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【インタビュー連載企画】「当事者からみたメンタルヘルス政策」 第2回:小幡 恭弘 氏「医療体制と地域社会の融和に向けて メンタルヘルスを国の政策の中心に」

【インタビュー連載企画】「当事者からみたメンタルヘルス政策」 第2回:小幡 恭弘 氏「医療体制と地域社会の融和に向けて メンタルヘルスを国の政策の中心に」

コンテンツ

自己紹介及び現在のご活動

COVID-19の拡大による活動、当事者への影響

政策提言『メンタルヘルス2020』を受けて

視点1-5を踏まえ、具体策に対するご意見

小幡さんが考える今後のメンタルヘルス政策

 

小幡 恭弘 氏(公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)事務局長)
「医療体制と地域社会の融和に向けて メンタルヘルスを国の政策の中心に」

• 自己紹介及び現在のご活動

私は大学生の頃から、障害者福祉に関心を持つようになりました。1980年代でしたが、障害者福祉の中に精神障害が明確に位置付けられていない現実を知り、もっと精神障害にクローズアップする必要があると考えていました。

大学を卒業すると無認可の共同作業所で職員として勤務し、さらに福祉法人や民間企業で品質管理等の業務に携わった後、再び福祉分野へ。現在は、全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)の事務局に勤めています。団体ごとに考え方や思想は異なっていても、「精神疾患に対するスティグマ(偏見)を払拭したい」という思いは同じです。基盤にかかわらず、人は団結できるのだという醍醐味を感じながら、業務に携わっているところです。

 

• COVID-19の拡大による活動、当事者への影響

みんなねっとは、全国に約1万2,000人の賛助会員、約1,200の家族会を擁しています。構成としては高齢者が多く、60代以上が7~8割を占める状況です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19:Coronavirus Disease 2019)の拡大によって、これまで和気あいあいと実施していた定例の会合にも集まれず、閉塞感が募ってきました。ようやく理事会をオンラインで実施するようになりましたが、スマートフォンなど端末を持っていない方もいますので、ICTの活用を進めつつも、こうした機器になれていない方々が取り残されないよう留意しながら活動している状況です。

精神疾患への注目が高まっている中で、今年度は特に、当事者の子ども、配偶者やパートナーの立場に重点を置いています。ブックレット等を発刊するなど情報発信しています。みんなねっとの会員構成で多数を占める親や兄弟の立場を中心とした従来の活動から、より裾野を広げた取り組みといえます。

2020年9月には、同じ悩みごとを抱える人たちが、ニックネームで手軽に繋がれるコミュニティサイト「みんなねっとサロン」をリリースしました。コロナ禍にあっても、孤立している当事者や家族をつくらないための活動を強化したいと思っています。

 

• 政策提言『メンタルヘルス2020』を受けて

今回の提言では、まず「教育」に注目されていることに感謝したいと思います。差別や偏見のない土壌をつくる上で、教育は欠かせません。精神疾患を発症しやすい時期として、中学2年生までが1つのピークとなっていますので(※1)、それまでに正しい知識を身につけるためにも、義務教育課程のカリキュラムが大切です。

さらに海外の事例を挙げながら評価をしている点は、非常に重要だと感じます。こうした取り組みによって社会が成熟していく中で、本当の意味での偏見の解消につながっていくと思うのです。これまでは、当事者が表舞台に立てず、私たちのような家族会が代弁するという状況が続いてきましたが、当事者自身が発信するリカバリーカレッジ(※2)のような土壌をつくることにもつながると感じました。

入院医療体制や精神科医療の現状に関しては、もう少し踏み込んで言及してほしいという思いはありますが、土台となる部分の合意形成を図るという意味で、幅広く丁寧にまとめられた提言だと思っています。これまで当事者や家族が蓄積してきた多くの経験知を、アカデミアの人たちと連携しながら、いかにエビデンスに基づいて表現していけるかが、私たちの今後の課題といえます。当事者活動や地域生活が、その橋渡しとして位置付けられていることは、非常に心強いですね。

※1:精神疾患に罹患する人の75%が25歳未満で発症し、さらに全体の50%は14歳までに発症すると推計されている
※2:リカバリーカレッジ:当事者と専門職、ケアラーなどが互いの立場を超えて協働し、お互い学生として公平な関係で学びあう場所

 

• 視点1-5を踏まえ、具体策に対するご意見

視点1:当事者活動を促進し社会全体のリテラシーが向上する施策を充実させる
そもそも「当事者活動」と聞いた時に、誰もが共通して思い浮かぶようなイメージは、まだ確立されていないように思います。一般社会での当事者活動の認知度は、表舞台に立てる当事者の発信力の強さによって決まってしまう面があるためです。

何の変哲もない日々の生活を築いていくという当事者の活動を支え、障壁を取り除いていくためには、当事者だけに注目するのではなく、当事者と一般市民の交流、当事者と家族のかかわりなど、当事者を取り巻く集団の活動を促すことが大切です。

数年前にも、大阪で精神疾患のある当事者を私宅監置していた事件が明らかになりました。地域の行政職や専門職、地域住民が関心を寄せているにもかかわらず、噛み合っていない現状もある中で、どうすれば当事者が発信していける活動を保障できるのか。そのためにはまず、当事者が安心して発言できる機会が必要です。当事者自らが発信力を高める努力も大切ですが、それと同時に彼らが安心して表現できる場を周囲の人々が整えることが重要なのです。

個人レベルでも差別や偏見のない社会へ
HGPI有馬:当事者が安心して発言できる環境を整備するには、どのような取り組みが必要でしょうか。

小幡:「合理的配慮」といったルール化も、周囲の一人ひとりに差別や偏見のない社会的素地があった上で推進しなければ、本末転倒になってしまいます。ですから、やはり教育が重要です。人は、知識がなくて分からないものに対して恐怖を感じるものです。そこで、精神疾患を分かっている人が「何も怖がらなくていいんですよ」と伴走してあげれば、周囲の人たちにも安心が広がっていくことでしょう。専門職が偏見の払拭を声高に訴えるだけでなく、身近な一般市民から、ごく自然にメッセージが伝わっていけばいいと思います。ただ、こうしたアプローチを政策的な仕組みとして表現するのは難しいため、それが悩みどころですね。

ピアサポーターが当事者と地域社会をつなぐ媒介者に
HGPI有馬:ピアサポートの活動を促進するためには、何をすべきでしょうか。

小幡:多くの場合、当事者といえば障害を持つ本人を指しますが、一緒に問題を抱えている家族にも当事者性があります。「病気だから仕方ない」と、本来の欲求を消失させられていることも多い中で、「病気があってもいいじゃないか」と前向きに生活を送っていくために、ピアサポートは大切だと思います。

家族は日頃、親子や兄弟、夫婦であるよりも先に看護者、支援者としての役割を担わざるを得ません。病魔の恐怖や周囲の偏見に脅かされて疲弊するだけでなく、自分たちの人生を自分たちで楽しめる、時には笑い転げるような会話をしてもいい、旅行を楽しんでもいい、そういう一般市民としての生活を送るためのサポートが必要です。

例えば、地域のサークルや懇親会に参加するなど、ピアサポーターが媒介となってリードしてもらうことで、地域社会との関係性をスムーズに築くことができると思うのです。ピアサポーターは、支援者や専門職のような位置付けではなく、友人のように導いてくれる存在になってほしいですね。

視点3:「住まい」と「就労・居場所」を両輪として地域生活基盤を整備する
当事者にとって、安心して生活できる住まいは大切です。ただ、長期入院の場所が家に変わっただけで、部屋から一歩も出ないということではなく、地域生活を築いていく拠点としての住居提供が重要だと思います。日本は特に住居確保のためのコストが高いため、経済状況が貧弱であっても住まいを確保できる仕組みの整備が求められます。不動産業者の対応として、特に生活保護が適用されない障害者は、保証人がいなければ入居審査も通らない状況があります。そうした保証人の体制に行政が介入することで、障害者の住宅確保は大きく改善するはずです。

さらに、住居と連動して生活がきちんと回るためには雇用の在り方も重要であり、コロナ禍であっても障害者雇用対策を先延ばしにせず、しっかり追求してほしいですね。障害を持つ人たちの仕事は、企業の本業というよりも周辺的な補助的業務が多いという現実が、今回のCOVID-19拡大によって改めて確認されました。今後は、企業の本業にかかわる業務に障害者が配置され、障害特性に応じた雇用を確保していけるよう取り組んでほしいと思います。

雇用の質を高めるためのICT活用
HGPI麻生:雇用率のみならず雇用の質も上げていくためには、スキルを身につける場が必要だと思います。精神疾患を持つ当事者に対するサポートについては、どのようにお考えでしょうか。

小幡:パソコン等の端末操作をなかなか習得できない当事者も多い中で、単なるデスクワークではない業務の作り込みが必要だと思っています。特に日本では、テレワークで出来ることも限られていますので、今後ICTを活用して何が出来るのかを、企業だけでなく私たち自身も発信していけるよう取り組んでいくべきだと考えています。

 

• 小幡さんが考える今後のメンタルヘルス政策

家族に偏重するのではなく、当事者一人ひとりに保障を位置付けることで、家族と区別して当事者本人を支援できる体制にしていく必要があります。当事者本人の同意に基づかない入院に関しては、医療保護入院を廃止し、措置入院に一本化すべきと主張していきたいと思います。

また、メンタルヘルス政策を厚生労働省の管轄に留めるのではなく、他の省庁の所轄する政策とも上手く連動するよう、メンタルヘルス政策を国の政策の中心に据えて考えてほしいですね。

医療の面では、精神科を単科で分離させずに、総合病院の中で一般的な診療科と並列に設置してほしいと思います。さらに、まず地域のかかりつけ医でメンタルヘルスの対応をした上で、難しい症例は総合病院の精神科に紹介するという流れにすべきでしょう。医療体制の融和は、地域社会の融和にもつながっていくはずです。

 

インタビュー日付:9月2日 オンライン会議(Zoom)にて開催

 


メンタルヘルス政策プロジェクト インタビュー連載企画「当事者からみたメンタルヘルス政策」

日本医療政策機構では2004年の創設以来「市民主体の医療政策の実現」を掲げ、エビデンスに基づく市民主体の医療政策を実現すべく、中立的なシンクタンクとして、市民や当事者を含む幅広い国内外のマルチステークホルダーによる議論を喚起し、提言や発信をグローバルに進めていくことを目指し活動をしてまいりました。

2019年に開始したメンタルヘルス政策プロジェクトにおいても、当事者の皆様からのお知恵を頂きながら活動に取り組み、2020年7月には政策提言「メンタルヘルス2020 明日への提言~メンタルヘルス政策を考える5つの視点~」を公表しました。今後は、他のプロジェクトとも連携しながら、他疾患領域の当事者組織からの学びや海外の精神疾患の当事者組織との意見交換・相互交流などにより、当事者が今後のメンタルヘルス政策を主体的に考え、発信する場の創造を目指してまいります。

そうしたビジョンの一環として、今回当事者のインタビューを連載する企画をスタートさせます。前述の政策提言に対し当事者の視点からストレートなご意見を頂き、それらを日英で発信することで、日本の当事者が置かれている現状や彼らのQOLをさらに向上させるメンタルヘルス政策の実現に寄与したいと考えています。

■ 第1回:宇田川 健 氏 (認定NPO法人地域精神保健福祉機構 代表理事)
「縦断的研究の充実によりリカバリーの生理学的解明を」

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