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HGPI 政策コラム(No.1)ー認知症政策チームよりー

HGPI 政策コラム(No.1)ー認知症政策チームよりー

認知症政策コラムのスタートにあたり
日本医療政策機構では、設立時より「市民主体の医療政策の実現」を掲げており、これまでの認知症に関する取り組みでも、認知症の方やその周りでサポートをする方々の意見を取り入れた提言を行ってきました。そういった提言をより深化させ、実行的な形にすべく2018年より、慶應義塾大学、認知症フレンドシップクラブissue + designと共に、「認知症と共によりよく生きる未来」をテーマに認知症未来共創ハブを立ち上げ、認知症の本人の経験・知恵を活かした社会づくりを目指しています。

本コラムでは、認知症未来共創ハブの活動の一環として、認知症政策に関する情報を発信します。特に、これまで日本医療政策機構が取り組んできた認知症政策関連のプロジェクトでグローバルなネットワークや知見から得た内容を中心にお伝えします。また、認知症の本人が制度・政策の決定過程に積極的に関与する体制づくりについても考えてまいります。

第1回・第2回では、国内外の認知症政策の流れと本人参画の動向についてご紹介します。

 

認知症の国内外の現状

世界的な高齢化に伴う認知症の人の増加

世界的な平均寿命の進展に伴い、私たち人類は加齢によって起こり得る課題と向き合うことが求められています。その代表的なものの1つが認知症であり、その数は2015年時点で世界に4,680万人と推計され、2030年には7,470万人にまで増加すると推計されています。少子高齢化が深刻な日本では、2020年には認知症の人の数が少なくとも600万人を超えると推測されており、その取り組みは超高齢社会の課題先進国として世界に注目されています。さらに高齢者に限らず、若年層の認知症といったテーマにも、私たちは向き合うことを求められています。

分野を超えたグローバルな連携の必要性

一方、認知症のひとつであるアルツハイマー病をはじめとする原因疾患の根本治療薬は発見されていないのが現状です。新薬の開発だけでなく、認知症と上手く向き合いながら暮らせる社会の構築も必要とされており、認知症対策は今やヘルスケアの枠組みを超えてグローバルレベルで取り組むべき喫緊の課題であることは間違いありません。

認知症の本人を中心に据えた政策を

その中でも近年、世界中で認知症政策における「本人の視点」が重要視されています。日本では2004年、厚生労働省の「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」により「認知症」という呼称に変更されて以来特に、その偏見を払拭し、正しい理解を進めるために、本人の語りや本人の視点からの地域づくりの推進が求められてきました。


出典:「World Alzheimer Report 2015 -The Global Impact of Dementia」

 

認知症政策に関する最近の国際的な動き

英国のリーダーシップによる強固な国際連携の始まり

認知症に関する取り組みは世界中で進められてきましたが、特にイギリスで行われた2013年12月の「G8認知症サミット(※)」は近年の認知症政策における大きな転換点だったといえます。本サミットは各加盟国の認知症施策で得た知見を結集し、グローバルで効果的な解決方法を導き出すことを目的として開催されました。

日本からも土屋品子厚生労働副大臣(当時)が出席したほか、イギリスのデイビット・キャメロン首相(当時)、ジェレミー・ハント保健大臣(当時)等G8各国の政府代表のほか、EU、WHO、OECD の代表、さらには各国のアカデミア、企業代表者なども参集し、各国の施策や認知症研究の現状と課題について議論が交わされました。

会議の成果として、G8各国で今後の取り組みに関する努力事項を定めた「宣言(Declaration)」及び 今後の対応に関して詳しい情報を盛り込んだ 「共同声明(Communique)」が、各国の代表者によって合意されました。ここでは、今日の認知症の影響を受けている人々の生活を改善し、2025年までに最初の治療が可能となるように疾患修飾薬の開発を加速するという歴史的なコミットメントが行われました。この「宣言(Declaration)」や「共同声明(Communique)」においても、各国の施策の中に認知症の本人の視点を入れることや、全てのセクターが認知症の本人に対して敬意を払い尊厳を守るよう求めています。

その後、イギリスのキャメロン首相のリーダーシップによって、世界認知症審議会(WDC: World Dementia Council) が2014年に発足しました。G8認知症サミットでのコミットメントの進捗をモニタリングし、国際連携に向けたネットワークの構築と認知症対策のさらなる促進を目的として設立され、当初はイギリス政府の委員会という形式をとっていましたが、現在はイギリス政府から独立し、精力的に活動しています。認知症のご本人も含む24名のメンバーが世界各国のあらゆるセクターから参加しており、当機構代表理事の黒川もその一人です。私も黒川の随行として何度か会議に陪席しましたが、それぞれがグローバル市民として国を超えて、国際社会に貢献すべく予定調和のない真摯な議論を交わしています。WDCの活動や当機構との連携については、今後のコラムで改めて詳しくご紹介します。

 

(2018年3月に東京で開催されたWDC会議)

※2014年以降はロシアの参加停止となり、現在は仏、米、英、独、日、伊、加の7か国により「G7」として構成されている。

 

まとめ

上述の通り、認知症は今世界全体で取り組むアジェンダとなっています。

高齢化の進展や社会の状況は各国で異なりますが、どのような国においても、今後は「本人の視点」を重視し、それらを踏まえてマルチステークホルダーで対応するということは共通の方向性になると考えられています。

次回のコラムでは、本人の視点を重視することを目指した「人権ベースのアプローチ」について、そしてこうした流れを受けた国内の認知症施策の流れについてご紹介します。

 

【参考資料】
新美芳樹(2016)「新オレンジプランと認知症研究」『医学のあゆみ』第257巻5号
日本医療政策機構(2018)『Japan Health Policy Now 認知症編』

 

【執筆者のご紹介】
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 シニアアソシエイト/認知症未来共創ハブ 運営委員)

認知症の本人を持つ「家族」として

私が認知症政策に関わる原点は、認知症と共に生きる祖母の存在にあります。私が小学生の時に認知症の診断を受けました。「痴呆」と呼ばれていた当時は、認知症に対する社会の理解も乏しく、行政や地域の人々からの理解と協力を得ることの難しさを介護家族として痛感しました。こうした経験から「政策・制度を通じて、認知症になっても本人も家族も孤立しない社会にしたい」と思い、認知症政策をライフワークとして取り組んでいます。プライベートでも、地元の行政や専門職の皆さんと一緒に、地域の認知症啓発イベントの開催や認知症カフェの運営をしています。「この街なら認知症になっても暮らしていける」と思える街にしたいというのが原動力であり、祖母への恩返しだと信じています。

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