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【開催報告】第79回定例朝食会「医療システムの持続可能性とイノベーションの両立~患者の目からみた期待と不安~」(2019年8月20日)

【開催報告】第79回定例朝食会「医療システムの持続可能性とイノベーションの両立~患者の目からみた期待と不安~」(2019年8月20日)

この度、桜井 なおみ氏(キャンサー・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長)をお迎えし、会場の皆様と一緒に、少子化、高齢化が進む日本における医療システムの持続可能性とイノベーションをテーマに、桜井氏が考える課題と、今後の改革への期待について語っていただき、また質疑応答を通して会場の皆様との議論を深めました。




 


■医療システムとイノベーションが両立するための「患者視点」の重要性と現状
日本では今後、支え手の中核を担う勤労世代が減少する一方で、高齢者人口が増加していく。収支のバランスが不均衡となる公的医療保険制度をどう維持していくか、危機感を持っている。患者会で電話相談活動をしている時に、『「あなたがいることで会社がつぶれてしまうから会社を辞めてほしい」と言われたがどうしたら良いか』という相談を受けたこともある。医療技術のイノベーションが進み、体力のない健康保険組合にとっては、1回の高額な医療が財政全体に大きな影響を与えるといったことが実際に起きている。私見だが、今後は公的保険と民間保険のミックスという選択肢も検討の俎上に上げていく必要性を感じている。
また同時にドラッグラグの課題もある。近年、新薬開発の国際共同治験に日本が参加できない事例が増えている。その場合、別途、日本人データの収集が必要となることがあり、結果としてドラッグラグが生じる可能性がある。新薬開発の国際共同治験に日本が参加できない原因として、中国等諸外国に比べ、マンパワー不足や割高なコスト、またがんゲノム医療領域において必要となるがん遺伝子検査が保険収載されていない等、環境が未整備であることが指摘されている。
こうした状況下でイノベーションを推進するには、限られた資源をどこに効率的に投入するかという視点が不可欠である。近年は、薬事規制改革による、研究開発における効率化とコスト削減が図られているが、日本の医学研究・臨床試験や薬価制度等の議論において、患者のQOL(Quality Of Life)の視点や患者・市民参画(PPI: Patient and Public Involvement)が不足していると感じている。私も参画したMetastatic Breast Cancer Alliance が2016年に出したレポート(Global Status of Advanced / Metastatic Breast Cancer )では、新薬開発が進んでいるにも関わらず、EQ-5D *1が下落していることが示された。このレポートを踏まえ、患者のQOL向上には新薬の開発のみならず、支持療法*2や就労支援などのサポートも必要といえる。また支持療法の臨床研究には現在明確なエンドポイントがない。患者にとってより価値ある研究を推進するには、臨床研究の設計段階から患者視点が必要である。
患者は医療を受け、薬を服用するという意味において「専門家」といえる。臨床研究だけでなく、薬価制度の議論に患者のQOLの視点が入ることで、より良い制度設計が可能になる。しかし現状、患者参画の場は限られ、中央社会保険医療協議会(中医協)の費用対効果評価専門組織においても、患者代表者不在のまま議論が進んでいる。
2019年4月に日本医療研究開発機構(AMED: Japan Agency and Medical Research and Development)で「研究への患者・市民参画に関するガイドブック」が公開され、同年5月に医薬品医療機器総合機構(PMDA: Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)で患者参画検討WGが発足するなど、行政側も患者参画に向けた動きをはじめたが、道半ばだ。
一方私たち患者側も、積極的に働きかけることが重要だ。そこで今年は、医療・医薬品の開発に関心を寄せる患者・市民とアカデミア・製薬業界関係者が共に協議し、医療・医薬品開発に関する考え方やそのプロセス、また倫理性、透明性の高い関係者間の協業の在り方などに関する情報発信をするためのプラットフォームとして「患者・市民参画コンソーシアム(PPI Consortium in Japan)」 を設立した。今後はヨーロッパで実施されている教育プログラムの運用の開始等を検討している。

*1 EQ-5D: EuroQolグループが開発した健康関連QOLを測定するために開発された包括的な評価尺度のこと。移動の程度や痛み、不安等の5項目の質問で構成され、回答結果を元に健康状態のスコアを算出することができる。
(出典: 日本語版EQ-5D-5Lにおけるスコアリング法の開発保健医療科学 2015 Vol.64 No.1 p.47-55)

*2 支持療法:がんそのものに伴う症状や治療による副作用に対しての予防策、症状を軽減させるための治療のこと。
(出典: 国立がん研究センターがん情報サービス 用語集)

■医療と社会のパラダイムシフト
2015年に当時の塩崎恭久厚生労働大臣の諮問機関が公表した提言書「保健医療2035」にもあるように、これからの日本の医療、そして社会は大きく変化する。これまでの、現行制度の維持を目的として、国や地方自治体の規制や業界慣習の枠内で行動する時代から、今後は患者・医療提供者・保険者・一般市民といった、保健医療のあらゆる当事者が、自律的かつ主体的にルールを創る時代へと変化するだろう。こうした変化の過程で求められることは、大きく次の3点にまとめられる。
1点目が、無駄削減と適正化推進である。例えば、これまで医師の処方箋がなければ手に入れられなかった医療用医薬品を同様の成分の医薬品を薬局・ドラッグストアで購入できるようにする、さらには病院が高額な医療機器への投資を回収するための不要な検査を抑制する、といった取り組みにより、患者にとっても有意義なコスト削減が可能になる。
2点目は、システムのイノベーションである。新薬の効き目に応じて患者から支払いを受ける成功報酬型制度導入の検討可能性について、昨今報道されるようになった。患者の就労支援も、「病気になったら仕事を辞めて(休んで)治療する」というこれまでの固定観念を打ち破るものといえるだろう。
3点目は、自立的・主体的な市民を育成するには、教育も重要だ。命の大切さといった教育ももちろん必要だが、日本の医療制度や財政状況についても現実を正しく伝え、国民が自ら現状を踏まえた賢明な選択(Choosing Wisely)ができるような環境整備が必要である。


講演後の会場との質疑応答では、活発な意見交換が行われました。

  

(写真:高橋 清)


■プロフィール
桜井 なおみ 氏(キャンサー・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長)
東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にてまちづくりや環境学習などの仕事に従事。2004年、乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がんを含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。一般社団法人 CSRプロジェクト代表理事、一般社団法人 全国がん患者団体連合会理事として活動。


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