【開催報告】公開フォーラム「保健医療システム転換期に求められる給付と負担のリバランス~持続可能性とイノベーションの両立を目指して~」(2025年11月5日)
日付:2025年12月2日
タグ: 医療システムの未来
医療の高度化や高齢者人口の増加によって医療費が増大し続けているなか、イノベーションの適切な評価と持続可能な保健医療システムの両立を実現し、効果的・効率的な医療制度の構築を進めることは、日本のみならず公的医療制度を持つ多くの国において、世界共通の課題となっています。
日本医療政策機構では、個別疾患にとどまらず、薬価制度や創薬エコシステム等を含む保健医療システムそのものの在り方についても長年にわたりマルチステークホルダーで議論を重ねてまいりました。2024年には、薬価政策の観点も考慮しながら医療システムの持続可能性とイノベーションの両立に向けた検討をすすめるべく、患者・当事者を中心としたマルチステークホルダー・パネルを設置し、多様な関係者が非公式に意見を表明できる機会を創出してきました。また、患者・当事者とグローバルなステークホルダーの対話の場として日米合同ラウンドテーブル「患者・当事者参画による健康長寿社会の実現とバイオ医薬品の革新」も開催しています。
これまで、医療システムの持続可能性とイノベーションの両立に向けて、産官学民の各立場から多くの政策オプションが提示され、行政府もそれらの有効性や実現可能性を長年にわたり吟味し、決定し、実行を続けてきました。しかし、医療システムの持続可能性が強く危ぶまれるなかでは、単に具体的な政策オプションを示すだけでなく、合意形成や政策調整、交渉の進め方についても問い直し、選択肢を提示することが重要です。
情報公開が進み、検討会のオンライン中継や議事録公開が一般化することで、患者・当事者にとっては情報へのアクセスが大きく改善されました。一方で、従来の検討会が果たしてきた繊細な意見調整は難しくなった面もあります。そこで本フォーラムでは、日本の保健医療システムをとりまく大きな改革や制度変更に関わってきた方々にお集まりいただき、保健医療システムをめぐる実際の調整や交渉の難しさにも触れていただきながら、社会保障費などの給付を抑制する議論のみならず、個人の負担を引き上げるという選択肢についても多角的にお話しいただきました。
主な論点は以下の通りです。
- 日本の財政は約50年間連続して赤字を計上しており、中福祉・低負担の社会保障を維持することが財政的に困難である。くわえて、少子高齢化によって給付と負担のギャップが拡大し、財政はさらに厳しい状況が続いている。
- 社会保障費の激増は、給付単価の上昇ではなく、給付対象者の増加が主因である。つまり、社会保障費の赤字は少子高齢化が構造的な要因である。
- 恒常的な財政赤字を解消するためには、高齢者の定義見直しなど、少子高齢化に対する社会の否定的なイメージの転換とあわせた大胆な国家戦略も必要である。
- 高額療養費制度等を含め、医療費に対する負担感は現役世代と高齢者間で実感や認識が異なる。特に現役世代では、自己負担の重さから治療を躊躇する場合もあるため、社会保障については若い世代を含めた多角的かつ公平な観点から問題提起が必要である。
- 医療費だけでなく、労働生産性、介護費用や家族の負担等の医療費以外の広範なコストも含め、社会全体として医療に対する真の価値を可視化したうえで、社会保障の議論を行うべきである。
- 給付と負担のリバランスが不可避な局面であるという不都合な真実を直視する必要がある。そのうえで、国・行政・医療従事者・学術界・産業界に加え、メディアを含めた全ての関係者が積極的に適切な情報発信を行い、現在の状況を誰もが正しく理解できるような環境を整備すべきである。
【開催概要】
- 日時:2025年11月5日(水)10:00-11:30
- 形式:対面
- 会場:グローバルビジネスハブ東京 フィールド
(〒100-0004 東京都千代田区大手町 1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ 3階) - 言語:日本語
- 参加費:無料
- 主催:日本医療政策機構
- 定員:40名 ※応募者多数の場合抽選
- ルール:チャタムハウスルール
(話し手に匿名性を提供し、情報の公開と共有を促進することを目的に、英国におけるChatham Houseが起源となり始まったルールです。現在では、自由な議論を促す助けとして世界中で使用されています。)
【プログラム】(敬称略・五十音順)
10:00-10:10 趣旨説明
10:10-10:40 基調講演「わが国の財政について~不都合な真実を正視し、打開する~」
矢野 康治(国際医療福祉大学 社会保障政策研究所長/元 財務省 事務次官)
10:40-11:25 パネルディスカッション及び質疑応答
天野 慎介(一般社団法人 全国がん患者団体連合会 理事長/一般社団法人 グループ・ネクサス・ジャパン 理事長)
五十嵐 中(東京⼤学⼤学院薬学系研究科 医療政策・公衆衛⽣学 特任准教授/横浜市⽴⼤学医学群データサイエンス研究科 客員准教授)
鈴木 康裕(国際医療福祉大学 学長/初代 厚生労働省 医務技監)
矢野 康治(国際医療福祉大学 社会保障政策研究所長/元 財務省 事務次官)
モデレーター:河野 結(日本医療政策機構 マネージャー)
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11:25-11:30 閉会・まとめ
11:30-12:00 ネットワーキング
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