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【開催報告】第81回定例朝食会「認知症共生社会に向けたデザインからのアプローチ 」(2019年10月3日)

【開催報告】第81回定例朝食会「認知症共生社会に向けたデザインからのアプローチ 」(2019年10月3日)

日本を筆頭に世界各国では高齢化が進んでおり、我が国では高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、地域包括ケアシステムの構築が求められています。認知症分野でも同様の認識の下、認知症になっても可能な限り住み慣れた地域の良い環境で暮らし続けるために、「認知症にやさしい地域づくり」が各地域で進められています。認知症の人や家族の多様なニーズを受け止めながら、効果的な環境づくりを実現していくことが期待されています。
こうした中、認知症になったことで変化した視覚・聴覚・動作などの身体の機能について分析し、機能変化に応じた居住環境をデザインすることで、認知症の人が生活しやすい空間を作る取り組みが盛んになっています。日本でも高齢者施設や住宅などで導入が始まっており、更なる研究と普及が期待されています。
今回の定例朝食会では、スターリング大学DSDCセンター長・主席建築士のレスリー・パーマー氏をお招きし認知症にフレンドリーな環境デザインに関する最新の研究成果やこれからの展望について語って頂きました。

■認知症フレンドリーデザインとは
認知症フレンドリーデザインは、商品や建築デザインなどを工夫することによって、認知症に伴う生活上の困難を軽減することを目指し、その結果として認知症の人や家族など認知症の人の生活を支える人たちの生活の質(QOL: Quality of life)を高めることを可能にしている。
スターリング大学では2001年から認知症の人々に適した環境デザインに関して研究をはじめ、これまで認知症や失明した方のための建築デザイン、無料スマートフォンアプリの開発、体系的な文献レビューなどを行ってきた。

■認知症フレンドリーデザインの原則と目指すもの
すべての認知症の人に対応できるものをデザインすることは難しい部分もあるが、個人のニーズをサポートし、自立を促すことが原則である。認知症の人の自己肯定感を高め、朝の支度や仕事へ行くこと、トイレ動作などの日常生活をサポートできるようなデザインを目指している。重要なのは、混乱を招くようなデザインでないこと、簡単に使えるデザインを提供することで、例えば水道の蛇口は認知症の方でも蛇口をひねりやすく、かつ手を洗いやすいデザインにしている。こうしたデザインが個々人、さらには社会全体に普及することで、認知症に対する理解、啓発を促進させることも、期待されるもう1つの目的である。

■日本での活動
現在、横浜市を含む2か所の高齢者施設において、実際に認知症フレンドリーデザインを導入するプロジェクトに取り組んでいるところである。
具体的には、施設内の家具や壁、床の色、トイレや個人部屋の案内表示など、様々なところで工夫を凝らしている。例えば、認知症の人は、建物の玄関の入口に周辺の床と異なる色のマットがあることで、そこに穴が開いているように見えて、転倒してしまうことがあるという。そのため、マットを置く場合は、色のトーンを周囲と統一することで恐怖心を抱かせないような工夫をしているという。
その他、トイレでも便座が見えにくく、苦労するケースがあるという。そのため、便座を目立つ色にしてわかりやすくする工夫をすることで、入居者の方々が一人でトイレをすることができるようになった例もある。トイレやお風呂場などは文字だけでなく絵を表示することで、ここが何の部屋なのかを一目で分かるように工夫している。また、部屋の中は認知症の人を守るため安全にも配慮しなければならない。 一方で、安全にばかり配慮すると、精神的および感情的な影響が考慮されていないことが多い。つまり、 認知症の人は、自分が閉じ込められていると感じると不安になることから、そうした印象を与えないようにしつつ、安全を確保することが求められる。例えば、ドアのデザインをあえて隣の壁と区別しづらく作ることで、認知症の人は違いを見分けられず、スタッフのみが自由に行き来ができるといった仕掛けも場合によっては必要である。

■認知症フレンドリーデザインと今後の在り方
英国では、認知症の人の3分の2が自宅で暮らすことができていない。さらに、都市部の地価が非常に高いことに加え、介護コストが上昇しているため、認知症の人の多くは、自宅のあった地域を離れた施設などに入居しているケースが多い。
認知症フレンドリーデザインが初めて紹介されてから30年が経過したが、英国の建築業界ではこの10年にようやく注目されるようになった。認知症になっても暮らしやすい住宅環境を作ることで、これまでより長く自宅で暮らすことができ、それは認知症の人の生活の質(QOL: Quality of life)の向上につながる。
また、英国ではデザインからのアプローチに加えて、様々なテクノロジーを活用しながら、できる限り人々が自宅で暮らし続けることを奨励している。今後は、日本の多様なコミュニティに対応できる、新しいモデルを開発し、さらに認知症フレンドリーデザインの発展に取り組むことができればと考えている。

講演後の会場との質疑応答では、活発な意見交換が行われました。


(写真:高橋 清)


■プロフィール
レスリー・パーマー 氏
スターリング大学認知症サービス開発センター(DSDC: Dementia Services Development Centre)主席建築士、スターリング大学が企業と共同開発した環境評価アプリケーションIrdisの共同開発者。慈善団体や経済的に恵まれていない人々への支援を行うINCH Architectureの創設者でもある。建築の専門家として20年のキャリアがあり、数々の分野横断的なデザイン設計チームを主導してきた。
DSDCでは、認知症デザインチームのリーダーとして、建築プロジェクトを通じて認知症デザインの実用化に関するコンサルティングサービスや認知症デザインの原則についての指導や助言を行っている。また、グローバルに活動を展開しており、ヨーロッパ地域やイギリスをはじめ、日本、インド、オーストラリア、アメリカにおいて、認知症当事者のためのデザインプロジェクトを行う。認知症にやさしいデザイン設計、デザインやコミュニティが及ぼす影響の実証、認知症デザインの普及活動等が専門である。またこれまで、ストラスクライド大学建築学科のスタジオディレクターの他、バウハウス・ワイマール大学(ドイツ)、ウエストミンスター大学、グラスゴー芸術大学など、数々の著名な建築学科の非常勤講師を歴任。


【開催報告】第80回定例朝食会「社会で支える令和時代の子育て~社会に求められる価値変革とは~」(2019年9月11日)>

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