
「教育現場におけるこどものメンタルへルス課題と支援の在り方〜教育現場を超えて現場と政策のギャップを埋める具体的な打ち手とは〜」

モデレーター:河田 友紀子(日本医療政策機構 シニアアソシエイト)


田中 恭子
(国立成育医療研究センターこころの診療部 児童思春期リエゾン診療科 診療科長)

  • 新型コロナウイルス感染症の感染拡大が子どものこころとからだに深刻な影響を及ぼしている
    当科の外来受診に訪れる多くの子ども達が、「大人は信じられない」「誰も聞いてくれない」と言う。自分の気持ちや考えを心の奥底に抑圧し、無意識の領域まで押し込めてしまうと、子どもたちのストレスは身体症状として現れたり、他害行動や自傷行為といった行動として現れたりする。

    そのような子どもたちが増えていると感じていた矢先、新型コロナウイルス感染症による環境変化が子どものストレスを悪化・持続させていることが、国立成育医療研究センター社会学研究部の有志、こころの診療部有志で立ち上げた「コロナ×子ども本部」の調査結果からも証明されてきている。第6回調査(2021年9月13日~9月30日実施)では、約7割の子どもにストレス反応がみられた。

    新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、子どもの摂食障害が増えていることを示すデータもわが国で出てきた。海外では、18歳以下の児童青年の抑うつおよび不安症状は、COVID-19前に比べて2倍増加しているという研究結果も報告されている(Racine N, et al., 2021)。

  • 新型コロナウイルス感染症による教諭へのストレスも大きく、子どものメンタルヘルスを教育機関の対応のみに依存するのは望ましくない
    私たちは2021年1月から2月末にかけて、世田谷区教育機関・人権擁護機関を対象に、教職員のストレス等について調査を実施した。その結果、学校の教諭も新型コロナウイルス感染症によって大きなストレスを抱え、多少なりとも仕事に対する意欲低下をきたしている割合が多いことが明らかになった。このことからも、子どもたちのメンタルヘルスを教育機関のみに頼ってしまうのは、望ましくないと考えている。

    教諭から見た新型コロナウイルス感染症の感染拡大以前と比べて増加していると感じる児童の健康状態については、「虐待など家庭内不和」「うつや不安症などの精神疾患」を選ぶ割合が高かった(n=106 複数回答可)。実臨床でも、もともとあった家庭内不和がコロナ禍でさらに険悪になり、介入してもなかなか良い支援につながらないケースが多いと感じている。

  • 子どもからのメンタルヘルス・人権対策、政策に対する改善への期待の声が上がっている
    2022年3月31日まで、小学校1年生から高校3年生相当(6~18歳)を対象に「子どもの権利(けんり)について考えよう!子どもの意見・希望調査」を実施している。中間報告として、子どもたちの回答の一部を紹介する。

・ 子どもの意見をもっと聞いて欲しい。
・ 安心して甘えたり、素直な自分を認めてもらえたりしたい。
・ 偏見の混じった人権学習をやめて欲しい。
・ 助けを求められたらもっと真剣に聞いて欲しい。
・ 今実現しようとしていることが本当に子供のためなのか、また子供の立場を理解した上で成り立ってるのか常に考えるといいと思う。
・ 大臣などのお偉いさんが1週間程困っている子どもの家に密着して、子どもたちの困りごとに向き合っていく。
・ 大人が子どもの権利を学ぶべき。こころの相談が最もしにくい悩みだ。

  • 米国で今求められるとされる子どものメンタルヘルス支援策は、我が国の施策の参考になり、特に「学校でのメンタルヘルスケアの効果的なモデルの支援」、「プライマリーケア(小児科)」におけるメンタルヘルスケアの統合の加速が重要である
    米国児童青年精神医学会(AACAP: The American Academy of Child and Adolescent Psychiatry)は、今求められていることとして、次のような点を挙げている。

・すべての家族がメンタルヘルスサービスを受けられるようにするための連邦政府の資金増補
・遠隔医療へのアクセスの改善
・学校を拠点としたメンタルヘルスケアの効果的なモデルの支援
・プライマリーケア(小児科)におけるメンタルヘルスケアの統合の加速
・子どもや青年の自殺リスクを減らす取り組みの強化
・子どもがどこに住んでいてもメンタルヘルスサービスを利用できるように労働力の課題と不足の解決

特に「学校を拠点としたメンタルヘルスケアの効果的なモデルの支援」や「プライマリーケア(小児科)におけるメンタルヘルスケアの統合の加速」が重要と考えている。わが国では、学校における心理教育ツールの開発と2022年実装に向けて、リーフレットを作成した(令和2年度 厚生労働科学研究費補助金 学童・思春期のレジリエンス等心身の保健向上のための研究)。来年度からこのリーフレットを活用し、精神科医・小児科医が学校へアウトリーチし、先生とともに心理教育を行っていく計画である。

ストレスとコーピングの支援は、まず大人が、子どもとやさしく対話をするためのスキルを身につけることから始まる。子どもと関わりやすくするためのリーフレット等を活用し、人権教育を小学校からしっかり行うことが大切である。自分にとって必要な支援、必要と思わない支援は何なのか、子どもたちの声を聞き、それを体制にしっかり反映させていかなければならない。

一方、心身症や不登校は、ストレス関連性疾患として医学との連携が必要となる。心身症・不登校などストレス関連性疾患の要因をバイオソーシャルモデルで考える上でも、教育と医療の連携が今まさに求められている。

コロナ禍をばねに、子どものレジリエンスが向上するためには、子ども自身への働きかけとともに、子どもを取り巻く生育環境に働きかけることが大切である。とくに、学校における対話を通じた心理教育は、子どものメンタルヘルスにとって重要である。


久保 賢太郎(東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭)

  • 教育現場において、現代の子どもたちは集団の中での同調圧力、比較、序列、分断によるストレスを抱えていると感じており、産業革命以降に形成された旧態依然の学校システムがもたらす課題ともいえる
    日本、特に都市部の子どもたちを取り巻く状況として、受験との戦い、同調圧力へのアジャスト、集団の中での序列、分断、ラベリングの固定化などが、学年が上がるにつれて強まっていく。さらに子どもたちは、新型コロナウイルスの感染拡大によって「つながり」「他者」の欠如、「遊び」の消失、解放のない「日常」の連続、我を忘れる「今」との出会いの消失、といった状況を強いられている。

    学校の子どもたちの様子を見ていると、iPadと睨めっこして、そこを逃げ場にしていても、さらに自分を見つめざるを得ない情報とたくさん出会い、結局は逃げ場がないという状況がある。そして比較、序列、ラベリングが横行する集団の中で、また自分を演じなければならない。

    そもそも学校教育自体、産業革命以降に形成された「標準モデル」に、本来異なる子どもたちを当てはめていくというシステムである。そこでは当然、同年齢の子どもたちとの「比較」「序列」「分断」が生まれるため、学校というシステムそのものが抱える課題は多い。

  • 子どもは自己肯定感と自己効力感の両方を持つことが大切であり、認知行動療法をベースにした実践的なメンタルヘルス教育の実施と現場での継続的なフォローアップが必要である
    小学校におけるメンタルヘルスの教育は、学級担任の裁量で似たような話をすることもあるが、それどころではないという状況もある。5年生の「保健」で扱われてはいるものの、日常的な子どもたちとの関わりの中で、メンタルヘルスのフォローをしていく必要があると思われる。小関氏の報告にあったような認知行動療法をベースにした子どもたちとの関わり方、見通しの持たせ方、解決の仕方などを、皆で身につけていくための体制づくりが求められる。

    近年、自己肯定感をもつことが大事だと言われている。しかし子どもたちが生きている現実は、「あなたのままでいいですよ」と言われてそのように生きていける訳ではなく、色々な荒波にもまれて苦しまなければならない。そういう矛盾したダブルバインド(二重拘束)の状態にある。

    そのため、ありのままを肯定しながらも、何か問題が起きた時は、どういう方策をとれば見通しが持てるようになるのか。その解決の仕方を経験し、自己効力感(ある状況下で結果を出すために適切な行動を選択し、かつ遂行するための能力を自らが持っているかどうか認知する)を高めることも大切である。こうした「自己肯定感」と「自己効力感」の両方が必要と感じている。

  • 子どもと教諭のメンタルヘルス課題の解決策として、社会に開かれた学校の在り方を検討していくべきだ
    学校教育と子どものメンタルヘルス教育を取り巻く諸問題として、まず、その重要性の理解が教諭側にも不足しており、その子自身が自然と身に付けていくもの、失敗して気づくものだと思っている。また、学級経営的対応の一環にすぎず、教育すべき内容として科学的・実証的に整理されているとは言い難い。

    結局、担任が背負わざるを得ないのが現状である。学校の中の職員の役割や横の関係性により透明性を持たせ、学校の外ともシームレスに橋をつないでいければいいと思っている。子どもを「社会化しよう」という社会のまなざしと学校への要求、こうしたダブルバインドに子どもも教諭も疲弊しているのが現状かもしれない。


大谷 哲弘(立命館大学 産業社会学部 教授)

  • 東日本大震災の経験を通じて:教諭は子どもたちが受けた被害の大小に関わらずメンタルヘルス課題に向き合い、身近な立場から「健康教育」を施すべきである
    東日本大震災の発生時、研修指導主事(臨床心理士)として、教育相談を担当(支援・研修)していた。発災後は、いわて子どものこころのサポートチーム、心とからだの健康観察分析チーム(継続中)、被災高校におけるスクールカウンセラーとして活動した。そうした経験に基づき、被災当初の学校における支援について話題提供したい。

    震災が突然起こり、まず誰を支援したらいいのか、誰が支援をすればいいのかという戸惑いがあった。教育委員会としては、組織的・継続的支援のための原則を検討し、それに基づいた支援を構築した。

    心理支援の原則その1として、全県が被災しているという共通理解に立つことである。激甚被災地(沿岸) ではない内陸でも震度6弱の地域があり、家族が迎えに来られないケースもあった。児童生徒の出来事のとらえ方 (とらえ方を作った過去の経験と蓄積) や児童生徒の認知的処理の過程にもよるため、「被害の大小=恐怖の大小」ではなく、全県が被災しているという認識に立った。

    心理支援の原則その2は、あくまで教師であるため、「ケアではなく心の健康教育を」という認識である。身体症状など急性期にストレス反応が生じるのは自然なことであり、学校生活など諸資源を回復に生かそうとする子ども自身の取り組みを支援すべきと考え、子どもの回復力を尊重するという発想に立った。

    心理支援の原則その3として、直接支援の担い手は教諭という認識である。教諭による教育活動は、ストレスマネジメントそのもの (基本的要素をもっているはず)と捉えることができる。そのため、スクールカウンセラーや外部の専門家が支援を行うのではなく、あくまでも直接の支援の担い手は教諭という原則を立てた。

    心理支援の原則その4は、支援のない査定はしないという考えである。「調査」は、子どもの心の傷を想起させるだけで終わる。阪神淡路大震災では、それが批判の対象となった。そのため「心とからだの健康観察」という「教材」を作成し、こころのサポート授業(心理教育・リラクゼーション)、心とからだの健康観察、担任による個別面談・経過観察の3点セットで実施した。不快な刺激を提示したら、子どもの利益になることまでを一対として提供する。つまり、支援のない査定はしないという原則をつくった。

  • 年月が経過に伴い震災の影響は収束傾向にあり、震災以外の理由によるメンタルヘルス課題を抱える子どもを支援しているが、大人は対処法の教授にとどまらず、子どものこころに真摯に向き合う必要がある
    公表されたデータに基づいた分析結果によると、心とからだの健康観察による要支援者率は、小学生で5年後、中学生で11年後、高校生で13年後に収束した、あるいは収束する見通しである。岩手県では、収束後は、日常生活のストレス反応であるという理解をしている。

    高い反応を呈した生徒の中には、面談の過程で学級への不適応やいじめを訴える者もいる。父母間の日常的な不和と暴力を話し、心理的な虐待に曝されていることが明らかになった事例もある。このように非震災由来の要支援者がいるということで、岩手県では、いじめ対応・自殺対策へ対象を拡大し、子どものメンタルヘルスに対応している。

    現状求められる支援としては、「メンタルヘルス課題への対処法を子どもに教えて、身につけさせて解決へ」が必要と考えるが、「教えて解決する」という発想のみで十分だろうかという疑問を持っている。受け取る大人側が、どういう態度で子どもの話を聞いていくかということも重要である。


外川 大希(株式会社ジョリーグッド DTx事業部 アソシエイトプロデューサー)

  • 放課後等デイサービスと学校の連携を通じて、より支援目的や内容を子どものニーズに合わせることが可能となり、さらには保護者の養育態度の改善にも繋がった
    多くの放課後等デイサービスが抱える課題として、学校の指導方針と放課後等デイサービスの支援方針では児童を視る視点が異なっており、内容の整合性を取りつつ教育や支援を実施することへのハードルが高くなっている。

    私が以前所属していた施設では、施設内での適応よりも学校や家庭での生活における適応に焦点を置いて療育(主にSST)を実施していたこともあり、学校での生活の様子や適応度合いを知っておく必要があった。学校ではどれくらいスキルが定着しているのか。情報共有を目的に、児童を学校へ迎えに行く送迎時の些細なやり取りから連携が始まった。関わる意図が明確になっていることで、 教諭とのやり取りもより具体的になる。保護者からの意見は、保護者本人が感じている困りごとに強く影響を受けるため、第三者的な視点がより重要になってくる。

    連携先としてやり取りが始まった特別支援学級では、授業内で試験的に「仮想現実(VR: Virtual Reality)を活用したSST」を実施しており、授業に参加した児童1人1人の行動データが蓄積されていたため、非常に連携が取りやすかった。VRツールを活用することによって、自動的に記録が生成される。特に視線データが有効で、通常のSSTではあいまいになりがちな「相手の顔を見る」という行動にフォーカスすることができる。

    そこで特別支援学級と同様のツールを活用することによって、より共通の目的意識を持って連携を行うことが可能となった。また、ツールが同様でもSSTの実施場所によって児童の反応が変わるといった行動の変化も観察され、より詳細な様子を保護者にフィードバックすることに繋がった。特別支援学級と放課後等デイサービスの一貫した支援を望む保護者は多く教諭と支援者が繋がっているという安心感は、家庭の養育態度の向上をもたらした。

  • VRを利用したSSTは子どもに合わせた個別課題にも対応することができ効果が高い
    従来のSSTでは、前提となる場面を絵カードや言葉で伝えることが中心で、場面の共有が非常に難しかった。JOLLYGOOD+では前提となる場面をそのまま体験できるので、児童にとって分かりやすいSSTが実現できる。

    体験することのできる場面は様々あり、学校や職場で「よく遭遇する場面」をテーマにしている。場面体験を通じて、ジョリーグッドが独自に定義しているソーシャルスキルを学ぶことができる。VRコンテンツはそれぞれソーシャルスキルの項目ごとにカテゴリ分けされており、挨拶をする、上手に話を聞く、上手く断る、自分を大事にする、気持ちをコントロールする、気持ちを理解行動する、仲間に入る、トラブルの解決策を考えなど、本人の課題に合わせたSSTのテーマを選定できる。

  • 多職種連携が児童の成長促進という目的を共通に協働し、さらにエビデンスに基づいた介入と実証を継続することで、より最適なメンタルヘルス支援に繋がる
    児童の成長を促進するという点では、特別支援学級と放課後等デイサービスの目的は共通している。同じ目的を持った職種同士であれば、協力できないということはないであろう。頭打ちになってしまった時に、多職種がお互いにコンサルテーションし合えるという関係性は、重要になってくると考える。

    これからの特別支援教育及び療育では、教諭や支援者の経験や感覚に基づいた介入ではなく、目視することのできるデータ(エビデンス)に基づいた介入が求められる。その結果として、どのような成果が得られたのかを実証することで、児童一人ひとりに最適な方法が見つかるであろう。


松﨑 美枝(文部科学省 初等中等教育局 健康教育・食育課 健康教育調査官)

  • 養護教諭は子供の心身の健康促進のため、学校内外の関係者間の連携コーディネーター的な役割を果たしており、健康相談等の継続支援事例は学年が上がるにつれて増加傾向にある
    養護教諭の職務については、救急処置、健康診断や疾病の管理と予防などの保健管理、保健教育、保健組織活動、保健指導、健康相談などが主な役割となる。その際、教職員、保護者及び校内組織、学校医、学校薬剤師、地域の医療機関等の関係者と連携することが重要であり、養護教諭はそのコーディネーター的な役割を果たしている。

    日本学校保健会による保健室利用状況に関する調査報告書(平成28年度調査結果)によると、養護教諭が過去1年間に把握した心の健康に関する状況として、小学校では「発達障害(疑いを含む)に関する問題」「友達との人間関係の問題」「いじめに関する問題」の順に多く、中学校・高等学校では「友達との人間関係の問題」「発達障害(疑いを含む)に関する問題」「家族との人間関係」の順に多かった。

    健康相談における主な相談内容では、「身体症状」「友達との人間関係」「漠然とした悩み」が多く、その他「学習に関する悩み」「発達障害(疑いを含む)」「睡眠」「家族との人間関係」「体の発育・発達」「教職員との人間関係」「性に関する問題」「いじめ」「児童虐待」なども挙がっている。このようなことからも、養護教諭は、多様な心身の健康問題に対応していることがわかる。

  • 文部科学省では養護教諭を主に想定し、子どもの健康課題への対応方法のガイドを作成・発信している
    文部科学省では、児童生徒が抱える様々な現代的な健康課題について、養護教諭に期待される役割と、養護教諭のみならず管理職や学級担任等の全ての教職員が、学校医、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の専門スタッフとも連携した取り組みを示す参考資料として2017年3月に「現代的健康課題を抱える子供たちへの支援~養護教諭の役割を中心として~」を作成した。

    その中で、「第2章 学校における児童生徒の課題解決の基本的な進め方」として、様々な健康課題を抱える児童生徒の生徒における4つのステップを示している。

    ステップ1「対象者の把握」では、学校内及び地域の関係機関との連携について、学校として体制を整備しておくことが重要である。早期発見・早期対応は、問題の深刻化を防止するとともに、スムーズな解決にもつながる。教職員等は、全ての児童生徒の学校生活の様子を丁寧に観察し、児童生徒の心身の健康状態の変化や児童生徒のサインを、できる限り早期に発見することに努める。変化やサイン等を発見した場合には、その情報を関係者で速やかに共有するとともに、管理職に報告する。

    ステップ2「課題の背景の把握」では、学級担任や養護教諭、管理職、専門スタッフは様々な方法で情報収集に努めるとともに、その情報をそれぞれの立場から分析する。健康課題についてアセスメントするため、管理職や学級担任、養護教諭等の関係教職員等が校内委員会を開催し、校長のリーダーシップの下、児童生徒の健康課題の背景を正確に把握する。児童生徒の課題の背景は、複数の要因(家族の経済状況、家族の問題、交友関係、地域性等)が複雑に絡んでいることがある。同じような行動でも、理由や背景によって必要とされる支援や支援方法が異なることを常に意識する。

    ステップ3「支援方針・支援方法の検討と実施」では、長期目標、短期目標を設定し、具体的にどのような方法で、だれが、どこで、何を実施するか等を決定するとともに、全職員で共通理解を図る。学級担任等が一人で抱え込まないように、担当教職員や学年主任、養護教諭等が支援に協力する。組織で支援することを意識し、それぞれの役割を明確にする。校内だけで解決することに固執せず、児童生徒の課題を解決することを第一の目標とする(関係機関等との連携)。教職員が判断に迷うときは、学校医やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等の助言を求める。

    ステップ4「児童生徒の状況確認及び支援方針・支援方法等の再検討と実施」では、児童生徒の状況の変化について、それぞれの立場から正確に把握し、支援後、状況に変化がない、悪化している場合については、原因を分析し、支援を見直して実施する。改善している場合でも、時点だけで見るのではなく、経過等を必ず確認するなど、継続的に児童生徒の状態を確認する必要がある。

    本冊子は全国の学校に配布し、各種研修会等を通して内容の周知に努めている。


ディスカッション(Q&Aセッション)

Q. 子どもたちのメンタルヘルスについて、医療と教育の連携が重要と考えるが、実際はケースごとの関わりにとどまっており、包括的に地域で子どもたちを支えるような連携は、人手も時間も足りず難しい。国や地方における先行事例を知りたい。

A.

  • 子どものメンタルヘルスの重要性を、すべての学校教諭がよく理解することが必要である。そして、「自分だけでやってしまったほうが早い」と思わず、他職種と連携し、現場レベルでお互いの理解を深めていくことが必要である。
  • また、かかりつけ医とメンタルヘルスの専門家が連携するためのシステム構築が必要である。まずは、ケースカンファレンスの開催から開始し、そこに複数の組織や職種をコーディネートするキーパーソンを置くことが、継続的かつ強固な連携促進に繋がる。
  • 文部科学省では「教職員のための子供の健康相談及び保健指導の手引」を今般改訂し、様々な課題の事例をとおして、基本的な支援や連携の方法等を示している。参考にしていただきたい。

Q. HGPIが実施した調査研究事業のようなメンタルヘルス教育を学校に導入する過程では、誰がどのような形式で実施するのか。心理師がオンラインで複数の学校・クラスに対して実施することも可能か。

A.
オンラインでも実施可能であるが、日常生活の中に落とし込むことが、介入実践には重要となる。その中で、日常の生活を見ている学校の先生やスクールカウンセラー等が上手く働きかけ、実践していくことが有効と考えられる。あるいはアプリ等を活用し、学んだことが日常生活でどの程度活用できているかを確認することで、効果が高まる。担任が教授できること、スクールカウンセラーや心理の専門家ができること、学校と医療が連携して進めていくべきこと、これらを上手く分けていく必要がある。適切にアセスメントを行いながら、進めていくことが重要である。

 


【開催報告】こどもの健康プロジェクト 第1回専門家会合 「こどもの権利を尊重したメンタルヘルス教育プログラムとサポートシステムの構築」~こどものメンタルヘルスに対するライフコースアプローチを考える~(2021年12月16日)

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