【開催報告】グローバルヘルス・エデュケーション・プログラム 2017報告書を公開しました
日付:2017年5月29日
タグ: グローバルヘルス
日本医療政策機構(HGPI)は、2017年より、東京大学大学院国際保健政策学教室との共催によって、グローバルヘルス サマープログラムを「グローバルヘルス・エデュケーションプログラム」(Global Health Education Program: G-HEP)とリニューアルし、日本と世界の若手世代の交流により焦点をあてた、英語による研修を東京と北京で実施しました。
開催期間:
2017年3月6日(月)~13日(月)
スケジュール:
3月6日(月)~ 7日(火)
オリエンテーション・講義・スキル研修[東京]
3月8日(水)~ 13日(月)
オリエンテーション・講義[中国]
フィールドワーク[中国]
発表[中国]
開催場所:
東京:東京大学本郷キャンパス
北京:北京大学公衆衛生大学院
■総括(報告書より抜粋)————
東京(1日目)
●開会式
阿部 サラ(東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻 助教)
高松 優光(日本医療政策機構 アソシエイト)
高松よりG-HEP 2017の趣旨・概要及びテーマ「グローバルヘルスにおける日中若手人材の協調とリーダーシップのあり方:共通基盤の模索」についての紹介、及びユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)などの主要概念についての説明がなされた。続いて阿部によるアイスブレイクとして、自己紹介を行い、多様なバックグラウンドを持つ仲間が互いを知るきっかけの時間となった。
●問題解決・デザインシンキングワークショップ
山崎 繭加(東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻 特任助教)
山崎氏は、講義とグループワークを通して、問題解決思考とデザイン思考を紹介した。問題解決思考が問題を分解し仮説を立てて検証していくという論理的な手法であるのに対し、デザイン思考は「問題に対し自分たちが何ができるか」と分析過程に自身を置き創造性を加える点が特徴である。問題解決思考については、参加者は、WHO災害対策部でインターン中に上司に東北の経験について説明するとしたら、という状況をイメージし、計画・リサーチ・分析・統合から成る基本手順の手解きを受けた。問題分析の枠組みとして、MECE手法やシステム思考なども紹介された。また、実際にデザイン思考の一部を体験するため、参加者はグループに分かれ会場における問題点を30個挙げ、カテゴリー別に書き出し議論した。最後にグループ発表を行い、山崎氏よりフィードバックを受けた。
●新興感染症への対策
田中 剛(内閣官房 国際感染症対策調整室 新型インフルエンザ等対策室 企画官)
田中氏は、感染症対策の最前線における国際的取組みの概要と日本の役割について紹介した。2016年に開催された第9回日中韓三国保健大臣会合では、感染症への備えと対応、薬剤耐性、UHCという共通課題に関し、協力関係の強化を目指す共同声明がまとめられた。田中氏はグローバルヘルス・ディプロマシーの概念についても触れ、日本の役割について述べた。エボラ出血熱の事例による教訓にも言及し、2016年策定のグローバル・アクションプランには、日本が提唱した「人間の安全保障」の概念が組み込まれていることを説明。G7伊勢志摩サミットでも感染症、UHC、薬剤耐性(AMR: Antimicrobial resistance)が最重要課題として議論され、世界保健総会でも感染症対策は焦点の一つとなった。一貫して強調されたのは、各国の保健システム強化と共に、国際的な協調・連携の重要性であった。
●中国のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ実現への歩みの考察(1989~2011年)
Yi Liao(東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻 博士号取得候補者)
Liao氏より、まずUHCの主要概念についての説明、続いて中国における保健制度改革の歴史が語られた。中国において特に重要な課題として、1.人口構成の変遷(高齢化・疾病の変化)、2.慢性疾患対策、3.社会的要因による健康格差(都市部/農村部)、の3つを挙げた。医療の公平性という視点のもと、保健サービスと保険/経済的リスク保護について自身の研究結果の概要を説明した。Liao氏の研究では、今後の改善点として、1.経済的サポートの充実化、2.慢性疾患管理の改善、2.居住地域や収入による格差の是正、の3点が重要であるとの結論が導き出された。
東京(2日目)
●グローバルヘルスにおける武田薬品の取り組み
平手 晴彦(武田薬品工業株式会社 コーポレート・コミュニケーションズ&パブリック アフェアーズオフィサー)
平手氏は、民間セクターにおけるグローバルヘルスへの貢献をテーマに、創設以来一貫した患者中心、イノベーション重視という理念に基づく武田薬品の取組みを紹介した。医薬品へのアクセス改善事業(AtM: Access to Medicine)も展開しており、ナイロビオフィスの開設も含め、技術支援、人材育成、サプライチェーン、予防接種事業などを支援している。中国における大気汚染や慢性疾患の増加などの課題にも言及し、保健制度改革が求められていると強調した。武田薬品が中心となって、日本の主力製薬企業社長と厚生労働省の幹部で中国を訪問し中国保健省幹部と意見交換を行うなど両国の協力関係が紹介された講義の最後には学生から寄せられた多くの質問に熱心に応じ、知的財産権や特許システムの意義などについても語った。
●日本の糖尿病治療の動向:医療のグローバル化
飯塚 陽子(東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 特任講師)
飯塚氏は、日本と中国の糖尿病患者の推移と概要、予防と治療に関する様々な取組みを紹介した。アジアでは糖尿病患者の増加が著しい。日本のケアは、患者中心でクオリティ・オブ・ライフ(QOL: Quality of Life)を重視した、問診から栄養指導まで多面的で包括的なチーム医療である。2011年より経済産業省による医療サービス輸出事業と連携し、日本式の糖尿病チーム医療を中国に導入した活動を紹介。実施後に患者の意識や検査値に改善が認められた。事業成功の鍵を握るのは、ニーズ把握と現地機関との連携と語った。また日中が協力して取り組むべき課題として、欧米型と異なるアジア発、アジア人に適した標準化治療の構築を挙げた。最後に、自身の使命として掲げる「日中医療交流への貢献」に対する情熱と共に、次世代を担う参加者たちへのメッセージを送った―「意志あるところに道は通ず」。
●高齢化社会における保健医療システムの持続可能性
渋谷 健司(東京大学大学院医学系研究科 国際保健政策学教室 教授/JIGH代表理事)
渋谷は、日本の医療システムが抱える課題として、質の高いケアをいかに低コストで平等に届けるかという点について論じた。医療サービスは社会システムの一つとして発展すべきである。日本の政策として厚生労働省の「保健医療2035」を紹介。重要課題としては、その場しのぎの対応でなく長期的視野に基づく包括的な保健制度改革が必要な点である。量より質、インプットより価値の創造、規制より自主性、治療よりケア、分断より統合へと、変化が必要である。2035ビジョンの重要要素として、1.保健医療の価値を高める、2.ライフデザイン、3.グローバルヘルスにおける日本のリーダーシップ、の3つを説明。終わりに山田忠孝氏の「グローバルヘルスは医療の未来である」との言葉を引用し、時代の要請に合わせて変遷してきた保健医療政策を振り返るとともに、将来へ向けたビジョンを示した。
●基調講演「グローバリゼーションと保健医療の未来」
黒川 清(日本医療政策機構 代表理事)
黒川は、世界を取り巻く現状と課題を俯瞰し、グローバル化の流れは相互依存、脆弱性を伴うプロセスと述べた。広がる経済的格差についてもデータを示し、政治経済、AI等先端技術の進化、産業界も含め、世界を取り巻く様々な変化への対応が求められると言及。厚生労働省の「保健医療2035」の基本理念とビジョンを説明し、日本の人口動態、疾病構造、GDPの推移とそれに伴う医療費の変化を概観した。特に高齢化や慢性疾患、認知症の増加という喫緊の課題に焦点をあて論じた。認知症に対する世界と日本の取組みを紹介し、産官学民連携の重要性と、欧米や日本におけるプラットフォーム構築の取組みを紹介。ビッグデータや最新テクノロジーの機能や、日本医療政策機構のようなシンクタンクが果たす役割についても触れ、幅広いテーマを網羅した。最後の質疑応答では、参加者と活発な議論を交わし、若者へのメッセージを送った。
北京(4日目)
●中国の保健医療システムー課題と改革
Feng Cheng(精華大学大学院医学系研究科教授兼パブリック・ヘルス研究所グローバルヘルス・プログラム長)
Feng Cheng教授はG-HEPにおける中国パートナーとして、東京セッションからの参加者を温かなもてなしにより歓迎した。教授は中国の医療制度の課題と行ってきた改革についてその概要を、保健医療分野における主要な指標を用い、いかに中国の医療水準が改善されてきたのかを説明した。また、講義の後半では日中間で手を取り合い取り組むことが可能な保健医療に関する課題について意見を共有し、今後のグローバルヘルス人材に必要不可欠な資質を身に着けるように参加者たちにアドバイスした。
●人口統計学とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)
Mizanur Rahman(東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻 特任助教)
Mizanur Rhaman氏より、「人口統計学とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」という題名で講演があった。Rhaman氏の講演はインタラクティブであり、終始参加者による発言、質疑が絶えない1時間であった。人口変動の基本要素は、出生、死亡、人口の流出入の3つである。高齢化の問題を考えるときは、それぞれの要素についても検証する必要があると述べられた。日中の高齢化には類似性があり、社会的にも共通する課題が散見されることを強調された。その上で、高齢化社会におけるUHCという点についても言及され、質疑応答でも活発な議論が行われた。
●医療福祉分野における日中協力について
羽野 嘉朗(在中国日本国大使館領事部・経済部 一等書記官)
羽野氏より、1970年末から開始した日本政府による中国政府へのODAは、インフラ整備、環境対策、保健・医療の基礎生活分野の改善、人材育成等を中心に実施していると説明があった。その結果、中国は経済発展し、技術的な水準も向上しており、既に一定の役割は果たすことができたと考えられているため、今後の中国に関するODAは、両国の直面する共通の課題、かつ日本国民に直接裨益し、協力の必要性が真に認められる分野に限定して行っていくという方向性であると言及された。また、現在の中国の65歳以上の人口割合は約10%と、1985年の日本とほぼ同じ水準である。日本が過去30年間で経験してきたことが、この先急速なスピードで中国にも起こると予測されていることから、日本の介護保険制度等は中国にも重要な示唆を与えると考えられる。現在日本政府は、2025年を目途に地域包括ケアシステムの構築実現を目指しているが、中国でも同様にこのシステムを取り入れていこうという動きがあり、システム構築のプロセス等で協力の可能があるということが言及された。
北京(5日目)
●現地医療施設の視察
日本側の参加者は、北京市内の「Chaoyang District Anzhen Community Health Service Center」を訪問した。院長のZhang Nan先生と中日友好病院国際部のMeng Huachuan氏に施設を案内してもらった。中国では、「コミュニティ・ヘルスサービス・センター」が一次医療として、地域医療の窓口を担っている。施設見学では、一般内科外来、中医学外来、健康管理科を訪問した。当センターは地域住民のヘルスプロモーションの促進に力をいれており、健康講座の実施、健康管理(食育・運動)のためのピアグループの形成等を自主的に行っている。また、医療ICTの導入にも先進的であり、WeChat(中国におけるスマートフォンコミュニケーションアプリ)を活用して、院外での健康教育、予約のリマインダー送信などを実施している。見学の最後30分は、Zhang Nan院長に対する質疑応答にあてられた。外来の現状(患者数、待ち時間、診察時間)、保健所との協力体制、ICT導入時の工夫・苦労、感染症対策(新インフルエンザ・薬剤耐性菌対策)、認知症高齢者へのサポート体制等について活発な意見交換が行われた。中国における医療現場を見ることのできた、大変有意義な時間であった。
北京(6日目)
●グローバルヘルスにおけるPPPの役割
鹿角 契(公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund: Global Health Innovative Technology Fund) 投資戦略・開発ディレクター
鹿角氏より、発展途上国の感染症向けに開発された新薬がたった1%であったという現状には、新薬開発までの需要と供給の仕組みや企業のビジネスモデルが深く関わっているということと、こうした状況を打破するための医薬品開発パートナーシップ(PDP: Product Development Partnership(s))と呼ばれる、国際的な既存の営利目的とは異なった関係性が果たす働きについて解説された。
また、産官学民がセクターの垣根を越えてパートナーシップを組み、共同で資金を拠出して、発展途上国で必要とされる新薬開発に挑む世界初のグローバルヘルスR&Dに特化した基金であるGHIT Fundについて、それぞれがWin-Win-Winの関係を構築しながら持続可能な方法でグローバルヘルスの課題解決に貢献する一例として紹介された。
北京(7日目)
●基調講演「グローバルヘルスにおける優先課題と中国による貢献」
Liu Peilong(北京大学公衆衛生大学院グローバルヘルス専攻 ディレクター)
北京大学Liu Peilong氏が、本プログラム最後の登壇者として、「グローバルヘルスにおける優先課題と中国による貢献」というテーマで基調講演を行った。世界的なグローバルヘルスの専門家であるLiu Peilong氏の話は、基礎から最先端知見までを網羅するものであった。まず、グローバルヘルスが取り組むべき二つの最優先課題である、「健康格差の是正」と「医療保障の担保」について説明があった。次に、中国におけるグローバルヘルスの歴史について話が及んだ。以前は、ODAはじめ国際社会からの支援を受給する国であったが、近年ではグローバルヘルス分野において最も貢献する国の一つになりつつある。中国のグローバルヘルスは時代のニーズに合わせて常に変化しているが、その中でもプロジェクトベースの資金提供を行う原則は不変である。講演後には、参加者からグローバルヘルスへの貢献の持続可能性、今後の国際社会で求められるリーダー像について質問があった。
————————————
また、学生の取り組みに関する詳細につきましては報告書をご覧ください。
共催:
特定非営利活動法人 日本医療政策機構(HGPI)
中国パートナー校:
北京大学公衆衛生大学院
清華大学公衆衛生大学院
特別協賛:
■ お問い合せ
特定非営利活動法人 日本医療政策機構
担当:高松優光・今村優子
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