【HGPI政策コラム】(No.27)-認知症政策チームより-認知症施策推進大綱の進捗状況とその発信についてー第2弾ー
<POINTS>
・2019年に公表された認知症施策推進大綱の2年目の実施状況が取りまとめられ、公表された
各施策ともコロナ禍の制約を受けながらも、順調に推移しているが、それぞれに課題も記載されている
・本コラムでは、「認知症の相談窓口」「認知症初期集中支援チーム」「見守りネットワーク」の3施策に注目した
・今後は、認知症施策推進大綱のフォローアップの機会に、当事者や当事者組織の参加も必要ではないか
また進捗状況に対する当事者の評価コメントなどを公開するなど、政策評価の場への当事者参画の推進に期待したい
冒頭、少し余談になりますが、私が2021年11月から2022年4月下旬までの半年間、第一子誕生に伴う育児休業を取得しておりましたため、しばらく更新が空いてしまいました。復職し、いよいよ仕事と子育ての両立の日々が始まりました。
私は、これまでの人生の中で乳幼児と接する機会がほとんどなく、事前に一度自治体が主催する「プレパパ教室」に1時間ほど参加しただけという、未知の状態で育児休業に突入しました。育児というものが、これほど時間と細やかな配慮を必要とする負荷の高いものであると痛感し、一方で日々の成長を少しずつ見つけることがこれほど豊かな時間であるのかを実感しました。今では子供も元気に成長し、生後6か月を過ぎました。よく笑い、よく食べ、よく眠る姿を見ることができるのは、とても幸せなことだと感じています。
育児休業の半年間は、あっという間に過ぎていきました。振り返れば、新たな家族を迎え、3人で過ごすとても充実し濃密な時間でした。しかし、特に最初の1か月は精神的にも肉体的にも厳しい期間でした。寝る時間も断続的にしか取れないうえに、子供は起きている時間の大半を泣いているので、夫婦ともども精神的に辛くなることもありました。我が家の場合は幸い2人で励ましあいながら乗り越えることができましたが、この状況を1人で乗り越えるとなれば、それがいかに難しいことかと考えさせられました。「産後うつ」は、すでに大きな社会課題として認知されていますが、出産をしていない男性であっても新生児のケアによる心身の疲労は相当であり、まして出産によって身体に大きなダメージを受けている女性はどれほど大変だろうかと改めて痛感しました。
今は育児についても、病気やケガ、介護についても、様々な体験談で事前に情報を集めることができます。それらはとても貴重で、準備をする上では役に立ちますが、一方で当事者にならなければ気付かないことが沢山あります。だからこそ、当事者も含めていろんな立場の人の声を聴いて、社会を作っていくことが大事だと再確認する半年間となりました。
はじめに
2021年12月、首相官邸のwebサイト に、認知症施策推進大綱の「進捗確認」が掲載されました。昨年の拙コラム(「認知症施策推進大綱の進捗状況とその発信について」 )でもご紹介しましたが、これは2019年に策定した認知症施策推進大綱について、毎年実施するフォローアップです。
昨年度は、2021年12月20日に「認知症施策推進関係閣僚会議幹事会」が開催され、そこで進捗報告が共有、取りまとめられました。2025年までを計画期間とするそれぞれの目標に対し、2021年6月末時点の実施状況について振り返りが行われ、その結果が資料として公開されています。
繰り返しになりますが、政策は作ることがゴールではなく、それがきちんと実行に移されているか、結果はどうだったのか、という点が重要です。我々政策シンクタンクとしては、これらをしっかり見守り、社会に発信していくことは大切な役目だと自負しています。本コラムでは昨年に引き続き、結果報告資料を踏まえ、ポイントと今後に向けての提言をいくつかご紹介します。
1.普及啓発・本人発信支援
(2)相談先の周知
「認知症の相談窓口について、関係者の認知度2割増加、住民の認知度1割増加」(2025年までに)
地域包括支援センターや認知症疾患医療センターをはじめとした相談窓口の整備と、その周知を目指したもので、具体的なKPIとして上記のような目標を掲げています。前年度には、認知症の相談窓口の認知度を集計するため、「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」において、認知症の相談窓口の把握に関する質問を追加し、調査を進めていました。
今回の進捗確認では、その結果として2019年度介護予防・日常生活圏域ニーズ調査の結果を引用し、「認知症の相談窓口の認知度については、関係者が53.7%、住民が29.2%」と報告されています。今後はこの数値をベースとして、関係者で20%、住民で10%の増加を目指すものと思われます。
地域包括支援センターは社会の中で徐々に定着してきていますが、決して人目に付きやすいとは言えない立地であったり、地域によっては名称が異なったりと、まだまだ知名度向上が必要といえます。また行政の相談窓口は実に多様であることも、一般市民の相談窓口の認知度向上を阻む原因の1つと考えられ、工夫が必要です。
例えば、東京都世田谷区では、区内を28の区域に分け、まちづくりセンター・あんしんすこやかセンター(地域包括支援センター)・社会福祉協議会地区事務局を一体化し、「福祉の窓口」として設置しています。(世田谷区ウェブサイト「「福祉の相談窓口」をご利用ください」 )まずは年齢や相談内容を問わず、ワンストップで相談を受け付け、その上で適切な部署・機関に接続していくという方式です。こうした工夫によって、相談窓口が明確化され、相談に赴くハードルも下げることができるでしょう。
相談先について住民に周知することはもちろんですが、相談から支援までのフローをいかに利用者目線で分かりやすくしていくか、という点も考慮が必要です。
3.医療・ケア・介護サービス・介護者への支援
(1)早期発見・早期対応、医療体制の整備
「初期集中支援チームにおける訪問実人数全国で年間40,000件、医療・介護サービスにつながった者の割合 65%」(2025年までに)
認知症初期集中支援チームについては、これまでのコラムでも度々取り上げていますので、詳細はそちらをご覧ください。(拙コラム「診断後の『空白期間』における日本の現状」 参照)
2020年度の結果として「訪問実人数16,353人 そのうち、医療につながった者:79.6%、介護につながった者:66.9%、医療・介護両方につながった者:63.7%」と報告されています。コロナ禍においては、地域の交流も制限されたことで住民の情報把握が非常に難しかったと、私も多くの現場の方から伺っています。実人数としては目標値にはまだ遠いものの、限られたケースの中で、一定数医療・介護サービスに接続することができており、まさに多職種が連携する認知症初期集中支援チームの尽力の賜物といえます。
一方で、認知症と診断された直後の本人や家族にとっては、医療・介護サービスのニーズに加え、診断という事実を受け止めることや認知症について正しく理解することが必要と言われています。実現には時間的・経済的コストも勘案しなくてはなりませんが、今後は認知症初期集中支援チームの接続先として、ピアサポートをはじめとしたメンタル面のケアも加えていくべきでしょう。スコットランドのリンクワーカー(拙コラム「診断後を支える海外事例と日本への示唆」 参照)に代表されるように、診断直後のメンタルケアは、その後の安定した生活を維持するためには不可欠です。今後は認知症初期集中支援チームを入り口として、「医療」「介護」「ピアサポート」の三本柱で認知症と診断された本人や家族を支える仕組みが期待されます。
4.認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援
(1)「認知症バリアフリー」の推進
「市町村の圏域を越えても対応できる見守りネットワークを構築」
在宅で暮らす認知症の人の安心のためには、見守りネットワークの構築も重要です。特に都市部では公共交通機関等を利用することで一気に行動範囲は広くなり、市町村の圏域を越えた対応は不可欠です。
2020年度の結果としては「40都道府県で、市町村域を超えた見守りネットワークが構築された」としており、都道府県に域内の市区町村への呼びかけを求めている関係で、具体的な市町村数やそのカバーしているエリアは明らかにされていませんが、徐々に体制が整っていることが伺えます。
一例として、2022年3月11日に成立した千葉県浦安市「浦安市認知症とともに生きる基本条例」では、
(広域連携の推進)
第18条 市は、認知症の人及びその家族等の効果的な支援のために、千葉県その他近隣の自治体及び関係機関との連携体制の構築に努めるものとする。
2 市長は、認知症の人の安全が脅かされていると認められるときは、必要に応じて千葉県その他近隣の自治体及び関係機関に対し、認知症の人の安全の確保のための協力を要請することができる。(浦安市webサイトより引用)
としており、東京に隣接する都市部ならではの広域連携の重要性を踏まえた条例が策定されており、こうした条項は今後条例や施策推進計画を策定する自治体にとって参考事例となるでしょう。
なお本項目については、都道府県数よりも市町村数や人口に対するカバー面積が重要であり、そういった情報もあわせて開示されることで、一般市民の目線に立った政策評価が可能になるのではないでしょうか。
おわりに ―今後の政策評価に向けた提言―
前回のコラムでも述べましたが、政府による「進捗確認」では、各施策のKPIの達成状況をはじめとして、現状が詳細に報告されています。この点については大変素晴らしい取り組みであるといえます。しかし、これも前回同様のコメントではありますが、資料自体は決して見やすいものとは言えず、日ごろから認知症政策に触れている人であれば問題ないものの、馴染みのない一般市民にとっては決してわかりやすいとは言えません。政府も近年情報発信やデジタル化に力を入れています。一連の政策策定から評価についても、ビジュアライズされたウェブサイトの構築や、一覧性のある資料の作成などは今後の課題です。
また今後に向けた提言として、こうした政策評価の場に、認知症当事者や当事者組織の参画を期待します。内部での綿密な評価はもちろん大切ですが、当事者団体などによる外部評価や今後に向けたコメントなどが合わせて公開されることで、より意義のある政策評価とすることができるでしょう。例えば、前述のスコットランドでは、国家戦略の策定段階から認知症支援NGOなどと連携しており、評価段階でも同様に連携しています。日本国内の認知症条例でも、認知症施策の評価委員会に認知症の本人や家族をメンバーとする自治体も出てきており、同様のアクションが国の認知症政策においても実現されるよう提言し、今回のコラムを終えたいと思います。
【執筆者のご紹介】
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 マネージャー/認知症未来共創ハブ 運営委員)
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