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グローバル・ヘルス・インタビュー:世界の子どもにワクチンを 日本委員会

グローバル・ヘルス・インタビュー:世界の子どもにワクチンを 日本委員会

日本医療政策機構グローバル・ヘルス・ユニットでは、国際保健分野で活動を行っている国内のNGO団体にインタビューを行い、各団体の経験に基づき、NGO発展の鍵とは何かを伺いました。

(当インタビューは、平成21年度において厚生労働科学研究費補助金(地球規模保健課題推進研究事業)を受けて実施した研究の一環として行ったものです。)

理事長 細川 佳代子氏
日時: 2009年6月25日
場所:東京都千代田区JCV本部

立ち上げの経緯
「何か行動を起こすときには強い思い、感動が原点になければならない。」

私の個人的な思いから全てが始まりました。戦後すぐの日本は援助を受ける側の立場であり、その時代に育った私の中には、今度は私たち日本から世界の子ども達のために何か手助けをしたいという思いが常にあったのです。そのような思いを抱きつつも、具体的に何をすれば良いか決めかねていたところ、1993年11月に京都で開かれた「子どもワクチン世界会議」の議長を、私の知人であり、WHOでは天然痘撲滅プロジェクトリーダーとして活躍された蟻田功先生が務めておられたご縁で、その会議のお手伝いをすることになりました。私は、以前、熊本で蟻田先生にお会いした際に途上国の実情を伺って大変驚き、蟻田先生が開催を希望しておられる会議を、特に資金集めの点でお手伝いしたいと思っていました。また、私はわずか20円で一回分のポリオのワクチンが手に入るということを知り、こんなに少額で一人の子どもを救えるという事実は、私のように何か途上国の子ども達の役に立ちたいけれど具体的に何をしていいか分からない潜在的な寄付者にとって朗報であると思ったのです。

そして、ポリオ撲滅に向けて百億円規模の寄付が必要で、そのために民間で募金団体を作る必要があるという主張が会議の中で数多くなされる一方、では具体的に誰がどうやって募金団体を作るか、という点で議論が止まっていることに気づいたので、それならば私が日本でワクチンのための募金団体を立ち上げる、と決意しました。

活動確立の過程
「誰かを参考にするわけではなく、私が寄付する立場だったら何を重視するかを考え、常に相手の立場に身を置きながら活動内容を決めてきた。」

幸い多くの方の賛同を得て翌年の1月には「世界の子どもにワクチンを 日本委員会」を立ち上げることができましたが、実質的なメンバーは私一人しかいませんでしたので、全てを自分で作り上げていく必要がありました。そもそも、どこの国の子どもにワクチンを届けるのか―これを決めるためにまず私は数多くのアジアの途上国の視察を始めました。ポリオ撲滅に向けて途上国の各国はそれぞれNID(National Immunization Day)を設け、その日に5才以下の全ての子どもにポリオの生ワクチンを接種していたので、それに合わせて各国を周り、各国のとり組み方や生活の状況を注意深く見て回りました。その中でミャンマーの人々の勤勉さ、誠実さ、一生懸命な暮らしぶりに強く惹かれ、この国なら間違いなく一緒に活動できると感じたのです。

ミャンマーにワクチンを届けると決めたら、次はどうやって確実に届けるかを考えました。ワクチンを村の保健所まで実際に届けるためには、お金を集めてワクチンを購入して送って終わり、というわけにはいきません。ワクチンを現地で保管する冷蔵庫が必要になりますし、頻繁に起こる停電に備えて発電機も必要、末端の保健所に届ける人が利用するクーラーボックスやモーター付自転車も必須です。このように、ワクチンのみならず、それを届けるための一連の必要な保冷器具と物流手段(「コールド・チェーン」)も用意しなければならなかったのです。これら全てを私が最初から考えていたわけではありません。毎年現地への視察を重ね、現地の人々の暮らしを見て、彼らの声に耳を傾け、彼らの立場に身をおきながら、「何が必要か」を繰り返し考え続けたことで少しずつ活動を作り上げました。

現地視察においては、ユニセフやWHOのミャンマー事務、ミャンマーの保健省と強力なパートナーシップを結べたことも重要でした。特にユニセフは我々の活動を非常に歓迎し、バックアップしてくれました。日本ユニセフ協会で当時専務理事をされていた東郷良尚さん(現日本ユニセフ協会副会長)にJCVの副理事長を務めて頂いていたので、日本でもミャンマーでもユニセフとはいい協力体制を築くことができました。

寄付の拡大
「国際協力なんてとても手の届かないものであると思っている人がたくさんいる。自分たちでは何もできないと思っている人がたくさんいる。しかし、その一方で何か役に立ちたいと思っている方も潜在的にすごく多いということに気づいた。」

最初は私が講演する際の講演料をJCVの活動資金としていましたが、すぐにそれでは足りなくなりシステマチックに収入を得る方法が必要になりました。最初に始めたのはテレホンカード集めでした。ヨーロッパのカードコレクターに売るために一枚七円で買い取ってくれる業者のおかげで、使用済みテレホンカードを年間数百万枚集めることで収入に換えていました。この方法は日本人の「もったいない精神」にうまく合致したようで、口コミでかなり広がりました。それで収入が増えて、もっと広報活動に力を入れられるようになりました。非常に幸運なことに、公共広告機構理事長でもいらしたサントリーの佐治敬三代表取締役会長(当時)に賛同して頂き、公共広告機構からの支援を10年間受けることができました。このテレビCMを通じて「ワクチンさえあれば助かる命」というメッセージを広く伝えることができ、かなり大きなインパクトが得られ、結果として寄付を大きく増やせたのです。


寄付を集める大原則は、「少額でもたくさん集める」ということです。個人の方々が無理なくできる範囲内で寄付をしてくれて、その数が増えれば結果として寄付は増えます。ですから、できるだけ個人が寄付をしやすいよう、簡単かつすぐできる寄付の方法をいかに用意するかに相当頭を使いました。銀行か郵便局に行って振込み用紙を書いて、という方法では絶対に寄付は集まりません。電話一本で寄付ができる、今だったら携帯やインターネットで簡単に寄付ができる仕組みを用意する必要があるのです。そうすることで、潜在的な寄付者が寄付を行いやすくなり、寄付数の増加に寄与します。

寄付を集める上でも、相手の立場に身をおいて考えることが大事です。「私が寄付をする立場だったら」と考えることで、少しでも簡便な寄付の方法を用意したり、活動の報告をきちんとしたり、現地の状況を寄付者に伝えたり、色々なことを思いつきます。それらを一つずつ実行していくことで市民の方々からの支持を得られます。また、活動が多岐にわたる大組織とは異なり、ワクチンだけに特化し、かつ支援国も決まっているJCVの活動はとても分かりやすいと言う長所があります。目に見えた具体的な活動を知らせることができることは寄付をする人の満足感や安心感につながり、継続した寄付へつながるようになるのです。このように、小さい団体は小さいなりの特徴を活かした活動をしなければなりません。

僕のルール
「世界にたった一つ自分だけのルールを作る―寄付文化の革命となる第一歩だ。」

実は2008年の一年間で寄付が爆発的に増えました。これはソフトバンクホークスの和田毅投手の「僕のルール」の影響です。自分の中で何らかのルールを作って、それに応じて寄付をしていく―このやり方が日本人にかなり受け入れられたようで、「私もこういうルールで寄付をしたい」と言って下さる個人・法人の方々がとても多く現れました。今まで、寄付をしたいと思っていても何をいつどういう風にやればいいか分からなかった方々が、この広告を通じて、自分のやれることでいいんだ、自分で決めてそれを続けることが大事なんだとはっきり分かったのです。無理なく、自分の励みとして、喜びとして、楽しみながら寄付をできるこの仕組みは、まさに寄付の革命と言えると思います。20年前は右へ倣えの横並びの寄付しかなかったのが、みんなが世界でたった一つ自分だけのルールを作り、自分の意志で、誇りを持って寄付をする時代になりつつあります。JCVは日本の寄付文化を変えるこの流れを今後もっと加速していきたいと思っています。早速2008年秋からキャンペーンとして、「僕のルール・私の理由 エッセイコンテスト」を開始しました。もっと多くの人々が、自分なりの「僕のルール」を持ってくれるようになってほしいです。

アドボカシーの可能性
これまで政府に頼る必要がなく、自分たちで完結して活動をやってこられたので、政府への提言などは特に考えたこともありませんでした。ただ、これからラオスにも活動を広げていく過程で、ODA関連で外務省などと関係することも増えると思いますので、良いパートナーシップを築いていけたらよいと思っています。また、これまで寄付を集めるために国民にしか目が向いていませんでしたが、日本で変わりつつある寄付文化や、国民の現在の関心事など、JCVが持っている知見がもし政府から必要とされることなどあれば、今後はそういったアドボカシー活動も視野に入れていくことはありえると思っています。


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