【開催報告】第80回定例朝食会「社会で支える令和時代の子育て~社会に求められる価値変革とは~」(2019年9月11日)
今回の定例朝食会では、駒崎弘樹 氏(認定NPO法人フローレンス代表理事)をお迎えし、子育て世代や子どもの未来を支援する上での現状の課題やこれからの展望について語っていただき、また質疑応答を通し、会場の皆様との議論を深めました。
■既存のモデルから新たなモデルを構築
病児保育問題や待機児童問題は、多くの子育て中の親たちが直面する課題にも関わらず、既存の制度や基準による障壁のため、日本では新規事業の参入が進まず取り組みが遅れている分野である。
病児保育問題に関して、フローレンスでは子どもの発病率に応じた掛け捨ての月会費を設定し、利用実績によって月会費が変動する自動車保険方式を採用した「訪問型病児保育」の事業を2005年に立ち上げた。日本初の「訪問型」・「共済型」の病児保育を自立型ビジネスモデルとして確立し、現在も子どもを持つ多くの親がいきいき働くことを支援している。また、待機児童の解消に向けた一つの取り組みとして、保育園増設時に必要である20名という定員数に着目し、厚生労働省の試験的事業として、0~2歳児を対象とした定員9名の小規模保育所を2010年に開設した。
この取り組みが国に注目され、小規模認可保育所は、2015年に「子ども・子育て支援法」の中で国の許可事業として正式に制度化した。
■モデル事業から全国的な課題解決に向けた政策提言活動
周産期・新生児医療の発達により、0~19歳の医療的ケアの必要な子どもの数は増加している。その一方で、障害児を預かり、その親の就労を支えることを目的とした取り組みは日本には存在しておらず、医療的ケアの必要な子どもを持つ親は就労ができないという現状だった。
そこで、障害児の通所や教育(療育)に関しては児童発達支援として「障害者総合支援法」、障害児を訪問して保育をする仕組みに関しては、居宅訪問型保育として「子ども・子育て支援法」を併用し、障害児のための保育園の開園や訪問での障害児保育も実現させた。
その後、全国的な問題解決に向けた政策提言活動を実施したことも後押しとなり、超党派の勉強会「永田町こども未来会議」が開催され、全国医療的ケア児者支援協議会も発足した。その結果、2016年5月「改正障害者総合支援法」が成立し、これまで明記されていなかった「医療的ケア児」が法律に明記されるようになり、自治体に医療的ケア児の支援の努力義務が課されることとなった。
また、子どもの虐待死の要因の一つである思いがけない妊娠に対する解決策の一つとして、妊娠期から課題を抱える妊婦の相談に乗り、出産と同時に子どもを望む育ての親に託す「特別養子縁組」のモデル事業を立ち上げた。自身による政策提言活動のみならず、立法府を中心とした様々なステークホルダーの活動の後押しによって、この「特別養子縁組」を進めるための法律として、2016年12月に「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律案」が成立した。
■子育て支援のさらなる推進に向けて
フローレンスでは、「親子の笑顔を妨げる社会問題を解決する」をミッションに掲げ、子どもや子育て世代が直面する課題解決に向けて取り組んでいる。
政策を推進していくためには、アイディアを生み出すだけでなく、小さくても良いので、成功したという実例を作り出し、世の中に提示することがきっかけとなる。その実例がエビデンスとなり、エビデンスに基づいた政策の実現へと繋がる。
社会の価値観を変えることは一朝一夕にはいかないが、当事者の声を大切にし、関連ステークホルダーを上手に巻き込み、長期戦で様々な政策提言活動やプロモーション活動を継続して行っていくことが重要である。
子育てをすることで何かを諦めてしまう社会ではなく、子育てと共に何でも挑戦でき、いろいろな家族の笑顔があふれる社会に向けて、子育てを取り巻く社会問題を解決していくことがこれからも求められる。
(写真:高橋 清)
■ プロフィール
駒崎 弘樹 氏
認定NPO法人フローレンス代表理事。1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2005年日本初の「共済型・訪問型」病児保育を開始。08年「Newsweek」の“世界を変える100人の社会起業家”に選出。10年から待機児童問題解決のため「おうち保育園」開始。のちに小規模認可保育所として政策化。14年、日本初の障害児保育園ヘレンを開園。15年には障害児訪問保育アニーを開始。内閣府「子ども・子育て会議」委員複数の公職を兼任。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)、『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門 』(PHP新書)等。
一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。
【開催報告】第79回定例朝食会「医療システムの持続可能性とイノベーションの両立~患者の目からみた期待と不安~」(2019年8月20日)>
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