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グローバル・ヘルス・インタビュー:財団法人日本ユニセフ協会

グローバル・ヘルス・インタビュー:財団法人日本ユニセフ協会

日本医療政策機構グローバル・ヘルス・ユニットでは、国際保健分野で活動を行っている国内のNGO団体にインタビューを行い、各団体の経験に基づき、NGO発展の鍵とは何かを伺いました。

(当インタビューは、平成21年度において厚生労働科学研究費補助金(地球規模保健課題推進研究事業)を受けて実施した研究の一環として行ったものです。)

副会長 東郷 良尚 氏
日時: 2009年7月7日
場所:東京都港区・(財)日本ユニセフ協会

(財)日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)について
当協会は、日本の市民社会に対してユニセフを代表する財団法人です。業務の内容は、日本も締約国となっている「子どもの権利条約」(児童の権利に関する条約)を基本理念とし世界の子どもの生命と成長を守るためにアドボカシー、広報そしてファンドレイジングを行っています。

当協会としては、後にご紹介する子どもの権利擁護のためのアドボカシーに特に力をいれていますが、日本における民間募金の規模が、他の先進国の国内委員会の中でも最大となるなど、国内のNGOの皆様のご関心を呼んでいる様子なので、この点を重点的にお話ししたいと思います。

ファンドレイジングについて
「できるだけ多くの人に接触し募金の習慣を日本に根付かせる。経理の透明性も必須。」

私が日本ユニセフ協会に入った90年代初頭はまだまだ日本には寄付の習慣が根付いていませんでした。しかし、途上国で毎年1,500万人(1991年当時)の5歳未満児が助かるべき命を失う状況を改善するには多額の資金が必要であり、大規模な募金が不可欠でした。欧米には募金に関するノウハウがあったので、それをどうやって日本国内での実施に移すかが課題であり、そのうちの一つにダイレクトメールによる募金集めがありました。当時の日本ユニセフ協会では募金は心の問題であり気持ちが「チャリティ」に近かったので、ダイレクトメールのような手法でも寄付の強要と誤解を受けそうな募金方法は駄目だ、という反発も強かった。幸い当時の会長だった大来佐武郎さんがバックアップして下さり、始めることができました。やはり実行に移すための行動力とトップの後押しが大事なのです。まずは試行錯誤でダイレクトメールの有効性を確認し、それが成功したので本格的に導入しました。その際に、コストをカバーするだけの募金が集まるなら実行に移すぐらいの心構えを持つことが大切です。ダイレクトメールを通じてできるだけ多くの人に募金のお願いを届け、徐々にでも募金の必要性を感じてもらうことに成功し、結果として募金額の大きな増加につながりました。

募金集めで大切なことの一つに、経理の透明性があります。自分の寄付したお金が正しい大義のために使われている、ということを理解して頂ければ、寄付者の方々はお金を出して下さるようになり、結果として大きな募金が集まります。そのために収入と支出を組織的に正確に管理しなければなりません。従来型のチャリティでは、創始者が自分のお金を入れて運営するなど、公私が分離されず、透明性が低いものがあります。公私のお金を混同せず、入ってくるお金を徹底的にクリアに提示していくことで、寄付者の安心が高まります。それを徹底させるために、プロの会計士の力をボランティアとしてお借りしたり、募金の管理をコンピュータでシステム化したりする必要もあります。私が入った時の日本ユニセフ協会は原始的な方法で募金情報を管理していたため、募金のお願いをするにしても、同じ人に何通も送るような形になってしまい、とても非効率であり、また寄付者からすると経費の無駄使いと映り不本意なこととなっていました。コンピュータによるシステム化が、募金情報処理の効率化のためにも、寄付者からの信頼獲得のためにも必要だったのです。幸い私は日本航空の時のつながりで、システムエンジニアの知り合いがいて、自分自身もシステムについて多少は知識もあったので、募金管理のシステムを作り上げることができました。このシステム化のおかげで今日の大量の事務処理が可能となり、透明性の向上につながったと思います。ただ、システム化だけで募金が出来るわけではありませんので、確固たるポリシーのもと、本質的な効率化を追及していくことが大事です。

アドボカシーについて
「アドボカシーは募金の柱である。」

募金活動以外で、日本ユニセフ協会の活動の大きな柱となるのが、現地の子どもの状況を日本に伝えるという広報活動と、社会的課題の解決のために社会的な働きかけを行うアドボカシー活動です。特に私が91年に専務理事に就任してからは、アドボカシーに力を入れてきました。募金というものは、団体のしっかりしたポリシーや考え方が人々に理解されない限りついてこないものです。その意味でアドボカシーが募金の柱になります。例えば1980年代の日本での募金の状況は、湾岸戦争の際の油にまみれた水鳥の報道といった特殊な動きや報道があれば一気に増えるが、それが終わるとすぐにまた無くなってしまうという状態でした。国際的なポリオ根絶キャンペーンや、アフリカ救援募金も最盛期は長くても2-3年で終わります。しかし、そのような一過性の流れに頼らず、一定して募金が入ってくる組織的な仕組みを作らなければなりませんでした。そのために、日本ユニセフ協会のポリシーの基盤となるアドボカシーが必須だったのです。私が入る前の日本ユニセフ協会のやり方は、途上国の子ども達が可哀想だから寄付をしてあげようという考えがベースにありました。しかし、組織がチャリティに留まっているうちはアドボカシーの余地はありません。途上国の子どもも日本の子ども同様、生存・成長の権利を平等に持っているという考え方を基本としなければならないのです。

具体的な活動をいくつか挙げると、まずは89年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」の日本での批准を進めた活動があります。「子どもの権利条約」の理解促進委員会を93年に設立し、日本経団連・連合、全国連合小学校長会など25ぐらいの組織に働きかけ、一般社会の人が参加して盛り上げて頂く方式をとりました。日本を牽引する力がある組織と一緒に動いたことが大切でした。その甲斐あってか、94年から政府も条約の批准に本腰を入れるようになり、私は衆議員外務委員会の4人の参考人の一人として意見聴取にも呼ばれ、日本ユニセフ協会としての意見を陳述しました。そして同年に同条約の批准に至ったのですが、この時他の参考人のご意見を聞くにつけ「子どもの権利条約」の理解促進は相当な覚悟と努力を要することを実感しました。

また、96年にストックホルムで開催された「第1回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」を受けて、児童買春、児童ポルノを根絶していく活動を日本ユニセフ協会が中心となって進めていくことになりました。当時の刑法では当条約の規定を満たさない面が多々あったので、加害者の大人を罰し、子どもを保護するための法律案の早期成立に向けた全国的署名活動を98年に行い、約4万人の方々の協力を得て国会へ請願書を提出しましたし、議員立法にも積極的に関わることで99年には法律制定につながりました。然しながら、インターネット上の児童ポルノはファイル共用ソフト等の普及により益々国際問題化しており、現在もこの法律の改定のため署名集めをしたり(2009年2月には11万を超える署名提出)、毎年のシンポジウムを通じてアドボカシーに努めています。シンポジウムのテーマは毎年その時々の情勢に応じた内容に設定しています。最近だと児童労働の廃止、気候変動がアフリカの子どもに及ぼす影響などをテーマにして活発に論議をしています。署名集めについては、こうした運動を応援して下さるNGOが全国にあり連携して進めています。こうした活動で、常に民意を反映させるように努めているのです。

日本のNGO活動の活発化のために
「ファンドレイジングとオペレーションの分業。強みに特化し、力を分散させないことが大切。」

日本ユニセフ協会は、現地でのオペレーションはせずに、資金をユニセフ本部にGeneral Resourceとして提供しています。現地の状況を一番分かっている国際組織に一任する方が、我々がオペレーションにも手を出すよりも結果として効率の良い仕組みになるのです。同じ団体が現地のオペレーションもファンドレイジングもやろうとすると、力が分散されてしまい、多くの場合規模が小さいままに終わってしまう危険性があります。それよりは途上国の現地組織をこちらのポリシーの下に育てて、オペレーションはこれら組織に任せ、資金の提供と管理に徹するという分業体制を敷くのも良いのではないでしょうか。そのためにも、まずは組織作りが肝要です。しっかりした組織と、組織を動かすリーダーシップがNGOにおいても大事であり、熱心な人だけのボランテイアの集合体になってしまわないように注意する必要があります。日本のNGOの一つの課題は、規模が小さいために所期の目的の達成が困難な場合が多いことです。ユニセフでも現地でパートナーシップを組める日本のNGOを探していますが、規模が小さすぎてプログラムをお任せすることが出来ず、やむを得ず外国の大規模NGOと提携し実施しています。

「NGO拡大のためには使命感を持って本気で取り組むプロの経営スタッフが不可欠。」

NGOに必要なことの一つに、経営の概念があります。スキル、リーダーシップを備えたプロの経営スタッフが、NGO拡大のためには不可欠なのです。幸いそれが可能な人材は特に民間にはたくさんいますので、あとは彼らに使命感を持ってもらい、本気で取り組んでもらうことで、彼らを戦力にすることが必要です。「まあ、NGOでもやってみようか」といった甘い気持では絶対にNGOのリーダーは務まりません。今は団塊の世代が定年となり、時間を持っている方も多いですし、海外経験のある方もたくさんいます。ただ、使命感や真剣さという意味ではまだ課題が残るので、そこに今後取り組む必要があるでしょう。

私が日本ユニセフ協会に入るきっかけとなったのは、日本航空の同期の友人の岡留恒健氏でした。彼は社内でとても熱心にユニセフに対する支援を説いて回っており、私もしばしば「ユニセフの仕事をしてみてはどうか」と誘われていました。私はデンマークの支店長を経て本社に部長として帰ってきた際、アクセスセンターという新しい部署を作りました。世界の主要航空会社が自社の予約発券システムで代理店の囲い込みを図る競争が始まっていたので、ニュートラルなシステムを創り上げこれに対抗したのです。国内の代理店にこの端末を一万台普及させた頃、89年にユニセフ本部から、一人人材を送ってくれないかという依頼が岡留氏を通じて日本航空にきました。日本ユニセフ協会にそれまで本部直轄で行っていたグリーティングカードのオペレーションを移管するため、適切な人材が必要だったのです。私は丁度アクセスセンターの仕事が一段落していたところでしたし、広い世界で有意義な仕事をしてみたいと思ったので、思いきって行ってみることにしました。当時の日本ユニセフ協会はまだまだ本当に小さい組織で、給料もあてにできないような環境だったのですが、覚悟をきめて飛び込んでみることにしたのです。

私は専務理事を14年務め念願のユニセフハウスも2001年に完成し、優秀な後継者も育ったので2006年から非常勤の副会長になりました。

今後の課題(日本のNGO、日本ユニセフ協会)
「日本の顔が海外で見えるよう、発信力のあるリーダーが必要」

日本で生活していても、日本の社会の中で英語ができるとか、外国人に向かってものが喋れるという程度にはなります。しかし、国際社会で本当に自分が言いたいことを言い、議論をするためには、単に会話ができるだけでは駄目であるということを、ユニセフの活動を通じて感じました。私はもっと自分の発信力を高めたい、本当の議論をしたいという思いのもと、英国のリーズ大学院の国際学というdistant learningのコースを二年間履修して、修士号を取りました。その甲斐あってか、最近は国際会議でもはっきりと主張ができるようになり、日本の考えを伝えることができているように思います。NGOのリーダーにとって、世界に向けた発信力は不可欠です。日本の顔が海外でもはっきりと広く認知されるようにありたいものです。

日本ユニセフ協会が抱える課題として、広報の強化があります。最近、国連改革の波のなかで多くの国連機関の途上国政府に対する窓口を統一する動きがあり、それに伴いプロジェクトのオペレーションもまとめて実施しようという動きがあります。そのため、ユニセフの活動の内容としては変わらないのですが、ユニセフ単独としての現地からの発信能力は減りつつあるのです。日本ユニセフ協会としては、ユニセフの活動を今後も日本でしっかり伝えていくために、広報を強化していくつもりです。

日本のNGO活動をより活発にという意味では、税制の改革も必要になるでしょう。公益法人制度改革により税制上の優遇を受けられるNPOの数は広がりつつありますが、欧米に比し寄付金控除は未だに貧弱さを否定できません。公益NGO/認定NPOに対する寄付金控除率を大幅に拡大すれば、もっと民間からの寄付が増え、公益法人活動の活発化につながり、より日本人の顔の見える国際援助が実現できると思います。


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