【パブリックコメント提出】「抗菌性物質製剤に係る安定供給確保を図るための取組方針案」に関する意見(2022年12月23日)
日付:2023年1月24日
タグ: AMR
2022年12月23日に、日本医療政策機構は厚生労働省医政局に対して「抗菌性物質製剤に係る安定供給確保を図るための取組方針案」に関する意見(パブリックコメント)を提出いたしました。なお、既に意見(パブリックコメント)の募集は終了しております。
意見(パブリックコメント)の概要は以下の通りです。詳細はPDFファイルをご確認ください。
【概要】
提言1:抗菌薬に関する特定重要物資の対象をβラクタム系抗菌薬から「最も優先して取組を行う安定確保医薬品安定確保医薬品(カテゴリA)」にまで拡大し、将来的には「キードラッグ 32剤」への拡大も積極的に検討すべき
提言2:抗菌薬の生産体制の国内回帰を進めるために、補助率の高い複数年度にわたる一層強力な支援を提供すべき
提言3:抗菌薬市場の構造的な課題を踏まえて、プル型インセンティブ等の導入により平時から抗菌薬の事業性・経済性を保障すべき
【本文】
経済安全保障推進法に基づく特定重要物資として、抗菌性物質製剤(以下、抗菌薬)を政令指定していただいたことに感謝申し上げる。近年、医療の分野では抗菌薬を含む医薬品のみならず個人用防護具等についても安定供給の課題が拡大してきたが、2020年3月の厚生労働省による「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」設置以降、抗菌薬の安定供給に対する検討が加速度的に進んできた。抗菌薬の安定供給に資する健全で強固かつ効果的な体制構築を目指し、下記3点を提案する。
提言1:抗菌薬に関する特定重要物資の対象をβラクタム系抗菌薬から「最も優先して取組を行う安定確保医薬品安定確保医薬品(カテゴリA)」にまで拡大し、将来的には「キードラッグ 32剤」への拡大も積極的に検討すべき現在、セファゾリン、セフメタゾール、アンピシリン・スルバクタム、タゾバクタム・ピペラシリンのβ-ラクタム系抗菌薬4剤が特定重要物資に指定され、今後、同薬剤を対象とした安定供給確保取組方針が定められる見込みである。これらは2020年3月の厚生労働省による「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」で定められた「最も優先して取組を行う安定確保医薬品(カテゴリ A)」に該当しており、実情を適切に反映した選定といえる。しかし、「最も優先して取組を行う安定確保医薬品(カテゴリ A)」には、今回特定重要物質に指定された4剤のほかに、抗菌薬ではメロペネムとバンコマイシンも選定されている。化学療法学会が2022年11月にとりまとめた提言では、特定重要物資の4剤と同様、メロペネムとバンコマイシンの原材料や原薬も海外依存度がほぼ100%である。さらに 2022年12月現在、メロペネムはまさに安定供給が途絶している。これらを鑑みると、メロペネムとバンコマイシンを含めた全 6剤が特定重要物資として指定されるべきである。また、2019年、2022年と感染症関連学会が他の抗菌薬と比較して安定供給が特に欠かせない薬剤として「キードラッグ 32剤」(2022年3月時点)を選定している。欠品時に推奨される代替薬の重複も多く、連鎖的な供給不足を防止する観点からも、将来的には特定重要物資の「キードラッグ 32剤」への拡大も積極的に検討すべきである。
提言2:抗菌薬の生産体制の国内回帰を進めるために、補助率の高い複数年度にわたる一層強力な支援を提供すべき
国内における抗菌薬等の医薬品の安定供給体制を整備することを目的として、令和2年度から開始された厚生労働省による医薬品安定供給事業は単年度の支援であり、補助率は1/2(国1/2、事業者1/2)であった。抗菌薬の原薬の生産体制を構築するためには、少なくとも 5 年の時間と600億円の資金に加え、海外と比較した場合の人件費及びスケール格差による3~5倍の国産原薬コストを賄う施策(原薬の買い取りを含む)が必要となる。現行事業でも事業終了予定年度は定められておらず、予算も継続的に計上されているが、取組方針では補助率の高い複数年度にわたる一層強力な支援が必要である。特に、2022年12月時点で特定重要物資に指定されている抗菌薬は全て β-ラクタム系であり、とりわけ厳重な管理下での生産が求められる。そのため、いわゆるデュアルユースの発想に基づいた生産設備の転用等は困難を極める。さらに近年では、環境配慮に伴う排水処理等の必要性も急激に増している。なお、国内工場の撤退が相次ぎ、我が国では抗菌薬の生産にかかる技術的な空白が生じる寸前である。この点にも留意し、技術の継承を含む生産体制の再構築に対する支援を早急に進めるべきである。
提言3:抗菌薬市場の構造的な課題を踏まえて、プル型インセンティブ等の導入により平時から抗菌薬の事業性・経済性を保障すべき
取組方針案では平時は海外原材料由来の原薬(輸入原薬)と国産原材料由来の原薬の併用及び国内で製造した原薬の全量販売が前提である。前述の通り、国内原薬の製造コストは海外原薬よりも高額であるため、平時に国内原薬を用いた抗菌薬に事業性を見出すことはより困難である。一方で、原薬の由来地や適応を問わず、抗菌薬市場は持続可能な事業が困難な状況に陥っている。適正使用を遵守する観点から生じる抗菌薬市場の構造的な課題に対処しながら、抗菌薬の国内生産体制を構築し安定供給を確保するための継続的な国の支援とともに、進化し続ける薬剤耐性菌を治療できる新規の抗菌薬の継続的な市場投入も望まれることから、「薬価」や「プル型インセンティブ」にかかる施策等、市場活性化を促す制度が補完的に必要である。
AMR対策の根幹にある抗菌薬は、がん治療(年間980万人が化学療法を受療)、臓器移植(年間15万件以上)、透析(年間4億人以上が透析や腎移植を受療)等、世界の現代医療の基盤を支えている。また、ある特定の菌種の薬剤耐性率が50%減少すると、日本の入院医療費削減効果は10年間で228億円から588億円に及ぶと期待される。一見逆説的だが、長期的な視野で考えると、盤石な抗菌薬の安定供給体制の構築には原薬供給等を通じた国際協力も重要な要素である。日本もスケールメリットを享受することが可能になり、結果的に、国等からの支援体制の在り方を再検討する余地が生じるだろう。国内の安全保障のみならず、パンデミックに対する予防・備え・対応(PPR: Prevention, Preparedness and Response)や国際貢献等の多様な観点を考慮したうえで、安定供給を含むAMR 対策に引き続き取り組む必要がある。
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