活動報告 調査・提言

【お知らせ】「健康な気候のための処方」に日本医療政策機構プラネタリーヘルス政策チームも署名(2022年8月31日)

【お知らせ】「健康な気候のための処方」に日本医療政策機構プラネタリーヘルス政策チームも署名(2022年8月31日)

日本医療政策機構のプラネタリーヘルス政策チームは、2022年8月31日「健康な気候のための処方」に賛同する署名を行いました。

「健康な気候のための処方(Healthy Climate Prescription)」はグローバル・クライメート・ヘルス・アライアンス(GCHA: Global Climate and Health Alliance)と世界保健機関(WHO: World Health Organization)によって支援され、4,600万人の医療従事者を代表する600を超える市民団体と102カ国3,400人を超える個人から署名されました。この書簡は第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)にて各国首脳及び代表団に対し提示され、気温上昇を1.5℃に抑えることで気候危機に対処し、人間の健康と公平性を、すべての気候変動の緩和策と適応策の中心に据えるよう呼びかけました。

しかし、COP26での取り組みだけでは気候変動に対応するためにはまだ程遠く、継続して保健医療コミュニティーの一員としてこの書簡に掲げられている取り組みに尽力する必要があると考えております。

「健康な気候のための処方」の和訳は日本作業療法士協会の仮和訳を基に日本医療政策機構で翻訳されたものです。

 

 

健康な気候のための処方


国家元首と国家代表団の方々へ

気候危機は我々人類が直面している唯一最大の健康上の脅威です[1],[2]。医療専門家および医療従事者として、我々はこのCOVID-19のパンデミックよりもはるかに壊滅的で永続的なリスクをもたらす可能性がある気候危機について、声をあげる倫理的義務があると認識しています。我々は政府に対して、市民・未来の世代を気候変動から保護することにより、政府の責任を果たすことを強く求めます。

医療従事者が世界中のどこの病院、診療所、地域社会で働こうとも、我々はすでに気候変動によって引き起こされる健康被害に直面しているのです。

例は次の通りです:

  • 大気汚染、その中でも特に気候変動を引き起こしている化石燃料の燃焼による大気汚染は、毎年700万人以上の早死を引き起こしており[3]、毎分13人が亡くなっています。森林火災、廃棄物の焼却、および有害な農業慣行も、我々の空気と肺を汚染しています。
  • 天候と気候の変化は、食物、飲料水、および生物を媒介した病気・疾患の増加を引き起こしています[4]
  • ますます頻繁に発生している熱波、暴風雨、洪水などの異常気象は、数千人の命を奪い、毎年数百万人の生活を破壊し[5]、我々の医療施設にも影響が及んでいます。今年だけでも、中国、インド、パキスタン、ベトナム、カナダ、ドイツ、ベルギー、その他多くの国で、気候変動に関連した大きな健康災害が発生しました。
  • 食糧システムは異常気象の影響を受け、食糧不安、飢餓、栄養失調などの悪化を引き起こしています[6]
  • 海面上昇によって、人々の健康に不可欠な家屋や生計が破壊されています[7]
  • 気候変動の影響は人々の精神的健康にも深刻な影響を与え、PTSD、不安障害を引き起こし、既存の健康状態を悪化させています[8]

2015年のパリ協定では、政府は2050年までに世界の気温上昇を 2℃よりもさらに抑え、1.5℃を目指して必要な措置を講じることを約束しました。最新の科学的評価[9]により、壊滅的な健康への影響を回避し、気候変動に関連して起こりえる数百万人の死を防ぐためには、温暖化を1.5℃に制限しなければならないと明確にしております。

世界はこのままでは、今世紀だけでも2.7〜3.1℃温暖化する未来へと向かっています[10]。第6次評価報告書では、各国の政府が今、気温上昇を1.5℃に制限するための取り組みを行い、行動しなければならないことを明記しています[11]。1.5℃の気温上昇から0.1℃でも悪化するごとに、人々の暮らしと生命に深刻な打撃を与えることになります[12]

これらのリスクと無関係な人は一人もいませんが、気候変動によって最初にそして最悪の健康被害を受けるのは、気候変動に対する責任が最も少なく、自分自身と家族を守ることが一番できない立場にいる人々、すなわち低所得国・地域の人々です[13]。気候危機を引き起こすこととなった行動、特に化石燃料の採掘とその恩恵を受けた人々と国々は、現在最もリスクにさらされている人々を助けるために、最大限の努力をする責任があります。

健康と公平性を気候政策に盛り込むことで、人々の健康を保護し、投資のリターンを最大化し、喫緊の課題である気候変動対策に関して国民の支持を得られると考えられます。より綺麗な空気と水、より健康的でより安全な食料供給、強靭で低炭素な医療・保健分野、そしてより環境に優しい輸送とコミュニティの設計はすべて、人々にとってこの今現在でも有益なことです。さらに、医療費が節約されることで、これら対策費用も相殺されるでしょう[14]

私たちは、COP26の各国のリーダーと議員達に、地球温暖化を 1.5℃に制限することで差し迫った健康危害を回避し、人間の健康と平等をすべての気候変動の緩和と適応行動を中心に添えるよう呼びかけます。

具体的には:

  • 我々はすべての国に対し、パリ協定に基づく各国の気候変動への取り組みを見直し、温暖化を1.5℃に制限するために必要な取り組みを公正に負担することを要請します。そして我々はその計画に「健康」を盛り込むよう呼びかけます。
  • 我々はすべての国に対して化石燃料からの迅速かつ公正な移行を、化石燃料に係るすべての許可、助成金、資金調達を直ちに削減することから始め、それら資金をクリーンエネルギーの開発に完全移行することを求めます。
  • 我々は高所得国に対して、1.5℃の温度目標に沿って、温室効果ガス排出量を大幅に削減するよう呼びかけます。
  • また、我々は高所得国に対して、必要な緩和と適応策の達成を支援するために、低所得国へ必要資金を提供するよう要請します。
  • 我々は政府に対し、気候変動に強い低炭素で持続可能な医療システムを構築するよう呼びかけます。
  • 我々は COVID-19によるパンデミックからの回復に対する投資が、気候変動対策を含み、社会的および健康的不平等を是正するよう政府に要請します。

この書簡で提言した行動は、気候と健康の危機に対処する上で必要ですが、十分ではありません。しかし、これらの行動は世界中の人々を保護するために大きな役割を果たします。我々は各国のリーダーにこれらを実現するよう要請し、COP26の意思決定者に対しては、今すぐ行動すること、躊躇なく行動するよう呼びかけます。

これら気候変動対策は、地球を保護し、今生きている人々そして未来の世代の健康、幸福、繁栄を守るために今やらなければなりません。

敬具

健康な気候のための処方賛同者

 

[1] WHO, 2008, Report by the Secretariat, climate change and health.
[2] Lancet Commission on Health and Climate Change, 2015. Health and climate change: policy responses to protect public health.
[3] World Health Organization. 2018. Ambient air pollution data.
[4] The Lancet, 2021. The 2020 report of The Lancet Countdown on health and climate change: responding to converging crises
[5] Centre for Research on the Epidemiology of Disasters (CRED), 2020.The Human Cost of Disasters 2000-2019.
[6] WHO, FAO, IFAD, UNICEF, WFP. 2021 The state of food security and nutrition in the world 2021.
[7] IPCC, 2019. IPCC Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate.
[8] Imperial College London, 2021. The impact of climate change on mental health and emotional wellbeing: current evidence and implications for policy and practice.
[9] IPCC, 2018 Special Report: Global Warming of 1.5°C – Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC).
[10] Climate Action Tracker. Temperatures. (accessed 5 Oct 2021)
[11] IPCC, 2021. AR6 Climate Change 2021: The Physical Science Basis. The Working Group I contribution to the Sixth Assessment – Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC). Sixth Assessment Report (ipcc.ch)
[12] World Health Organization, ‎2018‎. COP24 special report: health and climate change. World Health Organization
[13] Prüss-Üstün, Annette, Wolf, J., Corvalán, Carlos F., Bos, R. & Neira, Maria Purificación. 2016‎. Preventing disease through healthy environments: a global assessment of the burden of disease from environmental risks. World Health Organization.
[14] World Health Organization, 2018‎. COP24 special report: health and climate change. World Health Organization.

調査・提言ランキング

調査・提言一覧に戻る
PageTop